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#2-4 三匹ふたたび現る!

『んで、何でアンタ達が居るわけ?』


『それはこっちのセリフだバカヤロー!』


 にゃん太と別れ、校内で探検していた私の前に3バカ……もとい、3匹の猫が現れた。

 言うまでもなく、私が転生してきた直後に絡んできた連中だ。


『本気でやろうってなら、容赦しないからね』


 私の言葉に手下二匹が震え上がり、シッポが大きく膨らんだ。


『ヒィィ、兄貴ぃー!』

『コイツ怖いよーーっ!!』


『泣きごと言ってんじゃねえ! ……別に俺らはお前に危害を加えるつもりはねーよ。今日は、少し頼みを聞いてやってくれないか』


『頼み???』


 いきなり話しかけてきたかと思いきや、子猫の私に頼みとは、訳が分からない。


『実は、この学校の音楽室に出るんだ……』


『出る……ああ、そういえば音楽室にも幽霊の目撃情報があったわね』


 あっけらかんと答えると、3匹の表情が一斉に青ざめた。


『うわあああん、兄貴ぃ! やっぱり見間違えじゃなかったよーーーー!!』


『お、おおおおお、落ち着けてめえらっ!』


 何とも情けないオス共を見て私は溜め息をひとつ。


『別に音楽室に近づかなきゃ良いじゃない』


『誰も居ない音楽室からピアノの音が聞こえてくるとか、怖くて眠れねえよ!』


『自動演奏ピアノとかじゃない? ネット動画で見たサーカスギャロップとか凄いわよ』


『知らねえよ!! そもそも小学校の音楽室に自動演奏ピアノがあるわけねえだろ。いくらすると思ってんだ!!』


 そんな事言われてもなぁ。


『そもそもお前、神の使いなら幽霊退治とか出来ないのかよ』


『神の使いって、誰が?』


『いや、自分で神に言われて俺らを狩りに来たみたいな事を言ってただろ!?』


 ……あー、そういえば!


『そんな設定もあったわね』


『なっ!? てめえっ、嘘吐きやがったな!!』


『何が嘘吐きやがったな、よ。こちとら、転生したばかりで右も左も分からなかったのに、いきなり襲われたんだからね! アンタらに非難される言われは無いわよ!!』


 私が睨み返すと、3匹は不思議そうな顔で首を傾げた。


『いや、子猫が一匹でキョロキョロしてたから、何事かと思って近づいただけなんだが?』


『はい?』


 私がいぶかしげに他の2匹に目を向けると、そいつらもウンウンと頷いた。


『私の事、お持ち帰りしたいとか言ってなかった?』


『見た目だけは可愛いと思ったからね。中身がこんなだなんて、思うわけないし……』


『アァ? 中身が何ですって?』


『ひぃぃぃーーー!!』


 凄んでやると、下っ端が震えながら陰に隠れてしまい、それを見て兄貴分の猫がハァと溜め息を吐いた。


『お前んトコのシロとはどうにもウマが合わなくてな。俺達3匹でつるんでココを根城にしてんだ』


 なるほど、大まかな状況はだいたい理解できたけど、なんでコイツらは大量に幽霊が出現するようなデンジャラスな場所で暮らしているのか、サッパリ理解できない。


 ……あっ、もしかして!


『音楽室以外に幽霊が出る場所ってある?』


 私の質問に、再び3匹は顔を見合わせた。


『音楽室以外ねぇ……。体育館の裏とか、時々イヤな感じがするなーって思うぜ』


 確かに、体育館裏で幽霊の目撃状況があったはずだ。


『夜の美術室も近くを通ると怖いんだよなー』


 そこも確か肉球スタンプが押してあったな。


『北校舎二階の女子トイレも……』


『なんでアンタらは揃いも揃って幽霊の目撃スポットに近づいてんのよ!! あと最後のヤツは何で女子トイレを覗いてんのよヘンタイっ!!!』


 私の怒号を浴びて3匹は震え上がった後、兄貴分のヤツが私の質問の意図に気づいたのか、不安そうな顔で私の顔をジッと見つめてきた。


『お前、もしかして幽霊がどこに現れるか知ってるのか……?』


『あー、やっぱりかーーー』



◇◇



『なるほどね。やっぱシロはいけすかねえ』


 案の定、3匹は小学校が幽霊の大量出現スポットだという事を理解していなかった。

 というか、襲われる危険性もよく理解していなかったようだ。

 シロにとって目撃情報の共有はあくまで『仲間を護るためのもの』であり、離れていった連中に教えてやる義理は無いという事なのだろうけども。


『それにしても学校の七不思議とは、ガキん頃の話だからすっかり忘れてたぜ』


 ちなみに校内での幽霊出現エリアは、音楽室、美術室、体育館裏、女子トイレの他に、校長室、理科室、図書室の3箇所があり、それらを合わせた7箇所の総称が『学校の七不思議』というわけだ。


『ウチの連中もだけど、七不思議ってのはそんなにも有名なのね』


『何言ってんだ。俺の通ってた小学校には無かったけど、学校の怪談と言えば七不思議だろ?』


『ニノミヤさんが動くとか』


『俺んトコは旧校舎があったよ!』


 3匹の会話を聞いてもよく分からない私は、首を傾げるしかなかった。


『その反応からして、マジで分からねえのな。誰にでも共通で通じる話題だと思ってたんだが……』


『小学校、行ってないしなぁ』


 私が何気ない呟きに3匹は仰天したものの、すぐに兄貴分の奴が、ばつが悪そうに目を逸らした。


『……まあ、詮索はしねえけどよ』


 兄貴分の猫が呟くと、他の2匹もウンウンと頭を縦に振った。

 というのも、未成年で死に至るというのは色々と深い理由があるわけで、その辺をむやみに踏み込まないのは、猫の世界における一種のマナーなのだ。

 素行の悪そうな連中だけども、その辺はちゃんとわきまえているようだ。


『そういえば、まだ名前を言ってなかったな。俺はボス猫のユウゾウ、んでコイツらはコウイチとヒトシだ』


 猫の品種は分からないが、柄は順にサビ、白黒、グレーで、まさに雑種!という風貌。

 3匹から醸し出される雰囲気を一言で表すと『ホラー映画なら間違いなく序盤に死ぬザコ』である。


『私はユキ。白猫で名前がユキで、安直とか言ったらぶっ飛ばすからね?』


 私が釘を刺すと、何故か3匹は残念そうな顔で頭を抱えてしまった。


『もったいねえ、もったいねえ……』


『立てば芍薬しゃくやく、座れば牡丹ぼたん。口を開けば除虫菊』


『俺は嫌いじゃないですけどね』


『……もしかしてバカにしてない?』


 私がジト目で睨むと3バカは必死な顔で首を横にブンブンと振った。


『まあいいけどね。とにかく私としては、幽霊から逃げっぱなしで、どんどん行動範囲が制限されるのがムカついててね。どうにか連中をやっつけてナワバリを守りたいわけよ』


『ホント武闘派だなオメーは……まあ気持ちは分かるけどよ』


 ユウゾウは呆れながら溜め息を吐くと、ピョンと赤い箱の上に飛び乗った。


『俺達は幽霊に遭遇した時はコイツを活用してる』


『これは……消火栓?』


 ユウゾウはコクりと頷くと、前脚で非常ボタンを指した。


『幽霊が出ても、デカい音を鳴らせば追っ払えるのさ。しかも警備のおっさんもすっ飛んでくるから、なおのこと都合が良い。人の多い場所じゃ連中は手出し出来ないみたいだしな』


 さすが小学校を拠点にしているだけあってか、幽霊に遭遇した場合の対処方法を体得しているようだ。

 猫が緊急避難する都度に呼び出される警備の方々には災難だけど、私達も命がかかっているので許して頂きたいところだ。


 だが、ユウゾウの話を聞いてひとつの疑問が頭をよぎった。

 そんな単純な方法で幽霊を回避出来るはずなのに、何故シロは頑なに『逃げ』を選んでいるのだろうか?

 今まで25回も幽霊に遭遇し、その場から生還して記録を続けているのに、一度も大きな音を立てたり、人混みに逃げなかった……? いや、それは考えにくい。


 そもそも……幽霊に捕まったらどうなるんだ?


『あのさ、アンタらの知り合いで幽霊から逃げきれなかった子っている?』


『いいや、俺らはずっと三匹だし、具体的にどうなるのかは知らねえ。聞いた噂だと魂を引っこ抜かれてあの世に連れて行かれるとか言っていたが、自分の目で見たわけじゃねえし』


 ……うーん。

 噂が本当だとすれば、シロが幽霊との接触を避ける理由もうなずけるか。

 ユウゾウ達がさっきの方法で幽霊を追い払えているのも、単に『小学校の幽霊達が人や音を嫌うだけ』だとすれば、同じ対処法が通じない幽霊と遭遇してしまった時は命取りになりかねない。

 シロは真面目な性格だし、そんな失敗で仲間を失う事を絶対許さないだろう。


『もしかすると、アンタ達の対処法は学校の幽霊にしか効かないかもしれないから、気をつけなさいよ?』


『むっ、そうなのか!』


 私の忠告に驚きつつも、納得した様子で頷く3匹が何だかおかしくて、私は思わずクスリと笑った。

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