デッキB「ハ長調、ハッピーエンド」
∞九時半
@アパート
マナミ「余計なお世話よ。悪いけど、もう帰って」
リョウイチ「こりゃ、かなり虫の居所が悪そうだ。ここは、ひとまず撤収しよう」
クロノス『テープ、チェンジ』
クロノス、ガチャっと切り替えボタンを押す。
マナミ「まぁ、その、手ぶらで帰すのもアレだから、……ハイ」
リョウイチ「おっ、ラッキー。いただきます」
マナミ「呆れた。兄としてのプライドは無いの?」
リョウイチ「あったら、もっと堅実な人生を歩んでる」
マナミ「その通りね。あらかじめ釘を刺しときますけど、そのお金は、仕事探しで有意義に使いなさいよ。くれぐれも、パチンコや競馬で摩るんじゃないわよ。良いわね?」
リョウイチ「あいよ。さてさて、小遣いももらったことだし、お暇して差し上げましょう。お邪魔さま。それじゃあ、久々に職業安定所に行こうかねぇ」
∞十時
@街中
リンナ「あぁ、もぅ、ムカつくなぁ。いっそ」
リョウイチ「凛ちゃん、危ない」
リンナ「え? キャア」
リョウイチ、リンナを猛スピードで突き飛ばす。リンナ、その場から離れた地点で尻餅。
♪建築資材が落下する、けたたましい金属音。
リョウイチ「ゴッホ、ゴホン。オアッ。怪我は無いかい、凛ちゃん?」
リンナ「あたしは、大丈夫。それより、伯父さんの方が」
リョウイチ「平気、平気。ただ、足首周りをパイプで三角にホールドされてどうにもしようがないから、救急車を呼ぶよ」
リンナ「それなら、わたしが」
リョウイチ「いいや、俺にやらせて。これはきっと、今まで怠惰に過ごしてきたバチが当たったに違いない。ツケは自力で払わなきゃ」
リンナ「でも」
リョウイチ「いいから、いいから。それより、早くママの元へ帰りなさい。いま、凛ちゃんが一番にすべきことは、ママと仲直りすることだ。伯父さんの方は、ひとりで解決できるから」
リンナ「伯父さん。ごめんなさい。ありがとうございます」
リンナ、後ろ髪を引かれつつ、立ち去る。
ケンタ、物陰から登場。
ケンタ「カッコつけてる場合ですか、亮一さん。いやはや。我が義兄ながら、呆れて物が言えない。つまらぬ意地を張るところは、愛美さんと一緒だ」
リョウイチ「ゲッ、健太。何でこんなときに、ここにいるんだよ。愛美には、しばらくシカゴ支社に居るって言ったそうじゃないか。浮気でもしてるのか?」
ケンタ「私は、愛美さん一筋ですよ。一時帰宅の申請が通ったので、こっそり戻ってきたんです。驚かせようと思って二人には連絡せずに来たのですが、帰国早々、私の方が驚かされてしまいました。まったく、とんだサプライズですね。プラカードをお持ちなら、早く出してください」
リョウイチ「これはドッキリじゃない。ヘン。相変わらず、アメリカかぶれで気障な野郎だぜ」
ケンタ「グローバルな人材だと評価してもらいたいですね。ともかく。ここは予定を変更して、人命救助を優先しましょう。九一一、いや、一一九番でしたね」
リョウイチ「オイ。さっきのやり取りが聞こえてなかったのか?」
ケンタ「承知の上ですよ。――もしもし、救急です。男が一人、落下してきた建築資材で足を挟まれて倒れています。場所は、新町三丁目、百八生命ビルの向かい側です。怪我人に意識はあり、上半身は自由に動かせるようです。はい、そうです。目立った外傷もありません。はい」
リョウイチ「せめて、俺に代われ」
ケンタ「すぐ向かうと言ってますから、怪我人らしく大人しくしてなさい。――もしもし? はい。いまの声が、そうです。はい。これ以上、崩れる危険性は極めて少ないと思います。はい。それでは、このまま切らずに、お待ちしてます」
∞十時半
@アパート
リンナ「ただいま」
マナミ「お帰り。早かったわね」
リンナ「うん。ちょっとね」
マナミ「さっきまで伯父さんが居たんだけど、戻る途中で、すれ違わなかった?」
リンナ「(会ったと知ったら、さっきの事故のことも言わなきゃいけないし、そうなったら、何で置き去りにしたのかって怒られるに決まってるだろうから、ここはシラを切ろう)そうなの? 知らない」
マナミ「そう(疑わしいけど、何か物言いたげな顔だから、ここは、語るに任せてみよう)」
リンナ「あの、その。……さっきは、ごめんなさい」
マナミ「良いのよ。ママも言い過ぎたわ。ごめんなさい」
リンナ「それで、ママ。あのね。将来のことで、真面目に相談したいことがあるの。聞いてくれる?」




