第四話【前夜】
更新凄い遅くなりました...諸事情で...
❮コンコンッ…❯
ふいに扉を叩く音がした。
時刻は午前0時をとうにすぎ、外を見れば吸い込まれるような暗闇に包まれている。
そんな中小さく響きわたったノックの音は、確かにその効果を示し、静かに扉を開け放たせた。
しかし、扉の内側から出てきた者に歓迎する様子は見られず、扉を叩いた側の者はその様子に、表情を固まらせて口を開く。
「に、にいちゃん?どうしたの?」
不安げなその声は高く、見れば年の頃は傍から見れば12、3歳程の少年である。
恐らくはまだ声帯に変化をきたしていないだろうことが先程の声色から察せられる。髪の毛は淡い茶髪で癖は強いものの艶がある。
体つきも年相応なのか、まだまだ華奢で、顔つきも幼く、どこか儚い少女にさえ見えなくもない。
対して扉の内側の者はそんな少年の言葉に表情を崩し、張り付いたような笑顔を浮かべ、取り繕う。
「何が?どうもしてないよ?」
そう言われた少年は少しだけ表情を緩ませた。
「だったらいいけどさ!…にいちゃん…大丈夫?」
やり取りから、扉の内側の者は、少年の兄にあたると思われる。
少年に比べて体つきは中々に逞しく、細身ではあるが引き締まっているのが容易に見て取れる。
髪は少年と同様、淡い茶の短髪。顔つきに関しても、少年と比べれば精悍で3、4歳程は離れているだろうその青年は、心配した様子の弟に、左手を振って飄々と取りなす。
「ああ、ほら!なんともないよ。」
そう言いつつも、青年の額には僅かながら汗が滲みだしている。
それを見た少年は慌てたように、両手を前に突き出して抑揚のない声をあげる。
「や、やめてよっ!無理しないで!」
そう言われた青年はバツの悪そうな顔色で左手をおろす。
「怪我してるのに、無理しないでよ…そんな意味で聞いたんじゃないから。」
少年のその言葉に、青年の左手を見てみれば、包帯に包まれていて、手首は動かないよう、物差しで固定されている。
なるほど感化できぬような怪我を負っているのは一目瞭然だ。
「ほんとに…なんでそんな怪我してるのさ?母さんに聞いた時はびっくりしたよ…」
―――――――
いまよりも少し早い時間帯、その日、少しだけ遅めに帰宅した少年の前には、血相を変えた母親の姿があった。
何事かと話を伺えば、兄が大変な怪我をしている、なのにも関わらず、頑なに病院には行こうとせず、家にある応急セットを持ってそそくさと部屋の中に閉じこもっているというのだ。
何度か声をかけてみても、素っ気なく、ただ、
「心配しないで」
と返してくるだけで、自分は一体どうすればいいのか?何か事件にでも巻き込まれているんじゃないか?警察に通報すべきか、しかし、邪推であれば事態が余計にややこしくなるかもしれない
「一体、私はどうしたらいいのぉ…」
と兄の部屋の前を右往左往していた。
少年は母から話を聞くと、すぐに青年の部屋の扉まで駆け寄ろうとしたが、それよりもまず、母から落ち着かせなければと、今にも動き出そうと、体全体をこわばらせていた力をぬいた。
「母さん…落ち着いてよ、なんだか僕まで不安になっちゃうよ…」
「…ごめんなさい、勇気…でもそうは言っても…落ち着けないわ…」
それはそうだろう、自分の息子が大怪我をしてるのだ。
とてもではないが、落ち着けるような事実ではない。
しかし、それでも、“勇気”とそう名を呼ばれた少年は、まるで子供に言い聞かせるように、母親に向かって優しい声でなだめつかせる。
「大怪我をしてるのは僕も心配だけど、にいちゃん…自分で手当てしたんでしょ?僕だってすぐに病院に言って欲しいし、話も聞きたいけど…とりあえずは待とうよ、母さん。」
そう言って次に声を張り上げる。
「にいちゃんも聞こえてたでしょ!今は母さんと僕が折れとくけど、すぐに何があったか話してね!!少なくとも明日には病院にいかせるから!!その時までには話してもらうよ!!」
そう言うと、扉の向こう側から静かに
「…分かった。」
と返答がされた。
それを聞くと少年は、ふぅと一息、溜息をついて、母親の手を取る。
「ね?母さん、僕もまだ全然心配だけど…とりあえずは様子を見てあげようよ?怪我をしてるからそれだって母さんからしてみれば難しいのはわかるけど…」
眉を寄せながらそういう少年の様子に、母親もすっと肩の力を落とし、未だ得心の得ない表情で首を縦に振った。
「分かったわ…ただ…」
そう言って言葉を紡ごうとするが、続く言葉は出てこない。
少年はそんな母の様子を見ると、青年の部屋の扉を束の間、見つめ、いつまでもその場を動こうとしない母親を急かしたてて、やや強引に先程からとっていたその手を引っ張った。
「さぁご飯食べよう!母さん、僕もう腹ペコだって!!」
そうして少年と母親は、青年の部屋の前から離れていった。
―――――――
「…で?何があったの?」
顔色をうかがうようにして勇気がそう尋ねると、青年は作ったような笑顔で答える。
「見てわかる通りだよ...はしゃぎすぎてな…けがしちゃったよ…」
しかし、勇気はその答えには納得しない。
眉を八の字にしながら、少しの怒気を含めてもう一度尋ねる。
「…何があったの?」
青年は対して、作った笑みを軽く引きつらせながらも、言葉を編む。
「...街を...広喜と一緒に歩いてたんだよ、そしたら通行人と肩がぶつかってな…チンピラみたいな奴だったんだけどーー」
「っもういいっ!!」
青年の言葉を半ばで遮った勇気は自らの拳をわなわなと震わせる。
「何なのさ!そいつっ!!そんだけでっ.....にいちゃんに...こんなっ!!」
「ゆ、勇気っ!声が大きいよ!」
溢れる感情そのままに、憤りをあらわにする勇気に、青年は慌てた様子で制止をかける。
「っあ...ご、ごめん...」
肩を落としてシュンとした勇気に、青年は対して、微笑みながら軽く、勇気の頭を撫でた。
「いいんだ、もとはといえば俺が怪我して、勇気、それに母さんにも...心配かけたのが悪いんだから.....っあ!そんなことより、勇気の方はどうだったんだ?」
突然、今思い出したような青年の問いかけに、勇気は目を丸くして答える。
「?...なにが?」
「...なにがって......まぁ...明日でもいいか...」
勇気のあまりにもあっけらかんとした表情に、青年は軽く口元をひくつかせるが、まぁいいかといった様子で自らの問いを先伸ばしにする。
「とにかく今日はもう時間も遅いし、勇気ももう自分の部屋に戻れ。聞きたいことや、話したいことはまた時間をおいて...母さんも含めてすればいいだろ?」
そう言って青年は勇気の頭をもう一度撫でた。
勇気もそれに対してうなづいて肯定し、部屋の扉に向かって踵をかえす。
そのまま扉の前までいきドアノブに手をかける、がそこでピタリと立ち止まる。
突然立ち止まる勇気に、青年が疑問を抱き声をかける。
「どうした?」
勇気はそのまま振り向いて口を開いた。
「兄ちゃん、確かに僕はまだガキだけど、あんまり露骨な子供扱いは少し不愉快だよ...」
そう言ってすぐに部屋を出ていった。
残された青年は、暫しの間、放心すると勇気の頭を撫でた自らの右手に視線を向ける。
「...子供扱い...か。」
そう呟くと、フッと鼻で笑う。
「俺の方がずっと子供だよ...勇気...それも...たちの悪い...な...」
更にそう、呟いた。
後、2、3話で異世界!!......のつもりなんですが...なにぶん題名とか、なにからなにまで勢いなもので...もう少しかかるかもです...展開遅くてすみません...頑張ります!!