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井の中の蛙大海を知らず  作者: 暇王
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第二話【一匹の野良猫】




「隆行!!走れ!」




気づけば思わず叫んでいた。

短くない時間を共に過ごしてきた友人、隆行の初めてみる性質に恐怖し、“もう友人ではいられないだろう”確かにそう思っていた広喜。

しかし、それでも

“失いたくない”

という気持ちが強くはたらいたのは、一重に今まで積み重ねた友情が、簡単に切り捨てられるものではなかったからだ。

目の前の青年からは一刻も早く逃げなければならない。

隆行の放つ恐怖など容易に呑み込むほどの感化しえぬ

“なにか”

は、明らかに青年から発せられていた。

このままでは隆行はただではすまない。

しかし、自分はただ声をあげるだけで、この場から離れることすらできない。


『頼むから今すぐ逃げだしてくれっ!』


祈るように心の中で叫ぶ。

しかし、時すでに遅し。

隆行はその場で腰をぬかし、青年から放たれる“なにか”に呑み込まれていた。


“理解不能”

隆行には目の前の青年の存在が理解できなかった。

見ると青年の右手には、隆行が振りおろしたガラス片が深々と抉りこんでいる。

なのにも関わらず、青年はまるで痛みを感じさせぬ表情で、冷えた眼光をこちらにむけている。

青年は赤く染まる自らの右手を気にもとめず、ガラス片が突き刺さったままのその手で、隆行の左手首を掴み、口を開いた。




「…俺がなにした…」




無表情のまま、そう尋ねる青年に、隆行は頭の中を巡らす。

そして気づく。

青年はなにもしていないことに。

青年を笑い、一方的に危害を加え、あまつさえ、許してやるとばかりに侮蔑の言葉を投げかけ、反故にし、更に危害を加えた。

青年は自分の被害者なだけで、何一つ悪くないという事に。

自分は身勝手な加害者だ。


そう自覚した瞬間、隆行は自分を恥じ、同時にこの青年に何をされようとーー




「お前は俺に殺されても文句は言えない」




青年がそう言い放つ。




「…ぅあ…」




そう、文句は言えない。

例え殺されたって、青年には二度も凶器をむけ大怪我を負わせている。

正当防衛だ。


目の前の青年からむけられるプレッシャーに身体を竦ませていると、青年はついで口を開く。




「殺すぞ…もうするな…」




そう言って青年は、掴んだままの隆行の左手首を地面にむけて叩きつけた。


ゴギリ、という鈍い音が響き、自分の左手が粉砕した事を知った隆行は、悲鳴より先に驚愕した。

遠まわしに自分を見逃すとも受け取れる言葉を吐いた青年が、さして躊躇する様子もなく、息をするように自分の手を砕いたことに。


遅れてその激痛に悲鳴を上げる。




「っぐぁああああ!!」




いまだ事態を眺める事しかできていない広喜もまた、息をするように友人の手を砕いた青年に驚愕した。


そんな隆行と広喜を気にもかけず、ことは済んだと再び青年は歩き出す。


青年は間違いなく異質だ、と、その場にいる隆行と広喜を含め、事の一部始終に居合わせた通行人まで、誰もが思った。

あまりの事態に静寂に包まれたその場を歩きゆく青年を避ける人々の表情には、その街において似て非なる、恐怖の感情が浮かんでいた。


青年はそれら全てを歯牙にもかけず、ただ悠然と己の歩みを止めない。


隆行は痛みに呻きながら、人間味を帯びないその表情を見て、豊かな感情を有する人という種であるかを疑った。


その場にいる誰もが、ただ嵐が過ぎるのを待つように、青年が過ぎ去るのを待つ。

しかし、そんな静寂を打ち破るように、青年の眼前に影が飛びこむ。

あれだけの光景を目にしてまだ青年に因縁ずける者などいないだろうと、周りにいる誰もがそう思っていた。

青年の前に躍り出た影に、一瞬、誰もが息を呑む。

が、その心配はすぐに消える。


飛び出した影は一匹の野良猫だった。

野良猫は青年を前にし、じっとその場を動かない。

青年もまた立ち止まり野良猫に視線をむける。


隆行はその光景に、いまだ痛む左手に顔を歪ませながらも同時に驚きの表情を表した。


(なぜ?)


それは青年の視線が野良猫にむいたからであった。

自分がどれだけ嘲り、侮蔑の言葉を吐いても、いっこうにその視線をこちらにむけなかった青年の視線がその野良猫には容易にむけられたからだ。

見れば毛並みも悪く、片耳は欠けていて、飼い猫という訳でもないだろう、汚い野良猫にむけられた青年の眼差しは、隆行の中にいいしれぬ怒りを芽生えさせた。

先程まで青年に抱いていた恐れなど塗り替えて、憎悪さえ感じさせる視線を、隆行は青年にむける。

そして驚愕する。


そこにいた青年の表情には柔らかな笑みが浮かんでいたからだ。

先程までまるで感情を感じさせなかった青年のその表情は、隆行の中に芽生えた怒りをより大きくした。


そんな隆行を含めた周囲の視線をいまだ歯牙にもかけず、青年はゆっくりと口を開く。




「…なんだよ…いたのか?ブチ。」




そう呟いた青年の声はとても温かく、そして穏やかだった。

字数少ないですよね…

自分は小説の書き方もよく分かってない素人ですが、しばらくは自己満で頑張ります。

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