終了と再開そして旅立ち
ーーーーー20xx年六月十日(月)ーーー
この日、日本は終了した。
空は灰色に染まり、建物もほぼ全てが崩れ落ちた日本。
それは突然訪れた。
ほんの一瞬の出来事。
僕はその中で無力だった。
そしてその無力さのせいでいろんな人達が死んでいった。
僕に勇気があれば身近な人達だけなら助けられた筈だった。
その中には僕の親友であったり家族であったり恋人だった娘もいた。
周りにはたくさんの死体が転がっている。
腕のちぎれた人。
内臓の出ている人。
頭の潰れた子供。
本当にいろいろあった。
そして脅威は去った。
でも、こんな絶望だらけの世界は間違っている。
だから僕は願った。
『もう一度』
と。
世界は白く包まれる。
そして全てが終わり再び始まる。
ーーーーー20xx年四月九日(火)ーーー
遠藤孝十五歳。
今日、僕は高校生になった。
高校生といえば人生で一番楽しい時期だ。
まずは彼女が欲しい。
可愛いければ尚良し。
などと妄想をしながらの帰り道。
空は素晴らしいくらいの曇り模様。
僕の夢もまた曇り模様。
なんとなく地元の高校に入ったのが災いしたのか殆どの女子が知った顔。
新しい出会いもなく僕は道を行く。
ただし一人ではない。
すぐ後ろには子供の頃からの付き合いの少女
千歳美亜がにこやかについてくる。
偶然にも同じクラスになったわけだが、昔に比べて随分女らしくなったその姿は男にとっては魅力的に見えるらしい。
今日は知った顔知らない顔によく話しかけられていた。
当人はそのことについて
「親切そうな人たちばかりだったよ」
と言っているが、そのほとんどが下心丸出しの男達ばかりだった。
正直変な男に騙されないかこっちが心配である。
そんな彼女と僕の家は一軒挟んだ隣で昔はよく遊びに行っていたし、学校の登下校も一緒に帰っていた。
でも、中学生のときくらいからは一緒にいることが少なくなった。
年頃だから仕方なのだろうが、理由はそれだけではない。
「コウちゃんまたね」
「あぁ」
美亜の家の前から言われる一言に素っ気なく返す。
中学生のときもこうだった。
こんな会話しかしない。
僕らはあくまで一緒に帰っているわけではなく帰る方向が一緒なだけの関係だった。
別に美亜の事が嫌いなわけではない。
ただ、僕は彼女を縛りたくないだけだ。
僕のせいで彼女が何かを諦めるのが嫌なんだ。
それを中学で思い知らされた。
だから僕は彼女と距離を置くことに決めた。
あの日僕たち二人は幼馴染みという関係を終了させたのだった。
僕はたまに夢を見る。
まあ夢を見るだけなら誰にでもあるだろう。
けど僕の夢は通称予知夢と言われるものだ。条件はわからない。
もしかしたらないのかもしれない。
でも最近はなぜかよく同じ夢を見る。
名付けるならこうだ
『日本の終り』
日本の全てが機能を停止し、身近な人も次々に人は死んで行く。
日本の人口の99%が死亡し、常に有毒な雨が降り続く。
そんなまるで地獄のような夢。
その中一人の横たえた少女の前で泣き崩れる僕は言う。
『・・・・・』
そこでいつも目がさめる。
あの少女が誰なのかはわからない。
ただその娘を大事に想っているというのだけはわかった。
そして思う。
これが予知夢でなければいいのにと。
目がさめると自室のベッドにいた。
時刻は午後七時十五分。
帰ってすぐに寝てしまったらしい。
制服のままベッドに倒れていた。
「またあの夢か」
でもあれは予知夢ではない。
理由は簡単だ。
それは絶対に起こり得ない現象だからだ。
考えても無駄だ。
とりあえず晩ごはんを食べて今日は早く寝ることにした。
ーーーーー20xx年四月十六日(火)ーーーー
一週間でクラスの雰囲気は大きく変わった。
よそよそしさはどこへやらいくつかグループが出来ていた。
どうやら僕は高校生活ソロプレイらしいです。
入学した翌日風邪をひいたために学校を休んだのが原因と思われる。
だからといって自分から話しかける勇気もなく一週間で完璧なソロプレイヤーになっていた。
美亜はといえば元々コミュニケーションがうまい上そこそこ可愛いためかクラスの人気者になっていた。
「おい聞いてるか?孝?」
不意に聞こえる声。
どうやら話しかけられていたらしい。
そうだった。
思い出した。
教室の前でたまたま中学生のときの友人に遭遇。
そして教室内にて会話開始。
というあらすじがあった。
こいつの名前は確か、
陽木礼希クラスはB
ただのイケメンだ。
イケメンだけが取り柄の男だ。
だからこいつも彼女なし。
僕と同格の人間だ。
というか髪を切ればいいのに。
肩まで伸びているその髪は手入れの一切がされていない。
「悪い。でなに?」
「だからどうやったら彼女ができるかだよ」
「黙れイケメン。嫌味にしか聞こえん」
「確かに告白はもう何十されたけどねぇ?」
「本当嫌味だなぁ!」
イケメンの余裕か?
とにかくこいつはこういうやつなんだ。
無自覚に人を傷つけるやつなんだ。
悪い奴ではないんだけどね。
「そろそろ時間だろ?帰れよ」
「あーうん。じゃあまたな」
そう言ってAからBの教室に帰って行った。
退屈な授業の前半が終わった。
昼休みになって礼希が来た。
「何しに来た?」
「ボッチな孝とお昼ごはんでもと思って」
おどけた笑いにイラッときました。
顔に出さなかったけど。
「まあ迷惑と言うのなら帰るけど?」
「いや、迷惑じゃない、目障りだ」
「またまた〜」
と言いながらイケメンが隣に座って来たので諦めるの。
「どうよ?慣れたか?」
「見ての通りだけど?」
「まったく、もっとコミュニケーションとろうよ」
どうやら未だに高校生活に慣れていない僕を心配でしているらしい。
「でないと俺が先に彼女作っちゃうゼ?」
訂正。
こいつはやっぱり嫌味なやつだった。
「今度合コンするんだけど孝もどう?」
「初めてお前を友達だと思ったよ」
「ははは、どうもありがとう。って初めてなんだ」
さすがイケメン。
持つべきはイケメンの友人だな。
しかしさっきから視線を感じるのだがなんだ?
振り返るべきか?
いや、きっと礼希目当ての女子か合コン目当ての男子だ。
どちらも僕には関係なさそうだ。
「ねえ、なんか美亜ちゃんが仲間になりたそうにこっちを見てるんだけど」
つい振り返った。
なぜかめちゃ睨まれてる?
あれは睨んでいるのだろうか?
ジト目でチラチラと見てる。
一応怒っているのをアピールしているのか頬を膨らましている。
怒られるようなことをした覚えはないが?
「ははは、やっぱり合コンは別の人を誘うとするよ」
「は?なんで!?」
「君はもっと周りに気を配るべきだ」
「なんで?」
礼希は自分の食べ終えた弁当箱を片付け始める。
「頑張れ少年、気付くことができれば君にも春が訪れる」
意味のわからない言葉を残し帰って行く。
本当に変なやつだ。
結局今日のお昼はそれで終わった。
長々しいホームルームを終えた僕は放課後を堪能すべくここ一週間通っている喫茶店に来ていた。
喫茶紅というらしい。
オススメはコーヒーだ。
豆がいいのか腕がいいのかはたまた両方いいのかとにかく美味い。
「今日も来たんですね?しかもずっと同じものばかり頼んで飽きませんか?」
ミニスカのアルバイト美少女八谷咲(十六歳)がやってきた。
ここの制服は少しきわどい。
同じ一年生らしいのだが、誕生日がなんと四月四日らしい彼女はすでに十六歳になっているわけだ。
僕なんて六月だからあと二ヶ月も先もだ。
「実は咲さんに会うためだけに通っているんだけど?」
「わ、私のシフトのない時も来る人がなにを言いますか?」
意外な一言だったらしく顔を赤くしながら動揺している。
セミロングの髪が揺れていて正直めちゃ可愛い。
こんな彼女ができたら幸せだろうと思う。
まあ、ないけどね。
「あ、そろそろ戻らないとなのでごゆっくりどうぞ」
そう言って慌てたように厨房の方へ帰って行った。
僕はそんな後ろ姿を見つめながらコーヒーをすすった。
帰り道たまたま美亜に遭遇した。
というか家に入るところに鉢合わせてしまった。
「コウちゃん最近帰るの遅いんだね?」
「まあね」
「放課後何かしてるの?」
「まあね」
「部活動見学かな?コウちゃんは何の部活に入るの?」
「さあね」
「・・・・コウちゃん好きな人いるの?」
「・・・・まあね」
「そっか。じゃあまた明日」
「・・・・」
美亜は笑顔で去って行った。
どこか寂しそうな笑顔だった。
僕は彼女の寂しそうな背中に声をかけられずただ見送っていた。
一人の少女が白い空間に立っていた。
その顔は寂しそうであり、嬉しそうであり、悲しそうだった。
「よく聞いて。私が叶えてあげられる願いはあとひとつ。
そしてあなたの願いで今後の全てが決まる。もうやり直す力は残っていない。
だから、後悔しないようにあなたはあなたの正しいと思うことを選んで。
もう一度言うわ叶えられる願いは一つだけ。
でも、もうやり直せない。
だから願いは慎重に確実に選んでね」
言い終わると少女の姿が遠ざかる。
そして僕は暗い空間に落ちた。
ーーーーー四月十七日(水)ーーーーーー
どういう事だろう。
朝登校の時間。
ドアの前に知っている少女の姿。
美亜が玄関前にいた。
中学校以来話しと言える話しをしてこなかった。
関係を終わらせた筈の少女が言う。
「お、おはようコウちゃん」
「なに・・・してるんだよ?」
「コウちゃんいつもこのくらいの時間に家出るよね?だから待ってた」
なんでだよ?
なんで今更なんだよ?
「その、昔みたいに一緒に行こ?」
昨日の彼女の背中を思い出す。
寂しそうな背中だった。
「昨日何かあったのか」
「な、なにもなかったよ?」
笑顔で答えるが嘘だ。
でも今の僕には聞き出す権利がない。
「そうか?ならいいよ」
そう答えるしかなかった。
結局僕は美亜と一緒に登校している。
そのように見えるだろう
「覚えてる?小学校の時コウちゃん犬に襲われてた私を助けてくれたんだよ?」
「まあね」
「でも結局はコウちゃんも噛まれて泣いてたよね?」
「まあね」
さっきから美亜はずっとこの調子で昔の話しをしている。
僕は今までと同じ返事をしていた。
なぜいきなり美亜はこんな風になったのか?
多分昨日なにかあったのだろうけど、あいつはああ見えて一人で抱え込む癖がある。
昔の僕ならば理由を聞けた。
聞き出せていた。
今は違う。
あくまで他人の悩みなのだ。
首を突っ込むことなんかできない。
でもわかることもある。
彼女は今、僕に繋がりを求めている。
一度切れてしまった糸を結びなおそうとしている。
僕はきっとこれに答えるべきなのだろう。
そうすれば昔のような関係に戻れる筈だ。
それはできない。
それをすれば僕が彼女から離れた意味がなくなってしまう。
こうして僕たちは教室に着くまで一方通行なやりとりを続けていた。
昼休み、いつものように礼希が教室に来た。
「で、どうだったよ?合コンのメンバーは揃ったのか?
「うんなんとかね〜」
「それは何よりで」
「 「えっ!?嘘!?」」
突然女子の大声が響いた。
なんだようるさい。
振り返ると美亜がいつもいるグループの女子だった。
「なんで?なんで断ったの?美亜?」
「そうだよ。笛吹くんって女子の間で一番人気の男子だよ?断る理由ないじゃん」
「そうそうイケメンだし性格いいし、あーあもったいない」
話しをまとめると美亜は昨日告白されて断ったらしい。
胸の奥がズキリと痛んだ気がした。
そして同時にあの時のことを思い出す。
中学校時代あの夕暮れの校舎裏での出来事。
僕が、僕たちが壊れたあの日のことを。
もしあれがなかったら僕たちはどうなっていたのだろう?
「さすが美亜ちゃん。もう何回も告白されてるらしいよ?」
「ふぅん」
「ふぅんって君ね、なにも思わないの?」
「なにもって?」
「誰かからの告白を待ってるようにも見えるんだよね俺には」
「へぇあいつ好きな人いたんだな?」
「・・・・もういいよ」
「??」
たまに礼希は変な事言うんだよな。
最後まできっちり解説しろよ。
「そういえば君は好きな人いるのか?」
「へ?」
「だから好きな人だよ。気になる娘でもいいけど?」
「まあね」
「誰よ?誰?誰?」
「言うかバーカ」
「チッ」
あれ?今舌打ちされた?
「じゃあ美亜ちゃんの事はどう思う?」
さっきの舌打ちはなかったことのように話し始める。
「どうって別に・・・」
どうとも思ってない。
と言おうとした時
「ここからだと向こうの話も結構聞こえるんだよね〜」
と、かぶせる。
その瞬間さっきまでなにを言おうとしていたか忘れてしまった。
礼希の指す『向こう』が美亜達のいる場所を指しているのがわかるからだ。
昨日合コンの話しをした時美亜はこちらを睨んで?いたということはこっちの話しは丸聞こえ。
つまりさっきまでの問答も完全に聞こえてるわけだ。
ってなんで僕がショック受けてるんだよ?
美亜とはもうなんでもないのに。
「はやく気づかないと取り返しがつかなくなるぞ?」
そう言い残して礼希は去っていく。
最後のその言葉は不思議と僕の胸に突き刺さった。
「というわけなんだが、どういう意味だと思う?」
いつものように喫茶紅に来た僕は咲さんに昼の話をした。
咲さんは少し考えて
「友達思いな人なんだね。その礼希君」
という。
客が少ないためか、敬語ではなくフレンドリーな話し方だ。
「友達思い?どこが?」
「鈍感は時に大罪だって事だよ」
「わかりやすく言ってほしんだけど」
「こればかりは孝君が自分で気づかないといけないよ」
またそれか。
気づけないから聞いているのに。
「でもその美亜って娘もはっきり言わないとダメだよね」
「なにを?」
「教えてあげません」
笑顔で可愛いらしく言う。
「そうだ!今週末美亜って娘を誘って遊びに行けば?」
「いや、なんでこの話の流れでそうなるんだ?」
「まあまあ、誘ってみればわかるさ。・・・多分」
最後の方はほとんど聞こえなかったが、それで答えが出るのなら誘ってみてもいいかも。
「じゃあそうします」
冷めたコーヒーを一気に飲み干し、レジへ向かう。
「励めよ少年!」
後ろから咲さんがエールを送る。
「ありがとう。今度お礼する」
お礼を言って店を出た。
「期待してるよ」
と小さく聞こえた気がした。
僕は今、美亜の家の前にいた。
来たはいいが今まで避けてきた手前どう誘ったらいいかわからなくなって、かれこれ十分ここでウロウロしている。
「よし、行くぞ」
決意してインターホンに指をかけた
「行ってくるね」
の声とともにドアが開く。
数瞬遅れてインターホンを押す。
その形で僕は固まり、向こうも僕に気づいて固まった。
「ど、どうしたの?」
先に口を開いたのは美亜だった。
「あ、あの。えっと〜。今週末二人で遊びに行かないか?」
「・・・うんいいよ?」
躊躇いがちだがオッケーが出た。
「じゃあ、日曜の九時でどう?」
「うんそれでいいよ」
「場所はそうだな・・・」
僕は無難な場所を考えるが
「ここで待ち合わせでいい?」
という結論にしか至らなかった。
ーーーーー四月二十一日(日)ーーーーー
時計に目を落とすと八時五十五分だった。
「お待たせ」
美亜が家から出てくる。
白のワンピがとてもよく似合っていた。
「どうしたの?」
黙っていたのを心配したのか、僕の顔を覗き込む。
「いや、似合ってるなって思っただけだ」
「あ、ありがとう」
顔を赤くしながらうつむいた。
そんな姿が可愛くて仕方がない。
あれ?美亜ってめちゃ可愛いんじゃない?
「行こっか」
遠慮がちに提案する美亜の顔はやはり赤かった。
それから僕らはいろいろな場所に行った。
僕はデート経験皆無なので、結局その辺をぶらついたり、ゲームセンターへ行ったあと近くの公園に来ていた。
時刻は午後六時三十分。
もう暗くなり始めていた。
「今日は楽しかった」
美亜が会話を切り出す。
まるでなにかを思い出すように、まるで思い出を語るように言う。
「まるで昔に戻ったみたいだった」
その目は遠くで飛ぶ二羽のカラスにに向けられていた。
「ねえ、コウちゃん」
一度言葉を切った。
「なんであの時、中学の時私を避けたの?」
僕と彼女
遠藤孝と千歳美亜
この二人がこうなってしまったわけ。
夕暮れの校舎裏
「まずは謝らせてくれ。今まで避け続けてごめん」
「いいよ謝らなくても」
美亜は話の内容も聞かずに許してしまう。
「恥ずかしい話だけど聞いてほしい。そんなに長くはならないから」
「うん」
そして僕は語り出す。
僕の人生の一番の黒歴史を。
三年前ある少年は中学生になった。
少年には小さい時からの付き合いの幼馴染みがいた。
彼女はすごく優しかった。
そして何より可愛いかった。
彼女とは小学校からずっと同じクラスで今回もまた同じクラスになった。
中学に入ってから三日後クラス中で噂が立った。
彼女が告白されたらしい。
相手は二年生の先輩で結構イケメンらしい。
サッカー部の二年生レギュラーで女子からも人気が高かった。
でもその子は断った。
理由は不明だった。
それからまた何日か経つと新しい噂が広まった。
また彼女が告白されたらしい。
相手は一年生名前は忘れた。
そしてその告白も一瞬で断ったらしい。
六月に入って一年生も本格的に部活に入り始める頃にはその子は五人の告白を断ていた。
理由は依然不明なままだった。
女子達からは彼女の態度への不満が募り、その子はクラス中から無視されるようになった。
少年はせめて僕だけはと話しかけ続けた。
つい最近うちの学校で虐めによる自殺者が出たばかりだったからそうならないように味方になっていた。
途中何度か
「あいつはやめとけ。あの優しさに騙されるな。ああやって優しさ振りまいて勘違いしている連中を笑ってんだよ」
なんて言われた。
そんなはずはない。
あの優しさは本物だ。
偽物なんかではない。
少年は構わずに普段と変わらず接した。
そして運命の日がきた。
梅雨にしては珍しくその日は晴れていた。
少年は忘れ物を取りに学校に戻っていた。
その帰り近道をしようと校舎裏に向かったその時。
見てしまった。
決定的瞬間を。
彼女が告白されていた。
相手は隣のクラスのイケメン名前は忘れた。
髪は肩まであり、手入れはされていないがそのイケメンにはとてもよく似合っていた。
というよりダサさもイケメンの前では無力だった。
しかし彼女は断った。
ごめんなさいの一言で。
そして彼女は続けて不明だった理由を言う。
「幼馴染みの男の子のことが気になるの。だからあなたとは付き合えない」
そうか。
僕のせいなのか。
僕があの優しさに甘えていたから
だから彼女は虐められていたのか。
少年は絶望した。
僕がやってきたことは無意味だった。
僕は彼女に関わってはいけなかったんだ。
僕が関われば彼女は不幸になる。
なら僕は一人になろう。
あの優しさを忘れてしまおう。
それできっと彼女は幸せになれるのだから。
こうして少年は幼馴染みの女の子から遠ざかった。
それからしばらくするとクラスでは何事もなかったかのように彼女と関わり始めた。
虐めもなくなり全てが解決した。
そして少年は勝手に独りになった。
「というくだらない事だよ」
話し終えた僕はそう締め括った。
そして言葉通り本当にくだらない理由だった。
「そっか、あの時コウちゃんいたんだ・・・・」
彼女には似合わない苦笑いで言う。
「でもね」
と言葉をつなげる
「決してコウちゃんが重荷になってるって意味じゃないの」
「じゃあどういう意味だったんだ?」
「そ、それは言えません!」
「なんで?」
「なんででもです!とにかく私はコウちゃんの事を重荷なんて思ってないし、コウちゃんがいない方が寂しかったの!だから、これからはまたいつもみたいに仲良くしよ?」
詰め寄られ、目に涙をためて上目使いで見上げられた時の破壊力は凄まじい。
というか腹部に柔らかいものが押し付けられている。
「わ、わかったから離れてくれ。近い」
「ご、ごめん!」
赤くなって離れる。
不思議とおかしくなって笑ってしまった。
そこで思い出す。
「そういえばこの間はあんな時間までなにしてたんだ?」
「あぁ、あれ?」
急に顔に影が降りる。
「・・・・どうせ誤魔化しは効かないんだよね?」
その時の表情は必死に笑顔を作っていたのか。
「何かあったのか?」
聞いた。
踏み込んだ。
幼馴染みに戻るために踏み込む。
「あのね、あの日私告白されたの。二年生の先輩だったんだけどね、断ったんだ」
一度止めてから言葉を続く
「そしたらね、そしたら・・・」
語る彼女が泣いていた。
「ごめんね、ちょっと待って」
と言ってから十分辺りはすっかり暗くなっていた。
彼女は落ち着いたのか語り出す。
「告白断ったら襲われちゃった」
一言。
たった一言だった。
その一言で僕は殺意を覚えた。
そんな中でも彼女の声は聞こえた。
「礼希君が助けてくれたんだけどね」
礼希が助けた?
「私が乱暴されそうな時礼希君が助けてくれたの。だからなんともなかったから」
「なんだ、安心した」
待てよ?
安心した?
何で?
わからない。
僕はいったい何で安心したのだようか?
僕は新たな疑問と繋ぎ直された絆を得て家へ帰る。
途中美亜が何度もチラチラとこちらを見ていた。
ーーーーー四月二十二日(月)ーーーーー
僕は美亜と一緒に登校した。
学校に着くと教室前で礼希が待っていた。
「やあ、おはよう孝」
「ん」
素晴らしい挨拶を返し、美亜に向く。
「悪いけど先に行ってくれ」
「なんで?」
「ちょっとこいつと話がね」
「うん、わかった」
美亜は僕に手を振って教室に入った。
それを見送ってから礼希が口を開く。
「で、話って?」
「この間美亜を助けてくれたんだって?」
「ああ、あれね?あれはただ近くを通っただけだよ。君にお礼を言われる覚えはないな」
おどけた様子の礼希にそれでも言う。
心の底からの感謝を込めて
「ありがとう」
と。
「じゃあ今度君が俺のために何かしてくれればいいよ。それでチャラな」
結局のところやっぱり僕たちは友達だった。
って待てよ?
「なんで僕が何かされたわけじゃないのに僕がお前の頼みを聞かなきゃならない?」
「じゃあ美亜ちゃんに頼むとするよ」
笑いをかみ殺しながら言う礼希に蹴りを入れる。
「本当にお前は性格が悪いな」
「今さらだろ?」
そこでチャイムが鳴った。
「じゃあまた昼に来るよ」
「もう来るな」
「美亜ちゃんとの時間の邪魔はしないから安心していいぞ」
「別に関係ないだろ」
「そうだね」
そしてそれぞれの教室に入って行く。
僕は不思議と口元が緩んでいた。
そして昼、礼希は本当に来た。
「そういえば朝二人で何話してたの?」
美亜が今朝の事を聞いてきた。
「あのね〜こいつ美亜ちゃん助けてくれてありがとうってーーーふぎ!!」
「黙れ」
机の下で思いっきり足を踏んだ。
「あ、うん。ごめんなさい」
珍しく素直に謝った。
「へぇ、そんなこと言ってたんだ。ふ〜ん」
ニヤニヤしながら美亜が見てくる。
顔が近い。
やっぱり可愛いんだなと改めて思う。
「なんだよ?」
声が上擦らないように言えただろうか?
「なんでもな〜い」
なぜか嬉しそうな美亜を横目にふと思い出した。
そういえば結局のところ水曜日に礼希が言った言葉の意味って何だったんだ?
今日の昼も平和に終わって行った。
「で、結局出かけて見てもわからなかったんだが?」
一緒に帰ると言い張る美亜をなんとか撒いて喫茶紅に来た僕は咲さんとコーヒーを注文して問い詰めた。
「え?まじで?」
どうやらもう僕に敬語を使うこともしなくなってしまった。
「はぁ、そこまで鈍感だったか」
なんだかバカにされてない?
されてるよね?
「とりあえず何をしたか話して?」
咲さんは呆れたように話を促す。
仕方がないので話したところ、
「何でそれでわからないかな?」
と頭を抱えられた。
「逆にわかるの?」
「なんでわかんないの!」
怒られました。
「まあいっか。こっちとしては好都合だし」
「ん?何か言った?」
考えていたら聞こえなかった。
「ううん。なんでもない」
「ならいいけど」
「そうだ!ゴールデンウイークって予定入ってる?」
なんだ?急に。
「いや、ないけど?」
「ならデートしよ?」
・・・へ?
今なんて?
「だからデ・ー・トしよ?」
こんな可愛い子からのお誘い当然オッケーだ。
「もちろん!」
「じゃあ決定ね。私今日は早く上がるんだ。だからそれまで待っててね?」
ウィンクを残して厨房に戻って行った。
一時間後咲さんが出てきた。
学校の制服を着ているところを見たのは初めてだ。
「待った?」
まるで恋人とのデートの待ち合わせの時のように言う。
「一時間くらい」
「そこは今きたとこだって言うべきでしょ?」
頬を膨らませ、拗ねた。
可愛いっす。
もう、こうぎゅーっとしたいくらい可愛い。
まあ通報されるだろうからしないけど。
「まあ待ったのは事実だから」
内心がばれないようになだめた。
「本番を期待します」
どうやら許しを得たようだ。
「そうだ、ケー番交換しよ?便利だし」
「今時ケー番って言う人いるんだ」
「悪い?」
ジトっと睨まれる。
まあ可愛いけど。
「別に悪くはないよ」
「そっか」
安心したような声だった。
「じゃあさっさとやっちゃおう!赤外線だー!」
「え?」
「ん?」
「もしかして咲さんガラケー?」
「うん。ガラケー」
ピンクのガラケー(ボタン式で折りたたんだりするタイプのケータイ)を僕に見せる。
「何かおかしい?」
「いや、個性的だなと」
「じゃあ早速。ほらほら早くケータイだしなよ。私だけ恥ずかしいじゃない」
「うん」
スマートフォンを出す。
残念ながら僕のスマートフォンに赤外線機能はない。
「そ、それは噂のスマートフォンじゃ?」
手をワナワナさせながら驚く咲さん。
噂のといっても今やガラケーの方が噂化してると思う。
「やっぱりスマートフォンが普通なのかな?」
どことなく落ち込んでいる咲さん。
励ましてあげよう。
「大丈夫ですよ、ガラケー使ってる人も数パーセントいるはずです。特におじさん」
「私若いよ女の子だよー!」
泣いてしまった。
不謹慎だが可愛い!!
「咲さんは若いよ可愛いよ。自信持って。むしろ結婚して!!」
「本当に?」
「当然」
「本当に結婚してくれる?」
「そっち!?」
「ははは、嘘泣きでした!」
知ってた。
はい、知ってましたとも?
「そろそろ本当に交換しようか」
「だね」
その後メールアドレスとケー番を交換した僕は咲さんを送って行った。
途中で言われたが、咲『さん』じゃなくて『ちゃん』がいいのだそうです。
気づくと白い空間にいた。
見覚えのあるその空間に一人の少女が立っている。
「時間がないの」
少女の声は何かに焦っていた。
「なんの時間だよ?」
「運命の瞬間」
運命の瞬間
何だろう?
厨二的な設定だろうか。
その瞬間頭にあるイメージが浮かぶ。
それは地獄絵図
たくさんの死体と瓦礫。
そして絶望する僕。
それは最近よく見る夢そのものだった。
「今のは?」
「思い出して。もう時間がない」
「今のはなんなんだよ!?おい!」
叫ぶように言って少女はようやく答えた。
僕が一番否定したかった答えだった。
「それは未来」
その瞬間僕は闇に落ちた。
ーーーーー五月四日(土)ーーーーーーー
電話で相談した結果今日が空いているということでデートは今日になった。
朝の九時に公園前に待ち合わせという咲ちゃんからの提案である。
昨日美亜に買い物に付き合わされたおかげで出かける前から筋肉痛だった。
そんな状態でたどり着いた待ち合わせ場所に時間十分前に到着した。
朝は美亜にどこへ行くのかと尋問されかけたが、なんとか逃げられた。
そのおかげで予定した時間より十分程度遅れてしまった。
まだ誰もいない。
よかった。
あれをやるなら僕が先に着いていないといけないからね。
しばらくすると咲ちゃんが駆け寄って来た。
「ご・・めん、待っ・・・・・た?」
喘ぎながら必死に言葉を繋ぐ。
そこまでしてやりたいのか!?
「いや、今きたところ」
するとどうでしょう。
途端に嬉しそうな表情になって
「本当に?」
と聞く。
その表情がとても可愛いくて見惚れそうになるのを抑え
「本当に」
と答えた。
実際は十分待ったけど、言わぬが花だろう。
なんて思っていたら僕の手がぬくもりに包まれるとても柔らかい。
咲ちゃんが手を握っていた。
そして最高の笑顔で
「行こっ!」
と僕の手を引っ張った。
どこへ行ったのかといえば『ディスティニーランド』という遊園地で意外と効率の良い咲ちゃんのおかげでいろいろアトラクションに乗ることができた。
でも一番楽しかったのは咲ちゃんの表情を見ている事だった。
時計が示す午後六時。
「孝くん最後にあれに乗らない?」
指差す場所にあるのは観覧車。
僕はオッケーして。
一緒に観覧車に乗りこんだ。
一番高い所まで行くと絶景だった。
時間的にもライトアップが始まり、僕たちは自然とそちらに目を奪われた。
「ねえ、孝くん」
正面に座るその時の咲ちゃんはとても大人っぽくて、色っぽかった。
その艶やかな表情を見ていると胸のあたりが締め付けられるような感覚に囚われる。
「私ね多分最初に孝くんに会ったあの日から、ずっと・・・すーーー」
そこで途切れてしまう。
観覧車が下まで降りたのだ。
まるで告白されそうな勢いだったけど、なんて言おうとしたんだろ?
帰り道、咲ちゃんはずっと黙っていた。
僕もなんとなく黙っていた。
しばらく無言が続いてようやく咲ちゃんが口を開いた。
「今日はすごく楽しかったよ。ありがとね」
そんなの僕も同じだ。
「僕だって楽しかったよ」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
嬉しいというよりはホッとしたという感じの表情だった。
そういえば今日はずっと咲ちゃんの表情を見ている気がする。
笑った表情も
怒った表情も
困った表情も
泣いた表情も
今日一日中でたくさん見れた。
鈍感と言われる僕でも自分の気持ちくらいはわかる。
この苦しいくらいの胸の高鳴り
一緒にいるだけで嬉しくなる
三年前に一度だけ味わったこの感じ。
そうだ、きっと僕は彼女のことが好きなのだ。
僕こと遠藤孝は八谷咲に恋をしたのだった。
そうこうしているうちにいつの間にか咲ちゃんの家の前に来ていた。
咲ちゃんは恥ずかしそうに
「またお店来てね」
と笑顔を見せた。
そして
「当然」
と約束を交わす。
「またね」
その日は別れた。
「これ何?」
家に帰ると随分ご立腹な美亜が待ち構えていた。
スマートフォンの画面を見せてからの彼女のさっきの台詞だった。
そこには公園で咲ちゃんが僕の手を握って笑いかけている瞬間が映っていた。
「朝急にいなくなって探しに出たらこんなもの撮れちゃった」
笑っているが笑ってない。
怖い。
というか、なんで僕が咲ちゃんといたからって怒ってるんだ?
「いや、美亜には関係ない」
「関係ない・・・」
僕の言葉で美亜はフリーズした。
そして
「コウちゃんのバカ!!!!!!!!」
そのまま家に帰ってしまった。
何か悪いことしたかな?
白い空間
またこの夢だ。
最近何度も見ている気がする。
そしてやっぱり一人の少女が立っている。
「やっぱりあの子を選ぶんだね。あなた達の愛は時間をも超えるんだね。もうここまでくるとあの未来を回避することは不可能なのかな?」
「なんの話だ?」
「そろそろ思い出して。世界のルートは決まってしまった。あなたが美亜を選んでいれば変わったかもしれないけれどもう手遅れ。こうなったら多少強引にでも思い出してもらうしかないか」
「思い出すってだから何をーーーー」
頭にノイズが走る。
浮かぶのは夢に見た地獄絵図。
そして身体がぐちゃぐちゃになったーーーー
咲ちゃんの姿だった。
「っ!!」
その途端に急に吐き気を覚える。
「明日会う時に思い出してなかったら今度は強制的に思い出させてあげるからね」
その言葉を聞きながら僕は闇に落ちた。
ーーーーー五月五日(日)ーーーーーーー
起きると全身すごい汗だった。
とりあえず汗を流すべく風呂場に向かう。
脱衣場のドアを開けると女の子がいた。
バスタオル一枚体に巻きつけただけの少女美亜は僕を見てフリーズ。
そのあとどんどん赤くなっていって
まあ当然のごとく
「きゃーーーー!!!!!!!!!!!」
叫ばれた。
「なんでうちにいるんだよ」
シャワーで汗を流した僕は根本的な疑問を投げかける。
「 ちょっとうちのシャワー具合が悪くて」
「それは災難だったな」
「うん、災難だったよ」
訪れる沈黙
昨日のこともあって妙な空気になってしまう。
「♬〜〜♬」
「「うわっ!!」」
その沈黙わ破ったのは僕のスマートフォンだった。
突如鳴り出す音楽に二人して驚いた。
画面を見ると礼希からの電話だった。
「何だ?」
『何だとは冷たいな。君の大親友礼希くんからのラブコールだよ?』
「いらねー」
『本当にね。気持ち悪い』
「お前がかけてきたんだろ!?」
『まあまあ、そんなに怒らないで聞いてくれ』
「話による」
『ちょっと二人で会えないかな?できれば人気のないところで』
「別にいいけど、なんで人気のないところなんだ?」
『まあ、いいから今から言う場所に集合な。
今すぐ』
「はいはい、分かりましたよ」
『じゃまた後で〜』
電話が切れる。
時計は午後一時を示している。
このままここにいても気まずいだけだし行こう。
「礼希くんから?」
「うん、ちょっと行ってくる」
「行ってらっしゃい」
「すぐ帰るから」
「うん」
僕は礼希の待つ場所えと急いだ。
廃墟だった。
そこにはすでに礼希が来ていた。
「お〜きたきた」
手を振って僕を呼んでいる。
恥ずかしい奴だ。
「で、なんのようだ?てかお前なんか火薬臭いぞ?」
「ああこれ?まあいろいろあってな」
「怖いから聞かない」
「まあ正しいな。そんなことより本題に移ろう」
そう言うと礼希の雰囲気が変わる。
見ただけで全然違う。
「さて、昨日お前は何してた?」
さっきまでのおちゃらけモードからシリアスモードになったらしい。
「なんでそんな事聞くんだ?」
「いいから答えろよ」
「・・・・」
「なんで黙る。言えばいいだろう?女とデートしてましたってよ」
「悪かったな」
「それはどういう意味での謝罪だ?まさかデートしたことを俺に黙っていたことに謝罪してるんじゃないだろうな?」
「それ以外に何があるんだよ?」
その言葉を聞いた時礼希の雰囲気が完全に切り替わった。それは怒気ともとれ、殺気ともとれた。
「ふざけるなよ?おい!?」
礼希は僕の襟首を掴む。
「なんだよ?」
「なんだよじゃねえよ。お前気づいてるんだろ?いや、あれで気づいてないわけないだろ!」
「気づくって何にだよ!」
「美亜ちゃんのことに決まってんだろ!」
「美亜がどうしたんだよ?なんでそれと昨日のデートがつながる?」
「テメっ!なにを言ってやがんだ!どう見ても美亜ちゃんお前に惚れてるだろ!」
「・・・・・は?」
美亜が僕に惚れてる?
「そんなわけないだろ?きっとお前の勘違いーーーー」
最後まで言えなかった。
殴られた。
その事実を理解するのに十秒かかった。
「そんなはずないだろ!俺はずっと美亜ちゃんを見てた。
お前に避けられて辛そうな姿も
復縁して嬉しそうな姿も
一緒に登校して楽しそうな姿も
先に帰られて悲しそうにしてる姿も
俺はずっと見てきた!」
「なんで・・・そんな」
「俺は美亜ちゃんが好きだ」
「へ?」
今なんて言った?
「お前はどうなんだ?」
その問いにさっきまでの怒気は消え失せていた。
僕は、
「僕も美亜が好きだ」
でも
「それは幼馴染みとして一人の人として好きっていう意味で男女の意味はない」
「そういえば言ってたな好きな人がいるって。それが昨日の娘なのか?」
「はっきり好きだって気づいたのは昨日のデートでだった」
「そうか」
何か諦めた表情でつぶやいていた。
「話を聞いてくれ」
「聞くくらいならな」
「実は俺は中学の時から美亜ちゃんが好きだった。そしてある日意を決して校舎裏に呼び出して告白したら断られた。
理由を聞いたらお前のことが気になるからって言ってた」
まさかあの時告白してたイケメンは礼希だったとは。
「最初お前を怨んだよ。お前のせいで俺は振られたんだからな」
振られた原因が他の男にあったんだ。
まあそれは普通だろう。
「でも、そのあとお前と出会い接していくうちになんで美亜ちゃんがお前に惚れてるのかわかった気がした。そしたら怨みなんていつの間にか消えていたよ」
「で、結局どうするんだ?これから」
「もう一度告白しようと思う。多分断られると思うけど、心残りは消しておきたいから」
「心残りなんて大袈裟だな。まるでもうすぐ死ぬみたな言い方するなよ」
「悪かった」
「これからどうする?」
時刻は午後三時
二時間も話していたらしい。
「告りに行く」
礼希はハッキリと言う。
誓うように
勇気を出すように
「多分うちにいるから」
「ありがとな。本当にさ」
「報告楽しみにしてる」
「ん」
そして彼は告りに行った。
「そっか、礼希が美亜をね〜」
おかしいことではない。
むしろ納得した。
結局あいつの行動は僕のためではなく美亜のためだったんだな。
それに美亜が僕を好きって
確かに言われて気づいたよ。
そんな感じだった。
結局僕は美亜の気持ちに自分で気づくことはできなかった。
だからきっと美亜の恋人に僕は相応しくないのだろう。
「さて、しばらく帰れないし喫茶紅にでも行きますか」
僕は一人で呟いてコーヒーを飲む建前で咲ちゃんに会いに行くことにした。
僕も咲ちゃんにちゃんと告白しないとな。
ヘタレな僕は咲ちゃんに告白することもできず帰宅した。
あたりはすっかり夕暮れで、礼希が僕の家に向かってから二時間以上経っていた。
「ただいま」
「おかえり」
美亜は隠し事が下手だ。
だからすぐにわかった。
「振ったのか?」
「っ!」
一瞬驚いた美亜だったがすぐに事情を察したらしい。
「うん、振っちゃった。せっかく告白してくれたのに」
と申し訳なさそうだ。
「ねぇ、コウちゃん。さっき私も決めたんだ」
「・・・なにを?」
なんとなくわかっていた。
「私も前に進みたい。このまり止まりたくない。だから言うね」
きっとこうなるのだろうと。
「私はコウちゃんが好きです。中学の時から。ううん、小さい時からずっと誰よりも大好きです。私と付き合ってください!」
十何年間ずっと抱いてきた想いを爆発させたような告白。
閉じられた目にはうっすら涙が溜まっている。
昔から一緒にいるのが当たり前の少女。
中学の時に大好きだった
そんな少女からの告白
答えは既に決まいる。
告白される前から
昨日観覧車に乗ったあの時から
「ごめん。君の好意にずっと気づかないふりをしてきたんだ。
僕には君のの告白を受ける権利がない。
それに好きな人がいるんだ」
咲ちゃんが一番大切な人になっていた。
「そっが。だよね」
僕に心配をかけさせないためか必死に笑みを作っている。
でも涙は彼女の頬を伝っている。
「ありがとう。ちゃんと答えてくれて。じゃあ今日は帰るね」
と走って飛び出して行った。
当然僕に追いかける権利もなかった。
夜になって美亜からメールが来た。
まだ電話は辛いらしい。
内容は、これからも幼馴染みとして仲良くしてほしいといった内容だった。
そんなのは当たり前だ。
美亜は僕の幼馴染みで、
親友なんだから
「結局思い出さなかったね」
例の白い空間で少女がいう。
「いや、今日は大変だったんだぜ?夢なんて覚えてられるか」
本当にいろいろあった一日だった。
「それでも約束は約束だからね。強引に開けさせてもらうよ?」
そう言うと少女は僕の頭に触る。
その途端頭痛とともにノイズが走った。
耳鳴りもすごい。
そして見た。
いや、思い出した。
この先の結末を。
日本全土を巻き込んだ大事件のことを。
「なん・・・で」
「それが現実。あなたが今まで予知夢だと思って見ていたものは実は記憶から溢れた未来の記憶だったの」
「これが現実?」
「そう。現実」
「そうだ。僕は咲ちゃんが目の前で死んで、願いを使って時間を巻き戻したんだ」
「この未来を変えるためにね」
「どうすれば回避できる!?どうすればーーーーー」
「無理」
僕の言葉は残酷な一言で切られる。
「でも、記憶と現実では少しずつ違うからもしかしたら」
「無理なの。最大の分岐点はもう過ぎ去ったから」
「分岐点?」
「あなたが八谷咲を好きになったこと。それが分岐点だった」
「じゃあ、もし僕が美亜を好きになっていたら?」
「言い切れないけど、あなたは絶望しなくて済んだはず。だってあの事件で千歳美亜は死ななかったから」
「じゃあもう一度やり直してーーーー」
「無理」
またその言葉で切られる。
「もうやり直しは効かないって言ったはずだけど?」
「ならどうすればいい?」
この問いに少女は最も簡単な方法で同時に最も難しい方法を告げた。
「犯人を見つけて止めるしかないと思う」
「犯人を見つけるってそんなの不可能だ。
あの事件は日本全土で同時に起こったんだ。見つかるわけがない」
「そんなことはない犯人はこの町にいる」
「なんで断言できる?」
「あなたが分岐点だから」
「それってどういうーーーーーーー」
最後は闇に引っ張られて言えなかった。
闇に落ちるときに
「犯人はあなたに少なからず関わった人だと思う。頑張ってね」
と聞こえた気がした。
ーーーーー六月六日(木)ーーーーーーー
ここ一ヶ月僕は犯人探しに徹していた。
あれから白い夢は見ていない。
一応学校には行ったが授業は頭に入るはずもなく、何度も叱られた。
まあ最悪後で美亜に聞けばなんとかなるけれどテストが怖い。
だが、実際問題として運命の日まで残り四日しかない。そのうちに犯人を見つけて捕まえる必要がある。
とはいえ未だに犯人の正体は掴めていない。
何せ幅が広すぎる。
一度でも関わった人間といえば、教師や小中学校のクラスメートや今のクラスメートまで犯人候補だ。
どうにも焦ってしまう。
こんな状態では思考はまとまらない。
コーヒーを飲んで落ち着くために喫茶紅に向かった。
結局喫茶紅に来た僕は珍しくカウンター席に座った。
「なんだ少年悩み事か?」
いきなりダンディーな声で話しかけられた。
喫茶紅の店長の紅力白髪で色黒なおじさんだ。
「いえ、大したことではありません」
実はかなり大したことなんだが。
確かここもあの事件で文字通り潰れたはずだ。
「恋の悩みかい?どうせ咲ちゃんに惚れたんだろ?」
「いや、あの・・・」
「ははは、そうだ少年気分転換に少し手伝って行くか?」
「いや、その・・・」
「いいからいいから日雇いだ。給料も出す。更衣室に行って着替えて来こい」
「は、はい」
合意してしまった。
店長から更衣室の場所を聞いたので意外とすんなり見つかった。
そしてドアを開けた先には
咲ちゃんが着替えていた。
「え?」
「ふぁ?」
後のが僕
二人してフリーズの後、
「こ、こ、こ、こ、こ、こ、孝くん!?」
「ご、ごめんなさい!!」
ドアを閉め、更衣室から逃げ出した。
あの店長が女子更衣室をわざと教えたのだろう。
でもまあ、好きな人の着替えが見れて幸せではあった。
咲ちゃんがフロアに出た時に僕は更衣室に着替えに向かう。
鉢合わせたら気まずいからね。
着替えてからが大変だった。
夕食時の業務はまさに地獄。
気まずさとか日本の危機とかを全部忘れられた。
もしかして店長はこれが狙いで僕に働かせたのかもしれない。
そしてあっという間に勤務時間は終わった。
咲ちゃんと一緒に働けて楽しかったし
臨時収入も入ったしで一石二鳥だ。
更衣室で着替え、出た時だった。
咲ちゃんが待ってくれていた。
「お疲れ様でした」
可愛いらしい笑顔で僕を労ってくれた。
「お疲れ様」
僕も返した。
自然に二人並んで歩き出す。
「結構大変でしょ?うちのバイト」
「だね、ちょっと舐めてた」
「社会は厳しいのだよ少年」
ああ、ようやくわかった。
「それって店長の真似?」
「そうです。なんか面白くって」
「でもいい人だよね?」
「私もそう思う。いろいろ相談にも乗ってくれるし」
「へぇ〜、そうなんだ」
そのあとは無言で歩いていた。
そしてある場所に着いた。
デートの時の待ち合わせ場所の公園。
「楽しかったねデート」
咲ちゃんが言う。
「私は最初孝くんに女の子について学んでもらおうと思ってデートに誘ったの。
ううんそれは建前上かな?
本当は孝くんとデートしたかっただけだった」
「嬉しいことを言ってくれるね」
「でしょ?それで一緒に遊んでたらだんだん建前とか関係なくなってて、胸の中が楽しいって気持ちで溢れてた」
「僕も楽しいって思ってた」
「もう抑えられないよ。孝くん」
咲ちゃんは瞳を潤ませ、頬も紅潮していた。
「私ね孝くんのことが」
「待って!」
最後まで言わせない。
僕が止めたのを聞いて咲ちゃんは驚いている。そしてなんで止められたのか考えているようだ。
咲ちゃんは多分今告白してくれようとしている。
でもこの言葉は僕が言いたい。
僕が伝えたい。
だから
「咲ちゃん、僕は君のことが好きだ。遊園地でどうしようもなく君が好きだと思い知らされた。だから僕と付き合って下さい!」
全身全霊を込めた告白をした。
もっとうまい言葉があったかもしれない。
もっとロマンチックに言えたかもしれない。
でも僕はこれでいい。
これが僕の全力だった。
「もう、ずるいよ」
聞こえた少女の声は上擦っていた。
見ると彼女は泣いていた。
泣きながら笑っていた。
「本当にずるい。私がどれだけ緊張してたか知ってる?」
「ごめん」
少女は涙を拭いて、最高の笑顔になり
「しょうがないなぁ。私と付き合ってくれたら許してあげる」
どちらが告白したのかわからない状態にしてくれた。
でもまあ、僕たちは晴れて恋人同士になった。
家に帰った僕は彼女ができた幸せに浸りたい気持ちを抑え犯人の正体について考える。
一仕事したおかげで頭はすっきりしている。
そのおかげかふと思い出した。
あの時の彼の不自然さを。
なんであんな不自然な発言を忘れていたんだ!
それにあの臭い
でも動機がないじゃないか。
あいつが社会に不満を持っているなんてことあるはずないーーーとは言い切れないか。
「バカバカしい。寝よ」
僕は夢に逃げた。
ーーーーー六月七日(金)ーーーーーーー
その日の昼は美亜抜きで礼希と二人空き教室で食べていた。
「なぁ礼希。月曜日ってなんか用事あるか?」
「月曜日?なんでまた中途半端な」
「彼女を紹介しようかと思って」
「・・・・嫌味か?」
「散々僕に嫌味を言ったのは誰だったか?」
「月曜は無理だ用事がある」
「なんの?」
「・・・合コン」
「本当に?」
「振られてヤケになってるんだよ」
「なるほど。じゃあ別の日な」
「おう」
何気ない会話が楽しかった。
でも僕は進む。
未来を変えるために。
守れなかった彼女を守るために。
ーーーーー六月十日(月)ーーーーーーー
僕はある場所にいた。
そこは最初に爆発が起こった場所。
ビルの屋上だった。
咲ちゃんには学校が終わったら喫茶紅から出ないように言ってある。
今日学校で彼にはあっていない。
屋上のドアが開くと一人のイケメンが姿を現す。
中学の時の僕の親友にして悪友。
僕の数少ない友人の一人
陽木礼希だった。
彼は一瞬驚愕の表情を見せるがすぐにいつもの嫌味な表情に戻る。
「何してんだだこんなところで」
あくまでいつもの口調だった。
「ちょっと景色が見たくて」
「そうか。でもそこは危ないぞ?」
「なんだよ、珍しく心配してくれるのか?」
「お前に何かあると美亜ちゃんが泣く」
「まだ諦めてないのか?」
「俺は意外と執念深い男なんだよ」
「初めて知った」
いつもの会話。
いつもと同じ何気ない会話だった。
「で、お前は何しに来たんだよ?」
僕は聞く。
「景色を見にかな?」
壊すために
進むために
「じゃあその物騒な物はなんなんだよ?」
「っ!!」
今度こそ驚きが隠せないようだ。
声が少し漏れた。
そしてさっきまでと雰囲気が変わる。
あの日対峙した時のような、
憎しにに染まった雰囲気だった。
「は、ははははははははは!!!!!なんだよ、いつから知ってたんだ?」
「今」
答える
「カマをかけただけで、さっきまではまだ疑惑だった。だいたい火薬の臭いつけて、心残りがどうとか言ったら怪しいだろ」
「なるほど、確かにそうだな。しかしお前が人を騙すなんてな。予想外だった」
「礼希。やめろ。こんなの間違っている」
「ほう、俺が何をしようとしてるのか知っているみたいだな」
知っている
わかっている
日本全土を脅かす大事件
「日本全土を対象とした同時多発テロ」
「正解だ。ったくどこから漏れたんだ?」
「ひとつ教えてやる。知ったのではなく知っていた。だ」
「どう違う?」
「誰も情報を漏らしてなんかいないよ。ただ僕が特別覚えていただけだ」
「何を言っている?」
「そんなことより決行の時間までまだ少し時間があるな」
僕は腕時計を見ながら言う。
「そんなことまで知っているのか」
礼希も時計を見て言う。
「教えてくれ礼希。どうしてこんなことをするのかを。時間潰しに愚痴くらいなら聞いてやる」
「そうだな。どのみちみんな死ぬんだ。教えてやるよ。俺が経験した過去を」
俺はごく普通の一般家庭で育った。
俺が5歳くらいの時までは何もかもがうまくいっていた。
だが、ある日親父が会社をクビになった。
会社の金を横領したらしい。
そして晴れて無職になった親父は
酒に酔い
ギャンブルに溺れ
闇金に手を出し
お袋と俺に暴力をふるった。
それから三年経った。
荒れた生活のせいでついにお袋も壊れた。うつ病ってやつだ。
親父も暴れ疲れたのかほとんど動く事がなくなった。
俺の家族は完全に完膚なきまでに壊された。
俺はその日いつものように小学校へ行った。
その日はたまたま帰りが遅くなった。
家に帰ると両親が死んでいた。
お袋はどう見ても他殺で親父はどう見ても自殺だった。
親父は一家心中をはかったらしい。
警察曰く俺がいつも変える時間が死亡推定時刻らしい。
もしあの時普通に帰っていたらと思うとゾッとする。
それから俺は母方のばあちゃんの家に引き取られた。
ばあちゃんは優しかった。
俺の心を癒してくれた。
だが現実は甘くはない。
学校で俺に対する虐めが始まった。
ガキの虐めはひどかった。
理由があるから思いつくことなんでもやっていいと勘違いしているのか俺への虐めを自己の中で勝手に正当化していた。
大人たちも俺の両親が心中したと知った途端俺を見てコソコソと話し出した。
一年後ばあちゃんが死んだ。
ただの病気だった。
でもその事実は唯一の拠り所を失った俺には辛すぎた。
しばらくして中学生になった。
小学校からそのまま上がってきた連中は俺を引き続き虐めた。
それに便乗するようにクラスの連中も虐め出した。
そんな中で一人だけ俺に手を差し伸べた奴がいた。
そいつはクラスの連中に何を言われても俺に話しかけてきた。
そいつが虐めの対象になるのにそう時間はかからなかった。
それに呼応して俺への虐めはなくなって行った。
そいつが死んだ。
自殺だった。
それが虐めによるものだと簡単に予想が着いた。
俺は教師に虐めの事実を報告した。
だが、記者会見では虐めの事実を否定しやがった。
そして記者どももそれを鵜呑みにした。
そして俺は一人の女に出会った。
そいつも軽く虐めにあっているらしかった。
理由は男を容赦なく振っていったつけらしい。
俺はそいつに話しかけた。
そして話していくうちにそいつに恋をした。
梅雨にしては珍しくとてもよく晴れた日の放課後俺はそいつを呼び出した。
告るためだ。
だが断られた。
そのかわり今まで不明だった理由を教えてくれた。
幼馴染みの男が好きらしい。
納得した
そして妬んだ
俺はその幼馴染みの男を探し、見つけ出した。
そいつは俺よりも容姿を見る限りカッコ悪かった。
とにかく俺は振られた理由を確かめたくてそいつに近ずいた。
「あとは知っての通りお前を認めて中学時代を謳歌したってわけだ。まあ美亜を避けてた時はさすがにイラっときたが聞いた話だと俺のせいみたいだったし罪滅ぼしにお前と美亜をくっつけようとしたってわけだ」
「ありがた迷惑って知ってるか?」
僕はあくまでいつもの調子を崩さない。
「結果的にそうなったな」
礼希は戻らない。
「さて、雑談は終わりだ。これから計画を始める。逃げないからお前も道ずれだ。
お前と美亜だけは殺したくなかったけどもう遅い」
「遅くなんてないさ」
「遅いんだよ。この町一帯に爆弾を仕掛けた。もう安全な場所はない」
「いや、一番安全な場所がここにある。礼希、お前のすぐ側だ」
もっとも危険でもっとも安全なその場所
礼希を止めることができる場所
止めるんだ絶対に
「お前は美亜まで殺すつもりか?」
「は?そんなわけないだろ。あいつだけは安全なところに隠れさせてある」
「そうか、でも美亜は死ぬぜ」
今までの人生最大のハッタリ。
「何を言っている?」
「そういえばさっきのその問いに答えてなかったな」
信じてもらえないかもしれない。
でも言わないといけない
「俺は未来から、今から数時間後の世界から来た」
「何を言っている!」
礼希の顔は青ざめた。
「ここが最初の爆発ポイントたったからここに来たんだ」
「そんなの信じられるわけがないだろ!!」
「でも事実だ。美亜が死んだのはこのすぐ近くだった。多分お前の様子がおかしいと思ったんだろうな、後をつけたんだ」
「バカな。そんなバカな!!」
礼希は頭を抱えた。
「そんなバカなそんなバカなそんなバカなそんなバカな!!」
今にも壊れそうな礼希に告げる。
「お前は復讐と美亜どっちが大切なんだ」
質問ではなく尋問に近い
「どうなんだよ」
「はははははは!!そんなの決まってるだろ!俺は社会が憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い」
ダメか?
そうこれしか手が残っていなかった。
諦めかけたその時
「だが、それ以上に美亜を愛している。
美亜の命が大事だ」
全身から憎しみが消え、雰囲気が柔らかくなった。
「なら今すぐやめろ」
「無理だ。あいつらはもう俺の言うことは聞かない」
「あいつら?お前ら複数犯か」
「じゃないと日本全土の爆破はできない」
「ならどうすれば・・・・」
ここまで来て行き止まりかよ!
「方法はある」
「なんだよ。早く言えよ」
安堵したのも束の間
「俺が死ぬ」
衝撃の事実
「なんでお前が死ぬんだよ?」
意味がわからない
「俺が死ねば指揮官はいなくなる。それにここの爆弾も爆発しないからな」
理解できない
「お前が見抜いた通り俺は爆弾を巻いている。これはいざという時に使う最後の手段」
お前は美亜が好きなんじゃ
「さよならだ孝。お前との時間は楽しかった。美亜によろしく言っといてくれ」
やめろ
「やめろ!!」
礼希が巻いている爆弾のスイッチを入れた。
その時彼は笑っていた。
その表情は寂しそうで幸せそうだった。
爆発音が響く
僕は願った。
最後の願いを
礼希を救ってくれと
その後僕は爆風で飛ばされて気絶した。
「久しぶりだね」
僕はまた白い空間に来ていた。
そこにはやはり少女が一人いるだけだった。
「なんでまたここに?」
もう二度と来ることはないと思っていた場所に僕はいる。
最悪の未来は回避したのだからここに来る意味がない。
「その話は少し置いておこう」
「じゃあなんの話をするんだ?」
「まず一言。おめでとう。あなたはあなたの周りの人間を守り抜いた。あの礼希って子も救えたみたいだしね」
「本当か!よかった」
どうやら礼希は助かったらしい。
「でも決して無傷じゃないよ?どう頑張っても世界の『調整』には敵わないから」
「というと?」
「結果的に彼は右腕切断の上喉が焼けてまともに喋れなくなったみたい」
「僕の願いは礼希を救うことはだったはずだが?」
救うのなら普通は無傷のはずだ。
「さっきも言ったけれど世界の『調整』には絶対に敵わない。『調整』っていうのはつまり辻褄合わせなの」
「辻褄合わせ?」
「そう、あれだけの爆発があって無傷なんておかしいでしょ?辻褄が合わないんだよ。その世界規模の辻褄合わせが『調整』」
なるほど、そういうことか。
「それで僕はなんでまた呼ばれたんだ?早く帰って咲ちゃんに甘えたいんだが」
「惚気話とか聞きたくないから本題に入るね」
「どうぞ」
「あなたを呼んだ理由は簡単だよ。
私を助けて欲しいの
私をここから出して」
「・・・おかしいとは思っていた。なんでここに来ると絶対に君がいるのかと。
まさか、閉じ込められてるのか?」
「より厳密に言えば隔離されている。かな?
」
「何から?」
「あらゆる時間と空間から」
なんて?
あらゆる時間と空間?
流石に電波とか言って笑えない。
実際僕は彼女の奇跡を見ている。
そうなっていてもおかしくない。
「この続きはまた今度話すね。
今回はもう時間もないみたいだし」
僕の足元に影ができていつものように
僕は闇に落ちた。
ーーーーーー六月十二日(水)ーーーーー
目がさめると二日経っていた。
どうやらここは病室のベットらしい。
その後僕は止める医者を押し切り無理やり退院した。
礼希は違う病院で面会謝絶の状態らしい。
まあ美亜情報だけど。
とにかく昼間に病院とにかくを出たことでやるとことがない。
咲ちゃんに会えない!
とりあえず家に帰ろうか
それとも喫茶紅に行こうか
悩みどころだ。
やっぱり一旦帰宅しよう。考えたいこともあるし。
あらゆる時間と空間から弾かれたってどういうことなんだ?
つまりどの世界にも存在できないってことか?
それになんで僕はあの白い空間に行けるんだ?
どうしてあの少女は僕に力を貸してくれた?
どうして、どうして少女は白い空間に囚われた?
そういえば僕はあの子のことを何も知らずに力を借りていたのか?
まあいいか。
今は帰ることだけを考えよう。
数時間後僕は喫茶紅に来ていた。
「咲ちゃんコーヒーお願い」
「はい、かしこまりました!」
僕らはある一つの取り決めをした。
仕事中はベタベタしずに普段通り過ごそうと。
だから今の僕は客だ。
恋人ではない。
僕はあっちこっち忙しそうにしてる咲ちゃんの背後姿を眺める。
やっぱり可愛いなと思う。
最初は放課後やることがないからってこの店に来たわけだけれど、あの時は咲ちゃんと恋人になるなんて思ってはいなかった。
ーーーーー二ヶ月前ーーーーーー
「完全に出遅れた」
放課後になったが僕は教室で机に突っ伏していた。
何せ入学式のその次の日に風邪で学校を休んだため交友関係が難しい。
三日もすれば大抵グループが発生し、そこには部外者を弾く強力な結界が張られている。
このままここにいても無意味かな。
なんて思いながらあてもなく教室を出て、町をうろついていた。
そしてある一点で視線が止まる。
喫茶店だった。
それにしても名前がダサい。
『喫茶紅』ってなんかダサい。
なのに僕の足は自然と喫茶紅へと向かっていた。
店内は割と綺麗にしてあった。
案内された席で待っているとすぐにウェイトレスの女の子が注文を取りに来た。
バイトだろうか?
高校生くらいのとても可愛い女の子だ。
「ご注文をどうぞ」
「このコーヒーを一つ」
「かしこまりました」
少女は注文を伝えに帰っていく。
しばらくしてコーヒーが運ばれてきた。
僕がそのコーヒーをすすっていると、
「や、やめてください!」
「いいじゃねえかよ。だいたいこんなひらひらな服着てるのがいけないんだろう?」
さっきの少女がジャラジャラでいかにも不良っていう感じの男子高校生にセクハラ?というか痴漢されていた。
あのすらっとした、しかし履いているニーハイが食い込むくらいにはムッチリした白い足をエロティックに撫でていた。
少女の方は嫌がっているようだが、男の方はそれでさらに興奮している。
しかも他の客たちはその男が怖いのか誰も止めに入らない。
中には恥らっている少女の姿を写真に収めている客もいる始末。
僕としても関わりたくはない。
だって怖いもん。
でも動いた。
理由は簡単だ。
彼女が欲しいから。
そして少女が可愛いからだ!
「申し訳ありませんお客様?うちはそういったサービスはしておりませんのでそういったことは別のお店で行ってください」
小心者の僕にはこれが限界だ。
ここでかっこよく
「やめろ下郎」
とか言えたら良いんだけど、そんな勇気僕にはない。
「あ?んだテメ」
不良さんは僕を睨みつけて来る。
僕には喧嘩する勇気も強さもないけれど
「僕はここのアルバイトです」
平気で嘘をつくくらいの度胸は持ち合わせていた。
「嘘つけよ。アルバイトがなんで学校の制服着てんだよ?」
不良さんはいいところに気がつきました。
「プライベートですから」
「テメーの制服見覚えあるぜ。
確かそうだなーーーーー」
「そんなことより、とりあえず彼女に謝っていただけますか?」
途中で話題を切り替える。
これも立派な戦法だ。
「んだテメ。俺は客だぞ!いいのか客にそんな口聞いて!」
ついに自分は客=神様説を唱え出した。
もう一押し
「プライベートですから」
「だからなんだよ!」
「僕も今は客ですから。つまり対等」
「テメ喧嘩売ってんのか!?」
「他のお客様に迷惑ですので大声を出さないでください。それと彼女に謝ってください」
相手が激昂してきたのを見て僕は畳み掛ける。
最高に見下したような嗤いを浮かべ
「常識ですよ?」
大衆の前で恥をかかせた。
大抵の不良はここで
「この!調子乗ってんじゃねーぞモブが!!」
と殴りかかってくるでだろう。
実際殴る体制に入っている。
あとは僕が殴られれば全て解決。
するはずだった。
不良さんの拳は後ろから誰かに止められていた。
「うちに店で暴力沙汰なんてごめんだぞ」
白髪のおっさんがいた。
発言からして店長だろう。
「んだよ!ジジイがしゃしゃんなよ!」
「はぁ〜。どうも最近のガキは歳上を敬うこともできないようだな」
「なんで老ぼれなんか敬わなきゃいけねーんだよ!ぐぁ!!!」
不良さんは突然痛そうな声を上げる。
よく見ると不良さんを掴んでいる手に握力が込められていた。
「小僧が大人舐めんなよ?」
怖いこの店長。
さっきまでの声と違ってめちゃ低い。
まさか元ヤン?
店長が手を離すと
「お、覚えてやがれ!」
捨て台詞を吐いて出て行った。
「たく、困った野郎だ」
店長はなんか終わった感出してるけど一つ大事な事を忘れいる。
「さっきの不良さん食い逃げですよね?あれ」
教えてあげる。
すると僕の顔を見つめるおっさん
僕も見つめ返す。
数秒間の停止後
「ああああああああ!!!!!
しまったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
頭を抱えて転がった。
「咲くん通報だ今すぐ警察に通報するんだ!」
「は、はい!!」
痴漢被害にあっていた咲という少女は急いで電話をプッシュしている。
店長はなんか絶望している。
ちなみに数分後その不良さんはオヤジ狩りしているところを無銭飲食及び恐喝罪で逮捕されたらしい。
「いや〜君のおかげでなんとかなったよ」
「いえ、店長さんがいなければ今頃どうなっていたか」
「でもできれば『やめろ!』って感じで助けて欲しかったな」
僕はあの後奥の部屋に連れて行かれ、何をされるのかと思いきや、自己紹介と御礼をされた。
それからはただ雑談をした。
コーヒー代は店長がおごってくれた。
その後ある程話すと
「じゃあそろそろ帰ります」
「そうか?じゃあ咲くんももう上がっていいよ?」
「ではそうします。ちょっと待ってて」
と僕に言い残し更衣室に走っていった。
帰り道。
途中まで一緒だったのでいろいろ話しながら帰った。
「でも本当にありがとね」
「いや、もう何回も聞いたよそれ」
「本当に感謝してるもん。彼氏にしかあんなとこ触られた事ないし」
「へぇ〜」
ん?
彼氏?
「咲さんって彼氏いるの?」
「うん。中二で付き合ったの。あ、でもまだあれなことはしてないよ!?」
「聞いてない!そこまで聞いてないよ!」
「うぅ〜」
自分が何を口走ったのか気づいたらしく、赤くなった。
しかし彼氏持ちか〜。
残念だな〜。
せめて心の中で泣いた。
「じゃあ私はここで」
「うん」
「またお店来る?」
そうだな〜。
咲さんは彼氏持ちだ。
だけど
「うん行くよ。コーヒーが美味しいから」
彼女は嬉しそうな顔になり
「じゃあまたね!」
元気に別れた。
これが僕と彼女の始まり。
結局それから一週間以内に彼氏と別れたそうだ。理由は彼氏の浮気と後から聞いた話だと彼女自身他に好きな人ができたかららしい。
「お待たせしました。コーヒーです」
僕の最愛の人がコーヒーを運んできた。
まだ人がたくさんいるせいか敬語で話している。
あと二時間で彼女の今日の仕事が終わる。
さて、あと二時間コーヒーで粘ろうか。
「本当にコーヒーで二時間粘ったね」
僕らは一緒に帰宅していた。
「まあね」
「そんなことより」
とこちらを向く
怒っているのか頬が膨らんでいた
「心配した」
一昨日の事だとすぐにわかった。
「ごめん」
「許さない」
「えぇーー!」
なんと許してもらえないらしい。
「キスしてくれたら考える」
「ここで!?」
まだ道には人が多い。
「私思ったの。そういえば恋人らしい事してないよ」
「そうだけど」
「もしかしてファーストキスじゃないとダメ?」
不安そうに僕を見上げる咲ちゃん。
そんなわけがない。
例えファーストキスでなくとも咲ちゃんは咲ちゃんだ。
だから
「ん!!!」
いきなりしてみた。
最初は驚いていたがすぐに僕を受け入れてくれた。
永遠のような五秒間を終え、僕らは離れる。
「孝くんっていつもずるいよね?」
頬を染めながら講義してくる。
「・・・ごめんなさい」
「わかればよろしい。今度から不意打ちはなしね?」
「わかったよ」
そのままくだらないことを話して歩く。
今ある幸せな道を確実に。
そして彼女の家に着いてしまう。
「バイバイ。また明日」
「じゃあ」
そしてこの僕たちは別れた。
「来てくれたんだね」
白い空間で少女は言う。
「昨日の続きを話していいかな?」
「どうぞ」
僕は促す。
「昨日も言った通り、私を助けて欲しいの。」
「助けるってどうやって?」
「私がここに閉じ込められてしまった今はない過去の世界で私を止めて欲しい」
「止めるって何をしたんだ?」
「罪を犯した。それも大罪を。だから私はあらゆる世界から外れたここにいるの」
「なんで僕なんだ?」
それはあまりにも純粋な質問。
助けて欲しいのならもっと違う人でもいいはずだ。
「それはね、あなたが私の恋人に似てるら。だからあなたにお願いしたいの。勝手なのはわかるけどお願いできないかな?」
「どのくらいの期間なんだ?」
「あなたの世界の時間では多分半日くらいだと思う」
「なら約束には間に合うな」
彼女には何度も助けられた。
だから僕は
「わかった。やるよ」
「本当にいいの?私の生きていた時間線は結構危険だけど?」
「うん」
「ありがとう。じゃあ、まずは私の記憶をあなたに送るね」
そういいと少女は僕の頭に手を置く。
その瞬間目の前に幾つもの記憶が流れてきた。
「これが・・・」
「そう、私の記憶」
「こんなのってないだろ?」
「あなたも似たことを体験したでしょ?」
「まあ、そうだけど」
「ありがとう。私のために悲しんでくれて」
「絶対にこんな未来にはさせない」
僕はこの少女春野七草に宣言する。
「扉を開くからそこから出て。私では出れないけれど、あなたなら出られるはずだから」
「わかった」
僕は頷く。
そして扉が開く。
時間線を越える扉が
「行ってくる」
僕は扉をくぐった。
「気をつけてね」
背中に彼女の声を受けながら。
どうも。
初めましての方が多いと思います。
長々と読んでいただいた方ありがとうございます。
今回の作品、最初は短編にしようと思ったら予想以上に話が膨らんでしまって結局二つぐらいに分けることになりました。
次話についてはまた出来次第の更新となってしまいますが、また読んでもらえると嬉しいです。
繰り返し今回読んでいただいた方本当にありがとうございました。




