正負の心
「ああぁぁぁぁぁ!!!」
「守?どうしたの、守!?」
守の刀がどす黒い色に変わっていく。更にその刀を染める黒い何かは守にも移ろうとしていた。
ー我が力は感情の正負によって能力を変えてゆく。負の感情なら攻撃方面に特化、正の感情なら防御方面に特化、といった具合に。まあ、聞こえてないか。
「………」
守は黙り込み、そして黒く染まった刀を振った。その直後、途轍もない地響きと共に近くの山が崩れ落ちた。建物はほとんど崩壊するか残っていてもほぼ半壊状態だった。
「フェイズ2の反応があったから迎えに来たのに…」
「無茶苦茶になってんじゃねえか。」
「これも、人の心が成すのか…。」
「力に呑まれたか、守よ。」
その上空に『ノア』が転移し、ヨミ、バレット、洛、イクシズが地上に降り立つ。
「まずは、あいつの動きを止める。俺とヨミが動きを鈍らせるから、バレットと洛であいつを拘束してくれ。」
「「「了解。」」」
カグヤは守に何が起きてるのか全く理解できていなかった。しかし、
「どうしたの?守…お願い、元に戻って…!」
「うっ!ァァァァアアア…!!」
近づいてきたカグヤを守が振り払う。そして、守がカグヤを標的に刀を振り上げる。
「っ…!!」
バキュゥゥン…
突如の銃声に、守が怯んだ。その直後、再び振り下ろされた刀を洛が受け止める。
「「ハイパーグラヴィティ。」」
ヨミとイクシズの重力魔法で守の動きが抑えられる。しかし、守は力だけでそれを振り払おうとしていた。
「そんな…時空属性を力だけで…?」
「任せろ!」
その上から直接洛とバレットに抑えられる。さすがの守にももう動く術はなかった。
「さて、どうするよ?イクシズ。」
「そうだな…そこの君。」
「…私ですか?」
「そうだ、見たところ君がこの世界で守に最も親しい人間のようだ。おそらく、守を呼び戻せるのは君だけだろうからこいつの目を覚まさせてくれ。」
「あなた達は…?」
「説明は後だ。守と世界を救うためにやってくれないか?」
「…わかりました。」
カグヤが返事をすると、イクシズが魔法は継続したまま声が届かない場所まで後退する。残りの3人もそれを察して下がった。
「守?お願い、戻ってきて。私、この世界が消えるのも嫌だけど、守が守でなくなるのはもっと嫌。…だから、戻ってきてよ、守…!」
「あぐっ!ううっ…、がぁぁぁ!!」
〜
「声が…聞こえる…。誰かが呼んでる…?誰だ…?」
守は深い水底のような場所でぼんやりとした意識のまま、誰かが自分を呼ぶ声を聞いた。
「守!目を覚まして!!」
「カグヤ!?」
「戻ってきて!!」
「俺はもう心の闇に呑まれたんだ…。この影がカグヤを侵食する前に離れろ…!」
「嫌よ!絶対に嫌!!守が心の闇に囚われたなら、私が心の光をあげるわ!!」
そう言ったカグヤが守るの手に触れた。そこから今度は光が溢れ出した。
「…暖かい。カグヤの心が…優しさが、流れ込んでくる…。」
「…恥ずかしいから率直な感想はやめて…。」
「…ありがとう、カグヤ。」
「あなたが道を踏み外すならいつでも、私が連れ戻すからね、守。」
〜
カグヤが守に触れてからしばらくして守を染め上げていた影は徐々に消えていった。