アンセム
空を見上げてももうノアは見えなかった。時間の感覚はわからんが今は昼だよな?とりあえず寝れる場所を探そう。けど、どっちに行けば良いんだろう?行き先も決まらずとりあえず適当な方向に進んでいるうちにすっかり日も落ちてしまった。
「街どころか、人も見つからない…。腹減ったなあ…。」
夜に動き回るのは危険らしいと昔テレビでやってた気がする。もう今日はその辺で寝るか。
〜
「…旦那様。」
「なんだね?」
「あそこ、人が倒れてます。どうなさいますか?」
「…うむ、このまま捨て置くのも後味が悪い。カグヤ、あの者を回収してくれ。」
「はい、旦那様。」
〜
「…ん。」
「目が覚めましたか、今旦那様を呼んできますね。」
「ここはどこだ?腹が減ったな…」
場所の確認をするためあたりを見てみる。しかし、何処かの屋敷のような所だということ以外わからなかった。しばらくすると、1人の男性が部屋に入ってきた。
「目が覚めたかね。私はアンセム=スイルヴェーンだ。この辺りの領主をやっている。」
「俺の名は、無神守。」
「君は苗字を持っているのか。ということは何処かの貴族かな?」
しまった。この世界では苗字は高貴なものなのか。
「………」
「訳ありのようだね。まあいい、ひとまず食事にしよう。君も食べるだろう?」
アンセムに連れられていかにも金持ちが飯を食べてそうな部屋に案内される。そして促されるまま、一緒に食事をしている最中、
「答えられる範囲でいい。私の質問に答えてくれるかな?」
「はい。」
「君は人間かい?」
「はい。」
「どこからきた?」
これは答えても信用されないだろ。黙秘が賢明かな。
「ふむ、ではこの世界について何を知ってる?」
「…わかりません。」
「なるほど、もしかして君は記憶を失っているのかもしれないな。」
なるほど、周りから見ればこの状況はそう見えるのか。よし、そういうことにしておこう。
「もう一つ質問だ。君は腕は立つ方かね?」
「…多分。」
「よろしい、ならばこれは質問ではなく提案だ。しばらく私の護衛をやってくれないか?もちろん、衣食住は保証しよう。」
「誰かに狙われているんですか?」
「私もまた貴族の端くれなのでね。腕の立つ護衛の1人や2人がいないと安心出来んのだよ。」
「…わかりました、引き受けます。」
「では、よろしく頼むよ。では食事の後私のところまで来てくれ。」
とアンセムは微笑んだ。
まさか米があるとは思わなかった。味は俺たちの世界とほとんど変わらなかったなあ。
食事を終えた頃、アンセムが部屋を出て行ったので見失う前についていく。アンセムも守がついていくのを確認し、屋敷の地下へと歩いていった。そして、ある部屋に入るとそこには俺が起きた時にそばにいた女性が立っていた。
「彼女はうちの使用人、名前はカグヤだ。まずは君の力を測らせてもらう。彼女と戦ってくれ。」
「…え?ちょっとまっ…」
と、こちらの反応も待たずに
「心配するな。彼女も十分強い。」
カグヤは壁にかけてあるナイフを掴み襲いかかってくる。でも、見える。体が動く。カグヤの攻撃にちゃんと反応した守はカグヤのナイフを持っている方の手首を掴みそのまま組み伏せた。
「…危ないな。いきなり襲ってくるなよ。」
「素晴らしい!これなら何の申し分もない。合格だ。ではカグヤ、後は頼んだよ。」
「はい。」
と満足そうにアンセムは部屋を出た。
「先ほど旦那様よりご紹介に預かりました、カグヤと申します。さっきは突然襲いかかりすみませんでした。」
「構わないよ、気にしないし。」
「では、まず服装ですね。その袖のあるローブのような服は見たことがありません。どこの服装なのですか?」
「それは言えない。」
「ではこの服に着替えてください。しばらくの間こちらの地域の服装で生活してもらいます。」
渡された服に着替えてみるが、なんというか…結構ラフな格好だな。といっても基本的にはほとんど変わらないな。
「では、これからはこの世界について学んでいただきます。」
イクシズが最初に言ってた方法と大分違うけど、これでもまあ生きていけるしいいよな?