緋色の刃
「詳しく聞いてもいいか?」
彼はしばらく考えた後、ゆっくりと語り出した。
「俺はこの近くの武士に仕える領主の1人だった。素敵な嫁をもらい、子宝にも恵まれ順風満帆とはいかずもそれなりに幸せな日々だった。…だがある日家に強盗がはいり、娘が攫われた。俺がその強盗が我が領主と繋がっていたと知った時、妻は領主に抗議しにいった。その日の晩、妻は帰らぬ姿で発見された。」
重い空気が流れる。
「俺は失意の淵に沈んだ。領主や強盗を怨みもした。そんな中、俺の復讐を手伝ってくれると言った商人が現れた。奴は特別なものだと俺に一振りの刀をよこした。そして、その刀を抜いた後の記憶がないんだ…。」
「噂が流れ始めた時期から考えるとおおよそ一月前の出来事か。」
「イクシズ、どうするんだ?」
「皆はどうしたい?」
守の質問にイクシズが聞き返す。すると、普段寡黙な洛が真っ先に答えた。
「…許せるわけがないだろう。俺は1人でもそいつの怨みを晴らしにゆく。」
静かに話すその言葉の端々に恐ろしい程の怒気が潜んでいた。
「俺も手伝ってやりたい。こんなものは理不尽だ。それに、そこをこっちの領地にしてしまえばこちらの掟が適用される。それで正当な理由もつくだろ?」
イクシズはそれを聞き、少し笑みを浮かべると
「そうだな。俺たちはこれより隣の国に戦を仕掛ける。民に知らせろ。準備が完了し次第出るぞ!」
「かたじけない…。」
「気にするな、亡霊殿?」
イクシズが冗談で場を濁す。しかし、彼に冗談は通じなかったようで
「…上之守 芳正だ。」
芳正が目覚めてから一週間程で戦の準備が整った。すでに宣戦布告はすませている。
「…さあ、出陣だ!!」
イクシズの掛け声とともに少数とはいえ立派な軍隊が進む。イクシズの作戦はこうだった。
「…一般兵は両翼を支えてもらう。サポートにカグヤ、ヨミ。中央はお前ら3人で突破しろ。特に芳正、これはお前のための戦だ。期待してるぞ。」
しばらくすると敵が見え始めた。装備ごとに何層かに分かれている。一番手前は槍兵、その後ろに恐らくは西洋の鎧を着込んだ重曹兵、一番奥に弓を構えた兵だった。
「…守、弓は任せる。」
「え?ちょっ…」
反応する間もなく大量の弓が飛んでくる。幸い戦場は敵意の宝庫だ。
「呑まれない程度に……俺の声に答えろ!『思伝』!!」
守の右腕を思伝から侵食してきた影が覆う。そのまま刀を振り、空中の矢を撃ち落としていく。
その直後、洛が真っ直ぐ突っ込んで行く。
「…ふん、刀で槍のリーチをどうこうできるわけがないだろう!!」
槍兵たちが槍を構える。洛は刀に手をかけ、抜き放った。
「…斬り裂け、『緋刃』」
洛の刀が風を纏ったように見えた。
「……閃!」
洛が刀を振り抜いた直後、槍が次々に切り落とされていく。
「まさか…斬撃が飛んだというのか…!?」
その後、芳正と洛によって槍兵が次々に切られていくが、次に大量の鎧が立ちはだかった。
「我等に刀は効かん!!」
「…そうかよ。……『緋刃 絶』!!」
洛が居合の構えを見せる。
ザシュッ!
次の瞬間、守と芳正が見たのは鎧から血が吹き出すところ
だった。守にすら、刀を抜いた瞬間が見えない神速の居合。
「今のは…?」
「…俺の刀『緋刃』の第3段階だ。能力は任意の指定座標の斬撃。どんな壁も、盾も、鎧も関係ない。不可避の一撃だ。」
1人で戦場が片付いてしまう。第3段階はそれだけ圧倒的なものだった。その直後、イクシズが叫ぶ。
「道は開いた!行け、芳正!!」
芳正はハッとし、敵本陣へと駆けて行った。守もその後を追って行く。敵の大将はすでに城に籠城した後だった。そして、天守閣最上階に大将はいた。
「俺が道を開ける。芳正は迷わず進め。」
「ありがとう。」
守が先頭に立ち、向かってくる敵を次々に斬り払う。
最上階間際、後ろから突然現れた敵がいた。敵が芳正に斬りかかる。守も反応するが間に合うタイミングではない…はずだった。
「や…めろぉおぉ!!」
ガキンッ
敵が振り下ろす斬撃が突如現れる光の膜に弾かれる。守はその隙に敵を斬った。
「……!芳正、早く行け!!」
「…お、おう!」
なんだったんだ、今のは…。守は呆然と立ち
尽くした。




