新たな世界
「なあ、イクシズ。次の世界ってどんなとこなんだ?」
「 お前のいた世界と同じもの、なんだが…面白いことに和風の文化が世界的に根付いている世界だ。」
「つまり、昔の日本みたいな感じか?」
「ああ、時代で言うと安土桃山時代、いわゆる戦国時代だ。…さあ、着いたぞ。」
守達の眼下には歴史の教科書でしか見たことのないような光景が広がっていた。
「…よし、まずは俺と洛、守が降りる。ここでの基盤が安定し出したら順次、ヨミも降りてきてくれ。」
「…あれ?バレットとリブラは?」
「この世界に科学はまだ存在しない。出来る限り歴史を無理に進めてはいけないんだ。」
そうか、リブラは科学者と言ってたし、バレットは銃を使うもんな。
「理解したようだな。まずは、この世界に適した服装をしよう。洛。」
「…ああ、これだ。」
と言って洛がよこしたのは、和服だった。着替え終わった3人が降り立ったのは、とある農村だった。
「今回は刀は腰に差しておけよ。俺たちは武家ということで話を通すからな。」
洛がこの世界の住人に会うたびに何か話している。
「…イクシズは最近成り上がり、帝にこの辺りの領地を与えられた大名、俺たちはその家臣ということにしておいた。」
「後は城だな。」
農民の協力もあり、それから半年程で城が完成した。その日の晩、イクシズは協力してくれた農民たちを招いて宴を開いていた。
「…どうしたんだよ、この食い物は。」
「ノアから持っておりてきた。流石にこの量は現地では一気に調達出来ないしな。それと、食い物を取りにいくついでに残り2人も連れてきた。」
イクシズが目だけで指した先に、和服を着たカグヤとヨミがいた。
「さてと。聞け、この城の完成に協力してくれた者たちとその家族よ!今日からこの地は俺が預からせてもらう。けど、俺は基本的には君たちの生活には干渉しない。たった一つだけの掟を除いて。『必要以上の殺生、余計な略奪の一切を禁ず。』これだけは絶対に守れ。守れぬ者はそこの2人がぶった斬る。」
その間、困惑し、どよめいていた農民たちだったが納得したのかそのどよめきはいつの間にか歓声に変わっていた。
それからは特に誰かが掟を破ることもなく、平和な時間が流れた。しかし、そんな時間は長くは続かなかった。
「領主様!領主様!」
「どうしたんだ?」
「領地の西の方の子供たちが向こうの領地との間の山賊にみんな連れて行かれちまった!!」
「…そうか。」
「領主様…」
「君たちは戦の準備を。…それから洛と守を呼んでくれ。」
「…何事だ?」
「さっき西の方の連中が走って行ったけど…」
「ちょうどよかった。2人にミッションだ。子供たちを救い出してくれ。山賊共には容赦するな。」
「…いいのか?」
「奴らは領内で掟を破った。他所者だし、見せしめにはちょうどいい。」
「自重しろよ、悪役みたいだぞ。」
城を出ると、数十人の武装した農民が待っていた。
「早く行きましょうや、洛様、守様!」
「…そうだな。では急ぐとしよう。」
洛の提案で機動力のある馬に乗って追いかける第一陣とあとから走って追いかける第二陣に分けることになった、…のだが。
「なんで、俺らは馬に乗らずに第一陣なんだよ…」
「…案ずることはない。俺たちの身体能力なら問題はない。」
「はぁ…」
「…それと、今回は守は手を出すな。俺の力を見せておくことにする。…というより、心構えだな。」
「どういうことだ?」
「お主、人を斬ったことないだろう?」
「っ!」
十足らずの馬と洛、守の先に山賊たちが見えた。その直後、守と洛がさらに加速した。
「…よく見ておけ。目を逸らすな、人殺しから。」
洛が刀を抜くと同時に一太刀で、1人目の首をはねた。
「なんだ!?なにが起きてるんだ!!?」
「まさか、追いついたというのか、しかも走って?」
逃げていた山賊の半分が振り返り、反撃を試みた。しかし、次々に洛に真っ二つにされていく。
「これって、俺たちが来る意味あったかなぁ?」
農民たちは子供達の救出を優先し残りの半分を追いかけた。
「…刀同士の戦いにおいて一撃はとても重い。反撃を許す前に決め切れ。迷うな、躊躇うな。それが命を奪うという行為だ。」
喋り終わる頃には残った山賊に生存者はいなかった。それからしばらくして第二陣が到着し、問題なく子供達は救出された。




