対話
この日、無神 守は生まれて初めてバイトをバックれた。理由は自分がいてもいなくても変わらないと思ったからだった。
ーいつからこんな風になったんだろう?俺の生きる意味とは?
そんなことばかり考える毎日だった。
明日の講義にも出る気になれずそのまま、明日は一日ぼーっとしていよう、そう考えながら歩いていた帰り道、事件に巻き込まれた。目の前に見るからに不審な男が現れ、次の瞬間には守は刺されていた。ニュースでやっていた通り魔だった。まぁ、ほとんどの人が同じ感想を抱くんだろうが、彼も同様で最初は何が起こったかわからなかった。そのあと、自分の腹部あたりから力が抜けていく感覚に襲われた。通り魔はもう、逃げてしまったようだ。
薄れゆく意識の中、彼はある声を聴いた。
「ー通り魔が憎いか?」
こんな時に何を、と彼は思ったが、どうせもう自分には話す以外にできることがないので答えることにした。
「…いや、そんなに,憎くは…ない。」
「ーふむ。ではこれから死にゆく君はこの世界に何を思う?」
「…少し、悲しいかな…。」
「ー何がだ?」
「…俺が、最後…まで…いても、いなくても…何も…変わらなかったこと…だ…。」
ここで彼の意識は途絶えた。
目を覚ますと、彼はどこかのベッドの上だった。周りを見まわすと、さまざまな医療機器がある。しかし、不可解なのは、それらは全く見慣れないものだったことだ。
「あの世にしては、ずいぶん現実的だな…。」
と皮肉を漏らしていると、部屋に一人の男が入ってきた。
「目が覚めたか。」
「あんたは誰だ?」
その男を観察してみる。身長は俺と変わらないか、少し高いくらいか。で、深々と帽子をかぶっている。歳は20かそこらくらいか。俺とあまり差はなさそうだな。
「俺か?俺は、そうだな…、イクシズと名乗っておこう。」
「…そうか。で、俺は刺されたんじゃないのか?何で生きてる?」
「治せる奴が治したんだ。」
「…そりゃそうか。ならなんで俺を助けた?」
その男は普通に質問を重ねてくる守の態度に若干驚いたような素振りを見せたあと、
「やけに落ち着いているな、死にかけのお前の答えが興味深かったからだ。」
と答えた。
「俺に何をさせたいんだ?」
「…ある者達の復讐の手伝いを頼みたい。」
「…復讐?誰にだ?」
「特定の誰かじゃない、世界に対して…だ。」
守はますます混乱した。彼が返答に困って黙っていると、男は更に続けた。
「…今は俺たちについてこい。復讐に手を貸すにしろ、貸さないにしろ、いつか自分の存在意義がわかる時が来る。」
「………わかった。ついていこう。」
「よし、ではまず君に力を与えよう。なにせ理由はどうであれ、世界を相手取るのだ。力は持っていて損はない。こっちだ。」
イクシズが部屋を出るのについて行き、床、壁、天井全てが鋼鉄でできていると思われる廊下を歩いて、階段を下る。おそらくこの建物の最深部と思われる所にその部屋はあった。
「ここだ。」
とイクシズはその部屋に入り、守が続いて部屋に入るとそこには、地面のいたるところに刀が突き刺さった空間があった。
「好きな刀を抜け、それがお前の力になる。」
「今のご時世に刀?」
「まあ、抜いてみろって。」
言われた通りに近くにあった刀を一振り抜いてみる。次の瞬間、守は真っ白な光に包まれた。
「…っ、ここは?」
ーお前の世界だ。
頭の中に声が響く。
「だ、だれだ!?」
ー俺はお前だ、守。
「どういうことだ?」
ー俺はお前の力だ。さっき刀を抜いただろう?あの刀は抜いた者の最も深層にある、思い、感情を能力に変える。俺はその象徴として具現化された存在だ。
「なるほど、この際他の疑問はすっ飛ばそう。で、俺に力をくれるのか?」
ー力を与えてもいいが、一つ聞かねばならんことがある。お前はなぜ力を欲する?戦いの果てに何を望む?
「…俺は、他の奴らのように復讐がしたいわけじゃない。ただ、戦いの果てに俺は…俺は、この世界に何が出来るのか、何を残せるのか知りたい。…見届けたいんだ。」
ーならば力を授けよう。我が名は『思伝』。人の想いを受け止め、繋ぐ力だ。
その言葉を最後に意識を現実に引き戻された。
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