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ちょっとした変化

摩果との絡みって薄かったなあと思ってたので…

 猫はこたつで丸くなると言うが、実際こたつの上で丸くなる猫というのもあまり見ない。

 こたつの中に入って丸くなる猫もあれば、こたつに下半身だけ突っ込みさも人間のように寝そべっている猫もいる。暖かそうな毛並みを持っていそうだが、実際寒いのだろう……。秀久の飼い猫であるスズもこたつの中に入って丸くなる。が、暑いと舌を出してこたつから顔を出す。そこもまた猫の魅力なんだと秀久は言う。

 猫もこたつに入る寒さが続く新年、神社へ初詣に参る人々は止まない。

 今日、明日あたりがピークなのだろうが、『桃白神社』は相変わらずの多さだ。勿論一番忙しいのは神社の巫女であり、絵馬やおみくじ購入が多いため休む暇が無いとか……。

 次から次へと参拝する人々を、暗めの緑色の瞳が上下に交互する。興味深いというよりは怯えているに近いかもしれない。麻色髪の少女、宮擦摩果は鳥居を見上げてため息をつく。


(……もう帰れないよね……)


 昨日を断ってしまい妙な安心があったのだが、まさか今日も誘われるとは思っていなかった。摩果のため息は深くなるが、問題はこの振り袖だ。薄い黄色の色に花びらのアクセント、帯も凝ってあり華やかさがある。しかしそれが逆に彼女の存在を引き出しているため困るのだ。

 更には、親友の手引きで、三つ編みだった髪を解かれ、眼鏡も外されコンタクトという徹底的に改造を施されている。


(……こんなの、私には似合わないのに)

「よ、摩果」

「ひゃああ!?」


 不意にかかった声で軽く飛び上がる。何とか着地し、声をかけた主は困ったように笑っていた。

 チャームポイント?の赤いマフラーに青いジャケットの下には黒いVネック、ベージュに近い白のボトムを銀色のベルトを締めている。茶色い髪はボリュームはあるが襟足や揉みあげは短く爽やかなイメージが。赤い瞳が爛々と輝いているが、『不憫なオーラ』が漂っている。


「悪い……驚かせちまったか?」

「だ、大丈夫」

「……お前、尻尾」

「あ」


 言われてようやく尻尾が出ていることに気づく。まだ力の制御が不安定なため、出てしまっていたのだ。眼鏡を取られた時点で気づくべきだったが振り袖の存在で忘れていたのだ。しかし、秀久はニッと笑い摩果の頭を撫でた。


「きゅぅっ……」

「自身持てよ。今の時代、耳や尻尾なんて当たり前だぜ?」

「あう、でも尻尾だけなんて不自然だし……」

「そうか?可愛いじゃねーか、俺は好きだな、振り袖も似合ってるしな」

「……っ」


 どうしてこうもズバズバ言えるのだろう。そして、どうして彼の言葉を受け自身が出て来るのだろう?爽やかな笑顔?意外と甘いテイストの言葉?……彼だから……?

 静かに高鳴る心臓の音が煩く、摩果は知らず知らずと口の端を上げていた。秀久はそれを見ていたが、静かに笑う。


「それに、動物の尻尾って人気あるんだぜ?お前の尻尾、ふわふわだしなっ」

「んっ……」


 尻尾を優しく掴まれ、摩果は慌てて口を塞ぐが甘い吐息がこぼれ落ちていた。敏感な尻尾を触られ、体に電撃が走ったような感覚を感じる。イタチの尻尾が左右に振られ、自然と秀久の手にこすりつけている。あれ?と秀久は反対の腕で頬をかく。


「大丈夫か?」「ん……、大丈、夫……ーーっ!」


 頬が熱い。

 心配をしていた秀久は思わず力が入り、激しい波が摩果を襲う。かくっと膝から崩れ落ち、秀久が慌てて支えるが息継ぎも絶え絶えだ。


「おい、大丈夫なのか摩果?」

「……うん、……で、でも、ちょっと休憩さ、せて……」

「分かったぜ……無理はすんなよ?」


 自分の意思を伝えられた。摩果は小さく微笑むと、肩で呼吸しつつ眼鏡からで無く、自分の瞳から見える秀久を見上げた。



「摩果は何お願いしたんだ?」

「そういうのは秘密だよ?」

「あ……そうだな、ははっ」


 くすっと微笑む摩果。昨日願っていたことをそのまましただけだが、実際参るとかなり違って感じる。秀久の隣を歩きながら、記念に買った絵馬を抱きしめている。


「来年はみんなで行こうぜ摩果」

「……うん」


 鳥居をくぐり、参拝までした。今まで無かったことが今日だけで出来てしまった。

 それは、秀久含め部と関わったことが大きいのだろう。そうだ、……次はみんなで……、摩果の顔からは不安が消え笑顔が出来ていた。参拝する人は多いが、緊張感が自然と消えていた。

 摩果は秀久の手を握りしめ、恥ずかしそうに俯く。周りからどう見えるのだろう?少し期待が高まる一方で不安もある。


(でも、……私がこんなに近づいたのは――)


「あなたのせいだよ」

「ん?」

「……何でもない。でも、ありがとう秀久君」

「ああっ!そうだ、摩果も行こうぜ!」


 行く?突然出たワードに首を傾げる。


「今度、生徒会の奴らと餅つき勝負するんだよ。人数に制限もないし摩果も行かねえか?」

「……」


 ――うん。

 今度は逃げない。摩果はお日様にも負けない笑顔を見せた。

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