お助け部の新年
あけましておめでとうございます!新年一発目から短編です←
去年は昔、新しい年が始まり今が始まる。それぞれ違えど、大晦日を過ごし新年を迎えた彼ら。何を抱負に掲げ、新年を過ごして行こうか……。彼らはこうして新しい年を送って行く。
今までの出会いを通し、一回りも二回りも成長していった『上狼秀久』。彼も新しい年が幕を明けていく。
「……はあ、はあ……ここまで来たら」
「――と思ってるでしょ?」
「!?」
息を途切れ途切れに吐きながら、金髪の不良生徒が声がした方へ振り向く。屋上に設置されている物置から色とりどりの煙りが舞い上がる。青い煙、緑色の煙が濃くなりそこから二人の生徒が立っていた。
一人はお助け部セミロング部員『圭太』、一人はお助け部カオス部分『七海』だ。七海に至ってはマントをつけて仮面をしている派手さ。不良生徒は回り込まれていたのかと舌打ちをする。
「ちょっと待って!?セミロング部員って何!?せめてセミロングの貴公子とか「黙ってろー変態ー」ぐふ!?」
七海の罵倒で膝をつく圭太。
チャンス!不良生徒はパイプを七海に向かって投げつけ――
「ぎゃああっ!!」
見事に自分の頭に直撃し、間抜けな悲鳴を上げる。七海は仮面の下でニヤニヤと笑いながら、圭太を蹴飛ばして物置から落としてしまう。
「ちょっ、七海ちゃ……ぁあああ!?」
「な、何だこいつら……」
「大人しく捕まって退学しやがれです」
「待て待て!?オーバーすぎんぞてめえ!」
新年を迎えても相変わらず黒い七海だ。不良生徒はツッコミつつも慌てて逃げようと屋上の扉を開こうとする。が、開いたと思えば桃色の煙が噴出し、不良生徒は再び屋上に戻される。しかも吹っ飛びでだ。
「な、何だ何だぁ!?」
「あの……大丈夫ですか?」
煙が晴れ、心配そうに見ている生徒が現れる。髪は長く、銅の色という珍しい光りを放っている。しかし地味な雰囲気は無く、赤い瞳が彼女の可愛さを引き出していた。身長もそこそこ高く、白い肌に出る所は出て、きゅっとくびれている。
「……!!!」
不良生徒のハートが一発で貫かれた。仕方あるまい。副部長『みなも』は学園で勝手に企画されたランキング一位という可愛さと美貌を持っているのだから。
新年が明けてもそれは相変わらずで、みなも自身はランキングの存在を知らない上に天然もあり、首を傾げているらしい。しかしそこがまた好意を向けられる原因でもあるが……。
「あ、みなも先輩!」
「副部長……、他の依頼は」
「うん、終わったよ」
流石だ、あの馬鹿部長が霞む程に。
が、不良生徒は確信していた。あの笑顔で手を振っている生徒は大概が怖がりだ。ならば……。
「へ、へへ……、あんたが副部長か、存分に可愛がって「まず一発!」へぶほん!?」
「「…………」」
あの七海まで苦笑い。
不良生徒は地面に何度も激突しながらフェンスにめり込む。
みなもは足を下げ、金色の髪が揺れる。先ほどまでの優しく温和な雰囲気は保っているが、赤い吊り目がギラギラと輝いている。
「わわ!やりすぎちゃった!」
目に涙を浮かべ、困惑をしているタイミングで物置が開く。赤い煙が舞い上がり、本人は咽せながらふらふらとみなもへ向かって行く。
「げほげほっ……あー、煙強すぎ……あれ?」
「「遅いっ!!」」
部長『上狼秀久』は不良よりも多く地面にバウンドしてフェンスへめり込んだ。
新年も彼の道筋は決まっていたようだ…………。
一悶着があったが『お助け部』を設立してから、初めての初詣に訪れた部員。先に着ていた男子達は、私服だ。『桃白神社』は毎年のように参拝する人で溢れているが、男性で袴姿は珍しい……。
これも時代というやつだ……。
階段付近を集合場所にし、秀久と圭太が狛犬の近くに立っていた。
「部長……光一さん達は呼ばなくて良かったんですか?」
「あいつらもグループつーか一塊で行くんだとさ。まー、せっかくなら部員で行っときたいしさ」
「なるほど……」
「言っとくが、セミロングを見つけてもはしゃぐなよ?」
頭に包帯を巻き、黒いライダージャケットに赤いマフラーを巻いている秀久は、ブーツで圭太を軽く小突く。フード付きパーカーにベージュのボトムを着ている圭太は苦笑い。信用がならない……。
「お待たせ~」
タイミング良く、女性陣が到着し、秀久達は彼女達を見る。
「じろじろ見ないで下さい、死にたいんですか?」
「お前……相変わらず酷いな!?」
緑色の生地に花柄をあしらった振り袖姿の七海は秀久をジト目で見る。髪型は団子状にし、可愛らしく仕上がっている。が、相変わらずの毒舌に二人は苦笑するしかない。
「わきゅ~、皆さんと一緒に初詣なんて素敵ですの~♪」
「あはは、白姫ちゃん楽しそうだね」
「七海も白姫くらい素直だったら……いててて!?頭叩くなぁあ!」
可愛い担当の『白姫』は水色の振り袖にデザインを派手にあしらっている。それが彼女の無邪気さ、素直さを引き出し周りから『ああ~』と癒やされたように声が上がっている。一年下という意味では、圭太、七海と来て唯一の常識人だろう。
「ん?あと一人……」
『『おおおお!?』』
歓声や黄色い声が上がる。
桃色と白を組み合わせた花柄の振り袖、花のついた簪にほんのり赤い唇。いつものサイドテールをまとめ、金色の輝きを放つ長い髪。いつもよりも光っている垂れ気味なルビーの目、朱を散らした頬、みなもは恥ずかしそうに秀久を見る。
「ど、どうかな……ヒーくん」
「え……、えと、に、似合ってるぜ!」
「本当?」
「ああ」
「良かったぁ~♪」
みなもは秀久に抱きつき、相変わらず真っ赤になる秀久。が、すぐに離れていた姿は無く、みなもの頬ずりに耐えている。そのおかげで周りの男性からは妬みや怒りを買うことになったが……。
「いーなー」
「部長……羨まシネ」
「わきゅ~♪」
しかし秀久を妬みたくなる気持ちは仕方ないのだ。みなもの振り袖は体のラインがより鮮明になっている。抱きつかれている秀久はそれに気づき、何を思ったのかみなもの桃尻を軽く撫でた。
「ぴゃ!?ひ、ヒーくん?!」
「うわ!わ、悪い!」
「……そ、そういうことはあの、……二人きりの時に(ぷしゅー」
「へ!?」
これは新年からぶっ飛んでいないか?まさかのOKサインに秀久の緊張が高ま――
『『ハッピーニューダイ』』
――っていた。
ちなみに、みんなは何をお願いしたのかと言うと――
(みんなが無事に、一年間過ごせますように……)←みなも
(セミロング女子と出会えますように)←圭太
( )←七海
(楽しい日々が続きますように)←白姫
(父さんに追いつけますように……あと平和平和平和平和平和平和平和平和)←秀久
欲望がただ漏れな二人だった。
「みんなはどうだった?私は大吉だよ♪」←みなも
「わきゅ!中吉ですの♪」
「末吉ー」←七海
「凶」←圭太
「大凶……」←秀久
この後秀久の頭に絵馬が直撃した。
「絵馬かけるぞ、みんな出来たか?」
「部長、副部長が……」
(うう……ここの絵馬、恋愛成就があるみたいだけど……飾られるとなると恥ずかしいし……、でも、飾らないと意味が無いよぉ……。絵馬もヒーくんがお金出してくれたし無駄に出来ない、でも書いちゃったから飾らないと……あうあうー)
「み、みなもー?」
初詣を終え、秀久の家に集まった部員のみんな。みなもの作ったお雑煮やおせち料理を完食し、こたつで温まっている。七海はこたつから顔を出し、白姫は丸くなり、圭太はテーブルに突っ伏している。暖房も効いて少しのぼせるくらいだ。ソファーに座って作業をするみなもと隣でスズをクッションに乗せる秀久。スズは丸くなると寝てしまった。
「みんな、寝てるのか」
「暖房が効いちゃったのかな……」
静かな空間が広がる。
「みなも……あのさ……」
「いいよ?」
「……っ……」
ただ場所が場所だけに……。みなもはメモを書き残してこたつの上に置く。
『買い出しに出掛けて来ます。後片付けは不要です』
「これで大丈夫ですね……ぴゃっ!」
「じゃ……行くか」
みなもを姫抱きし、階段を静かに上って行く秀久。二人の姿は二階へと消えて行った。
ご想像にお任せします。