特別な日
今日は彼の……
12月……、それは俺にとっては憂鬱な月だ。特に今日は余計に……二十五日は俺の誕生日。だけど、……率直に迎えたい気分が出ない。例えるなら……何時まで立っても固い餅だ。
しんしんと降り積もる雪を眺める。空からゆっくりと舞い落ちる雪はとても遅く見えてしまう。頭がボーっとしているのか、本当にそう見えているのかは定かじゃない。
俺はそっと部室を見渡し、ため息をつく。寒くなって来てから暖房をつけていたが、七海が突然として持って来た暖炉があり、今はそれを使っている。パチパチと燃える炎が目に眩しい。何時もなら七海が空乃の膝で丸くなっているが、今日は居ない。 俺のデスクの右斜めにあるシールだらけのデスクには圭太が何時ものように書類を書いている。だけど、今日は見ない。すっと少し離れた場所にあるキッチンに目を移す。何時もお茶を淹れる副部長のみなもも居ない。
暖炉の近くの椅子には、たまに訪れて本を読む摩果……、圭太の向かい側のデスクで俺の手伝いをしてくれている白姫、何故か俺の隣のデスクで作業をする生徒会長のレイナ、入り口には差し入れを持って来てくれる光一……。
最初は……、ただの部屋だった。何も無くデスクだけの部屋……。俺が、満たす為だけに確保した教室だった……。だから、あの頃は今みたいなことが想像出来なくて、気づけば賑やかな部室に変わっていた。
そう……、だからこそか一人で居る部室はとても静かだ。目を閉じ、何時もの風景が見えて来る。
『七海!お前また俺のネクタイ隠したな!?』
『ネクタイ?うーん、(^O^)?』
『殴らせろおお!!』
『部長!落ち着いてーー!』
『今日、製菓部の人からケーキを貰ったので食べませんか?』
『よし食べよう、ほら、依頼は一時休憩だ!』
『流石部長、甘いものに目が無いですね』
『流石甘甘人間。砂糖率90%ですね』
『あ、はは……お茶入れますね。圭太君と七海ちゃんは紅茶、秀久さんは……』
『ん?ああ、ミルクティ『ふ……』コーヒーブラック!!!』
『摩果、今日は読書か?』
『……!あ、ううん。ち、ちょっと顔見たくなって遊びに来たの……』
『そうかっ、みんな喜ぶしくつろいでいけよ』
『う、うん……あの秀久君多分だけど……ご、誤解して』
『てめ、七海ーー!!!』
『はぁ……』
『わきゅっ……秀久先輩、報告書終わりましたですの』
『おう、サンキューな白姫。圭太はどうだ?』
『セミロング……セミロング、よし35人目』
『――という感じで校内にいるセミロング女子を数えてますの』
『はあ……』
『はぁ、生徒会長分の仕事終わって暇だよーー』
『はや!?ん……待て待て!支援金額少なくないか!?』
『あ……0が一つ無いね……』
『おい……まさか』
『ごめんね……判子押しちゃった』『 』
『秀久、差し入れ持って来たぞ』
『悪いな、いつもいつも』
『そう思うなら、お前の冷蔵庫何とかならないのかよ?』
『七海がいる以上、冷蔵庫はいつもスッカラカンだぜ?』
『……仕方ないな』
『……悪い』
……なのに……
「いや、別に祝って欲しいわけじゃねーだんけどよ。ちょっとくらい」
やめよう。馬鹿馬鹿しい。
変な期待を捨て、俺は黙々と作業を進める。今までの依頼者の内容、及び次の予算の確保。苦手な書類も最近は慣れて来た気がする……。
タブレット端末を操作し、宙に浮かぶディスプレイを指で押す。
「……」
クリスマスにこんなことしてるのって……多分俺だけだよな。
何だか阿保らしくなって来て、ため息をついてるとガラッと扉が開く。視線を動かして見れば、スーツ姿に眼鏡の教師が困ったように見ていた。
「下校時刻だよ、君。夜外依頼の書類も無いし早く帰りなさい」
「へーい」
言われて時刻が夕方を回っていたことに気づいた。外はすっかり暗く、この季節じゃ当たり前か……。
さっさと後始末を終えて、俺は部室から出て行く。廊下は寒く、確かに教師もあまり残りたくないのが納得だ。きっとあの先生も、今日は予定が入っていたんだろうな……。ただ仕事をしているだけの俺が迷惑をかけていたんだろう。僅かながらに怒気を感じたぜ……。
鍵を閉め、階段を下って玄関へと降りていく。廊下の明かりは消され、月の光が照らす。……誰も居ない……、静かな景色だ。
「……はあ……」
何だか、……馬鹿馬鹿しくなって来る。毎年毎年、街のイルミネーションを見る度に寂しい気持ちがある。
それは昔から……、そう今も変わらないのかも知れない。
「ん?」
玄関から出て、あまり積もってない雪道を歩いて行く。校門付近に、人影が見えた。多分、事務員だろう。ザクザクと校門を通り過ぎた時、マフラーが勢い良く引かれた。
「ぐえ?!……な、何だよ!」
「無視するなんて酷くない?」
「……レイナ?」
月に雪……、そして夜。この組み合わせが映えるのは彼女以外いない。ある意味、雪の季節にピッタリなウィンターガールだなっ。
「いでででっ!!、冗談だって!」
「もう。あまりにも遅いから、みなも達も帰っちゃったよ?」
「あいつらいたのか?」
「うん。流石に風邪引いたらいけないし、……秀久遅すぎ」
……てことは、何だ、俺を待ってくれてたのか?レイナは寒さに強いけど、何時間待たせたのだろう……。
「悪い。……何か何時もの癖が出てさ」
「癖?」
「ああ」
レイナが俺の隣に並び、学校から離れて行く。近くに並んでいる木々は雪を被っていて、ずり落ちていた。
「俺さ、昔から……この日だけは何時も帰りが遅いんだ」
「……」
「……家に帰っても、誰も居ない。別に一人で何か買って遊んでもいいけど……虚しいだけでさ」
「秀久……」
ザクザクと雪を踏む度に音が鳴る。静かだ。街のイルミネーションが遠くからだと何時もよりすげえ綺麗だ。
「だから、気づいたら遅くまで残ってた。……学校だとクラスの奴らと遊べるしな。でも、……クリスマスだから長くはなかった」
「……みんな、この日が楽しみだからね。みんなでケーキを食べたり、パーティーを開いたり」
「ああ……」
不意にレイナが手を握って来る。冷たくて……でも心地がいい。そんな手だ。
「それじゃあ、行こっか」
「え?ちょっ、おい!!」
レイナに連れられ、俺は彼方此方を回った。
ゲームセンターではレイナとシューティングゲームをして僅差で負けたり、逆にサッカーゲームで勝ったり……
『秀久、右右!』
『右……右って何処「グルァアアアアア!」』
変なゲームをした。カラオケに行かされ、レイナと勝負したり…
『95点!どうだ!』
『……じゃあ本気出すからね!「初恋!」歌います!』
『な!お前それ反則!』
ショッピングに連れて行かされたり……
『次はあれ買おう!秀久早く!』
『まだ買うのか!?』
帰る頃には荷物が出来上がっていた。く、……ハメられた!
「ふふっ、楽しかった~♪」
「最初はなっ……っとと!」
「一応テンプレなデートだよ?秀久?」
「で、デート?!うおっとと……」
レイナは急に立ち止まり、俺の方を見る。な、……何だ何だ。
「うーん……荷物があると……、よし、それ送って貰おう、速達で♪」
そんなことで、速達と書かれたバイクに乗って来た七海が、あっという間に運び去った。な、何であいつが運んでんだ?
――むにゅぅっ腕に柔らかい感触が押し付けられ、レイナが俺の腕を組んでいた。
「やっぱり、デートならこうじゃなきゃ♪」
「な、な……」
「ごめんね秀久、本当ならみなもや摩果達も一緒だったんだけど……」
それだと、デートと言えるのだろうか?つか、感触に緊張し過ぎてるのか頭が動かねえ……。
それに、くすくすと微笑んでいる彼女は何時もより綺麗な気がした。
「秀久?」
「何も考えてねーよ!」
「?」
でも、何でか……。
「ありがとなレイナ」
「!」
凄く……今日が楽しい。
レイナの頭を軽く撫で、彼女は頬を赤くしながら俯く。ん?……何かしたか?
「大丈夫かレイナ?顔が赤いぜ?」
「みんなごめん……フライングするね」
「ん?……っ……」
……今、何か頬に……。
「……行こっ秀久。メインイベントはこれからだよ!」
「え、あ……ちょっ……!」
レイナに引っ張られ、走り出す。メインイベント……?が何のことかわからず、俺は首を傾げるしかなかった。
頬を押さえつつ走り、夜の雪道をイルミネーションが照らす。
「到着!」
「……ここって……俺の家?」
間違いない。赤い屋根……、周りの住宅より広い敷地……俺と両親の家だ。よく見れば部屋に明かりが灯っている。人影が見える……。レイナは先に入ってしまい、俺は暫く佇んでいた。
入っていいんだよな?
「……」
ゆっくりとドアを開ける。
すると、サンタコスのレイナが笑みを浮かべていた。いつの間に……。
「お帰りなさい♪みんな待ってるよ」
「みんな……?」
レイナに続き、リビングに向かって行く。俺が入った瞬間、クラッカーの音が鳴り響いて……え……?
『『『上狼秀久!ハッピーバースデーメリークリスマス!!!』』』
「……」
……ハッピー、バースデー?
「ヒーくん、誕生日おめでとう!びっくりさせてごめんね?」肩だしミニスカサンタコス
「今日ハ、ヒデに最高ノ日にシテもライタかッタでス」ミニスカサンタコス
「おめでとう……ヒデくん」ぶかぶかサンタコス
「みなも……明香、つぐみ」
「先輩、おめでとうございます!」シカコス
「わきゅ!おめでとうございますですの!」サイズ大きめのサンタコス
「おめでとうございますですコノヤロー」サンタコス
「お、おめでとうございます先輩!」へそ出しサンタコス
「圭太、白姫、七海、姫……」
「おめでとシュウ、準備出来るまでレイナがごめんなあ?」和風サンタコス
「ちょっと深紅!?」
「おめでとう秀久君。……付き添えなくてごめんね?」肩だしサンタコス
「摩果、みく……」
「おめでとう秀久」付け髭サンタコス
「ご苦労さん。ハッピーバースデー秀久」スーツ
「光一……澪次!」
別作品の……澪次が居るってことは……
「よ、秀久。おめでとさん」スーツ
「…………(おめでとう秀君♪)」
「……龍星さん、芹姉ちゃん……」ドレス
「かっか~♪」ぷちサンタコス
「せりかさんまで」
「おめでとうございます秀久さん」スーツ
「シュウちゃんおめでとう♪♪」ミニスカサンタコス
「龍ちゃん…綾菜…!」
「秀久君おめでとうっ!」肩だしミニスカサンタコス
「希林!っ」「よ、おめでとう秀久からの離れんか!」スーツ
俺に抱きついていた希林を雷さんが蹴り飛ばした。
何だよ……、みんな……。
「……俺、……俺いってえ!?」
「今日の主役は貴様だ。しっかりしろ」スーツ
「秋獅子……」
「ハッピーバースデー秀久♪」ドレス
「響……」
「わう~」シカコス
「みー!」ぷちサンタコス
「お前ら……」
……今まで積み上げて来た人生は無駄じゃなかった。今までのクリスマスは……無駄じゃなかった……。
今までの……誕生日は……。
ありがとう……母さん、父さん……
『んじゃ、今日は夜まで騒ぐぜ!!』
『『おぉ~~!!!』』
今日、俺にとってかけがえの無い忘れることの無い日が刻まれた。