少し遅れのクリスマス
間に合った!(26日
来たるは冬。
訪れるは十二月。
雪が降ることもこの地域では珍しく、ただ明け方は冷え込むような季節だ。
そんな十二月もあっという間に過ぎ去っていき、今年も残り僅かとなった。
だが、この日、クリスマスは街は賑やかに家族と過ごす者もいればケーキ販売に勤しんだりいつもと変わらない日々を過ごす者もいる。
それは、彼らも例外ではなく……。
「ち、遅刻したーー!!」
外れるような勢いドアを開け、俺はマンションの階段を下りて行く。エレベーターを待ってる暇は無いし、四階からなら走って降りた方が早い。
それにしたって、
バカ!!俺のホントバカ!!なんでこんな大事な日に限って寝坊するかな!?
外は寒く、コートを着込んでマフラーを巻いていてもなお白い息が漏れる。
財布あるよな!?時計は付けてる!寝癖は……大丈夫!くっそー、こんなことならバイト休みにしとけば良かったぁ!
「と、とりあえず電話電話!」
駅に向かって走りながら、片手で携帯を操作する。遅れることを伝えておかなきゃ!
コールを鳴らし、2回目でその相手は電話に出てくれた。
「もしもし?俺だけど、ごめん急いで向かうから!」
流石に息を切らしながら隣町の駅内の階段を降りて行く。……で、電車がこんな時に遅延するなんて聞いてないぞ。
息を整えながら改札を出ると、コートにマフラー、手袋と防寒着を着込んでいる髪の長い少女の背中が目に入る。夜空の中、赤い太陽のような珍しい髪色をした少女を人混みの中から見つけるのはそう難しくなく、俺は少しだけ胸を撫で下ろしながら歩く。
少女はそれに気づいたのか後ろを振り返り、ほっとしたような顔をしていた。
「ごめんみなもっ!!!」
「謝らないでください、私もさっき来たばかりですから」
手を合わせて謝ると、みなもは手を横に振りながら苦笑していた。
ロングスカートだけど、足が震え気味なんだよな。
気を使わせないつもりとか……イケメンかよ!
「と、とにかく暖かい場所に行こう!」
気を取り直してエスコートに専念する。
少々予定は狂ってしまったけど大丈夫だ、これから予約してあるレストランに行って食事……その後はイルミネーションを見てから夜景の見えるホテルに泊まる。
……大丈夫、まだ取り返せる!
その後は特に問題ごともなく、順調に進んで行った。
レストランに入り、店内の温かさにみなもも震えが止まり安堵する。
「ふう、……やっと一息つけたな」
「凄い人混みでしたね、休日だからでしょうか?」
「家族連れも多かったし、レストランも予約殺到してたみたいだしな」
「え?……大丈夫なんですか?私、出した方が」
「いやいやいや!!心配しなくていいから!?まるで高いレストラン選んで無理してるみたいに思われるじゃないか」
「……思ってました」
これからは余裕のある生活をしよう。
俺は胸に誓い、霞む目元から涙が落ちるのを我慢する。
「ハンカチ……よろしければ」
「有り難くいただきます」
踏んだり蹴ったりだったけど、その後は順調だった。
美味しい夕食を堪能しその間でクリスマスプレゼントをする。
プレゼントしたのは……口紅だ。
「口紅……」
「色んな人から聞いて回ってさ、……中々みなもに似合うの見つからなくて」
購入できたのはつい昨日だ。
「やっぱり、……老けて見えちゃってますか?」
「違う違う!!まだまだ若いし十分可愛いよ!!そうじゃなくて、…………その」
「はい」
「もっと綺麗になったみなもを見たいな……っていう俺の下心というか」
…………みなもはあまり化粧をしない。
素でも全然可愛いけど、けど、やっぱり、……彼氏としては綺麗になった彼女を見たいのが本音だ。
もしかしたら嫌だったかもしれない。伏見がちに視線を落としていると不意に声がかかる。
「ありがとうございます秀久くん」
「……みなも」
「大事に使いますね」
嬉しそうに微笑むその表情には、嘘はなかった。
が、みなもは俺の足元に視線を落とす。
「?……その袋」
「っ!!!あ、いや、これは、えーと」
やっべ気づかれた!!
「なんでもな……うわっとっと!!」
焦りすぎたのか、袋が鞄に上手く入らず中のものが飛び出してしまった。
いや、そんなことある??
俺の抵抗は虚しく終わり、みなもの方へと飛んで行った渡す予定ではなかった「サンタコス」。みなもも思わず目が点になっていた。
「…………秀久くん、これ」
「いやあ、その…………………………。下心でつい」
つい、勢いで買ってしまった。
何に使うのかって?
……そりゃ
「わ、わかりました!!秀久くんが望むなら……」
「ち、ちが!そんなつもりはなくてなくて!……決意固めなくていいから!?」
メリークリスマス。
て、もう……終わっちゃったか。今年は何かと忙しいクリスマスだったなぁ。