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ナンパにご用心

時系列なんてありゃしない

夏休み真っ只中。もうすぐで八月になり、暑さは本格的に上昇し暮れは早くなる。

やりたいことは数あれど、やらなきゃいけないことも多い。とは言え、俺だってまだまだ思春期真っ盛りの高校生だ。一生に一度しかない休みくらい楽しく過ごしたいわけで……。

……今日に限って予定が重なってしまった。


午前は龍星さん、龍星の友人さん達と一緒にセンター街のゴミ拾いをする。友人さん達曰く、センター街は喫煙が減らずポイ捨ても多いらしい。だから定期的に掃除をしながら注意をしているようで今回は龍星さんも参加するらしい。

友人さん達には何かとお世話になってるし、俺も協力したいと言ったらスケジュールが合うのは今日だったようだ。

それはいいんだ、俺もタバコは好きじゃないしセンター街には子供だって歩いている。副流煙の危険性だってある。


午後は、……センター街から少し離れたメイド喫茶店でアルバイトしているみなもと合流して映画でも観ようかなと。メイド喫茶店の店長と面識があるみたいで、その流れでみなもは喫茶店のアルバイトをしているらしい。

前に行ったことはあるけど、……うん、駄目だ……二度と行かない。

映画を観た後は予約してるレストランに行く予定だ、ちょっとしたデートみたいだけど……いや、デートだよなこれ?


問題は、午前と午後の間……みなもの方が早く終わるらしくその間の時間を手伝いたいと言いだしたもんだから大変だ。龍星さんも場合によっては喧嘩沙汰になるかもしれないと言ってたし。てかそんなに血の気やばいのかよあそこ!!

……みなもには来るなと伝えておいたけど……



「秀久君、ゴミはそこの袋にお願いね。……すみませーん、ここ禁煙なんですよ」


友人さんの一人が早速注意しに行く。

……これで何人目だろうか。


「今日も多いなあ、全く、看板もでかでかと出てるのに見えないんだろうな」

「ある意味凄いですよね、……毎年こんなに多いんですか?」

「ああ、けど毎年多くなってるんだよ。センター街は特に人が集まるしね……全く」


人間は学ぶやつと学ばないやつがいる。

育ちの環境とか、周りからの影響とか……理由はきっと沢山あるけど集団心理も働いているんだろう。誰かがやってるから大丈夫だ、誰かがやってるから自分だけ怒られるのはおかしい。

……さっきから注意してる人の半数は反省をしなかったり、言い訳を並べる。

……はあ、思ったより精神にくるなあ。


「ちょっとすみません。ここ、禁煙なんですよ」

「あ?別にいいだろうが」

「いや、よくないですから、看板読めます?」

「うるせえーな!カス!……ぐふぁ!?」

「あぁ?誰がカスだって?」


龍星さんがアイアンクローで喫煙者の顔面を掴み上げていた。

…………かっこいい!!


「龍星ーー!?ストップアイアンクロー!」


慌てて止めに入る友人さん、……あ、喫煙者逃げた。


「悪い悪い、……ならアンマの方が「そういう問題じゃなくて!」」

「龍星さん!相変わらず指が食い込んでましたね!」

「秀久君も目をキラキラさせない!」


でも、あの喫煙者は二度と吸おうなんて思わないだろうな。

ゴミとタバコ拾いを再開すると、子供が近くに座る。キャップを開け、汗をタオルで拭きながらジュースを飲んでいた。

あ、こっち見た。


「お兄ちゃん、なにやってるの?」

「ゴミ拾い……かな」

「へ〜かっこいい!!汗だくでがんばってるんだね!」

「まあ、ね。でもまだまだ半分くらいしか終わってないからさ……」


拾っても拾ってもポイ捨てしたり、集団で吸ったりするからキリがない。

女の子は目をキラキラさせながらペットボトルを差し出す。


「よかったら、はなのジュースあげる!」

「いや、悪いよ、君のジュースだろ?」

「がんばってる人はごほうびもらわなきゃダメなの!だから、はい!」


……はいと言われても……。


ハッ!?殺気!?


「君、ちょっと署までいいかな?」

「……え」


龍星さん達の説得でなんとかなりましたとさ。



「……ふう、だいぶ綺麗になってきた」

「秀久君、秀久君」

「はい?」

「あれ」


友人さんに肩を叩かれ、指を指した視線を追う。

……、


!?


「み、みなも……」


あの髪、あの顔、どう見てもみなもだ。……今日の格好はシースルーにミニスカート……、、じゃなくて!!一緒にいるのって……男?


「秀久、大丈夫か?」

「固まってるよ龍星。すみません、そこ禁煙なんですよ!」


☆43¥8=いや、えと、……え?え?男?

しかもイケメン!?


「しっかりしろ秀久、あれは恐らくナンパだ」

「な、な、ナンパ!?な、んぱ!?」

「みなもちゃんの顔見てみろ、困ってるだろ」


た、確かに、……あ、男去って行った。

みなもが俺に気づき手を控えめに振るが、なんかショックからか体が動かない。


「みなもちゃんもう上がりか?」

「はい、他のメイドさんが代わってくれまして……あの、ヒーくんは……」

「見ての通り、固まってる。秀久!起きんか!」

「うわ!?……み、みなもしゃん!?」


やべえ、可愛い……。


「ひ、ヒーくん?大丈夫ですか?」

「あ、ああ!!平気平気……平気だよ」


もう少しで終わりそうだし、さっきのことは忘れよう!集中だ集中!


「じゃあ終わるまで待ってますね」

「え、暑いしどっか涼しい場所で待ってろよ」

「でも……、そうだ、私も手伝います!」

「いや、危ないから!さっきだって警察沙汰に……」

「え?」


待て、これ言ったらアウトじゃないか?

俺は言いかけていた言葉を呑み込み、誤魔化すように苦笑する。


「警察沙汰になった喫煙者居るんだ。それにもう少しで終わるから……」

「それなら大丈夫です!ヒーくんが怪我をしないよう手伝います!」


あ、ダメでした。


ちょっとみなもさん、イケメンすぎですよ。


しかし、俺はなくなく頷いてしまったことを後悔した。



「君、可愛いね?いくつ?」

「じ、十七歳です」

「JKかあ!おじさん大好物「おい、何してんだおっさん」」


とか


「すみません、ここに行きたいんですが」

「あ、ここなら……この道を歩いて……」

「よくわからないんで案内して貰っ「はい、俺でよければ喜んでー!」」


とか


「ゴミ拾いしてるの?」

「はい、あの……ここは禁煙なので……」

「ごめんごめん、じゃあタバコ吸わないからさ、お兄さんといいと「お断りします!」」


とか


「お疲れ様」

「はい?ありがとうございます!」

「じゃあ約束通りカラオケ行こうか」

「え?ふえ?あの……」

「ほら、予約してあるからさ「選曲は何に致しましょうかーー!?」


……とにかくナンパだらけだ。

気が気でないし、俺は俺で喫煙者に突っかかれるしで大変だ。

けど、あとはゴミをまとめて捨てれば終わりだ。頑張った甲斐あって区間が見間違いるように綺麗になった。その一方で龍星さんを見て逃げ出す喫煙者も居たけど、ま、いい薬だよな!


「ねえ、君一人?」


汗を拭いていると、またおじさんの声だ。人混みが増えてきた中なので、少し遠くにいる。

みなもは困ったようにおじさんと話している。いいぞ、そのまま振ってしまえ!


「おじさんいい所知ってるから今から行かない?」

「ごめんなさい、人待たせてしまってるので……」

「人って……彼氏!?」

「えと、……あの、……違います」


え…。


「ならいいじゃないか!!少しだけ、ね?ね?」

「あの……ごめんなさい!」

「少しだけって言ってるだろ!」


まずい!

だけど、すぐに走り出そうとした……はずなのに。

腕を掴まれている光景に、チクリと胸を刺したような痛みが襲い、その場に立ち尽くしてしまった。

その直後、男性の声で我にかえると腕を捻り上げている藤沼がいた。


「イテテテテテ!!?」

「何やってんだ、てめえ」

「な、なんだよお前!!イテテテテテ!」

「彼氏だが?」


……っ。


藤沼と目が合った。


お前、そこで何で突っ立っているんだと言いたげな……そんな目をしていた。







あの後、男性は龍星さんと恐怖のお話をして怯えるように消えて行った。

禁煙区間は綺麗になり、……解散。友人さん達からジュースを貰い、龍星さんからは無言で頭を撫でられた。それが余計に、胸の痛みを強くしていた。

藤沼から怒られた。

……なんであの時止まっていたのかと、みなもは怯えていたらしい。それでも、勇気を出して必死に断っていた、俺が行くべきだった。


「ヒーくん、お水飲みますか?」

「……」

「これから映画ですね!……ちょっと恥ずかしいですけど、シースルー着てみたんです」

「……だから、なのかな」

「え?」


なんでこんなに胸が痛いのか、……なんでこんなにイライラしてるのか。

そうか……その答えがわかった。


「みなも、ちょっとこっち」

「え?ヒーくん、そっちは路地裏」


みなもを路地裏に引っ張り、人気が無い場所に行くと彼女を壁に押し付ける。


「ひ、ヒーくん?」

「ごめんみなも、今どうしようもうないくらい……俺イライラしてる」

「私また何か怒ら「違うんだ!……みなもは悪くない、悪くないんだ。……だけど」」


ナンパ、……彼氏じゃない発言、そしてあの手を掴まれた光景。

それが全部嫌だった。見てるだけで頭の中が真っ白になって、考えられなくなって、……体が固まった。みなもの格好はいつもの落ち着いた感じじゃない、シースルーは肌が透けている服で露出が高めだ。

みなもは胸が大きいこともあって谷間がうっすらと見えていて……ダメだ、考えるだけで頭がぐちゃぐちゃになりそうだ。


「……ナンパされてるのが……嫌だった」

「え?」

「なんか凄くモヤモヤして、みなもが彼氏じゃないって言った時は頭が打たれたような衝撃がしたし」

「あれは、ヒーくんに迷惑をかけたくはなかったから……」

「それでも嫌だ!!……ちょっと泣きそうになりそうだったし!あと、手を掴まれた時、みなもを取られるんじゃないかって…………悪い、泣いていいか?」

「ひ、ヒーくん!大丈夫ですってば!振り払うつもりでいました「振り払えなかったら!?藤沼が偶然居なきゃ……きっと」あう、ヒーくん……」



まるで幼いガキだ。

……ワガママな坊主だ。


「……それに、その格好……可愛いからこそ、……露出高いし他の奴らに見られたくないんだよ……」

「ヒーくん……」

「だから、……その、ごめん。助けに行けなくて……」


台無しだ。

みなもから離れ、背を向ける。こんな空気の中、映画なんてきっと楽しめない。

今日はもう……帰ろう。


「待って!」

「……っ、え!?」


腕を組まれ、ぎゅむっとみなもが身を寄せてくる。


「み、みなもさん?」

「今度からは、……気をつけます。だから、今日だけは、この手を離さないでくれますか?」


潤みを帯びた瞳で見上げられ、全身の血流が加速して上がって来る。

いや、ちょっ……、やべ……。


「「あ」」



後日


「ヒーくん!」

「み、みなもさーーん?!露出高いのはやめるって……」

「……ごめんなさい、でも、……ヒーくんが私の格好を見てアタフタするのがかわいくて」


みなもは意外と、小悪魔のような気があるようだ……。

秀久「才崎……」


智「ふむ、どうした秀久。鼻にティッシュなど詰めて」


秀久「……彼女を見ても鼻血出なくなる方法ってないか?」


智「…………んん?」

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