トゥルーエンディング
とある話のトゥルーエンディング。
『次の場所はちょっと長引くけど、絶対帰る。そしたら、……ずっと一緒に居よう」
約束したんだもんな。
君は不安を押し殺して、頷いてくれた。
……帰ろう……。
「……
名前は……確か」
「カミオイ、明日にはニホンだ。ゆっくり休め」
「……そうそう、また新作出たんだ、相変わらず凄いよな」
「治ったら腐る程聞いてやる、だからいまは寝てろ」
「……それは俺がやるから……久しぶりにご馳走作る………」
「カミオイ?」
太陽が眩しい。
君の髪みたいに、赤くて黄金に…輝いてる。
……もう一度、君に
君に会いたい
医師からも奇跡だ……なんて言われた。
でも、奇跡ってものには慣れてる。
俺の病気は、新種のウィルスによるものだったらしく治療法がなく確立されてすらいない未知のものだったらしい。
だけど、俺には分かるんだ。この病気はきっとーー
そうだ、彼女は絵が好きなんだ。だからそれに関係する職に就き早速才能を奮っている。なお、フリーランスだが年収は……凄いです、はい。
絵本作家なのかイラストレーターなのか、デザイナーなのか……そこら辺は伏せさせて貰おう。
……この勢いだとあっという間に有名になるだろうけど、彼女は無名のままでいたいらしい。
俺は長旅から帰還し今は世界を支援するためのプロジェクトと研究に携わっている。彼女やいつか生まれるであろう子供、その次の世代を見守っていくために。
自分自身がかかったあの病気も、もうすぐで解決策が
見つかりそうだ。
不憫てのはある意味、呪いと同じだ。
けど、それはきっと、自分で切り開くことができるって信じている。
「…………きてください」
暗い世界の中で、鈴を転がしたような声が聞こえる。
誰かはわかっているし、そもそも暗い世界っていうのも嘘だ。それは自然に作られているものではなく、俺が作っている。
……所謂、寝たふりだ。
さっきのアラーム音で目が覚めていたが、同時に隣で寝ていた彼女が起きたことに気づき敢えて寝たふりする。
「……眠ってる」
口元が緩みそうになるのを堪える。
彼女の方も寝起きなのか、気を使っているのか、少し小さい。
「起きてください、あなた。遅刻しますよ?」
ちょっと心配そうな声だ。
大丈夫、まだ……間に合う。もう少し様子見だ。
「起きないと、キスしちゃいますよ?」
え、なにそのご褒美
それでも寝息立てているふりをしていると、唇に柔らかな感触が当たる。リップ音が鳴り、ゆっくりと離れて行くがそれでも我慢してしまうのは何か期待してしまうからかも知れない。
てか柔らかい、改めて彼女の唇が気持ちいいって感じてしまう。
「…ん……あなたー遅刻しちゃいますよ?」
……確かにこれ以上はまずいかもしれない。
だけど……起きない度にキスしてくる彼女が可愛くて仕方ない。
「…………幸せだなぁ」
不意にそんなことを彼女は呟いた。
「大好きです、昔も、今も……きゃっ!?」
我慢出来るわけがなかった。
俺はみなも引っ張り、布団に引っ張り込んだ。
「お、お、起きていたんでしゅか!??」
「……おはよう」
「おはようじゃないですよ!?起きてたなら言ってくださいよ!」
にへらと笑うと、みなもは顔を赤くしながら俯いている。
太陽のような赤いような綺麗に透き通った髪が揺れ、宝石のような瞳は視線を逸らしている。
「そんなにキスして、もしかして欲求不満?」
「違いますぅ!……ただ、キスしてただけです」
「ただ?」
「言わなくていいですっ、恥ずかしいですから」
「へえ、起きないことを口実にキスしたかったのかと思ったけど?」
「ぅう……」
涙目になりながら、顔を赤く染めていく。
昔から変わらない、……みなもはみなもだ。だからこそ、俺は……
「幸せって言ってたよな?」
「……はぃ、言いましたよ?」
みなもはゆっくりため息をついてから、俺の手を握る。
「毎日幸せです、ずっと我慢していたけど、今は自分では止めらないほどにあなたのことが大好きです。朝起きて、あなたが隣に居て、あなたをこうして起こすことができて……とても愛しくてだから、っ……」
彼女を抱きしめ、唇に自身の唇を重ねる。
みなもは嬉しくもそして困ったように眉を寄せて、小さく笑った。
「もう、遅刻しますよ?」
「……1人にしないから」
「……っ、意地悪。あなた、ホントに意地悪になりました……そんなこと言わなくてもわかっているのに。言葉にするなんて」
これは、彼女を困らせた謝罪だ。
卑怯だと思う、でも、それが彼女への気持ちだ。
「愛してる」
「……私もですよ、もう置いていかないでください。今、私、どうしようもないほどあなたに恋しているんですから」
その微笑みは天使のようで、華のように綺麗で、こんなにも綺麗な華を摘み取ろうとしていたことに後悔を抱かずにはいられなかった。
だからこそ、今度こそ守っていきたい。
これから、ずっと、未来永劫……。俺も、彼女がどうしようもなく愛しいから。
「ほ、ほら、いい加減起きないと遅刻しま……ん、もう、不意打ちでキスはずるいですよ!」
「あと5分だけ、な?」
「むぅ、私があなたのお願い無視できないって知ってるくせに……」
これもズルイかも知れない。だけど、どうしようもなく喜びを感じてしまうのだ。
俺はもう1度キスをすると、みなももキスをする。何度かキスをし、みなもが俺の胸に頰を当てる。
「大好きです、秀久くん」
「やばい、遅刻だ!」
「ほら、もう!だから言ったじゃないですか遅刻するって!早く準備してください!」
「ごめんて!」
みなもはカーテンを開け、慌てるように部屋を出て行く。
……結局、予定の5分を過ぎて15分のロス。かなりギリギリになりそうだ。俺は布団から飛び起き、急ぐようにクローゼットからスーツを取り出す。
「……幸せだ」
『あなたごめんなさい、お弁当を今から準備するので、朝ご飯適当に食べてください!』
……今は、急ごう。
リーダーなのにまた遅刻ですかって、言われそうだ。
「いってらっしゃい、早く帰って来てくださいね♪」
「ん、じゃあ行ってきます!」
今日何度目かのキス。
彼女の笑顔は見るだけでやる気を貰える。家族バカっていうのはこういうことじゃないのだろうか?
寧ろ、心地良いくらいだ。赤いエプロンを着けている妻は今日も変わらず可愛い。
可愛くて綺麗なのは卑怯だと思う。
……心の病は、時間が必要だ。
壊れきったものを元に戻すのは沢山の時間が必要だ。
破片を集めるのではなく、また一から作っていく。今までの時間をかけて出来たものなら、治るのもきっと長いだろう。
でも、それでも今はゆっくりとこの最悪な不幸と戦っていこう。
大丈夫、彼女が隣に居てくれる限り俺は2度と折れたりしない。
今度は自分自身を救う番だ。
今は満開の桜道を走る。
色彩に彩られた幸せな日々がまた一日始まるのだ。
最初の秀久の台詞が前と違うのがトゥルーエンディングの軸。