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クーポン戦争

思いつきです


「秀久君!ミス○へ行きましょう!」

「へ?」


雑誌を読んでいると、突然みなもがそんなことを言い出した。てか危ないから、伏字にしておいてもわかる人はわかるから!

みなもは目をキラキラさせ、スマホの画面を見せてくる。


「……ユーザー対象、六太郎の日。ミス○のドーナツ2個まで無料クーポン」

「はい!」

「みなも、KUユーザーだっけ?」

「私はハードバンクですよ?」


……あーー。

うん、どうしよう。

こんなに目をキラキラさせてたら何か言いづらないな。


「あのさ、みなもさん……」

「はい?」

「このクーポンKUユーザー対象なんだ。キャリアがハードバンクだと使えないんだよ」

「え……」


目がじわじわと潤んで来ている。

やばい!?


「ごめんなさい、私、はしゃいじゃって……」

「仕方ないさ、甘いもの好きなんだからな」

「ぅう……」


みなもは可愛いものや洋服の他に甘いものが大の好物だ。俺以上に甘党だけど、スタイルは相変わらずモデル泣かせだし、あの大きな2つ袋に行ってるんじゃないかと思う。いやそんなことよりも、こんなにどんよりしているみなもは初めてだ。

ここは夫(契約者)として、人肌脱ごうではないか!


「俺KUユーザーだから、代わりに買ってくるよ。だから、な?泣くなって」

「本当?」

「ああ。その代わり好きなドーナツ先に決めておいてくれよな?」

「秀久君っ!」

「ごへふ!?鳩尾!」




駅前にあるミス○。

周りにはフード店が沢山あるが、今回用事があるのは此処だ。渡されたメモ紙を見ながら、地下の階段を出る。喜んでくれるといいけど……。


「む、秀久ではないか」

「げ、杉崎」

「げとはなんだ。君もクーポンか」

「え、ああ。お前も?」

「うむ。萌君から頼まれてな、女子というのは甘いものには目がないようだ」


眼鏡を指で押し上げ、スマホを見せてくる。

目的は同じか、なんか複雑な気分がするな……。


「む、今失礼なことを考えていなかったか?」

「へ!?い、いや別に!?お、見えて……人多!?」

「ふむ。考えは皆同じか。普段来ない人々も、無料となれば話は別だろう」

「この列に並ぶのか……。1時間は掛かるんじゃないか?」


油断していた、まさかこんなに行列になるなんて。それに、店員はクーポンばかりの客の対象で今頃必死だと思うと泣けて来そうだ。

見ているわけにも行かず俺と杉崎は列に並ぶ。


「みなもここの常連さんだからなんとか優先して貰えないかな?」

「それは厳しいだろうな。ふむ、君も涼宮君の為に並んでいるのか」


しまった!

こいつにはあまり知られたくなかったのに!


「違う!これは、別に可愛い彼女(妻)の為とか凄く優しくて大好きな彼女(妻)の為とかじゃないからな!」

「ベタ惚れだな」

「あれ、皆さんどうしたんですか?」


俺と杉崎が振り向き、列の後ろに黒髪に優しい目をしたクラスメイトの錬介が立っていた。動物病院にいる時みたいな白衣ではなく、柄のある白いジャケットに青いVネック、首からヘッドホンを下げている。


「錬介、お前こそなんでここに」

「母さんに頼まれまして買い物ついでに、あと香ちゃんに差し入れを」

「顔を見せてくれないのにお前も世話焼きだな」

「ははは、僕は香ちゃんの担当医ですから。あ、列が動きましたよ」


目的はみんな一緒か。

と、杉崎が急に止まり顔が頭にぶつかる。


「いって、杉崎いきなり止まるなよ」

「ふむ、トラブルのようだ」


杉崎の見ている先を錬介と首を傾げながら見る。なにやら店の方が騒がしく、並んでいるお客もひそひそと話していた。錬介と列を抜け店の方へ進んで行くと怒気の含まれた声が響いてくる。


『早くしろよ!チンタラしてんじゃねーよノロマ!』

『ごめんなさい、もう少しだけ』


「秀久さん、あれ」

「女の子か、見た感じだど選んでいるのに時間がかかっているのか。少しくらい待てばいいのに」

「僕、止めて来ます!」

「あ、錬介!?」


少ししてからボロボロになった錬介が店から飛んでくる。


「いてて」

「大丈夫か錬介?」

「制止しようとしたら後ろ3人がグループみたいでした、……はあ」


錬介を介抱しながら店の方を見る。

女の子は箱を受け取り、頭を下げながら店を出て行く。が、最後まで出て行くことは叶わず後ろで怒鳴っていた男性が女の子の手を掴んでいた。


「てめえ、こんなに列があるのに箱買いって舐めてんのか?あぁ?!」

「ごめんなさいごめんなさい!お母さんのお見舞いに大好きなドーナツを持っ「てめえの事情なんて知らねえんだよお!俺はクーポンを持ってんだ!KUユーザー様の為に用意された特別なクーポンなんだよ!」」


なんだそりゃ。

あのガタイの良い金髪野郎と一緒だと思うとなんかムカつくな。


「ごめんなさい……、離して、ください。お母さんの所に行かなきゃ」

「謝罪するのが先ダロォオ!!」


金髪野郎は青筋を浮かべながら拳を振り上げていた。

まずい!!


「いってえ!?」

「……秋獅子?」


俺が走り出す前に金髪野郎の腕を掴み、捻り上げている黒髪の男性。あのコートと細い目つきをしたあいつは間違いなく秋獅子流牙だ。


「行け…」

「ありがとうございます!」

「てめえ、何しやがる……がぁ!」

「お前こそ、営業妨害だ。邪魔だ」


秋獅子は金髪野郎を投げ飛ばし、一緒に居た男達も睨む。それだけで逃げるように走り出し、我先我先と遠くへ消えて行く。

俺は秋獅子の方へ近づき、肩に手をポンと置く。


「やるじゃねえか、見直したぜ秋ぶほぉ!??」


殴られ錬介を巻き添えにしながら地面を転がる。

なんでだーー!?


「列に並べ。他の客に迷惑だ」




透明なガラステーブルに置かれたドーナツの入った箱。二つまではクーポンを使ったがなんだかんだで箱買いしてしまった。幸せそうに食べているみなもからはほんわかとしたオーラが出ている。

一方で俺は、左頰を保冷剤で冷やしながらみなもの膝に頭を置き寝転がる。


「秋獅子のやつ、やっぱり嫌いだ」

「秀久君、あーん」

「ん」


口にドーナツを加え、ため息が出る。

ただ、ドーナツを買いに来たのになんで頰を殴られなきゃいけないんだ。くっそ、六太郎キャンペーンなんて嫌いだーー!


後日、また六太郎キャンペーンの為にミス○へ行くことになるのはまた別の話。

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