バレンタイン
1日遅れですが。今年はレフェル様のキャラ達をメインにば
ある者には勝負の日。
ある者にはお礼をする日。
ある者には期待してしまう日。
ある者には縁が無い日。
ある者には存在を認めない日。
ある者には幸福を邪魔する日。
全ての人に意味があり、しかしそれは平等ではない。
2月14日。
この日は勝ち組と負け組が明確になるであろう特別な日。
主導権は全て、全国の女子が握っている。
「……はあ」
ストローから口を離し、大きなため息をつく男子。
赤い目は食堂で起きている賑やかな方へと向いている。あれは三年生の男子だ。顔つきもよく、長身であり女子からモテモテなのを度々見る。
あっちは同じ学年の男子、サッカー部のエースで爽やかな奴。あっちは同じく2年の男子生徒、女子からプレゼントを貰っているが十中八九チョコだろう。
「何が楽しんだか……」
そんな独り言が食堂での騒がしい会話に掻き消された。
「りゅーがっ!……ねえ、りゅーがてば!」
背中にかかるいつもの声。
流牙はふり向こうとはせず、廊下を歩く。後ろからは自分とは別の上履きの音が聞こえる。
誰かは分かっている。
ならば振り向く必要はないだろ。
今日は2月14日。
それを理解していれば対策はいくらでも立てられる。彼女が一層に面倒くさくなる日でもあり、流牙はバレンタインがあまり好きではない。
何故?
一言で済ませるなら、疲れるからだ。
彼女のテンションにはいつも気だるさがあるが、この日はやたらとアピールしてくるため相手をするのも面倒でしかない。
何故一々手渡しで来るのか、方法などいくらでもあるだろう。さっきまで渡してきた女子生徒達だって同じだ。流石に捨てることは彼の食へのプライドが許さず、昼飯はチョコだけで済ましたのだ。
しかし減らしても減らしても、女子は集まって来る。当然チョコも増える。
ようやく一息ついたかと思えば、今度は彼女がやって来る。この日は彼には安息が無いのだろう。
「知ってるよ!他の女子からチョコ貰って食べてたんでしょ!」
「見てたのか?」
「ともちーから聞いたもん」
あの眼鏡。
流牙の怒りを知らず、響は前へと回り込む。
「はい!ボクからもチョコ受け取ってね、ダーリン!」
「……お前」
ダーリン。
背中が痒くなるその言葉。
流牙は怒りを抑え、口の端を上げる。
「あ、笑った………って」
響の表情が崩れ、一瞬にして真っ赤になる。
「ダーリ……りゅーが?……ええと」
「なんだ?チョコをくれるんだろ?なら食べるのは俺の勝手だろ」
「う、うーん、そうなんだけど……ひゃっ!ぼ、ボクの指ごと口に咥えるのは無しだと思うよ!?」
慌てる響の顔に快感を覚える流牙。
バレンタインも悪くない。
「はい、広報部の皆さんにおすそ分けです」
「ありがとう四葉さん。今年も悪いね……」
「いえ、智ちゃんがお世話になってますし」
四葉萌はクラスメイト、陸上部の他に彼の所属する広報部にもチョコを作っていた。
男子達は泣いて喜び、部長と萌は苦笑する。
広報部は男子生徒しか居ないため、バレンタインとはあまり縁が無い故に萌の存在は女神的扱いになっているとかないとか。
その傍らで機材を磨いている杉崎智、別名変態カメラマン。
「智、奥さんがチョコ渡しに来てるぞー」
「お、奥さん!?大原部長まだ早いですよ!」
「よ、四葉さんストップストップ!部長が泡吹いてるから!?」
コブラツイストをかけられ、泡を吹く部長。
萌は慌てて離し、部員達が急いで介抱する。見慣れた光景だ。
しかし智は振り向かず、機材を磨く。
「智ちゃん?……あっ!」
磨くフリをして窓から撮影していた智。
その先には風でスカートが捲れ上がる女子生徒が。
萌は智の頭を掴むとすかさずヘッドロックを決めた。
「相変わらずなにしてるんですかーー!」
すくりと起き上がる杉崎智。
相変わらず彼の回復力は未知数である。
「もう、反省して下さい!」
「何故だ?私は反省するようなことをした覚えは「お前の罪を数えろーー!」.」
飛び蹴りを決め、智が壁に埋まる。
また始まったよと部員達が部長を介抱しながら、萌に同情の視線を送っていた。
諸悪の根源である智は壁から抜け出し、萌は智の制服についた粉を払う。
「今日くらい自重して下さい。どうせ他の女の子から貰ってないんでしょ?」
「ふむ、しかしベストショットはこんなに沢山取れたぞ、ふはははは!」
「……な、な」
スカートを押さえる萌。
いつの間に撮ったのか、彼女の太ももやお尻、更には水色の下着までがばっちり記録されていた。
しかもアングルも際どく、見せられないような……
「カメラを壊しますっ!!」
「まあ待て、取引と行こうではないか」
「本当なら断りたいですけど……」
智はニヤリと悪魔のような笑みを見せる。
「来年からはチョコを私の部以外の異性に渡すことを禁じる。吞めなければこの記録を現像する」
「……え、智ちゃん?」
「君はバレンタインを甘く考え過ぎている。いや、男子というものを甘く考え過ぎているの間違いかな」
「……ええと、それって」
つまり、智は嫉妬している?
表情こそ出ないが、怒っているのだろうか?
「君が他の男子にチョコを渡すように、私も他の女子を撮る権利はあるのだよ萌君!」
「……釣り合っていないような……、はあ、わかりました」
「よろしい。ではこれ消しておこう(ピッ」
智は眼鏡を上げ、備え付けのUSBメモリーを取り外す。別のメモリーを取り付ける姿に萌は眉をひそめた。
「……智ちゃん、本当に消しましたか?」
「疑り深いね君は。それよりチョコを頂こうか」
((絶対消してないなあいつ))
そんなことは聞き流し、チョコを取り出そうとする萌の手を押さえる。
首を傾げる彼女を智はあっという間に担ぎ上げる。
「諸君、私は今から陸上部の取材へ行ってくる。ではさらばだ」
「と、智ちゃん!?あ、皆さん、部活頑」
部室から消える2人。
残された部員達は何事もなかったように手を振り、部長の介抱を続けた。
萌が美味しく食べられたことは誰も知らない……。
「……はあ、どっこもかしこも浮かれてるな」
チョコを貰う男子、チョコを渡す女子。
教室の彼方此方で甘い空間が広がっており、秀久は眉を寄せながら溜息をつく。
「し、仕方ないですよ。バレンタインデーですし、みんなそわそわしちゃいますよ」
クラスメイトのみなもが苦笑しながら、秀久の怒りを宥める。
そこへ集まる男子。眼鏡をかけた1人は秀久の肩に手を置く。
「分かるぞ秀久、バレンタインデーなど本来ならば邪道極まりない!なぜこうも男子で差異がつかねばならないのだ!全ての人間は平等であるべきだ!」
「で、でも……普段想いを伝えれない人にとっては…」
「そんなの頑張って伝えればいい話ですよ涼宮さん」
「そうだ!俺らはこんな甘ったるい光景を見せられた上にカップル誕生まで目撃しなきゃいけないんだ」
「不公平だ!」
ぎゃいぎゃいと騒ぎ出す男子達。
みなもはどう止めていいのかわからず、オロオロとしながら秀久を見る。
「ひ、秀久くん……、秀久くんは今まででチョコを貰ったことは……」
「無いな。チョコだけはどうしても好きになれねえし、俺もこんな日は嫌いかな」
「そ、そうなんですね……」
ぎゅっと箱を持つ指に力が入る。
ぽたぽたと冷たい粒が瞳から落ちていくみなも。びくびくと秀久さん苛つきオーラに体が震えている。
「ごめんなさい……、ち、チョコ、いらないですよね」
「え、あ……」
「その、余計なお世話ですよね、あはは……ごめんなさい」
「すみませんでした。チョコ大好きです、バレンタインデー大好きです」
掌を返したように必死になる秀久。
同士?達の殺意もなんのその
(チョコだ……、女の子から貰えるなんて……)
(って思ってるんたろうなあ。嬉しそうな秀久くん可愛い……ふふ)
((秀久コロス))
(あの野郎、涼宮さんから貰うなんて……羨ましすぎるぞぉ!)
そんなバレンタインデーであった