新年
「」
「」
「新年早々、……なんだこれ」
上狼秀久は自身の頭をかき、呆然と今の現状を見下ろしていた。
倒れているのは自称エロリストこと杉崎智、お助け部部員兼セミロング馬鹿の圭太だ。二人共床に突っ伏し、指で何かを書き残していた。
――悪夢はそこにある
血ではなく、何かドロッとしたものだ。秀久は何かに気づき、二人をどかすと、派手にぶちまけられたドロッとしたものが散乱していた。
「お汁粉かぜんざいか……」
勿体無い……。いや、今はそんなこと気にしている場合ではない。
膝を起こし、顎に手を当てる。
「誰がこんなことを……」
「あ、秀久さん!こんな所に居たんですか?」
「みなも……」
林の幹からひょっこりと涼宮みなもが顔を出す。
彼女のイメージカラーである桃色の振袖には白い模様が入っており、帯がアクセントを引き出している。長い髪は簪でまとめており、少しお化粧をしているのかいつも以上に綺麗だ。
秀久は、この姿に見慣れるのに数分かかったとか。
ちなみに今の事件、初詣で参拝しに来た神社の裏側で起こっている。
「突然消えて心配したんですからね」
「悪い。……ちょっと神社の裏側を見てみたくてさ」
「神社の裏側をですか?そう言えば、ここってちょっと不思議な構造していますよね……」
みなもの敬語は違和感がない。周りとの会話でよく敬語を聞いていたからなのか、しっくり来たのか……、秀久は頭を縦に振り、神社を見上げたまま口を開く。
「龍星さん達はお化粧食べてるのか?」
「ううん、お汁粉食べているのはつぐみちゃん達です。榊さん達は餅付きに参加してるみたいですよ」
「餅付きか、今年は結構なサービスしてるんだな」
「秀久さんも参加して来たらどうですか?」
一度目を閉じ、暫く考える。
――今年はらしく行こう。
心の中で思っていたことを声に出さずに呟く。その際、みなもが見ていたのかはわからない。
「ああ、せっかくだし参加してみるか」
「ふふっ、……あ、そういえばもうすぐぷちちゃん達の餅配りが始まりますよ」
「じゃあ先にぷちから餅を貰ってから、お礼がてら餅つくか!」
「はい♪」
「それじゃ行こうわぁっ!」
足を躓き派手に倒れる秀久。
当然のようにみなもを巻き添えにし、帯を握ってしまう。
「いてて……っ!」
「……」
帯が緩み、みなもの浴衣がはだけてしまう。
ギリギリ胸元までは見えないがみなもが顔を真っ赤に染め、肩や鎖骨も朱に染まる。
あれだ、凄く色っぽい。みなもは視線を外しぽそりと呟く。
「あの……流石にこんな所で」
「いや、違う違う!?これは「みなも、あの馬鹿は見つかっ……」……あ」
暫くお待ち下さい
「誤解!ただの事故だってーー!!」
「いつもそう誤魔化して逃げられるとでも!」
「誤魔化してないってー!!」
暫くお待ち下さい
「貴方みたいなふしだらな男にみなもを任せられないわ。ここで切り捨ててあげるから止まりなさい!」
「殺す気満々じゃねーか!新年早々死んでたまるか!」
暫くお待ち下さい
「あんたっ、絶対許さない」
「ごめん!わるい!靴紐の調子が悪くて!あ、でもみなもよりかは少な「殺す!」うわっ!危ねえ!」
暫く
お待ち下さい
「いてて……」
「大丈夫ですか秀久くん?」
結局ほのかに捕まった秀久は説教という名の折檻でボロボロにされ、みなもが澪次を呼び事なきを得た。
まあ100%秀久が悪いのだが、今年も不憫は絶好調のようだ。
「少しは加減して欲しいけど、本当のあいつと向き合えたから良かったよ」
「秀久くん……」
「わうー!」
「みぃみぃ!」
2人の元へちょこちょこと駆け寄るしゅうやんとみなちゃん。餅を抱えており、2人に差し出す。
「へえー、お前達が作ったのか」
「わうっ」
「ありがとう。後でお雑煮にしよっか」
「みぃ!」
ぴょんこぴょんこと嬉しそうに飛び跳ねるみなちゃん。しゅうやんもご満悦そうに腕を組んでいた。
みなもは2匹を撫でながら、不思議そうに首をかしげ秀久を見る。
「不思議ですよね、ぷちちゃんって私達と似ているのに性格は違うんですね」
「もしかしたら、その人の理想である側面とかかもな……」
「わう?」
「はい、おみくじになります」
「ど、どうも」
「ふふ、良い結果だといいね」
巫女服を着た女性に微笑みかけられ、秀久は照れくさそうに頬をかく。胸が大きい。
「早速見るか」
「随分……ご機嫌そうですね」
「え?そ、そんなことないぞ?」
「むう……」
「拗ねるなって……」
みなもを抱きしめ頭をポンポンと叩くように撫でる。
「う、うう……おみくじ開きましょう!」
「あ、逃げた。まぁいっか」
結果はみなもが大吉、秀久が大凶だった。
相変わらずといえば相変わらずだが、秀久はこの後の餅つきで顔から水の入ったバケツに突っ込むことになる。