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18years

※以前18歳の誕生日を迎えた彼ですが、物語とは関係ないため再び18歳の誕生日を迎えます。

あれだね、ループって怖いね。


「言わなくていいから!!」



12月24日が今年もやって来る。思い返してみれば、クリスマスという単語には縁がなく寧ろ大嫌いだったと今でも思う。

何故この日に生まれたのか、幸せに過ごす家族を横目に1人人込む街中をずっと歩いてきた。

そんな彼の唯一の幸せはある日送られてきたケーキだった。贈り主は誰なのか、何処から来たのかわからない。だが、彼の寂しさをケーキの甘さが僅かでも満たし、以降彼は大好きになった甘いものを食べ心の寂しさを埋めていた。

その夜送られてきたケーキを見て、彼はふと思った。

きっとサンタクロースは居るのだろうと。




「部長!誕生日」

「「おめでとう!!」」


クラッカーが一斉に鳴り、秀久の頬が緩む。

部室に集まっているのは部員の圭太や七海、白姫だけでなく、前年度部長の榊龍星、彼の彼女であり秀久の姉代わりである瀬川芹香、彼らと縁ある生徒会、書道部の龍清、陸上部の西麗や家庭科部のつぐみ、杉崎智、空之姫といった今まで関わってきた生徒らが彼を祝う。少し周りを見渡すと響が手を振っており、流牙は相変わらず腕を組んで黙っている。


「みんな、ありがとう……俺」

「黙って笑顔で受け入れろよ、今日はお前が主役なんだからな」

「………(幸せになる権利はみんな平等だよ)」


龍星がガシガシと秀久の頭を撫で、芹香は優しく微笑み、抱きしめた。彼が歩んで来た道を知っているからこそ、彼の緊張をほぐしている。

七海は深くため息をつき、秀久を何時ものように蹴飛ばす。


「なにボーッと突っ立っているんですか。そんな困惑した顔、さっさとか引っ込めてください」

「まあまあ、部長……改めておめでとうございます。黙っててすみません」

「お前ら…」


圭太はニカッと笑い、席へ促す。

七海は微かに微笑んでいた顔を引っ込め、響達の方へと歩み寄る。響は相変わらずの笑顔を見せるが、流牙の視線はさっきから窓へ行っている。


「珍しいですねー、貴方が祝いに来るなんて」

「ボクが誘っちゃったんだ〜。ほら、ダーリンてばヒデヒデに借りがあるし?」

「……なるほど、それを盾にして。案外怖いですね響さん」

「誤解を招くような事を言うな」


響は目を細め、弄るように流牙の頬を指でつつく。


「あれあれ〜?前に祝って貰ったのはどこの誰だっけ〜?」

「……チッ」


響も案外謎に満ちている……。

七海は彼女と流牙を見ながら目を細めた。


「おめでとうございます秀久さん」

「おめでとう、はいこれは私達から」


龍清と西麗からプレゼントを貰い、嬉しそうに笑う秀久。まるで子供のようで、偽りのない笑みに2人は顔を見合わせ微笑んだ。

さっきから智が写真を連写しているのだがあとでカメラを回収しよう。秀久はせりかさん達と戯れているつぐみの方へ向かう。


「せりかっかー!」

「ふんぬぅ!」

「ヒデくん、おめでとう」

「おめでとうございますですの、プレゼントです」

「ありがとなつぐみ、白姫ちゃん。もしかして、このケーキ」

「うん、せりかさん達が作ったんだよ。イメージ図はみなもちゃんだけどね?」


そう言って、せりかさんを秀久さん頭に乗せる。

せりかさんは得意げに胸を張っていた。


「へえ、凄いな……っ」

「ヒデくん?」

「秀久どうした?」


ケーキを見て急に黙り込んだからだろう。

つぐみと、彼女を肩車した龍星が声をかける。


「いや、何でもない。みんなありがとうな……澪次の奴遅れて来るみたいだから、ケーキ食べるのは」

「分かってますよ部長」

「相変わらず澪次さんが好きですね〜」

「ばっ……違うし!みなもだって後から……」


パーティーは夕日が傾くまで賑わい続けた。





「……どうしてせりかさん達が、あのケーキを」


一つの疑問を考えながら、帰路についていた。

せりかさん達はあの過去を知らない筈だ。では何故?

モヤモヤが晴れないまま、秀久は信号を渡る。

すれ違った親子が楽しそうに会話をする。ふと先ほどのパーティーを思い出し、秀久は眉を寄せた。


「そうか、……クリスマスってあんなに楽しかったんだ」


暫く人混みを歩き、彼方此方に並ぶ店から目的地を見つける。自然とそこへ足が向き、秀久は行きつけの洋菓子店で何時もと同じようにケーキを買いに行く。


「え?売り切れ?!」

「申し訳ありません!予想以上に人気だったもので……」


仕方がない、秀久は若干肩を落としつつも別のケーキを買い店を出て行く。

毎年食べていた程お気に入りだった為ショックは大きい。……あれに似ていたからだ。

せりかさん達のケーキも美味しかったが、その為余計にあの日の味を食べたくなってしまった。きっとさっきの店で買えたとしても余計に気持ちが膨らむだけだろう。


「なら、別のケーキで忘れてしまうか……」


ちょっとヤケになっている自分に苦笑しながら秀久は人混みから離れて行った。

すれ違ったカップルを見て、みなもが居ない寂しさに少しばかり胸が痛む。仕方ない、彼女は今日は用事があるのだから。




「ただいま……」

「お、お帰りなさい秀久くん!」


返事がする筈のないリビングからふんわりした声質だが慌て気味な返事が返って来る。

テーブルに皿を並べながらみなもが微笑む。彼女だ。

間違いなく、彼女が此処に居るのだ。

みなもはパタパタと秀久の方へ向かい、秀久からコートとみんなから貰ったのプレゼントを預かる。


「着替えてきて下さい、夕ご飯にしましょう」

「あ、ああ」


この際どうして居るのかなんて聞くのは野暮だ。

数分して秀久が再びリビングに向かうと、結っていたリボンを外し髪を下すみなもが居た。みなもは秀久の視線に気づくと椅子に座るように目で促す。

テーブルにはご馳走が並べられ、秀久の頬が緩む。


「すげえ、もしかしてこれを作る為に……」

「はい。遅れましたが、秀久くん……おめでとうございます」

「あ、ああ」


出会った時からずっと……、彼女のこの笑みに惹かれていたのだろう。みなもから貰ったプレゼントは彼のイメージカラーでもある赤い帯の腕時計だ。


「……ん?」


秀久の視線がケーキへと……。

目が微かに見開く。

……似ている。似ているのだ。


「秀久くん?」

「みなも、このケーキ……」

「はい、っていきなりケーキから食べるのは!」


自然と涙が溢れていた。

あの日食べた、寂しさを埋めてくれたあの味だ。


「……美味い」

「え、えと……」

「……」


一つ思い出したことがある。

昔、一度だけ……一度だけクリスマスイブの日に見知らない少女と遊んだことがあった。

少女に秀久はクリスマスはいつも1人だと話した。

自分の誕生日だということも話した。

……それが、あの日だった。あの日だったのだ。

秀久は涙をぬぐい、首を傾げるみなもを他所に1人頷く。

そうか、そうだったのか。

……初めて幸せをくれた人……。ただの孤独に価値を与えてくれた。


「……ありがとな、俺のサンタクロース」

「は、はい、へ?え?」


秀久は困惑するみなもの頬に軽く口づけを落とした。

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