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勉強if

「うー〜!もう無理ーー!」


机に突っ伏しチラッと俺を見る。そしてまた唸りチラッと見る。

それを何度か繰り返し、ノーリアクションの俺を見て再び唸る。


「ねー何で無視するのー!」

「どうせ答えわからないから教えてくれって言うんだろ」

「何で分かったの!?秀久君エスパー!?」


顔に出てるからな……。

深いため息をつき、俺は手元の本に視線を落とす。最近雷から借りたのだが、これがまた面白く夕日が傾くまでつい読み耽ってしまった。

ノベルスサイズの小説だが頭の中にスラスラと入って行くし手が止まらない。通りでぶっきらぼうな彼もハマるわけだ。


「無視しないで……助けて下さい」


とうとうに半泣きになった時雨希林。

傍らには山積みの教材がある。俺はまた深いため息をつき、小説を閉じる。

双子の兄である雷からは絶対教えるなとは言われていたけど、流石に可哀想だしなぁ……。


「何処に苦戦して……、おい待て、これ2時間前に解き始めたよな!?」

「だって、……私、XとかYとかZとか全然わからないだもん!」

「Zはやめろ!今ギリギリラインな発言だからな!?」


確かに今回のテストは結構難しかった。

特に数学は希林の苦手科目であり、試験前の1週間もずっと唸っていたしテストが終わった後なんてこの世の終わりみたいな顔すらしていた。

結果として、明日追試があるわけだけど、彼女の場合単位すらかかっているらしい。呆れ果てた雷は監視をして瓶詰め状態にしたかったわけだ。

けど……


『すまん秀久……、つぐみの家に呼ばれてるんだ。悪いが監視役を頼まれてくれないか?』


との連絡が入り、俺は快く了承した。

兄として心配してるんだなと返したら即座に否定されたが彼も彼で分かりやすい。


「くぅう、お兄ちゃんめ……、まさか最終兵器秀久君を搭載して来るなんて……」

「俺はロボットか、ほら、ペン持て」

「うう、ゲームしたい」

「却下、終わったらな」


そんなやり取りをしながら勉強を進めること数十分。

希林に数式と解き方を教え、暫く放置をしていると出来た!と声が上がる。

俺は彼女の数式を見下ろし、間違いがないか確かめていく。意外だ、あんなに時間をかけていたのに、教えたらあっという間に解けている。もしかしたら、彼女には1から教えた方がかなり効率がいいのかも知れない。


「全部正解だ、やれば出来るじゃねーか」

「えへへ〜〜わけないよっ」


無い胸を張り、得意げな顔をする。

……栄養は全部その健康さに吸われたのか。


「いでででで!?」

「な、に、か、言った?」

「な、なにも!タップタップ、首締まる……」


笑顔で開放する希林。

おかしいな、口に出してない筈なんだけどな!

無いって言ってもBくらいはあるし、……よし、黙ろう。


「もうこんな時間か……雷も遅くなる言ってたしな」

「え?お兄ちゃんなら今日泊まるって言ってたよ?」

「え!?あ、そうか明日休みだもんな……」


困ったと俺は軽く頭を抱える。

そろそろ帰らないと芹香姉さんから心配されるし、かと言って希林を放置したら間違いなくゲームに向かって行くだろうし……。

仕方ない……。


「夕飯食べた後はこの問題解くぞ」

「へ?もしかして、秀久君泊まる……?」

「単位落とすわけにはいかないだろ、雷も帰らないし」

「…………」


希林がベソを落とし硬直する。

ん?あ、あれ?何かまずいこと言ったかな?


「そ、そそそうなんだ!じゃ、じゃあ夕ご飯作らなきゃね!」

「それなら俺が作「いいから!大丈夫だから!秀久君はテレビでも観てて」いっ!?」


リビングの椅子から立ち上がろうとし、膝を強く打ち付けた。痛い!打ち所悪かったのか凄く痛いし、希林はエプロン付けてキッチンに向かっていったし!てか、はや!?


「ひ、秀久君、に、に肉じゃが好き!?」

「え、ああ、うん」

「じゃ、じゃあ今から作るから……」


顔を赤くしながら手際よく料理に取り掛かる希林。しかし何だろうか、あの慌て様は……。

テレビの画面を暫く眺めていたが泊まる以上はやっぱり何かするべきだ。

……いや、寧ろ。


「そもそも着替えとか持って来なきゃな、希林、ちょっと出てくる」

「え?あ、ああ、うん、行ってらっしゃい」


笑顔で手を振られ、俺は踵を返して時雨邸から出て行く。

……、何だろうこのむず痒い感覚。



「お帰りなさい!ご飯にする?お風呂にする?そ、それとも私!なんて……」

「風呂掃除もやったのか、悪いな……」

「……うう、リアクションが薄い」


彼女は何故泣いてるのだろうか。



「美味いな……」

「ホント?よかった〜」


夕ご飯の感想を言ったら、彼女はまたいつものテンションに戻ったのだった。



「よし、明日は大丈夫だろ……」


腫れたほおを冷やしながら、俺は採点をした終えた。

この腫れはあれだ、……その、お風呂に入ろうとして希林が入っていたことを忘れててこう……バッタリと。


「はあーー、終わったー」

「お疲れ様、ココアでも飲むか?」

「……うん」


あまり慣れないことをしたせいか、希林は疲れたような目でココアを飲んでいた。俺も自分用にブレンドしたココアを飲みほし、明日の予定を整理する。杉崎の手伝いと、響さんの秋獅子捕獲作戦……あとは……


「秀久君?」


静かに寝息を立て、ソファーにもたれかかるように眠る秀久。肩が上下し、少し疲れているようにも希林には見えた。暫く寝顔を眺めていたが、希林はココアの入ったカップを置き膝立ちで秀久の方へ近づき……


「たまにはゆっくり休んでね、ありがとっ」


秀久の顔からゆっくり離れ、赤くなった顔ではにかむ。教材をしまいながら、明日は合格するぞと1人静かに意気込む彼女だった。

翌日彼女は満点を取り、秀久はいつもよりバリバリと人助けに努めたのはまた別のお話。

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