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秋の終わり

ひぐらしが鳴く夕暮れ。

太陽がもっとも赤い光を放つその時間。

電車の通過する音が耳を突き抜けていく。

ガタゴトと音を鳴らす一つ一つが刻むように、揺れるように。

夕闇に照らされた影は動きも見せない。ただ、真っ直ぐに伸びている。

何故?

そんなの決まっている。

彼らはなんだったのか。

影が動きを見せた。

見上げるように、そして止まる。

情けない。

情けない。

情けなくて、

夕闇が赤みを増す。

ゆっくりと傍らにある机を見る。

影が大きな動きを見せる。

派手な音を撒き散らし、文房具やお気に入りの玩具、スポーツ用品など散らばる。

徐ろに、彫刻刀を握りしめる。

太陽が沈む前に、太陽は床を真っ赤に染めた。



「……」


腕を組んでいた手を外し、もたれ掛かっていたベンチから身を起こす。

黒いコートを羽織り、シャツの襟を直す。随分と寝ていたようであまり人が通らないこの道も、少し賑わう。分かる人には分かる隠れスポットでもあり、老人が集まってお茶会を開いたりしている。

騒がしくない分、出来ている老人達だなと流牙は自己完結させる。


「……」


場所を変える為森林とベンチが並ぶ道を進む。

優しい木漏れ日は彼には過ぎたものではあるが。


「よ、秋獅子」


足を止め、いや止められたに近い。

流牙の表情は一瞬にして不機嫌全開になり、目の前の原因は思わずたじろく。

誰だって出会いたくない、会いたくない、顔すら見たくない人間がいるだろう。彼の場合は今目の前で気まずそうな顔を浮かべている少年だ。


「休日すら貴様に時間を割くほど、俺は暇ではない」

「そんな言い方無いだろ?……俺だってな……」


秀久はそこまで言うと言葉を飲み込む。違和感を覚え、流牙は眉をひそめるが小さくため息をつく。

相変わらず影もない顔をしている。

まるで、太陽のように眩しく煩わしい。


「退け、貴様も暇ではないならこんな所で時間を無駄にしている場合ではないだろ」

「何で一々言い方に棘があるんだよお前は!たまには普通に話せないのか?」

「……そんなものは、忘れた」

「え?何て?」

「忘れろ」


何故あんなことを言ったのだろうか。

流牙は秀久を通り過ぎ、彼とは逆方向の道を進む。


「秋獅子……」


決して、二人は交わることはない……。



「相変わらずお前の方向音痴には呆れる」


流牙は苦笑いをしている少女の方へ近づいていく。

方向音痴で留年という、普通ではあり得ないことをしてのけた響。そこまで気にしてなかったのが仇になったのか、彼女の迷子になる流れを読み取れなかったのが悪かったのか。

彼女自身はさして気にしていないのだろう。


「えへへ……ごめん」

「場所の記憶くらい出来ないのか」

「試してはみたんだけどね〜」


天然さ故か。

流牙は帰るぞと踵を返し、響が慌てて追いかけてくる。

いつものことだ。響は流牙を好いている、理由はそれ以外必要もないだろう。

だが彼女の猛烈なアピールを、流牙はいつものように流してしまう。響は顔も良く身長も高く、バストは男なら誰しも見てしまう程大きな形をしている。お尻も大きく、グラマスなボディとはまさにこのことだ。

グラビアアイドルなら間違いなく爆売れするだろう。

性格も明るく、彼とは正反対だ。


「ダーッリン」

「!…。その呼び方は止めろと言った筈だ」


いつものように背中に飛びついて来た響だが、不意に呼ばれたその名前は流牙を思わず振り向かせた。

響がぱあっと満面の笑みを見せ、しまったとばかりに顔を背けた。


「りゅーが、今反応した」

「……なんのことだ」

「絶対反応した!やっぱりダーリンの方が「止めろ」ぶうっ」

「何故拗ねる」


つまらないばかりに口を尖らす響。


「大体さ、りゅーがは無反応過ぎだよ!ひでりんの方がよっぽどーー」


目を見開いているのがわかった。

強引に引き寄せ、蹂躙する。

つーっと糸が出来上がり、響は必死に息を整えていた。


「はぁ、はあ……りゅ、流牙?」

「奴とだけは比べるな」

「あ、あはは……はぁ、はあ……スイッチ入っちゃった?」

「帰るぞ」


再び踵を返す流牙。

我を取り戻した響は慌てて駆け寄り、流牙の腕に抱きつく。


「歩きづらいだろ」

「むー、流牙はロマンが足りないなあ」


知ったことではない。

そんなものは必死ないのだから。

故に彼は彼女を突き離そうとはしない。

彼女は彼女のままでいいのだから。


「りゅーが、りゅーがは相変わらず無愛想だね」

「……ふん」

「そんな所もボクは好きだよ」

「………後悔するぞ」


この後彼女が返す言葉はわかっている。

流牙は表情を変えないまま、静かに耳を傾けた。





「あいつ……なんであんなに暗い顔してたんだろ……」


昼間の出来事を思い返し、秀久は天井を見上げていた。明らかにいつもの彼ではなかった。

胸に引っかかるもやもやが晴れず、秀久は隣で髪を下ろしているネグリジェのみなもに膝立ちで歩み寄る。

みなもは困ったように笑いながら、ベッドに足を乗せた。


「きっと、秋獅子さんも悩みがあるんじゃないでしょうか」

「悩み?あいつが……」

「……秀久君は鈍いですからね……」

「酷くない!?」


くすくすと笑うみなもに、秀久はポリポリと頬をかく。本当のことではあるのだが……。

秀久は布団に潜り込み、みなもは軽く苦笑しながら己も布団に入ると秀久の胸板に頭を預けた。


「おやすみなさい」

最後はおまけですV

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