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水面の心

今日の気温は何時もより更に高い。夏の苦労と言えばやはりこの体中から汗が噴き出る暑さだろう。

勿論、そんな暑さ、夏だからこそ開ける場所も存在する。

水を最大限に満喫出来る場所……、例えば海水浴場……、プール。

桜花中央地区にある『アクアランド』はウォータースライダーやライブイベント、ゲームなど沢山のアトラクションを楽しめる巨大プールだ。

秀久は日陰のいい席にテントを立て、ぐっと体を伸ばす。


「しっかし、流石都市最大のプールだぜ。人も凄いが、それ以上の面積だ」

「ヒーくん……お待たせしました」

「ああ、みな……」


絶句。

秀久だけでなく、周りの視線も集まる。

白いビキニに金色の髪が映える。首の後ろで結ばれている紐と胸元、腰には小さな赤いリボンがアクセントを出している。

白い肌はきめ細やかで、腰はくびれて手足も長くスタイルはかなりのものだ。彼女の動きに合わせて大きな胸が揺れる。

おぉ……と周りから歓声が上がり、我に帰った秀久が慌てて目を逸らす。


「に、似合ってるぜ……とても」

「本当?」

「あ、ああ……」

「良かったぁ……ヒーくん♪」

「~~!!」


ちらっと目を胸元に向け、鼻を押さえる。みなもは嬉しそうに秀久へ抱きつき、秀久は急ぐように鼻を摘む。

みなもは気づいていないのか、小首を傾げ秀久の口から赤い血が飛び散った。


「ひ、ヒーくん!?」

「……ああ、逆流しちまった。……みなも、ちょっと横になるわ」

「あ、うん。はい、どうぞ……」


みなもは下にクッションを敷き、シートの上に座る。秀久はのそのそと真っ青な顔を置き、微動だにしなくなった。


「昨日も遅かったし、疲れてるんでしょうか?」


と言っても本人は寝ているのか、気を失っているのか分からない状態だが。

みなもは、彼方此方で遊んでいるカップル達を見つめつつ、ため息をつく。

羨ましい、ああやって甘えることが出来ない自分に損した気持ちだ。


「……私の性格じゃどの道……」

「何弱気になってんだよ」

「……ヒーくん?」


秀久は身を起こし、みなもにちょいちょいと手招きをする。疑問に思いつつ、近づいた瞬間、足を掬われ秀久が姫抱きをしていた。


「もっと甘えて来いよみなも。俺はいつだって待ってるぜ」

「……ヒーくん」

「よっしゃ、時間勿体無いし泳ぐぞ!!」

「ふえ!?ま、待って私泳げ……きゃあああああ!」


巨大プールに投げ込まれ、水しぶきが上がる。秀久は直ぐに飛び込み、みなもを支えて水から顔を出す。困ったような顔をするみなもに秀久は平謝りをする。


「辛気くさい顔してたからな。水に浸かれば治るかなって」

「……いきなり投げ込まれたら怖いですよ」

「悪い悪い。……って言っても、その顔見たさにやって……いだだだだだだ!?頬を抓るなー!」

「流石に許しません!ヒーくんの馬鹿馬鹿!」


普段では見られないみなもの怒った姿。秀久は微かに微笑み、反撃とばかりに水をかける。


「きゃ!」

「ほら、水に慣れないと泳げぶほおおお!?」

「ヒー……くーーん!!」


水鉄砲というよりアクアモデルガンでは無かろうか。

秀久の顔面を水流が直撃し、水の中に倒れる。

エアガンを構えるみなもの顔が綻んだ。たまには、感情に身を任せるのもいいかもしれない。

自分の中に閉じ込めてた想いを開いた秀久に感謝しつつ、彼との合戦を楽しんだ。


アトラクションやイベントを堪能しつつ、不憫な秀久を介抱するみなも。

ウォータースライダーではうっかり秀久がみなもの果実を触った為、それを偶然見た係員によって頬に大きな紅葉が出来上がっていた。


「ごめんねヒーくん……座る位置が悪かったです」

「気にするなよ。今までに比べればみなものは一番優しい方だし」

「……で、でも……」

「胸揉まれて嬉しい女なんていないだろ?」

「ヒーくんになら……」

「え?何?」


鈍い。

みなもはため息をつき、秀久は先ほどのことに頭を抱えていた。


(みなもは胸揉まれても抵抗しねーのか?……それって色々やばいよな)

(ヒーくん、興味ないのかな?……でも、あの時は鼻血出してたし……)

(やっぱ、ちゃんと教えとくべきだよな……)

(……やっぱりちゃんと聞いてみるべきかな)


「「みなも!ごめん!(ヒーくん!ごめんなさい!」」


ムニュッと弾力のある音が伝わる。

同時に秀久と頬を赤らめているみなもが顔を見合わせた。


「み、みなもさん?えと……」

「ひ、ヒーくん?あの…………」


みなもの胸を掴む秀久の右腕を引き寄せるみなものも両腕。

お互いに目を丸くし、秀久が先に尋ねる。


「みなも、何で俺の右腕を自分の胸に押し付けてるんだ?」

「へあ!?あにょ……それは、ひ、ヒーくんが、お、女の子の体に興味ないのかなって……ヒーくんこそどうして……」

「あ、え、えと……それはみなもが俺に胸揉まれた時抵抗しなかったから……それは不味いんじゃないかとって俺はちゃんと興味あるからな!?」

「そ、それなら私だって、普通は抵抗します!……ヒーくんだから……その」

「え……」

「あ……」


お互いに顔が真っ赤に染まり、それを見た周りの客がコーヒーを求めて歩き回っている。

意を決して秀久が迷いを振り切り、顔を上げる。


「それって……俺のこと「隙あり~♪」ごふ!?」

「ヒーくん!?」


フラグクラッシャーの如く現れたのは七海だ。後ろから圭太や龍星達も向かって来ている。

何で……。

秀久が唖然とする中、みなもは龍星達に駆け寄って行く。


「……何でみんなが……」

「やっぱりこういうイベントは皆で楽しまなあかんやろ♪」

「みく……!?」

「…………(雰囲気に耐えられなくなって出て来ちゃった♪)」

「芹姉ちゃん!?」

「ちょっとは進展したし、結果オーライじゃない?」

「……澪次………」


今までのことが泡になったように、秀久はガクリと肩を落とした。


「…………(ほら、元気出す出す。それに、みなもちゃん変わった気がしない?)」

「え……確かに噛まなくなった……けど」

「……(きっとすぐにわかるよ♪)」


芹香の言った言葉に首を傾げつつ、秀久は碧い海を眺めた。

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