MOD 2
『今度の学校が最後だと思え』
そう言ったのは、幼い頃に捨てられた少年を“引き取らされた”養護施設の男。その男は理事長とはとても思えぬ風貌をしていた。苦虫を噛んだような顔、歩く足音は騒音に近く無駄に煩い。それに加え、常にブツクサと独り言が淡々と繰り返されている。
―聖マリシア学園―
『…何が“聖”だよ。笑わせる』
少年は車越しに見えた“聖マリシア学園”の看板に、悪態を吐く。理事長の男は、そんな少年に向かって
『確かにお前には似合わねぇ名前の学校だな』
そう言うと大笑いして見せた。そのあとに
『さっきも言ったが、この学校が最後のチャンスだ。この学校も“燃やす”とか馬鹿な考えはするなよ?』
と、理事長の男は念を押した。
『…俺が燃やしたって証拠あんの?』
以前、とある高校が炎上し、ニュースで大々的に放送された。死者32名、けが人146名を出したその“事故”は、少年が通っていた高校だった。火災が起きた原因は不明、放火と疑われたが証拠が一切ない状況では事故として扱うしかなかったようだ。
『まぁ、ここの学校だったらお前は好き勝手できねぇだろうから、ぶち込むんだがな』
理事長の男が言ったその言葉に、一瞬、むっとした顔を見せる少年。まるで“どういう意味だ?”と訊きた気の顔だ。その表情に応えるかのように理事長の男は言葉を続けた。
『ここに通っている連中は“普通じゃねぇ”って事さ。要は…夏生月…お前と同じって意味だ』
少年、夏生月は聖マリシア学園に転入した。