第一部 はじまり
中学2年の冬、私はある出来事から、いじめられるようになった。
それまでの私は成績は平均くらいだが、人見知りが激しく一般的には根暗といった印象の少年だったが、それなりに似たタイプの友達がいたりと、大きな問題もなく中学生活を送っていた。
だがそれは些細な事から一気に破綻していった。
冬の厳しさが続く2月初旬のある日、藤井という隣クラスの男がいきなり声を掛けてきた。
「おいっ放課後ちょっと時間作れよ」
藤井という男は、髪を金に染め、ピアスを複数個付けている、いわゆるヤンキーと呼ばれる種族だった。
「え!?何」
ほぼ初の会話がこれだったので、私の声は情けない程裏返った。
「いいから、放課後教室で待ってろよ」
容赦無く畳み掛ける藤井の言葉に私は真意をくみ取ろうと精一杯の力で藤井の直視に直視で返すが、そこには一片のブレもなく私を睨みつける鋭い眼光があった。
「……う、うん分かった」
僕はそう言うと、藤井は無言で立ち去って行った。私は藤井の背中を見つめながら、ここまでの中学生活では味わった事のない嫌な予感に包まれていた。
終礼が終わり、クラスの生徒大半が部活動や帰宅し、クラスには雑談をしている数名の女子のみとなっていた。それから10分ほどして藤井がのんびりとした様子で教室に入ってきた。藤井の後ろに見覚えのある2人が立っているのが見えた。
「おう、待ってたな」
藤井の言葉は午前中に声を掛けられた時より、やや柔らかいトーンだったがやはり目は笑っていない。緊張しているのがばれないよう私も冷静を装い、小さく頷いた。
汗が頬を伝ってくるのが分かった。
後ろに立っていたのは藤井といつも一緒にいる取り巻きの2人、金子と湯浅だった。
2人も教室に入ってきたが表情は藤井と違い、ニヤけた感じで僕に近づいてきた。
「おめー、あんま舐めた真似してんなよ」
藤井は急に語気を強めて私に言った。
その言葉の意味はまったく理解出来かった私も、一つだけはしっかり理解出来た。
やはり嫌な予感は的中したと。
少しの間、返答に窮しているとドスッと勢い良く胸ぐらを掴まれた。
教室に残っていた女生徒も異様な雰囲気に気づき、雑談がピタリと止まった。
そこでそれまでニヤけながら立っているだけだった、金子が口を開いた。
「おめーバレないと思ったの」
金子は半笑いのまま私に問いかけてきた。
私の思考回路は混乱寸前。必死に原因を模索していたが
「……ごめん。何の事か分からないです。教えて下さい」
私は自然と敬語になっていた。
ガシュッ!!
胸ぐらを掴んでいた藤井の手が今度は私の髪の毛を強引に掴んだ。
全身から汗が吹き出し、顎から床にポタポタ落ちていった。
「おめー、次同じ事やったら覚悟しとけ。分かったな?」
まったくもって意味不明な展開だったが私はとにかくこの危機的状況を一刻も早く抜け出
したい一心だった。
「はい‥…」
私は肩を落としてそう言った。
最後、それまでニヤけていただけの湯浅は噛んでいたガムを私の顔に付けて3人は教室を後にした。
その日は部活もあったが、そんな気分ではなく誰とも会いたくなかったので、ひっそり素早く家路についた。