もう一度、年の差を越えて
さやかは、今年40歳を迎えようとしていた。会社では、おつぼねさまと呼ばれ、煙たがられていた。いまだ、独身貴族である。自由を謳歌して、人生を楽しんでいた。
いつものように、週末の昼下がり、1人ランチをしていたのだ。隣の席には、若そうな青年が1人で座っていた。さやかは、どうせ、彼女と待ち合わせだろうと、チラリと視線を送った。
注文が、終わり、さやかの料理が届いた頃、
隣の席の青年が、おもむろに、「お一人ですか?もし、そうなら、相席よろしいですか?」と、聞いてきたのだ。よく見ると、なかなかのイケメンだった。断る理由は、なかった。さやかは、言った。「どうぞ。」
席に座るやいなや、その青年は、自己紹介をはじめた。「おれ、鈴木良介っていいます。年は28歳です。証券会社に勤めてます。どうぞよろしくお願いします。」礼儀正しく、挨拶をしてくれた。感じはとても良かった。
でも、まさか、年齢が、28歳には、見えなかった。自分と、一回りも、違うのか、と、さやかは、驚きを隠せなかった。
一方、良介は、良介で、さやかが、自分とは、近い年齢だと思っていた。
さやかも、自己紹介をした。さやかは、一瞬、年齢を言うべきか、迷っていた。でも、たまたま、相席しただけだから、言わないでおこうと、思った。「私は、佐藤さやか。銀行に勤めてるわ。よろしくね。」社交辞令で、いいと思った。
さやかは、料理に手をつけ始めた。なんとなく、落ち着かなかったが、気にしないで食べた。良介の料理も、運ばれてきた。良介も、食べ始めた。とてもおいしそうに、ほおばっていた。
2人とも、料理を食べ終わり、食後のコーヒーを、飲んだ。
良介が、きりだした。「もし、よろしければ、連絡先を交換しませんか?」「彼氏は、いらっしゃるんですか?」
矢継ぎ早に話してきた。
さやかは、返答に、迷っていた。「彼氏は、いないわ。」そう答えた。もし、連絡先を教えたらどうなるのだろう、と思いつつも、良介に、連絡先を、教えてしまったのだ。
さやかは、良介とは、友達以上には、なれないと思っていた。到底、まじめなつきあいには、ならないほどの、年齢差だと思っていたからだ。
連絡先を交換して、その日は、わかれた。
それから毎日の様に、良介の方から、さやかに電話がきた。いろんな話しをした。生いたちのことから、学生時代のこと、恋愛経験や、両親のこと、兄弟のことなど。
話していくうちに、良介は、どんどん、さやかのことが好きになっていった。
さやかは、年齢のこともあり、ただの友達感覚だった。
ある時、電話で、良介から、「真面目に、つきあってください。」と、言われたのだ。さやかにとっては、とうとう、くるべき時がきたな、という思いで、聞いていた。
なら、今ここで、年齢のことを言おう、と思った。そしたら、あきらめてくれるだろう、と、思いながら。
「実は、私は、もうすぐ40歳になるの。あなたとは、一回りも、違うのよ。だから、付き合えないわ。」さやかは、言った。
良介は、しばらく、無言になった。「ふぅ」
と、ため息をもらした。
「年齢は、離れてるけど、最初に会った時から、好きでした。」良介は、言った。
「だから、おれと、真剣につきあってください。」「返事は、急がないから、考えてみて。」と、良介は、続けていった。
さやかは、驚いた。動揺を隠せなかった。
「なら、遊びでつきあいましょう。」とっさに、口から、出てしまった。その言葉に対して、さすがの良介も、怒ってしまった。「いい加減にしろ。人が真面目に話してるのに。」
さやかは、良介の言葉に、ビックリした。
泣きたくなったが、我慢した。
良介は、「今日は、これで。」と言って、電話を切った。
良介の真剣な気持ちを聞いたさやかは、考え直していた。ダメもとで、つきあってみよう。どうせ、別れることになるかもしれないのだから…そう思うように、なっていた。
次の日、良介から、電話がきた。「昨日は、怒って、ごめん。」
さやかは、言った。「こっちこそ、怒らせて、ごめんね。」続けて、さやかは、「昨日の返事なんだけど、私達、つきあおう。よろしくね。」
それからは、2人で、デートを重ねた。食事に行ったり、カラオケに行ったり、飲みに行ったり、楽しい日々が続いた。
ある時、良介は、さやかに、「俺たち、そろそろ、結婚しないか。」といった。「俺と結婚してください。」
さやかは、言葉につまった。さやかは、心の中で、いまだに、この、年齢差で、結婚しても、うまくはいかないのではないかと、思っていた。
口に出た言葉は、「別れよう」の、一言だった。
良介は、本当に、怒ってしまった。「それなら、別れよう。」売り言葉に、買い言葉だった。
結局、2人は、別れを選んだのだ。
もう、良介からの、電話は、くることはなかった。さやかは、寂しくなっていた。くる日もくる日も、涙にあけくれていた。
良介は、良介で、なんで、あんなことを言ってしまったのか、と、後悔していた。
さやかは、もう苦しみたくなかった。
職場の上司から、お見合いの話がきたのだ。
お見合いの相手は、さやかにふさわしい年齢の人だった。
進まぬ気持ちのまま、さやかは、お見合いをすることにした。
見合い当日、相手の人と会って話しをしていくうちに、ハッキリと、自分の気持ちに気づいていった。
やっぱり、私は、良介が好き。年齢は、関係ない。
後日、上司に、お見合いの話を断った。
良介は、後悔して、もう一度、年の差を越えて、やり直せないものかな、と、深く落ち込んで、考えていた。
月日は、どんどん、ながれていた。
2人の接点は、もう、どこにもないように思えた。
良介は、やはり、もう一度、さやかと、やり直したい気持ちで、いっぱいになっていた。
自分が、行動を、起こさなければ、この恋は、永遠に封印されてしまうのだと思った。
意を決して、良介は、さやかに、電話をした。出ないかもしれない、と、思いながら…
さやかも、さやかで、自分から、良介に電話をしようと思っていた矢先だった。
「もしもし」聞き覚えのある、さやかの声だった。お互いが、言葉にならなかった…
良介は、思い切って、言った。「明日、俺たちが、はじめて会った、あのレストランで、会えないか。」さやかも、言った。「わかった。」
良介は、嬉しさのあまり、涙をこらえるのが必死だった。
次の日、はじめて会ったレストランで、2人は、会った。ちょうど、はじめて会ったときのテーブルが、あいてたのだ。2人は、どちらからともなく、その席に、座った。
料理も頼まぬままに、良介は、言った。「俺たち、もう一度、年の差をのりこえて、やり直さないか。」さやかは、こくりと、うなずくだけだった。そして、涙ぐんでいた。
良介は、どんなことがあろうと、もう二度と、さやかとは、離れたくないと、思っていた。それは、さやかも同じだった。
2人とも、年の差のことは、絶対に、のり越えて、これからの人生を歩んでいこうと、決意したのだった。




