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少女と廃城と黒いお兄さん

   おそらの おしろに ことりのこ

   つばさを いためて おりてきて

   おうさま みつけて うれしくて

   すてきな おくにが できました


 鼻歌混じりに森の中を歩く。今日のわたしは探検家だ。わたしはもう6才なんだから、ひとりで何だってできる!

 大きな布を縛って作った斜め掛けのリュックサックを背負いなおして先に進む。途中で手ごろな木の枝を拾っては素振りをする。今拾ったこの枝は長さ、重さ、太さは申し分ない。

 うん、これはいいものだ。

 木の枝を地面に引きずり、背の高い雑草を振り払っていく。時折バッタや蛾が飛んでくるけどそんな程度じゃ驚かないわ。


「金は山ほど高くなり~」


 歌を歌いながら奥へと進む。先にはまだまだ森が続いている。

 その中の1本が目についた。森の中とはいえ日は高い。曇りない空でこもれ日が目を刺す。なのにその木は黒かった。

 黒い木に近づいてみる。いや、木というには低い気がする。それもそのはずだった。


「こんにちわ?」


 木と思っていたものはびくりと反応する。

 まっ黒のくつ。足首ぐらいの長さのまっすぐなコート。黒い手袋をしていて四角く大きなカバンを持っている。口もとは襟で隠れているけど黒い帽子は目を隠せれていない。顔色が悪いわけではないけど顔が色白く見える。下から上まで真っ黒のその人はわたしの方を向く。


「見たことない洋服。なんで黒いの?」


 その背の高い人は困ったように辺りを見回した後に、


「君こそ、こんなところに一人で何をしている?」


 低い声。この人は男の人だ。


「決まってるでしょ。冒険よ!」


 リュックサックを見せつけ、木の棒を高く掲げる。男の人は呆然と見ている。


「お兄さんこそ、ここで何をしてるの?」

「私?私は・・・・・その・・・・・」


 お兄さんは困ったようにまたきょろきょろとし始める。くちべたというものかな?わたしの方からお話しようと口を開く。



 

なんで今思い出しちゃったんだろう、お姉ちゃんから聞いたお話。

森の中で黒く背の高い人を見かけたら絶対に話しかけてはいけない。

話しかけたらその人は暗い森へと連れていく。

そしてそのままえいえんに森をさまよってしまうのだ。

そいつの名前は・・・・・




 恐怖でのどが締め付けられたかのようになり声が出ない。

 うしろに逃げようとしたけど足がもつれてしまい後ろにこけた。そいつはそれに気付き手を伸ばす。


「わっうわぁ!」


 木の枝をそいつに向けた。


「どうした?」


 そいつはとぼけたように話しかける。

 締め付けられたのどを無理やりこじ開け声を上げた。


「あ、あなた、もしかして『ほそながさん』でしょう!」

「・・・・・ほそながさん?」

「だまされないよ!そーやって人をだましてきたんでしょう!」


 枝を振り回しながら後ずさる。

 だけどそいつは枝をあっさりと掴む。振り払おうとするけど全然払えない。


「・・・・・そうだな。私は『ほそながさん』だ。」


 そいつは冷酷に言う。やっぱり!お姉ちゃんが言ってたことは本当だった!でもどうしよう?どうすればいいか何か言ってたっけ?

 頭の中はぐるぐるするけど分からない。そして気づいた時にはそいつの手は目の前まで伸びていた。

 もうだめだ!わたしは目をつぶった。


 ・・・・・・・・・・・・・。

 

 その手はわたしの頭にぽんと乗る。そしてお兄さんは言った。


「ところでその『ほそながさん』は何をするんだ?」


 なにがなにやら分からないけど、質問に答える。


「子どもを暗い森につれていく・・・・・。」

「なるほど。今は明るいから無理だ。」


 お兄さんは手を放した。木の棒からも。


「子どもが一人でここにいたら危険だ。早く帰れ。」


 立ち上がり離れようとする。

 怖さは落ち着いてきたけど、今度は怒りがこみあげてきた。


 子ども扱いされた!


「やだ!まだ帰らない!まだ冒険の途中なんだから!」


お兄さんはため息を付く。


「本当なら君は既に連れ去られている。もし本物の『ほそながさん』にあったらどうする?ただ棒を振り回していれば逃げ出すようなものとは思えないが。」

「やだったらやだ!子ども扱いしないでよ!わたしはお城に行くんだから止めないでよ!」


 一通り怒鳴った後お兄さんを睨んだ。

 お兄さんの目が合う。さっきとは違う冷たい目で何も言わずわたしをじっと見つめている。多分、怒っている。湧き出てあふれ返っていたはずの怒りも言葉も抑え込まれてしまった。


「ご、ごめんなさい、わがまま言っちゃって。」


 お兄さんははっとして目を逸らし、


「あ、いや、そういうわけでは・・・・・。」


 口があるだろう所に手を当て少し黙った後、しゃがみ、伏せていた眼をまたわたしの方に向けて


「すまない、怖がらせてしまって・・・・・というより怒らせてしまって。お詫びと言っては何だが、私をそのお城への冒険に同行させてくれないか?」

「え?」


 どーこーって何?


「君一人ではとても危険だ。それでも君は行くんだろう?心配だから付いて行っていいか?」

「一緒に行ってくれるの?」

「ああ。今から私は君の傭兵だ。いや、用心棒か?もっと分かりやすく言うなら・・・・・仲間か。」


 よーへー・・・・・よーじんぼー・・・・・仲間!


「すごくうれしそうだな。」

「だってうれしいもん!それじゃあ、よろしくおねがいします!」

「ああ、よろしく。」


 相変わらず口元は見えないが多分笑ってくれていると思う。


「場所は分かるのか?」

「うん、大丈夫。こっちだよ。」


 先を歩く。彼も後をついてくる。


「ところでスレンダーさん。」

「スレンダーさん?」

「スレンダーさん。」お兄さんを指さす。

「お兄さんは細長さんだけど『ほそながさん』じゃないから、スレンダーさん。」

「なるほど。」


 お城まではまだ距離がある。木の幹を確認しながらお話を続ける。


「なんでまっ黒な服を着てるの?」

「そうだな。決まりみたいなものがある。」

「ふーん、変なの。」


 道を間違えているようなのでさっきの木に戻って方向を確認する。


「そのカバンの中には何が入ってるの?」

「仕事道具が入っている。」

「かっこいい!わたしのはね、食料と水筒が入ってるの!これで冒険をするの!」


 木を辿っていくと1本の枯れた木の前を通る。お城はもうすぐだ。


「城の場所はどうやって知ったんだ?」

「迷子になったときに見つけたの。また行きたいなと思って、村のおじさんに連れて帰ってもらったときにこっそり木に印を付けてたの。それにまた迷子にならないようにもしてるよ。」


 木の棒を地面にがりがり引きずりながら歩く。


「見えてきたよ、お城。」

「? どこだ?」


 パッと見分からないと思う。だってお城はツタで覆われていて緑一色になっているから森と同化している。高い建物も高い枝葉が邪魔して見えない。大分近づいてからようやく気付いたようだ。

 雑草とコケで緑色に染まりつつある石レンガの上を踏みながらお城の中に入る。

 中は地面というか床というか、土というか砂利というか、石というかレンガの欠片というか、雑草というかカーペットというか、自然と人工物が散らかっている。上を見ると高い天井から太陽の光が差し込む。

 ほとんどの部屋の扉はボロボロで入るのは簡単だった。部屋の中にはベッドやタンス、箱とかがあるけど何もない。何かがあっても大体はガイコツだ。ベッドの上に横たわっていたり部屋のはじっこに座っていたり、ツボの中に頭を入れたままのものもあった。

 お宝もなかなか見つからない。ガイコツのマネをしてツボに頭を突っ込んでみたり隠し扉がないか木の棒であちこち叩いてみたりした。


「お城は高くそびえたちー。」


 何も見つからなさ過ぎて八つ当たりするように歌を口ずさんでしまう。空っぽなお城の中を響き渡る。


「ところでその歌は何だ?」

「この歌?お姉ちゃんから教わったの。」

「ふーん。どんな歌なんだ?」

「昔の国の歌なんだって。」


 スレンダーさんのために最初から歌った。


   おそらの おしろに ことりのこ

   つばさを いためて おりてきて

   おうさま みつけて うれしくて

   すてきな おくにが できました


「ケガした小鳥さんが王様を見つけて、助けてくれたお礼にすてきな国にしたんだって。」

「小鳥が、か。」彼は少し考えて、

「素敵な国ってどんな国なんだろうな。」

「こんな感じなのかな?」


 続きの歌を歌った。


   ひかりの みちびき そそがれて

   まちには うたと ひとがふえ

   おしろは たかく そびえたち

   おそらが みえなく なっちゃった


 広い場所に出た。階段があり先に駆け上がる。


「歌は好きだな。楽しいし。そういえば人がいっぱいいるのってどんな感じなんだろう?」階段の踊り場でクルンと回ってみた。

「その代わり空が見えなくなるんだな。」後からスレンダーさんも登ってくる。

「木が高くなるとお空が隠れちゃうように高いお城ができたから隠れちゃったんだね。でもそれがすてきな国なんだと思う。わたしはお空が見えなくなるはちょっとやだけど。」


 まっすぐ進んだ先は大広間だった。左右には筒抜けの窓がある。ボロボロのカーペットが続く奥には玉座が二つ並んでいた。


「歌には続きはないのか?」

「・・・・・まだあるよ。」続きを歌う。


   ぱんは おかねに なりかわり

   きんの やまほど たかくなり

   ほこりに まみれた そのすがた

   だれも しらない そのすがた


 スレンダーさんは考え込む。


「ね、ねえ、スレンダーさん!そういえばさ!」


 声をかけられ、わたしの顔を見る。


「そういえば、スレンダーさんも何か探してるの?」


 部屋を探索するとき一緒に探してくれるけど、何というかこう、わたし以上に念入りに探している・・・・・気がする。


「もしかしてスレンダーさんもお宝を探してるとか。」

「・・・・・そうだな。」

「やっぱり!」


 さらに階段を昇ったら青空が見えた。屋上に辿り着いたようだ。あちこちひびが入っていたり壊れていたりしていた。


「あそこに何かある。」


 彼が指を指した方を見るが凸凹に積まれた石の塀が高くて森の上の部分しか見えない。崩れて低くなっているところから覗いたら三角屋根が見えた。木だと思っていたものは屋根の上に立っている緑色の像だった。あそこはまだ探してなかったと思う。


「行ってみるか?」

「ちょっと待って。」


 リュックサックから果物を2個取り出し、片方を渡す。


「そろそろ休憩しよう。」

「これは?」

「オレンジ。いっしょに食べよ。」


 比較的壊れてない塀に寄りかかって座る。わたしは隣をポンポンと叩き、スレンダーさんはそこに座る。

 オレンジの皮を剥いて一房食べる。熟していて甘い味がする。


「わたしの家族みんな酷いんだよ。まだ子どもだからってあれもダメ、これもダメ。お兄ちゃんもお姉ちゃんも馬鹿にするんだよ。子どもじゃないってしょーめーしたいのにお父さんもお母さんもお手伝いさせてくれないの、危ないからって。どう思う!スレンダーさん!」


 わたしは横を見た。彼は何故か顔を伏せ縮こまっている。心なしか震えてるような。

 手で塞がれた口の代わりに目で何かを訴えようとしている。反対の手には一房食べられたオレンジが・・・・・。


「当たりのオレンジ食べちゃったんだ!」


 ちなみに当たりのオレンジというのは酸っぱいオレンジのことだ。

 リュックサックから水筒を取り出して彼に差し出す。水筒の水を飲み込み喋れるようになった。


「これは本当に食べていいものなのか?」

「わたしのと交換しよ。こっちはちゃんと甘いから。」


 交換したオレンジを一房取り、恐る恐る口に入れる。


「・・・・・これは良いな。」

「でしょ。」


 気に入ってくれたみたいだ。


「大事にされているようだが何が気に入らないんだ?」

「子ども扱いされるのがやなの!」

「なぜ?」

「なんでって・・・・・何もできないって思われてるんだよ。わたしだってできるのに。」

「確かに、私がいなくても君は一人でここに辿り着くことはできたな。ただ・・・・・」

 

 彼は黙り込む、というより考え込む。多分言葉を選んでいると思う。続く言葉は想像がつく。


「分かってるよ。危ないことをさせないためでしょ?」

「なんだ、分かっているじゃないか。」

「お父さんとお母さんはいいんだけど、お兄ちゃんとお姉ちゃんはまだむかつく!」

「兄弟は確かに悪意はあるな。」


 彼はフフッと笑う。初めてちゃんと笑っている所を見た。


「そんなことより!探検の続きしよう!」


リュックサックと木の棒を持って立ち上がった。彼もカバンを持って立ち上がる。


「休憩はもういいのか?」

「うん。行こう。」


 わたしたちは緑色の像の下に向かう。


「歌には続きはないのか?」

「あるよ。あるけど、あまり好きじゃなくて。」


 一階に戻り像のある方に歩く。廊下は薄暗かった。


「みんな楽しく歌ってるけど何か怖いから。」


 長い廊下の先は明るかった。壊れた両開きの扉から光が漏れているようだった。

 中に入ると目の前には石像が佇んでいた。こちらを見下ろし両手を広げている。その向こうのボロボロだけどカラフルな窓ガラスから差し込む光によってまるで翼が生えているかのように見える。

 左右には長い椅子が何列も並んでいる。そこにたくさんのガイコツが座っていたり横になっていたりした。よく見たらみんな手を組んでいる。

 嫌でも最後の歌を思い出す。


   おしろが ばらばら くずれたら

   たすけて たすけて くりかえし

   みなみな おそらに てをのばし

   だけども おそらに だれもいない


「みんなお空にいる神様に助けてと願ったけど神様はいなかったってことだよね。」

「もし神様がいたら助けてたと思うか?」

「わかんない。」


 ぐるりと辺りを見回す。

 わかんないけど分かったことがある。最後の歌、お城が崩れたり、助けてくれる神様がいないのが怖いと思っていたけどそうじゃなかった。何もせずに最後まで助けだけを乞い続ける人たちが怖かったんだ。この人たちみたいに。

 

 沈黙が長くなってしまったことに気付き別の話題を出す。


「そういえば探し物は見つけた?」

「まだだ。ここにいそうな気はするが。」


 彼は石像に手を触れていた。

 わたしもとりあえず辺りを探してみる。なにか仕掛けがあるかもと木の棒であちこち叩いてみる。壁とか、床とか。


 コンコン

 

 ん?

 別の所を叩いてみる。


「んー?」

「どうかしたか?」


 叩き比べる。なんだろう?何かが違う。


「床?何かあるのか?」


 彼は見回す。何かを見つけてはしゃがんで触る。大部屋の真ん中辺りで動きが止まった。


「ああ、空にいないのなら残るは下か。」


 触っていたところにはまっ黒いヒビが入っていた。下に空間がある。


「危ないから君は離れてくれ。」


 言われた通り離れたところで待つ。

 彼はカバンからスコップを取り出した。彼のヒザくらいの大きさのカバンから、彼の身長の半分くらいの長さのスコップを。

 どうやって入ってたんだろう?

 さっきのヒビが入っていた所に彼は立ち、スコップを思い切り下に突き立てた。


 ビシリ、とヒビが広がる音が次々に響く。


「本当に」大丈夫なのかと聞いた。だけどわたしの声は轟音にかき消された。

 彼は石レンガと木のベンチと一緒に下の闇の中に落ちていった。


「スレンダーさん!?」


 穴の近くに駆け込みどこにいるのか身を乗り出す。穴の中は暗闇と埃にまみれて彼がどこにいるのか分からない。何度呼びかけても返事はこない。

 

 バキッ


 手元の石レンガが崩れ、わたしは暗闇に引きずり込まれるように落ちた。急なことに声も出ず、目をつぶるしかなかった。


 ・・・・・・・・・・・・・。


「大丈夫か?」


 声が聞こえる。目の前にはスレンダーさんがいた。わたしを受け止めてくれたようだ。


「ありがとう。わたしは大丈夫・・・・・じゃなくて!」

「なんだ?」

「なんだじゃない!無事なら返事してよ!」

「あ、ああ。」


 彼はわたしを降ろした。手を放した時に黒い手袋が破けているに気付いた。


「手、怪我してる!」

「・・・・・え?」


 彼は両手を見る。破けているのは左手の方だ。手袋を外し手のひらを見ている。薄暗い地下でも手から血が垂れているのが分かった。


「見せて!手当しなきゃ!」

「いや、大丈夫だ。」

「やりづらいからしゃがんで!」


手袋をはめようとする左手を引っ張った。

 壊れた長椅子の木片が刺さったんだと思う。水筒を取り出して傷口を洗い、ほどいて一枚の布になったリュックサックを思い切り裂く。


「おい、そんなことしていいのか?」

「スレンダーさんのケガの方が大事だよ!」


 細長い布をケガしている手に巻く。


「上手く巻けなかったけどそのままにするよりはマシだと思う。傷が結構深かったからちゃんと診てもらった方が良いよ。」

「ああ。その・・・・・」


 彼は破けた布を見ている。


「大丈夫。まだ使えるよ。」


 布を結び直してリュックサックの形に戻す。ちょっとだけ小さくなったけど水筒は問題なく入った。

 先に進もうと辺りを見回すけど奥は真っ暗でよく分からない。彼はカバンからランプを取り出し灯りを付けた。ガレキだらけの地下室の奥の扉が照らされる。扉を開けるとホコリが流れ込む。本当に長いこと開けられていなかったようだ。


「うー、目が痒い。」

「大丈夫か?」


 目をこすり部屋の中を見た。中は暗いはずなのにギラギラと輝いている。

 部屋の中に入るとそこには金色のものが山のようにあちこちに積みあがっていた。


「これはすごい宝の山だな。」

「お宝。」


 これが探してたもの。


「もっとキレイな宝石がいっぱいなのを想像してた。ちょっとがっかり。」


 横から笑いが漏れたのが聞こえた気がする。

 丸い形の金色を一個拾ってみる。思ったより重い。何で同じものをこんなに集めてたんだろう?

 部屋の奥に進んでみる。金色以外にも木箱、武器、像とか色々積みあがっているけどよく分からない。

 ふとスレンダーさんが立ち止まる。辺りを見回している。


「どうかした?」

「あそこ、何かないか?」


 彼は右を指さす。その方向を見ると、何かを隠すように赤い布が掛けられていた。

 絶対あそこだ!

 わたしはそこへ走って向かう。わくわくしながら思い切りめくった。


「わっぶ。」


 舞い上がるホコリを浴びながら見たものは、さっきからあちこちで目に入る金色の山だった。

 なにもなかったね。そう言おうとしたら、


 ガシャン。

 

 音のなる方に振り向く。いると思っていたスレンダーさんはいない。ランプだけが残されていた。わたしがいた所と反対側の山積みの木箱の向こうから物音が聞こえた。


「そこにいるの?」


 わたしはランプを持って木箱に足をかける。向こうから声が聞こえる。


「すまない。ちょっと待っててくれないか?」

「そう言ってまた危ないことしようとしてない?」


 ランプを先に一番上の木箱に置く。


「私は大丈夫だ。だから・・・・・こっちを見るな!」


 彼の制止の言葉が聞こえた時にはわたしは木箱を登り切っていた。

 目の前には座っているスレンダーさんと、奥にはボロボロの何かがあった。

 死体だ。でもそれは人ではなかった。

 スレンダーさんは何かを言おうとしては言葉を飲み込む。

 被せてあると思っていた赤ずんだ布は背中から伸びている。辺りに散らばる羽根は布から生えている。その姿はまるで、


「天使?」


 諦めの混じったため息が漏れた。


「スレンダーさんの探し物ってこの人?」

「・・・・・。」

「スレンダーさん?」

「・・・・・ああ、そうだ。」


 死体に近づき羽のようなものを触ってみた。

 やっぱり本物の羽だ。折れているようであちこちの方向に曲がっている。


「あまり触らないでくれ。」

「あっ、ごめんなさい。」


 羽をゆっくり下に置く。そしてなんとなく手を組んだ。


「祈ってくれるのか?」

「わかんない。ただの真似事だよ。」


 上にいたガイコツたちの真似事。多分これはあの石像ではなくこの天使に向けなきゃいけないものだと思った。


「・・・・・ありがとう。」


 彼はカバンを開ける。


「なんでここに閉じ込められたんだろう?」

「この山と同じように『お宝』だからだ。」


 スコップを取り出し、死体の足首に繋がれた鎖に向かって突き立てる。錆びついていたからか鎖はあっさりと砕けた。


「この後どうするの?」

「帰るべき所に送る。」


 カバンから白い布を取り出し、死体の上に被せた。


「運ぶの?」

「その必要はない。」


 布を外した。そこにいたはずの死体は居なくなっていた。残ったのは足首に付けられてたはずの足輪だけだった。

 あっけにとられている間に彼は片付けを終わらせていた。床に置いていたランプを拾い、


「じゃあ、帰ろう。」


 こうしてわたしの冒険は幕を閉じた。

 



 地下室には上に登る階段があったので上に戻るのは難しくなかった。ちなみに出入口は石像の裏にあった。石レンガで蓋をされている上にカーペットが被せられてた。

 あの部屋にあった金色の山は手を付けなかった。本当にお宝だとは思うけど、あの死体のこと、その上で祈るガイコツのことを思い出したら何となく拾ってはいけないと思った。

 お城を出て目印を頼りに村に帰る。日は傾きかけていた。スレンダーさんは見送ると言ってくれた。本物の『ほそながさん』が現れないとも限らないからだそうだ。

 帰り道でずっと気になっていたことを聞いてみた。


「そういえばスレンダーさんって結局何者なの?」

「あー・・・・・。」


 彼は黙り込む。


「もしかして・・・・・天使の葬儀屋さん?」

「・・・・・そうだな。」

「また適当に話合わせてるでしょ!」


 彼は苦笑している。結局本当の正体は分からずじまいになりそうだ。

 村への道が見えてきた。わたしは走って向かう。


「あっそうだ!スレンダーさん!」


 わたしは後ろを振り向いた。

 黒く背の高い姿はそこにはなかった。見回しても森の木が並んでいるだけだった。


「スレンダーさん、また会えるよね?」


 行き場をなくした声は辺りに消える。

 後ろからわたしを呼ぶ声が聞こえてきた。


「適当でも話を合わせてもいいから『そうだな』って返事が聞きたかったよ。」


 そう呟いて、村の方へ帰った。

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