模試ガール、渋谷で再起動
ギャルはふと思い出したように言った。
「てかさ」
「はい?」
「名前、まだ聞いてなくね?」
あ。
致命的ミス、再び。
「あ、あの……わたし、佐倉です」
「さくら? かわいーじゃん」
「名字です」
「ウケる」
ギャルはくるっと振り向いて、軽く手を振った。
「うちはミオ」
ミオ。
たった二文字なのに、急に世界が鮮明になった気がした。
「ミオさん」
「“さん”いらん。先輩でもないし」
「でも年上ですよね?」
「一個だけ。ほぼ誤差じゃん」
誤差。
そう言って笑うミオの横顔は、やっぱり強くて、自由で、まぶしい。
──────────
数日後。
わたしの机の上には、あの日の“優勝リップ”。
塗るたびに思い出す。
「ちゃんと“ここにいる”って感じ」
鏡の中の自分は、まだ完璧じゃない。
でも、前よりも逃げていない。
通知音が鳴った。
画面には、見慣れないアイコン。
──ミオ
(え、なんで!?)
そういえば帰り際、
「インスタくらい交換しとこ。さすがにそれは現代人として」
と言われて、半分パニックでQRを出したのだった。
恐る恐る開く。
《今日さ、あのリップつけて学校行った?》
心臓が跳ねる。
《はい》
即レスしてしまった。三秒。
《どうだった?》
《…ちょっとだけ、強くなれた気がします》
即、既読が付いた。
しかし数秒経過する……長い。
そして、
《それもう優勝じゃん》
画面越しでも、親指が立っているのが見える気がして高揚した。
─────────
受験勉強は相変わらずしんどい。
模試の結果に落ち込む日もある。
でも、前みたいに「どうせ無理」とは思わなくなった。
わたしには、戦闘服がある。
姿勢と、前髪と、血色感。
それから、
「隣、堂々と歩きな」
あの言葉。
春になったら…
受験が終わったら…
また渋谷へ行く…
今度は偶然じゃなくて、言い訳もしないで、
ちゃんと胸を張って。
そして並んで歩くんだ。
ミオの隣を。
堂々と。
──三か月後のわたしは、まだ途中。
でももう、物語の脇役じゃない。
これは、わたしが主人公なのだ。




