表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
渋谷と、つけまつげと、わたし  作者: ルーツ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/3

ギャルは戦闘民族!?

わたしは、どこにでもいる地味な中学三年生だ。


髪は肩でぴったり止まる黒ストレート。

制服はきっちり第一ボタンまで留める派。

趣味は図書館。推しは文学賞。


そんなわたしがなぜその日、日曜日の午後に渋谷にいたのかというと──模試帰りで、乗り換えを間違えたからである。


降り立ったのは、あの有名なスクランブル交差点。


テレビでしか見たことがなかった人の波に、わたしは完全に溺れかけていた。


 (帰りたい……)


そう思ったその時だった。


「ねえ、ひとり? どこ行くの?」


軽い。声が軽い。空気より軽い。


振り向くと、金に近い茶髪、やけに光るネックレス、香水の主張が強い青年が立っていた。俗に言う“チャラ男”というやつだ。人生で初遭遇。


「い、いえ、あの、その……」


わたしはコミュニケーション能力を家に忘れてきていた。


「制服かわいくない? 写真撮らせてよ〜」


撮らせてよ、の意味がわからない。何を? なぜ? どうして?


頭の中が疑問符で埋め尽くされたその時。


「ちょい待ち」


低めでハスキーな声が割り込んできた。


現れたのは、まぶしいほどの存在感。


長い巻き髪、キラキラのネイル、厚めのまつげ、完璧なメイク。


まさしくギャルだった。


「その子、困ってんじゃん。空気読めない感じ?」


笑っているのに、目が笑っていない。プロだ。


「え、いや、別に俺は──」


「はい解散〜。ナンパは双方の合意があって初めて成立するの。道徳、義務教育で習わなかった?」


チャラ男は何か言いかけて、ギャルの圧に負け、あっさり人混みに消えた。


え。強い。


わたしは呆然としたまま、そのギャルを見上げた。


「大丈夫? スマホある? 帰り道わかる?」


「あ、あります……たぶん……」


たぶんって何。と自分でも思う。


ギャルはため息をついてから、にっと笑った。


「模試帰りでしょ。顔に“英語長文しんどかった”って書いてある」


「な、なぜそれを……!」


「うちも去年やったし」


……え?


「え、受験生……だったんですか?」


「今、高一。普通に。てかギャル=勉強してないって偏見、よくないよ?」


図星だった。


わたしの中で、何かが崩れた。


ギャルは見た目だけじゃない。

強くて、空気読めて、頭もいい。


それって、最強なのでは?


「とりあえず駅まで送るよ。こういうの、慣れてないでしょ」


「は、はい……」


歩きながら、ギャルはずっとしゃべっていた。

コスメの話、学校の話、バイトの話。


わたしは相槌を打ちながら、彼女の横顔を見ていた。


堂々としている。

自分のスタイルを持っている。

他人に流されない。


それは、わたしが一番なりたかった姿だった。


駅の前で別れる時、ギャルは言った。


「今日みたいなことあってもさ、自分が悪いとか思わないでね。堂々としてていいの。あんた、真面目そうだし、絶対伸びるタイプ」


伸びる。

まるで観葉植物みたいな評価だが、なぜかうれしかった。


「……あの」


「ん?」


「わたし、ギャルって怖い人だと思ってました」


「よく言われる〜」


「でも……かっこいいです」


一瞬、ギャルはぽかんとした顔をして、それから爆笑した。


「やば、告白されたんだけど」


「ち、違います!」


「冗談冗談。ありがと。まあさ、見た目は戦闘服みたいなもんだから」


──戦闘服。


その言葉が、ずっと頭に残った。


─────────────


その日から、わたしは少しずつ変わった。


いきなり金髪にはしない。校則がある。

でも、つけまつ毛、美容液を買った。

リップも少しだけ明るくした。

そして、姿勢を伸ばした。


そして何より。


人に話しかけられたら、目を見て返すようにした。


 「堂々としてていい」


あの言葉を、胸に貼り付けるみたいに。


ある日、クラスの男子に言われた。


「最近なんか雰囲気変わった?」


わたしは少しだけ笑って言った。


「進化中だから」


自分で言って、ちょっと恥ずかしかった。


でも、悪くない。


渋谷のあの日、わたしはナンパされた。


でも本当に出会ったのは──


憧れと、ちょっと強くなった自分だったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ