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【閲覧注意】罪人の教室  作者: 人鳥迂回


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強姦罪―艶葉椿―(3)

 3


 数発のビンタを受けた後、じんわりと広がる頬の熱さから艶葉は意識を取り戻した。楓の言葉によって精神を蝕まれていた事を忘れることはなく、目の前に居る小柄な少女への恐怖心も失われていない。

 自分の犯した罪を受け入れてはいたが、自己本位な考えだけは変わることなく、今も艶葉の中で燻ぶっていた。


「い、いやだ。死にたくない」


 殺人鬼によって殺されると分かっていても僅かな希望を信じて必死に命乞いをする。涙と鼻水によって顔を濡らしながら、必死になって懇願するも、鼻歌交じりに部屋を歩き回っている楓には聞き入れてもらえない。


「え、困るよ。艶葉くんには死んでもらわないと。死にたくないって簡単に言うけどさ、悪いことをした人には罰を与えるっていうのは古来から言われてることなんだよ」

「紅葉さんは僕のことを殺そうとしてる。人殺しは悪いことじゃないの」

「悪いことだよ?いいことなわけないじゃん。人が死ぬときに外部要因が加わったら全部悪いこと。病気や寿命で死ぬのが世間的には幸せなんだろうね。事故や事件とかの外部要因によってもたらされる死は悪いことになると思う」

「それなら」


 罪には罰を。

 古来より悪い行いをしたものには相応の罰が与えられてきた。日本の刑法でも、罪の大きさによって刑罰の重さが変化する。その中でも殺人は重く、犯罪者のなかでも凶悪犯罪者と言われることもある。

 強姦をした艶葉の罪は重いが、それだけでは死刑になることは無かった。楓が更生学校に頼まれて行っているのは死刑ではなく私刑。天陽真昼が作り出した艶葉椿への罰を執行しようとしているだけである。


「なんで、紅葉さんはそんな事をするの?殺人なんて大犯罪だ。僕の罪が比にならないくらい」

「それを艶葉くんが言うの?色んな女性を強姦して、酷いことをして、最後には殺して」

「僕は直接殺してない。自殺した原因が僕にあったとしても、自殺を選んだのは天陽真昼だ。それを僕の責任にされても困る」

「確かに。それは一理あるかも」


 殺されなければ何でもいいと艶葉は考え、少しでも生き残る道を探る。頑張って会話をすることで、楓の考えが変われば更生学校からの依頼を蹴って自分を殺さないように思い直してくれると信じて。

 その努力が実ったのか、遂に楓から肯定の言葉を引き出すことに成功した艶葉。それまで更生学校に頼まれた事だからと、艶葉殺しを当たり前に行おうとしていた楓の考えを変える一縷の望みが生まれたと艶葉は思い、薄っすらと引き吊った笑みを浮かべて楓に畳み掛ける。


「そうでしょ?そうなんだよ。強姦をしたことも紅葉さんの言葉で理解して反省している。天陽真昼の死に関わってしまったことも理解した。だから僕を殺すのはやめてさ」

「すごいよ艶葉くん。私、ちょっとだけ流されそうになっちゃったよ」

「死んじゃったら償うこともできない。これから一生天陽真昼野事を忘れず、自分のしたことを戒めながら生きていくことを約束する」


 蜘蛛の糸を登っていくカンダタのように、慎重に口を動かして救いの糸を手繰り寄せていく。

 楓は顎に手を当てて、茶葉のことを観察していた。艶葉は楓が自分の言葉で思い悩んでくれていると判断し、矢継ぎ早に自分が助かった場合のメリットや、反省していることをアピールしていく。

 ただ、その言葉は楓の耳に入っても脳まで届くことはなくただの雑音として処理されていた。


「それは無理かなあ」


 しっかりと艶葉と目を合わせた楓は満面の笑みを浮かべながら艶葉を拒絶した。


「な、なんで」

「なんでって言われても頼まれたからって何度も言ってるじゃん」

「紅葉さんは頼まれて殺人をしているんでしょ?やりたくないことをやらなくてもいいんだよ?」

「艶葉くんが性欲を我慢できずに女性を犯したように、私も我慢できない時があるの。目の前に殺してもいい犯罪者がいるのに、殺さないなんて出来ないよ」

「我慢できないって――」

「私、人を殺す事が好きなの。正確には苦しんでいる姿が好き。ある意味、今の艶葉くんの事を結構好きかもしれない。あながち艶葉くんの言っていたことも間違いじゃなかったかも?よかったね」


 紅葉楓は殺人鬼であるが、快楽殺人を行うわけではない。依頼を受けて仕事のように人を殺してはいるが、殺し自体を楽しんだことは一度もなかった。楓が楽しんでいるのは、死にゆく人の表情や言動、そして苦しみ。

 自分の母親を殺した時も、包丁で滅多刺しにしたのだが、命乞いをする姿や泣き喚く姿を見て、これまで弱者であった自分が強者へと反転した状況に興奮したのだ。楓を蔑ろにし、暴力を振るっていた母親が自分に縋り付く姿は、今でも夢に見ては高鳴る胸のざわめきによって起きてしまうほどだ。

 相対している艶葉にも、これから苦しむ顔を見ることが出来ると考えれば、興奮から笑顔を崩すことができない。気がつけば楓は満面の笑みを浮かべながら艶葉と会話をしていた。


「助けて、誰か。誰か」


 何度呼びかけても地下室に誰かが来ることはない。


「更生学校が関わってるから誰も助けてはくれないよ。私は殺人犯だけど、快楽殺人を行うわけじゃないから安心して」

「紅葉さんはそれでいいの?僕を殺したら更生学校から出られなくなるんじゃ」


 楓は更生学校から出られないことを把握しており、更生学校に居続けるための特例措置も多く、現状に満足しているため出る必要性も感じていない。

 更生学校から出られないのなら、出るための努力をする必要はなく、評価が低くても気にすることはない。

 評価を上げて卒業したい――そのような考えは八年前に初めて依頼で生徒を殺したときに捨て去った。更生学校の言うことを聞くことで自分は快楽を得られる、幸せになれると感じてしまったのだ。


「今さらじゃない?私は八年も更生学校に通ってる。特に反省をしていない人がいるクラスに割り振られているの。依頼があれば生徒を殺す。そんな事を八年も続けていればさ――今さら一人くらい増えても関係ないよ」

「八年?紅葉さんっていくつなの」

「む。女性に歳を聞くなんて失礼だから、来世では気をつけてね。一応答えてあげるけど今年で二十二歳だよ」


 楓の年齢を聞いた艶葉は驚いてはいたが、何かが腑に落ちたようでため息交じりに笑う。


「はは……。なんだ。最初から卒業なんて出来ないんじゃないか。更生学校を卒業することなんて本当は出来ないんだ」


 二十二歳の楓が生徒として更生学校に通っている事実があるため、更生学校を卒業することは不可能であり、入れられてしまったが最後抜け出すことができないと艶葉は思い込んでしまう。

 この期に及んで、まだ自分の考えを正しいと思い込んでしまう性格は変わらなかった。


「それは違うよお。ちゃんと更生して反省すれば卒業することはできる。そのハードルが高いだけ」

「紅葉さんは卒業させないために生徒たちを殺して回ってるんでしょ?」

「心外だなあ。誰彼構わず殺してるわけじゃないから勘違いしないでよね。ちゃんと依頼された人しか殺してないから。それがたまたまクラス全員になるっていうだけで」


 楓は何度も同じ説明をする。これから死に行く艶葉には何を言っても意味がないのだが、楓のポリシーとして快楽殺人だと思われることは許せなかった。

 自分がやっている殺人には意味があると思っているから。


「このっ、人殺しがっ」

「うわあっ」


 地下室に響き渡るほどの声量で艶葉が叫んだ。閉め切られた地下室の壁に何度か反響し、山彦のように艶葉の声が地下室に留まり続ける。

 

「急に大きな声出さないでよお。びっくりするなあ。うっかりトンカチで頭を殴っちゃいそうになっちゃった」


 わざとらしく耳を塞ぐ楓。

 その時に手から滑り落ちたトンカチによって低い金属音が部屋に響く。その音に驚いた艶葉は体をビクつかせた。


「人殺しって言われても、私は名前を呼ばれるのと差異はないよ。人に向かって人間って叫んでも、そうですけどってなるだけじゃない?それと同じかな」

「紅葉さんは狂ってるよ」

「うん。わかってる。だから更生学校にいるし、利用されてるの」


 何を言っても楓の考えが変わることはない。その事を悟った艶葉は無理を承知で最後の命乞いをした。答えの分かりきっている問いを投げかける意味はないのだが、生きている内に出来ることはやっておきたかった。


「無理だと思うけど僕も協力するから助けてくれたりとかしないかな。これからは紅葉さんの手足として働くし、靴をなめろと言われれば舐める」

「人の唾液って細菌が多いし余計に汚れそう」

「何でも言うこと聞くからさ。殺人の手伝いもする」

「ごめんね。私、人の苦しむところを見ることはが好きなの。それに殺人の手伝い?艶葉くんは何でもするっていうのに私が好きなものを奪おうとするんだ」

「そんなつもりは――」

「好きなら何をしてもいいて艶葉くんが言ってくれたんだよ。私は殺すのが好きだからこそ、艶葉くんのことを安心して殺せるよ」


 返ってきた答えは艶葉を絶望させるには充分な言葉だった。


「僕をどうやって殺すつもり?痛くない方法にしてほしい。僕も人間だから痛みを伴って死ぬのは嫌なんだ。一生のお願いだから、一瞬で意識を失うように殺してほしい」


 痛みを伴わず眠るように死ぬのが人間としての理想である。犯罪者であっても人間であり、艶葉もその考えを持っている。殺されることを受け入れるのだから、死に方くらいは提案してもいいだろうと諦観の思いで楓に思いを伝えた。


「えー。それは無理かな。受けた依頼には苦しみを味わわせろって書かれてたからね。私自身が手を下すって言うよりも生き地獄のようなものを依頼主はお望みなんだ。私のためにも、天陽真昼の遺族のためにも、苦しんで死んでね」


 絶望を浮かべる艶葉を横目に、楓は布に薬品を染み込ませていく。気化麻酔に使われる薬品と説明を受けているが、楓は薬の知識がないため人を眠らせることの出来る薬程度に考えている。

 薬を染み込ませた布を、艶葉の口元に近づけて、押し当てた。

 必死に首を振って拒否を示す艶葉だったが、激しく動けば動くほど呼吸は乱れ、息を吸うようになる。


「それじゃおやすみ。起きた頃には死んでいるといいね。ま、そんな事は無理なんだけど」

「ちょっと、待っ」


 暴れたおかげで少しだけ布がズレた。その瞬間を逃さず楓に制止するように伝えようとするも、すぐに口は布で塞がれる。

 モゴモゴと酸素を取り込もうとする鯉のように口を動かすが、座ったままでは力も入らず、小柄な楓の力でも容易に押さえつけることができた。


「ばいばーい」


 徐々に朦朧とする意識の中で艶葉が見たものは、悪魔のような表情をしながら小さく手を振る殺人鬼だった。


 4


 次に艶葉が目覚めると、室内は暗く、何も目には映らない。

 体を動かそうとすると、上半身は自由に動かせるのに対し、下半身はうまく動かせない。腹部と臀部に違和感を覚え、自由になっている両手で触ろうとすると壁に手が当たる。

 今の艶葉は壁によって上半身と下半身が隔たれた状態だった。


「どこだ……ここ。まだ生きてるってことだけど、紅葉さんの姿の見えない」


 足を動かそうとしても、壁に取り付けられた金具で固定され、ピクリとも動かない。

 地下室よりも暗く、明かりのひとつもない空間では視覚による情報を得ることはできなかった。


「くそ、なんだよこれ。上半身は動かせるのに穴がぴったり過ぎて抜け出せない」


 腹部を締め付けるように隔たれた壁は、腰を捻っても手で押さえつけても抜け出すことはない。楓の行おうとしている殺害方法が全く分からず、恐怖に支配され、奇声を上げ始める艶葉。

 どうせ殺すなら早く殺してくれと叫ぶが、その声は誰にも聞こえることはない。楓もその場にはおらず、艶葉の叫び無情にも防音壁へと吸い込まれていった。

 声を出し続けて喉の痛みを感じ始めた頃、艶葉の後方から物音と共に人の話し声が聞こえてきた。


「すみません。聞こえてますか。ここから抜け出す為の手助けをしてほしいんですけど」


 楓がいなくなっている今しか逃げ出すタイミングはないと判断し、そのチャンスを逃さぬように、艶葉は大きな声を出して後方にいる人物に話しかけた。

 しかし艶葉の声に対してのレスポンスは何もなく、後方から聞こえてくる話し声は徐々に大きくなっていった。


「これか?」

「受刑者の慰安用に一次的に設置してるって言ってたが」

「これ、男だろ?男色趣味はねえんだけど」

「この際男でもいいだろ。足も固定されて、やりやすいように誂えてあるんだからさ」

「確かに溜まってるしいいか。期間限定って書いてあるしな」


 艶葉は気が付いていないが、上半身のある場所は完全防音になっており、いくら叫んでも外に声が漏れることはない。声が聞こえた理由も、下半身のある空間に設置された集音器によって集められた音をスピーカーで流しているだけだった。

 スピーカーから流れる声は、理解することを拒む単語が複数含まれており、内容をすぐに把握することはできなかった。


「待って、何の話をしてるんだ」


 後方にいる男たちへ問いかけても、その答えが返ってくることはない。

 身動きを取ることのできない艶葉を他所に、男たちは艶葉の下半身を弄り始めた。最初にズボンを下ろし、次に履いていたパンツを破り捨てた。顕になる臀部は一糸纏わず、生まれたままの姿を男たちに曝け出していた。

 男たちによって服を脱がされたことで、この先自分に起こる事を理解してしまった艶葉は必死になって壁から抜け出そうと藻掻くが、どれだけ力を入れても体は動かず、固定されている下半身も微動だにしない。


「やめてくれっ」


 正体の分からない人間の手が艶葉の臀部に触れる。硬い皮膚に覆われた岩のような手。


「触るなっ。触んないでくれっ」


 必死の抵抗虚しく、そこから艶葉の下半身は蹂躙される事となる。どれだけ拒否をしても、圧倒的な力の前では成す術なく、暴力を受け入れるしかない。

 この時になって、漸く艶葉は天陽真昼が感じていた苦しみと同じものを理解することが出来たのだった。

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