その教室には十三人の犯罪者がいる(1)
なろう先行で公開することにしました。
一応内容が内容なので閲覧注意とします。
第一章『その教室には十三人の犯罪者がいる』
1
その教室には十三人の生徒がいる。彼らは全員犯罪者であり、窃盗、強姦、虐めなどの被害者が存在する許されない行為をしてこの場にやってきていた。
教室がある場所は、刑務所の中にある小さな学校。名を更生学校という。
本来であれば学校には入らず、刑務作業を終えて出所するのだが、彼等は牢屋に入ることなくこの教室へと連れて来られ学校生活を送っている。最低限の自由は許されており、許可があれば監察員の監視のもと外出をすることもできる。その条件は厳しいが、確かな飴があることで犯罪者の更生意欲を駆り立てるためだった。
何故、彼等が刑務所に入らず教室で学校生活を過ごしているのか。決して素行が良いから社会へ出たときに、不都合がないように青春を味あわせているわけではない。
寧ろその逆で、他者と関わりを持ち、人間関係を考えることで構成を促す。その理念の元で学校生活を送らせているのだ。人を更生させるのに必要なものは痛みでも知識でもなく、人の心だと更生学校の偉い人は考えているらしい。
更生学校にいる彼等は自分たちの犯した犯罪を何も反省していない。あまつさえ他人に陥れられて捕まったと思っているものもいた。
罪を自覚しない精神状態で出所してしまえば、二次犯罪の起こる可能性が高く、更なる被害者が生まれてしまう。そう判断した上層部の指示により学校生活を送らせることで人間を傷つけることはどういう事かを学ばせる、という意図で更生学校は作られた。
更生学校は六階建ての大きな建物。宿舎も兼ねているため、寮も併設されていた。当然クラスはひとつだけではなく、様々な年代の犯罪者によって複数のクラスが成り立っている。
教室の扉を開けて中に入れば、黒板が目に入り、丁寧に並べられた椅子と机。教室の一室を再現したかのような光景が広がっている。
そこで彼等は一般的な授業を受け、常識を学び、普通の学生生活を送る。それが更生学校に入れられた犯罪者にとっての刑務作業であった。
2
朝の八時三十分。十二人の犯罪者たちが椅子に座り、教師にあたる更生員が来る事を待っている中、廊下をパタパタと走る音が響く。幸いにも構成員は誰も廊下におらず、走っていることを咎められることはなかった。
予鈴に間に合うかギリギリのタイミングだったが、音の主は教室に辿り着き、勢いよく扉を開けて室内へと飛び込んでいく。
「おはようございます」
元気よく朝の挨拶をしたのは、肩口で髪を切り揃えた黒髪の少女。百四九センチと小柄な体躯をしており、動くたびにハムスターのような愛嬌を感じるさせる。瞳は前髪によって隠れているため前方がしっかりと見えているのかは本人にしか分からない。膝上五センチ程度上げられたスカートからは黒いタイツで引き締められた足が伸びていた。
彼女の名前は紅葉楓。この教室で日々を過ごしている犯罪者の一人である。
彼女が教室に入って挨拶をすれば、呼応するようにクラスメイトから話しかけてもらえる。小動物的な可愛さを持つ楓はクラスの中でも可愛がられているのだ。
楓が自分の席に辿り着き、荷物を置いてから着席をると、周りの席から声を掛けられた。
縦四列、横三列に並べたれた机の最後尾、その真ん中が楓の席。十三人いる生徒のうち、一人は教室に来ていないので机が教室の隅に追いやられている。
「おは。遅刻ギリギリじゃん」
「先生来るぞ」
「ちょっと寝坊しちゃった……」
彼女たちは普通の学生生活を送っているように見えるが、話しかけてきた人達も皆、警察に捕まって更生学校に閉じ込められた犯罪者達である。自分の行いを悪いことだと分かっていながらも反省をしていない、更生が出来ていない悪人。
普通の会話をしている裏で、何を考えているのか全く分からないが、それは楓も例外ではなかった。楓もこの教室にいる以上、自分の行いを正しいと思って犯罪を行った確信犯である。他の犯罪者たちと違うのは、楓にはその犯罪をやるべき理由があるということ。
しかしどのような理由が合っても犯罪は犯罪であり、法のもとで取り締まられなければならない。楓の犯す罪は外の世界で生きられるものではなく、一生を刑務所の中で過ごさなければならないほどのもの。
「寝坊ってお前……」
「違うの。お布団が離してくれなくて」
「お布団がって、あの硬いベットが?独房のベットと同じやつだろあれ」
「私はどこでも寝られるんだ」
「その調子なら床だって寝られるんじゃないか?」
「床なら横にならないで座って寝ることになるかも?身体が痛くなりそう」
「楓はほんと可愛いね」
「えへへ」
楓の左にいる男子生徒の名前は柊木犀。彼の印象を一言で言うのなら普通の人間。特徴のない平凡な顔、筋肉が付いているわけでも贅肉が必要以上に付いているわけでもないスタイル。特徴のない彼がこの学校にいる理由は窃盗。
平凡な彼は、刺激のない日々にスリルを求め、何度も窃盗を繰り返していた。最初は値段の高くないものだったが、段々と高価なものへと変わっていき、何度も窃盗を成功させてきた。
失敗をすれば当然警察に連れて行かれる。何度も窃盗を行う柊は、精神に問題ありと判断され更生学校へ入れられている。本人はスリルを求めてやったことのため、全く反省をしておらず、定期的に同級生や学校にいる他の生徒の私物を盗んではバレて殴られたりしていた。
顔には真新しいガーゼが貼られており、数日の間にも盗みを行って反撃を受けたのだろう。犯罪者ばかりの学校で犯罪を行うことが彼のスリルを掻き立てている。
楓の右に座りながら、可愛いペットを愛でるように頭を撫でているのが杠葉弦。彼女を一言で表すのなら、男に好かれそうな女。男受けしそうなメイク、表情の作り方、仕草のひとつひとつまで完璧に作り上げられた女子。
髪色は派手すぎると男性に引かれ、地味すぎると舐められる、それを理解して琥珀色のサイドテールにしている。
作り上げられた容姿は彼女の承認欲求を満たすためのピースでしかなかった。杠葉が捕まった理由は未成年淫行と脅迫。未成年淫行に関しては彼女自体が犯罪者というわけではないのだが、彼女によって逮捕された大人の数は計り知れない。
更には自身を際立たせるために、他の女子を男性に充てがい、自分をよりよく見せるための土台としていたのだ。自分より下手で愛想もない女を抱かせ、その後に自分が媚びへつらうことで承認欲求が満たされる。女性を充てがう際に、脅迫をしたり、暴力をしたりと相手が断れない状況を作り出していた。
淫行で捕まった訳ではなく、杠葉は脅迫で捕まっているのだが警察にとっては男性の被害者も減らせて一挙両得であった。
「弦ちゃん。やめてよお」
「楓は男たちに渡さないぞー」
「他の女達は渡すのかよ」
「んー。私より可愛くなければね。私より可愛い女なんて許せないし」
「許せないってお前さ」
「そんな人いないから。人は見た目じゃなくて中身も肝心ってこと」
「犯罪者が人間の中身を語るなよ」
「うっさい。楓みたいな子もいるんだから私のイメージを損なわせないで」
普通の学校ならば杠葉の言葉に教室内は震え上がるだろう。しかし、この場にいる者たちは全員が何かしらの罪を犯している。その程度で怖気づくような人はこの教室に入れられていないのだ。
「もう弦ちゃん。私は年上だよ」
「私は十六歳。確かに私よりも先にいたけどさ。どう見たって楓は中学生でしょ?年上ぶるのって可愛い証拠だよ。何歳だっけ?」
「内緒だけど」
「強がるならちゃんと設定は固めないとね」
「確かに、何処からどう見ても紅葉が俺たちより年上には見えないな。制服にも着られている感じだし」
「大きくなると思って買ったやつだからだよ」
「成長してねーじゃん」
「弦ちゃん。柊くんが私のこと虐めるんだけど」
「やめろって。外聞が悪いから。それに俺は虐めなんてしねえよ」
杠葉と柊は共に十六歳である。中学時代に問題を起こしたことで、通常の高校ではなく更生学校に入れられているのだ。生徒の年齢は一クラスの中でも様々で、紅葉のいる教室では十五歳から十七歳まで幅広い年代の犯罪者が一堂に会している。
柊の言葉に教室内で反応をする生徒もいたが、犯罪者ばかりの学校では虐めは珍しいものじゃない。勿論、捕まっている以上加害者として。
「ここを出る頃にはおっきくなってるといいね」
「もういい歳だからこれ以上成長しないって」
「まだまだ成長期が来てないだけだよ」
「紅葉が出られるときっていつだよ。俺たちと同じで何らかの罪を犯してんだろ?」
更生学校から出られるのは、更生が終了し、社会復帰が出来ると認められた時。その事を厚生学校では卒業と呼ぶが、毎年の卒業者は片手で数えるほどしかいない。罪を犯し、反省をしていないから更生学校へ入られている人間が、容易く心を入れ替えるわけがない。
男女問わず満十八歳――通常ならば高校を卒業する年齢までに卒業をすることが出来なければ、普通の刑務所で刑期を終えるまで過ごさなければならない。更生学校で過ごした期間に足されて通常の刑期も受けるため、拘束期間は長くなる。
どちらにせよ刑期さえ過ごせば外の世界には戻れるため、ここにいる生徒は楽観視をしていた。
「柊、あんたは窃盗だっけ?そんなしょぼい罪で更生学校に入れられるなんて馬鹿すぎるでしょ」
「パパ活やって同級生脅すような淫乱女に言われたくないけどな」
互いが犯した罪で罵り合う二人。公にされていないが、生徒間でどのような罪を犯したのか知っているものも少なくない。自分の罪を武勇伝のように語る者もいれば、更生学校に入ってからも罪を犯し続ける者もいる。前者が杠葉で、後者が柊だった。
「やめなよ。ふたりとも。みんな見てるよ?」
楓を挟んで罵り合うふたりの様子をクラスメイトたちは傍観していた。いつものやり取りであるが故に、誰も止めに来ない。犯罪者という社会の底辺が何を言っていても、ゴキブリたちの喧嘩でしかないのだ。
「ねー。ほら柊うるさいって」
「黙れよ、犯罪者」
「お前もな?ここにいて犯罪者じゃない奴なんて、先生しかいないでしょ」
杠葉の言葉が呼び水になったように、教室の扉が開き、ひとりの男性が教室に入ってきた。
男は楓たちのクラスを担当している更生員であり、名前を焔村燼という。頭髪は全て剃り上げ、スキンヘッド。大きめのサングラスをかけているため目線が何処を向いているかわからない。学生時代はラグビーをやっていたこともあり体格がいい。犯罪者たちが暴れた時に力付くで止められるように今でも鍛えている。
大きなサングラスは、自分の顔が生徒たちへ知られないようにするためだった。外の世界に出た生徒たちが焔村の顔を見て過去の自分を思い出したり、新たな罪を犯さないために出来る限りの個人情報を秘匿している。
「お前たち、全員揃ってるな」
焔村はクラスを一瞥し、十二人の生徒が全員席についていることを確認し、名簿にペンを走らせる。
名簿にはそれぞれの名前と顔写真、そして起こした犯罪が記載されている。日々の生活態度などを具に観察し、卒業できるかどうかの判断に使われる。教師の立場を取っているが、実態は厚生学校で働いている厚生員である。
「芙蓉≪フヨウ≫くんがいませんけど」
何処からか声が上がるも焔村は気にするそぶりを見せず、自身の職務を全うする。
「点呼は省略。今日の連絡事項も特にはない。一限が始まるまでおとなしくしているように」
焔村はクラスに登校できる全員が揃っていたことだけを確認すると教室から出ていった。
教室にいる生徒たちがおとなしく焔村の言うことを聞いているのは、自分たちの刑期が長くならないためである。更生員というのは教室で一番偉い存在。
国家に捕らわれた犯罪者は逆らわない。国家に仕えている焔村に逆らうことは自分が外の世界へ出られるまでの期間を延ばすだけで何の得もないのだ。卒業をできずに刑務所へ行ったとしても、刑期が延びる事は避けたかった。
「楓、今日の最初ってなんだっけ?」
「道徳だよ」
「んーいつも通りかあ」
「ちゃんと受けないとだめだよ弦ちゃん」
「犯罪者に道徳の授業ってやる意味あるのかな?」
「犯罪者こそ道徳を学ぶべきなんじゃない?ほら、ここから出てから必要なことだからさ」
「楓も犯罪者なのに物分かりが良すぎるよ」
一限目は道徳が行われる。更生学校では最低限の学力のために必須科目の自習もあるが、基本的には道徳の授業が多い。生徒たちに対し、道徳を説いていると対外的にアピールするためにも必然的に多くなっている。
僅かながら更生学校を卒業する生徒もいるため、全く無意味ということはない。杠葉のように道徳に意味を感じていない生徒がいるが、何年間も同じ事を言われ続けていれば脳に考えが染み込んでいく。洗脳とも言われるやり方になったとしても、犯罪者を社会に戻すことを第一としているのだ。
「弦ちゃんも道徳はしっかりと学んだほうがいいと思うよ。ここから出たときにまた捕まりたくないでしょ?」
「んー。別に捕まることを嫌だと思ったことはないけど。学校にいても、刑務所にいても、私が可愛いことには変わりないし。更生学校にいても可愛いって言われるからね」
「お前、また他のクラスのやつらを籠絡してただろ。噂になってるぞ」
「私は可愛いからね。仕方がないってこと。まあ、私のクラスを言ったら怯えるようにして離れて行っちゃったけど。何だったんだろあれ」
杠葉は更生学校の中にいても男を籠絡している。その事が焔村にバレて叱られているが、杠葉の心情は「自分が可愛いから仕方がない」と思っていた。
自分が悪いと思っていない犯罪者に反省を促すことは不可能に近い。杠葉に受けさせる道徳は豚の耳に念仏のようなものだ。
「もう。そんなんじゃこの先大変だよ?若いからいいけど」
「成人したら淫行も犯罪にならないから最高だよね」
「杠葉は未成年の男にも手を出しそうだけどな」
「その時はその時。私のことを可愛いと思ってくれるなら未成年でも関係ないかも」
「焔村に聞かれたら減点されるぞ」
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