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異世界帰りの元女子高生は、暇つぶしに人助けをする  作者: 雷訓


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1/1

ただのフリーターだよ

 吐く息が白く、山頂連なる尾根がさほど遠くない位置に見える高山。

 その尾根から数百メートルほど外れた雪の中、私は地面に落ちたコインを探すようにキョロキョロしながら歩いている。探すようにと表現しているが、実際に探しているんだからこの表現は少し違うかもしれない。けれど、それはコインでもない。

 右手には杖、左手にはマッピングされた地図、そして肩からは登山するには到底心許ない鞄が下げられている。


「もう少しこっちかな……」


 そうして猛吹雪の中ゆっくり歩いていくと、目的の付近に到着した。がしかし、私の目の前には真っ白の景色しか見えない。

 左手には、目標を示したポイントが赤々と自分の眼前を示している。暗い中で上を見ても探し物はない。私が探しているものは空は飛ばない。


「って事は、下か」


 と言っても、当然足元は雪で一面真っ白だ。と言うことは、雪山でありがちな状況はこれか。

 そう考えた私は、右手に持った自分の背よりも長い杖で雪に覆われた地面を突く。ここじゃない、ここでもない、もう少しこっちか? と周囲を歩いて何度も突くと、不意に地面がなくなる場所が現れる。もう一度確認のためにその周りを突くが、同じで前のめりになりそうになる。


「ここか。なら、【風よ】!」


 数歩下がってから声に魔力を乗せると、先ほどの場所に竜巻が発生して地面の雪が巻き上げられる。殺傷能力が低いただの竜巻だが、雪を無くすだけならこれで問題ない。


「やっぱりこれか……」


 そして風と雪煙が晴れた先に見えたものは、人一人を軽々と飲み込むほどの大地の裂け目が姿を現した。それはヒドゥンクレバスと言うものだ。

 クレバスとは、大地や氷河などで見られる裂け目であり、ヒドゥンクレバスは吹雪などによって覆われて見えなくなる状態のことだ。

 そして左手に表示されてる赤い目標も、目の前のクレバスで反応があった。

 さて、この状況で赤い反応があるって事は、生きてはいるけど命の危険に晒されている可能性が高いってことだ。ここから呼んでみてもいいけど、雪崩の危険性もあるし、何より返事できる状態にないかもしれない。

 なら取れる方法は一つ、私自身がクレバスへ降りるしかないってことだ。


「時間がないかな。しょうがない、【フライ】そして【ライト】」


 もう一度声に魔力を乗せる。すると、今度は自分の体が地面から三十センチほど浮き、そばには十センチほどの球体が煌々と私と周囲を照らしていた。。それから周囲を確認すると、私はそのままクレバスの中へゆっくりと降りた。

 私の左右には、魔法の灯りが氷の幻想的な光景を照らし出す。こんな時でなかったら、ゆっくりと眺めていたいくらいだ。

 さて、ここまで来たらもう私の目的は察した通り、人命救助だ。内容は、難易度の高い山へ単身で挑んだ挙句、ルートから外れて遭難と言う絶望極まりないシチュエーションだ。

 バイトから帰って一息ついた私がネット掲示板を眺めていたら、その書き込みを見つけたわけだ。

 書き込みをしたのは登山家の奥さん。下山日になっても旦那からの連絡がなく不安に思っている所へ、別の登山家から発煙等の煙らしきものを見たと報告が上がったそうだ。

 だが山岳救助隊に頼もうにも煙を見た場所もルートから外れており、その後吹雪に見舞われどうし用も無くなってしまった。

 最初奥さんはネット掲示板で呼びかけたそうだが、半信半疑どころかいたずらだと思い誰も相手にしなかったそうだ。けれどその必死な様子からただ事ではないと察した訳だけど、内容が内容なだけに誰もどうにも出来ないと言うのが最終的な見解だ。

 そんな諦めかけた時に、私が書き込んだのだ。


『旦那さんを助ければいいの?』


『えぇ、お願い! 本当なら昨日帰っているはずなのよ! お金ならいくらでも出すわ! だから主人を!』


『わかった。ダイレクトメールであなたの名前、そして場所と旦那さんの名前と写真を送って』


『わかったわ。…………今送ったわ!』


『オッケー、これだけわかれば十分よ。あとは旦那さんの無事を祈っといて』


『もちろんよ、お願いするわ!』


『あ、あと報酬は後払いでいいよ。それじゃ行ってくるわ』


 そうして今は私はここにいる。

 回想もそこそこに結構な深さまで降りてきて上を見上げる。どうやら吹雪が止んでいるらしく、クレバスの僅かな隙間から綺麗な満月が夜空を照らしていた。できればもっと早く止んでくれればと思うけど、自然界に愚痴を言ってもしょうがない。


『マイクさーん、どこにいますかー?』


 とりあえず呼びかけてみる。地上なら雪崩の心配があるから大声が出せないけど、クレバスの中は静寂と両側の氷の壁のせいか、大声ではなくても割と声が響いた。これならそれなりの範囲まで届いているはずだ。


 カーン……カーン


 それから何度か呼びかけながら更に降りていくと、遂にマイクさんからの反応があった。何か金属同士を叩く音だ。周囲に反響して詳しい位置はわからないけど、確実に近くにいるのはわかった。


『マイクさんですね? 安心してください、すぐに向かいます!』


 それからマイクさんはすぐに見つかった。奇跡的に発見できたけど、さすがに無傷とはいかなかった。見た感じ全身の骨が折れているようだった。

 いやこの時点で生存が絶望されているのが普通だけど、どうやら落下した時の体勢が良かったらしく、クレバスの途中が棚になって、そこで一命を取り留めたらしい。


『オゥ、俺は夢でも見ているのか。遂に天使様がお迎えに来たぜ。呼ばれた時は奇跡かと思ったが、こう言うのも悪くないな……』


 魔法による灯りが後光が刺しているようにでも見えたのか、神様の迎えと勘違いしている様だけどそれは勘弁してほしいところだ。


『夢ではありません、クレアさんが帰りを待っています。麓まで送りますので』


『妻が? じゃあ本当に夢じゃないんだな。だが俺は動けない、ここからどうやって?』


『問題ありません。だから気をしっかり持っていてください【フライ】』


 それだけ言い、肩から下げた毛布をマイクさんにかけると、自分と同じ魔法をかける。


『な!? やはり遂に天国に向かうのか?』


『いいから黙っていてくださいね』


 突然自分の体が宙に浮く感覚にマイクさんが戸惑う。まぁその反応は当然だろう、何せこの世界には魔法はないんだから。

 人助けのためだから今回は大盤振る舞いだし、ある意味夢と思っていてくれた方が都合がいいかもしれない。


『おぉ神よ! 私は今あなたの元へ向かいます!』


 なんか色々独り言を呟いているマイクさんを無視して、クレバスから脱出し麓へ向かう。

 一神教の信者ってのは、みんなこんな感じなんだろうか? 確かに見たものが強烈だったり、信じたものに近しいような現象を体感すれば、こうなってしまうのかもしれない。


 こうして私はマイクさんを山の麓にある救護所まで送り届け、無事に救助することができた。麓まで降りてきた頃には本気で天国に行くのかと思ったのか、マイクさんは気を失っていた。

 だからこれ幸いに回復魔法をかけて骨折を治すと、私は救護所の扉を叩いてからその場を後にした。





「お先あがりまーす。お疲れさまでーす」


「あいよー、おつー」


「今度埋め合わせよろしくー」


「はーい、決まったら連絡ください」


「オッケー」


 私は、先輩方に挨拶をしてバイト先である居酒屋の裏口から出て帰路に着く。

 アパートに帰り、途中で寄ったコンビニの袋を机に投げ捨てると、速攻で服を脱ぎ捨ててシャワーを浴びる。


「匂い、消えたかな?」


 

 独り言のように呟くと、体に染みついた居酒屋独特の匂いを気にして一生懸命シャンプーで洗い流す。それからコンディショナーで、流したばかりの髪を自分の鼻先に近づけて嗅いでみる。うん、いい匂いしかしない。大丈夫だ。


「いただきます。…………ぷっはーー!」


 シャワーを終えラフな格好でリビングに戻ると、さっき投げ捨てたコンビニの袋から弁当と酎ハイを出して喉を潤す。冷蔵庫にしまわなかったからほんの少し温くなっているけど、それでもこの疲れた体を労うのに十分な味わいだ。

 最初の一杯を十分に堪能しながらノートパソコンの電源を入れて先日の掲示板を覗いたら、もの凄いお祭り騒ぎだった。何せ絶望的な状況から一転、奇跡の生還なのだから。

 この事は地元だけじゃなく、世界中でニュースになっていた。救助されたマイクさんは自身がクレバスへ落ちた時の苦しみや、その後の数日間の絶望的な状況。そうして諦めていた時、空から後光と共に天使が迎えにきて、気がつけば麓にいて怪我が治っていたなどをつぶさに語っていた。

 マイクさんの横には、奥さんであろう女性がいた。あれがクレアさんかな? 下山して連絡が来るであろう日になっても音沙汰がなかった。そして遭難だと判明し救助隊も動けない中、縋る思いで掲示板に書き込んだというわけだ。

 それを私が見つけたわけか。

 けど、これを否定的な目で見ている人もいる。実は普通に下山して物語を捏造しだとか。雲間から刺した光が幻想的に見えただけだとか。注目を集めたいだけのマッチポンプだとか。

 まぁ私に言わせれば、好きに言わせとけばいい。実際にマイクさんは助かって、無事にクレアさんと出会うことができたのだから。

 それと、クレアさんからダイレクトメールが届いていた。マイクさんが無事に保護されたと言うことが書かれている。ベッドで横たわるマイクさんとのツーショットだ。あとは旦那が、骨折していて体がまともに動かせないはずだったのに、気がついた時には不自由なく動かせることに驚いているんだけど、何か知らないかと言うことだ。マイクさんにとって私は、神様か天使に見えて仕方ないようだ。


『無事で何より。それはクレアさんの必死の祈りが届いたからだよ』


 ちなみに報酬は貰っていない。人の弱みにつけ込んで、お金をふんだくろうなんて思わないよ。

 コンビニ弁当を食べ終わり、それだけ返信すると私はいそいそと寝る準備を始めた。

 何でって? マイクさんの救助で当日のバイトをブッチしたからだ。その埋め合わせで明日入って欲しいとバイトの先輩からメッセージが届いた。

 急に彼氏とデートになったから変わって欲しいってさ。特に用がないし、恩もあるから構わないけど。


 私の名前は渡辺涼子。神でもなければ天使でもない、異世界で大賢者と呼ばれた元女子高生で、今はただのフリーターだ。

 

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