Episode0(Side:Doctor檀)
朝の眠気が覚めきらない心地の良さの中
朝食のトーストを齧りつつ
テレビを流れるニュース番組に目を向ける。
――おはようございます。まずは今朝のトップニュースからお伝えします。
昨日、厚生労働省は今年度のLEHI、健康寿命一致率を発表しました。
今年の数値は92.5%。昨年の90.1%から、2.4ポイントの上昇となっています。
これについて佐藤厚生労働大臣は、
『本邦はQOL先進国として、“人生の質”を追求する社会を実現している。
LEHIの向上は、国民一人ひとりの選択の結果であり、大変喜ばしいことだ』
とコメントしました。――
LEHIは健康寿命を平均寿命で割った、たったそれだけの比率だ。
平均寿命が短くなればなるほど、この数値は高くなる。
かつては毎年、平均寿命が伸びたことを良いニュースとして取り上げられていたのに今ではその逆が、「社会的に良いこと」として報道される。
しかし平均寿命が“下がった”とは言えない。
だから政府は、LEHIという数字を“上げて”見せることで、国民を安心させようとした。
大衆は“上昇”とか“改善”といった言葉には、無条件に喜びを抱くものなのだ。
さてここはどこなのか?
それはMiraiというAIの登場によってもたらされた世界
Miraiは医療における疾患の治療中止を判定するAI
そして人の最期を金に換算し、
死にゆく者ではなく生者に恩恵を与える
死神である。