第8話 再戦へ
あれから三日たったけれど、リュウはまだ目を覚ましていない。
エリーとディーは、あの怪物、正式に【アンノウン】と名付けられたらしいけれど、
アイツとの再戦に向けた準備にいそしんでいる。
でもメンバー全員の一致した意見として、リュウがもし目覚めた時に誰もいないなんてことがないように、交代でかならずペーティーのうち一人が病室に残ろうときめたの。
今日は私の番。
【怪獣の巣】への再突入の準備は順調に進んでいるようで、エリーに聞いたところ、臨時的にレイド形式での討伐作戦になるらしい。
具体的には、私たち【導きの星】とシンシア様率いる騎士隊、そして今王都に滞在していて活動が可能な上級冒険者が二組、計4パーティーで挑戦することになるらしい。
シンシア様たちはまだしも、知らない冒険者と一緒に戦うのは、正直不安だけど、私たちはリュウがいない分万全ではないし、相手の情報がほとんどないなかで、私たちだけで【アンノウン】に挑むのは難しいというのも理解できる。
リュウも口酸っぱくいっていたわね。『安全マージンはしっかりとること!』って。
「…はぁ」
ここ3日、ずっと眠れないし食欲もわかない。
それは間違いなく、目の前の男が私に話しかけてくれないから。
私は、このパーティーのみんなが好き。
でも、今回改めて実感したの。
このパーティーがこのパーティーたらしめる中心が、リュウなんだって。
彼がいないと、火のない暖炉みたいにみんな静かになっちゃって…
「…はぁ…」
まったく、早く起きなさいよね…バカ…
あれ…ここは…
目が覚めたら、真白で何もない空間。
これ、見覚えあるな。初めて魔力を使った時の場所だ。
記憶が正しければ確かこの先に…
「お、あったあった」
前回と同じ場所に、光り輝く球体が浮かんでいた。
ただ、前よりも少し違うような…?
前は確か濃い青色に光ってた気がするんだけど、なんか少し色味が薄くなって、輝きが強くなっているような…気のせいか?
…ま、いいか。
ここにいるってことは、現実世界では僕は意識を失ってるってことだ。
…まさか死んでるってことはない…よね…?
ひとまず僕は目を覚ますことを目標しなければ。
前目を覚ましたときはどうやったんだっけ…
たしか、あの時はエリーが待ってるって意識したら、自然と帰れたんだっけか…
頭の中にエリーの笑顔を想像する。
ディーのにこやかな表情が思い起こされる。
シャルのジト目が浮かび上がってくる。
「おっ」
三人の表情を思い浮かべたら、体が浮かび上がるような感覚が発生した。
なんとなく、この空間から出る方法分かった気がする。
まぁ結論を言わせてもらうと、
僕みんなのこと好きすぎない?
いよいよ、肝心の作戦当日になった。
リュウは一週間目を覚まさなかった。
今思い返せば、リュウが隣にいない迷宮は初めてだな。
そう自覚した瞬間、いいようのない不安が私を襲ってくる。
隣に彼がいないだけで、私はこうも弱くなってしまうのかと愕然とした一週間だった。
「よぉ鉄壁!元気か!」
「まさかお前たちと共闘することになるとはな。デグロム」
王都に初めて訪れた時に再会した、Aランクパーティー【暴龍の爪】のリーダー、デグロム。彼は後ろに、同じように筋骨隆々な男が三人控えている。彼らが【暴龍の爪】のパーティーメンバーだ。
以前私が冒険者をしていた時の顔見知りだ。
今回、ギルドから派遣される上級パーティーの一つが彼らだった。
「おたくのリーダーさんは無事か?」
「…あぁ。今回の戦いには間に合わなかったが…」
私のセリフに、デグロムが顔をしかめる。
彼ももうベテランの域に到達しつつある冒険者だ。
医療魔法が存在するこの世界では、冒険者がどんなに大けがを負っても、早ければ1~2日、遅くとも一週間しないぐらいで復帰するのが一般的だ。
そのうえで、ケガを負ってからすでに一週間近くたっているのにもかかわらず、まだ復帰のめどが立っていないということは、それだけ重篤な事態であるということが理解できたわけだ。
「そうか…って、もう一人のねぇちゃんはどこいってんだ?そっちは今回のレイド参加すんだろ?」
「ん?あぁ、そっちは別で用事があるから、現地集合にしている。もう間もなく来るはずだが…」
デグロムの手前ごまかしたが、シャルはいまだに意識の戻っていないリュウの世話をギリギリまでやってから合流する予定だ。
彼女は、あまり表には出さないが、自分のせいでリュウが怪我してしまったことにかなり責任を感じていたからな。ギリギリまで彼を一人にしたくないと、そういっていた。
「お待たせいたしました」
デグロムといくつかすり合わせをしながら待っていると、シンシア殿が女性騎士三人を引き連れてやってきた。
シンシア殿をみて、小さい声でデグロムが「またとんでもない別嬪だな」とつぶやいている。
こういうときでも変わらないデグロムの態度が、少し私を落ち着かせてくれる。
まったく、こんな情けないことだ。
「大丈夫です。こちらもまだ全員揃っていないので…」
「よかったです。では私も少し確認したいことがありますので、少々お話を…」
「おいおいおい騎士様たちが出張ってくるって聞いたのに女ばっかりじゃねぇか。とんでもねぇバケモンが相手って聞いてたのに、これじゃ期待できねぇなぁ!?」
「…彼らは?」
「もう一つの冒険者パーティーです。確か名前は、【弱さは罪】といったはず…」
眼帯を付けたスキンヘッドの男を先頭に、4人のガラの悪そうな男たちが入ってくる。
あれが冒険者パーティーの3枠目だ。
ギルドによると、現状実力が伴っていてすぐに活動できるパーティーが彼らしかいなかったらしく、やむ終えず今回のレイドに招集したとのことだが…
「果たして彼らは我々と協力する気があるのでしょうか?」
「それは…」
ギルドが招集したということは、実力は本物だということだ。最悪彼らには独立して動いてもらって、我々だけで協調すれば…
「お、ずいぶんと良い顔したエルフがいるじゃねぇか。騎士様にはさすがに手が出せねぇからうまみねぇなって思ってたが、これはついてるぜ」
なんだこいつは。これから協力してレイドに向かおうとしている仲間に対して、この態度。
このようなものがまさか高ランクパーティーのリーダーとは。きいてあきれるぞ。
「なんのようだ…?」
「聞いたぜぇ…?あんたんとこのリーダー、このアンなちゃらとかいうやつにこっぴどくやられたんだってな?そんなよえぇヤツよりさ、うちに乗り換えろよ」
「…は?」
「こんな女どもひきつれても勝てるようなヤツに負けたって、そいつ相当情けない奴なんだろうなぁ!?」
こいつ、ふざけるな。
私をけなすだけならまだ許容できた。だが、私の大事な仲間を侮辱するなど、絶対に許せない。
リュウはその命をもって私たちの命を救ってくれたのだ。それをこいつは…
ほぼ無意識であったが、私はすでに拳を固く握りしめていた。
技能はないが、今の私の才能なら、こいつの顔面をへこませるぐらい容易にできるはずだ。
なに、そのぶん迷宮では私が働けば問題は…
「お待たせしました」
刹那、聞こえるはずがない声が聞こえた。
最初は、私のあまりの怒りのせいで聞こえた幻聴かと思った。
声が聞こえたほう、ギルドの入り口を恐る恐る見る。
そこには、私たちの仲間であるシャルと、もう一人。
「本当に遅くなって申し訳ありません…今回の作戦、僕も混ぜてもらってもいいですかね…?」
…彼の声を聴かなかった時間は、おそらくとてもわずかな期間なのだろう。
でも、私にとっては、それが無限に続く地獄の時間に感じられた。
だから、だろうか。
涙が止まらない。
「や、ごめん。エリー、ディー。大分心配かけちゃったみたいで。でももう大丈夫だ」
その声を聴いて、もう止まれなかった。
目の前の愚か者のことなどもう目にすら入っていなかった。
何かを吹き飛ばしたような気がするが、そんなものを気にしている場合ではなかった。
私は気づいたら、リュウの胸に飛び込んでいた。
傍らには、ディーも同じように抱き着いていた。
「…馬鹿者…何度心配かければ気が済むのだ貴様は…!」
「ほんとうですよ・・・でも、やっとリュウさんの声が聞けてうれしいです…!」
全く…本当に、本当に良かった…っ!
僕が目覚めたのは、ギルドに到着する2時間ほど前だ。
ゆっくり目を開けると、レンガでできた天井が見えた。
顛末から考えると、おそらくここは病院の一室といったところか。
ゆっくり体を起こすと、正面には花瓶に花を生けるシャルの姿があった。
「帰ってきたらまた新しいの持ってきてあげるから、少しだけ待っていてね」
そういいながら花に話しかけるシャル。なんかすっごい気まずい。
「じゃあ、行ってくるわね」
「あ、あのぉ、どこに行かれるんですかね?」
「…は?」
まるで死人を見たかのような表情を浮かべたシャル。いや確かに少しの間眠っていたかもしれませんが、そんな顔をしなくてもよろしいのではありませんかね?
「あの…えぇっと…おはよう?」
「ばかぁっ!!」
急にいわれのない罵倒を受けたと思ったら、目にたっぷりと涙をためたシャルが、僕のもとに飛び込んできた。
しばらく泣きながら僕にすり寄っていたシャルに身を任せたあと、
シャルに話を聞いたところ、どうやら僕は一週間眠っていたらしい。そりゃシャルもみんなも心配するよね。本当にごめん。
しかもこれからあの化け物、___【アンノウン】と名付けられたらしい を討伐するために、これかr迷宮に向かうらしい。なんてこったい。
「…よし、ぼくもいくよ、それ」
「なにいってんのよ。アナタ一週間寝てたのよ?筋力だって落ちてるだろうし…」
「そこはまぁ何とかするよ。さすがにみんなが危険な依頼に向かおうとしてて、自分だけベッドでぬくぬく過ごせるほど神経図太くないよ」
「でも…」
「大丈夫。あんなやつ不意打ちさえされなければ、僕らがそろっていれば簡単に倒せるよ」
そうして渋るシャルをどうにかこうにか説得して、なんとか出発前にギルドに到着することができたわけだ。
なにやらもめているようだったし、タイミング的にはギリギリセーフ…かな?
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