第2話 1体目、ナーガ
「…いない?」
ボス部屋に入ると、見慣れた石壁に囲まれた大きな空間が広がっていた。
が、肝心のボスが見当たらない。
今回のボスである【ナーガ】に関して、事前に四つほど注意するべきポイントをみんなで共有していたのを思い出す。一つ目は、先ほど確認した『小型の蛇を召喚する技』。
「となると標的は…」
「上よ!」
シャルの声に反応して天井を見上げると、とんでもないデカさの蛇がとぐろを巻いている。
注意ポイントその2,【ナーガ】は天井打の壁だの、好きなところを自由に移動できるうえに、ボス部屋に入ったタイミングでの初期位置も確定していないので、不意打ちに注意!
ディーの作ってくれた資料には、可愛い挿絵とともに注意事項が書かれてあったのを思い出す。
今回は天井スタートだったようだ。
天井から重力に任せて落下してきた【ナーガ】は、その勢いのままに突進を仕掛ける。
標的は
「任せろ!技能抗拒! 」
お、新スキルか。真っ白に輝くオーラが、エリーの足もとにたまっていく。
それと同時に、蛇の頭と衝突したが、そのオーラの影響か、まったく押しまけていない。
さて、さっそく絶好のチャンス到来だ。
「不意打ち失敗して、残念だったね…っと!」
エリーと押し合いになっている【ナーガ】。その首もとが完全にお留守である。
「___ 最刃流 三日月 上弦 ___」
刀を抜き、下段から構えて振り上げる。
入った__
「シャアアアアアアアアアア」
深くはないけど、それなりに良いのが入ったようだ。緑色の血を吹き出しながらその頭を大きく振り上げる。ひるんだか…いや、違うな。
注意ポイントその3、【ナーガ】は口から強力な酸をまき散らすぞ!当たると、おそらくエリーさんの盾でも解かされてしまうので、受けずに避けること!
「酸だ!」
僕の号令に合わせるように、シャルもエリーも大きく飛びずさる。
魔法職のシャルも、意外や意外結構な俊敏さを披露している。動けるシャル、結構解釈違いかもしれない。
僕ら三人がいたであろう場所の中央に、まるで鋭い刃のように、細い酸の光線が放たれる。
着弾した場所は、硬い岩にも関わらず、まるで高熱にさらされた水のように、沸騰しながら溶けていく。
確かにあんなの食らったらひとたまりもないな。
一通り酸を噴ききった【ナーガ】は一番手傷を負わせた僕に標的を定めたようだ。
その大きな首をこちらに向けると、とんでもない速度で突進してくる。
「___ 最刃流 陽炎 ___」
目の前の標的が急に二人に分かれたように錯覚した【ナーガ】
が、迷いを一切見せることなく、一方の僕に突進を仕掛けた。すごい思いっきりだな。でも
「はずれ」
何もないところに突っ込んだ蛇の脇腹…脇腹って言っていいのか?まぁいいか。
またまた隙だらけだぞ。
「___ 最刃流 雀蜂___!」
強烈な突きが、【ナーガ】の表皮に突き刺さる。お、いい感触。結構深く入ったな。
「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
今度こそダメージによる怯みで間違いないな。
その隙を見逃すうちのパーティーじゃないよ。
「蛇って焼くと美味しいって聞いたけれど、本当なのかしら?」
魔術師らしい深紅のローブをはためかせ、火花を散らすうちの最強火力要員。
「…【火炎弾連撃】!!」
二つの火球が蛇の頭部をとらえる。
「シャアアアアアアアア!?」
両の目を焼かれた【ナーガ】も一方的にやられるだけでは気が済まないといわんばかりに、
爆風をかき分けながら、自身に大きな傷を与えたシャルにターゲットを変更しようとした。
「私を忘れてもらっては困るな。技能 挑発!」
が、そうは問屋が卸さない。
エリーの挑発スキルによって、その標的を強制的に変更させられた蛇野郎は、そのまま口を大きく開くと、再度、強酸攻撃を仕掛けようとする。
これまでの敵は、基本的にエリーが必ず攻撃を防げたからこそ、割と容易に挑発スキルを使うことができた。が、こいつにはこの酸攻撃がある。
下手に自身にヘイトを向けると、エリーでも防ぎきれないような攻撃が向く可能性も否定できないのだ。
まぁ、エリーがそんなへまをするわけがないんだけど。
「___ 最刃流 三日月 上弦 ___」
シャルの攻撃とエリーのスキルで、時間は十分にあった。
奴の背中を駆け上がる時間が。
【ナーガ】の頭上まで飛び上がった僕は、その上から無防備な鼻先に渾身の一撃を放つ。
頭上からの不意の攻撃を食らった【ナーガ】は、口内に酸をためた状態でその口を勢いのまま閉じてしまう。
「シャアアアアアア!?」
自身の体内を、自身の酸で焼かれた【ナーガ】
さすがのこいつも、これにはたまらないらしく、その体を地面に横たえる。ダウン獲得だ。
「ダウン…ということは…」
「シャル、準備を頼む」
「オッケー」
地面に倒れている姿を見ると、一見攻撃のチャンスに見える。
しかし、これは第2ラウンドに突入する前兆である。
「シャアアアアアアアアア!」
横たわったまま大きな叫び声をあげる【ナーガ】
それを合図に、奴の下から大量の蛇が出現する。
これは、集合体恐怖症の人はみたら卒倒するな。
まぁ、こっちはすでに準備は万端なのだが。
「<闇に包まれし世界を照らせ 破壊と創造をつかさどる天空の綺羅星よ、今ここに顕現せよ>…【日輪冠】!」
ごめんな小さな蛇ちゃんたち。
出てきてすぐ退場になっちゃってかわいそうにな。
圧倒的なまでにきらめく太陽が、母体である【ナーガ】ごと、召喚された子蛇たちを一瞬で焼き尽くす。
これも事前の情報通りだ。ダウン後に召喚される蛇は、奴の下から固まって召喚される。
なら、まだバラバラに散らばってしまう前に、まとめて倒してしまえばいい。
うちのシャルがとんでもない広範囲魔法を使えるからこそのごり押し作戦である。
不意の一撃で子供たちどころか、自身も全身焼き尽くされた【ナーガ】は、もはや鳴き声を上げることすらできていない。
これ、もしかしたら体内までやけどしてるかもしれないな。
が、ゆっくりとその体を起こすと、再度酸を吐き出そうとその口を大きく開ける。
さっきの自分の酸に加えて、シャルの炎で大分傷ついていると思うし、それなりの痛みがあると思うのだが、それでも目の前の獲物を狩り取る執念が全く衰えていないあたり、さすがはBランクのボスといったところか。
「エリー、シャルを頼む」
「わかった」
先ほどの大魔術で、魔力を急激に消費したシャルはしばらく動けない。
自力で動けるようになるまで、エリーがシャルを守りながら、彼女の足になる必要がある。
その間、やつをひきつけるのがぼくの役目だ。
「別に倒してしまっても構わんのだろう?」
「…構わんぞ?」
…少しカッコつけてみたはいいが、少し滑ってしまったようだ。まだ時代が追い付いていなかったか。
…
気を取り直して、では最終ラウンドといこう。
酸のブレスをかわしながら、一気に奴の懐へと踏み込んでいく。
が、ここで予想外だったのが、奴のブレスの勢いの無さだ。
おそらく、口内が傷ついてしまっている弊害で、最初ほど勢いよくブレスを噴射することができていないようで、酸のしずくがポタポタ手前に落ちてきている。
「…っ!」
ブレス自体はかわすのは容易だが、酸のしずくがいくつか体に当たってしまった。
大きなけがにはつながっていないが、当たったところの服が解けており、軽いやけどのようになっている。これ結構痛いな。
だが、奴ももう瀕死だ。動きもかなり緩慢になっている。今ポーションを飲んで回復している暇はない。
事前の作戦では、エリーが復帰してから畳みかける予定であったが、シャルが動けない状態でエリーが戦線に復帰するのはリスクになる。
真面目な話、ここで僕がこいつを倒しきるのが一番確実な手だ。
あの【エンシェントゴーレム】戦から、毎日欠かさず魔力の制御は練習してきた。
シャルにも教わりながら、魔力を自分の意思で、意図しただけ出し入れする練習を。
まだ完全ではないが、あの時から少しは上達したはずだ。今ならもう少しうまくやれる…と思う。
息を吸って、吐く。呼吸のリズムに合わせて魔力を体に巡らせる。
心臓から、刀を握った右腕へ、温かい力が流れていくのを感じる。
集中しろ。奴の太い首を一撃で切り落とすために、必要な魔力を練り上げる。
「___ 最刃流 暁月夜 ___」
魔力を帯びた、水面に映る月のような剣閃が、【ナーガ】の首に吸い込まれるように進んでいく。
全くの抵抗を感じさせないまま、刃はその首を一刀のもとに両断した。
B級迷宮 大連続一体目のボス【ナーガ】
無事討伐完了である。
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