第5話 これからの計画
「新しい我が家と、これからの旅路に、乾杯!」
「「「「かんぱーい!」」」」
一通り生活に必要なものを運び終えた僕たちは、せっかく新しい家での生活の初日というわけで、盛大にパーティーでも開くこととなった。
発案はシャルだ。彼女の「せっかくみんなで過ごす新生活の初日なのだし、パーっとやらない?」という一言で、あれよあれよと話が進んだのである。
王国では、飲酒に年齢制限は設けらえれていないが、実家ではそもそも機会がなかったこともあってお酒は飲んだことはなかったが、この旅を通して少しずつアルコールをたしなむようになった。
ほかのみんなもは、割とお酒には強いほうらしく、僕がちびちび飲んでいる横で、みんなたっぷりおかわりしている風景をよく見た。
「この家で過ごすのは今日が初めてだけど、吞んだ後すぐ寝れるってだけで安心感が違うわねぇ」
「こうしてリラックスできるというのは、やはり宿生活では味わえんな」
「奮発して家を買ったのは正解でしたね!」
三人は三人ともしっかり疲れをいやすことができているようで良かった。
王都に来てから、切った貼ったの戦闘はなかったとはいえ、買い物やいろいろな手続きで忙しいのは忙しかったからな。
かくいう僕自身も、ここまで力を抜ける時間は久々かもしれない。それもこれもみんなが協力してくれて、こんな僕といっしょにいてくれるおかげだ。
本当にみんなのこと、大好きだなぁ。
と思ってふと周りを見渡してみると
「…そういうことはあまり口に出さないほうが良いぞ」
エリーは顔を赤らめながらそっぽを向いており
「二へへ…まぁ私みたいな気が使える女と一緒にいればこそよね」
シャルは得意げに胸を張り
「お役に立てているようで何よりです」
ディーはあたたかで母性を形にしたかのような微笑みを浮かべていた。
あれ、もしかして声に出ていましたか。お酒が入ると、口が緩くなっていけない。
宴もたけなわだが、これ以上呑むとたぶんみんな睡魔やらなんやらでまともに話すことができなくなりそうだし、その前にこれからのことについて打ち合わせをしておこうと思っていたんだ。
「ディー、明日からの予定はどうする?」
「そうですね。明日は事前に決めていた通り、ギルドでメンバー募集の申請をしましょう」
新しいパーティーメンバーを加えるとなった時に、その方法は基本的に二つ。
一つは、目に留まった人材を直接スカウトする方法。
シャルはこのパターンだね。まぁシャルみたいな事例は奇跡みたいなものだ。優秀な人材が在野にそうそういるわけもなく、目は光らせておくにしても、基本的には期待しないほうがいいだろうな。
二つ目が、ギルドを通して募集するやり方だ。
ギルドに新メンバー募集の申請を出すと、依頼書が張り出されているクエストボードに募集しているパーティーの名前や募集している職種などが掲示されるようになる。
該当する職業を持っている冒険者や、加入を希望する人間が、ギルドを通して加入を申し込むという形だ。
この方法だと、ギルドが間に介入するので、変な人間が引っかかりにくく、また応募する側も、そのパーティーある程度信頼がおけることが分かるので、声をかけやすくなるというわけだ。
「募集するのは、斥候職か、前衛で戦闘ができるアタッカー…だったか?」
「はい。いずれかの職業であれば、リュウさんやエリーさんの負担を軽減できますし、場合によってはシャルさんの護衛などもこなせると思いますので」
「魔人の件はどうするの?」
「それについてはすでに資料の閲覧許可の申請をギルドに提出していますので、近いうちにギルドからお返事が来ると思います」
「相変わらず仕事が早いわね…」
王都に来た最大の目的は、魔人の情報を得ること。
ナールビエから始まり、リーザナでも関わりを持ってしまった。たぶんこれからもアイツらとは長い付き合いになりそうな予感がしている。
僕が初めて出会った魔人【メフィスト】、奴は、自分位は迷宮に様々な影響を与えることができる能力を持っているといっていた。だとすれば、これから冒険者として迷宮攻略を進めていけば、いずれまた相まみえるのは必至であろう。
そんないつかのために、今後どういう未来をすすんでいくにしろ、情報は大いに越したことはない。
「あとは迷宮だな」
「そうですね…そこはまだ悩んでいます」
「悩む…というと?」
「王都にある迷宮の数をご存じですか?」
「えぇっと…」
「確か30はくだらない…と聞いたわね」
30?そりゃ多いな。あれだけ大きかったリーザナでも4つしか迷宮はなかった。
にもかかわらず、迷宮の生態が変化するほど長い間攻略がされていないような迷宮もあったわけで。
単純に比較できないとはいえ、それだけの数の迷宮をどうやって管理しているのだろうか。
「D級やC級の低級の迷宮が20ほど。残りがB級以上の高ランク迷宮が存在しています。高ランクの迷宮に関しては、Aランクを超えるパーティーが定期的に踏破することで、迷宮飽和の発生を防いでいます」
「なるほど」
「それが、先ほどの話にどうつながるのだ?」
「どの迷宮に挑戦すべきか決めかねていまして…」
確かに、それだけたくさんの迷宮があれば、その特性も千差万別。
中には、単純な力押しだけでは攻略できないものもあるだろうし、現状のパーティーでローリスクで攻略できるものを選ぶというのも大変だろう。
「じゃあ、明日はギルドから帰ったら、みんなでどの迷宮に挑戦するか考えよう。D級はいまさら攻略してもうまみはないだろうし…ディー、明日ギルドに行ったとき、C級かB級で行けそうなところを、一通りピックアップしてくれる?」
「いいのですか?」
「ディーの仕事にはいつも助けられてるけど、君も僕たちパーティーの一員だし、困ったときはみんなで助け合うのが普通でしょ?」
「というか、私たちディーにおんぶにだっこなところが多分にあると思うし、こういうときぐらいみんなで協力しましょう?」
「シャルの言う通りだ。いつもディーには頼り切ってしまっているからな。たまには頼ってほしい」
「そう…ですね。お願いしますっ!」
翌日、予定通りギルドを訪れた僕たちは、受付にホーム登録をする際に対応してくれた受付嬢がいることを見つけた僕たちは、彼女のいるカウンターの列に並ぶことにした。
「では私は一足先に、迷宮の情報を調べてきますね」
「昨日あんなこと言っておいて結局ディーの仕事が多くなっちゃって、ごめんね」
「いえいえ!このぐらいは仕事に入りませんので!」
そういって彼女はスキップしながらギルド受付の奥に入っていった。
隣でエリーが「さすがあの激務のナールビエギルドを乗り越えた女だ…面構えが違う…」とつぶやいていた。それでいったらエリーもそうなのでは?
そうしてしばらく、僕らの順番が回ってきた。
「こんにちは!無事に良いお宅が見つかったようで良かったです!」
そういって笑顔で応対してくれる彼女は、名前をリシャルテさんというらしい。
「こんにちは。今日はメンバー募集の申請をしたくて…」
「かしこまりました!ご希望の職業や役割はございますか?」
「できれば斥候職か、前衛で戦闘をこなせる職業をお持ちの方をお願いしたいです」
「…なるほど。前衛職ですか…ふむ…」
僕の言葉を聞いて、少し考えるようなしぐさを見せるリシャルテさん。
「何か不都合がありましたか?」
「あぁいえ!そういうわけでは!こちらの書類にご記入いただけますか?すぐに受理させていただきます!」
「は、はぁ…」
なにやら含みがありそうなリアクションだけど、まぁいいか。
ひとまず書類に必要事項を記入し、僕らは受付を後にした。
「ディーは時間かかるって?」
「あぁ、先に帰っててもいいといっていたが…」
「どうせ帰っても暇だし待ってましょうよ。私、この間飲んだ果実水好きだったのよね」
「じゃあ僕の分もお願いしていい?場所取っておくから」
「頼んだ。前と同じでいいか?」
「うん」
僕は二人に飲み物を頼むと、近くにあったテーブルに荷物を置いて一息ついた。
これで直近で僕たちがやらないといけないことは一通り終わったかな。
あとは、ギルドから魔人に関する資料閲覧の許可が下りるまで、冒険者らしく迷宮を攻略しながら待てばいい。
奥のカウンターを見ていると、シャルとエリーが仲良く話しながら注文した飲み物が完成するのを待っている様子が見える。ああいう可愛い女の子同士が仲良くしているのは、心の保養になるね。
と、そんなたわいもないことを考えていると、反対側の方角から ガシャン という音が鳴り響いた。
「何で僕が追放されなきゃいけないんだ!」
…何やらまた面倒ごとのにおいがしてきたよ…
「追放なんて言い方はやめてちょうだい。契約終了といったの」
「納得いかない!」
何やら大声でわめいているのは、僕と同世代ぐらいの男子で、茶色がかった髪を短くまとめている。
その対面には3人の女性だ。
正面に相対しているのは、少し灰がかった黒髪を腰あたりまで伸ばした女性。
その両サイドに、髪色こそ水色とピンクと正反対だが、その顔は瓜二つな女性が並んでいる。双子だろうか。
話を聞いている限り、どうやらまたパーティー内でのもめごとのようだ。
「何か既視感があるな」
「いうと思ったけど、私もその話は耳が痛いからやめてちょうだい」
あれだけ大声でわめいているのだから、当然エリーとシャルもこの騒ぎを聞きつけて戻ってきたらしい。
手には三人分の飲み物が入ったコップが。
「はいこれ」
「ありがとう」
コップを受け取ると、僕は再びかのパーティーのほうに目を向ける。
2人も気になるらしく、椅子に座ると話すことなく視線を彼らに向けていった。
「理由は説明したと思うが…」
「僕はみんなのためにこれまで身を粉にして働いてきた!それを!」
「あなたのパーティーへの献身は理解しているつもり。感謝はしてる」
「でも、それだけではパーティーは回らない」
う~ん、聞いている感じは、三人の女性側のほうが理性的に話せている感じがするが、事情を知らない側からすると、変に介入してもこじれるだけだろうし、ここはおとなしく静観が吉かな。
「僕は…僕はみんなのために…っ!」
「おっおい!それは…!」
と思ってたんだけけれど、突然男のほうが杖を取り出し始めた。
彼がどんな職業かはわからないが、仮に魔法系の職業だったとしたら、杖を取り出す動作というのはそのまま戦闘の意思を示す動きでもある。
流石にこれは見過ごせない。
僕は座っていた椅子を跳ね飛ばすように立ち上がると、そのまま思いっきり踏み込んで加速、
男に肉薄すると、その手首をつかむ。
「ギルド内でそれはいけない。いったん落ち着こう」
「な、なんだお前は!邪魔するな!」
「君がおとなしく口げんかに終始するつもりだったんであれば、まぁうるさいなぁぐらいで済ませるつもりだったけどね」
この男、近くでみたらわかるが、目も血走ってるし、相当な魔力量を杖に充填してる。
流石にこれで攻撃の意思はなかった…っていうのは通らないよねぇ。
「はははっ、そうかそういうことか!」
「ん?」
「どうせお前たち、僕からこの男に乗り換えようってんだろ!?なるほどだから僕が邪魔になったからさっさとクビしようってことか!」
「え、いや僕たちそもそも初対面…」
「はぁあ、お前らなんかビッチ野郎ども相手に真面目に働いてた自分がバカらしいわ!こんなパーティーこっちから願い下げだ!どうせお前もすぐ捨てられるんだからな!あとから後悔してもおせぇぞ!」
そういうと男は僕がつかんでいた手を無理やり振り払ってギルドから走り去っていった。
帰り際に、離れてみていたエリーとシャルにちらっと視線を向けていたのが気になるが、あの二人なら仮に襲われても返り討ちにできるだろう。あとで警戒だけしておくように伝えておくか。
「すまない…ご迷惑をおかけした」
「「ごめんなさい」」
「あぁ、いえ。さすがにギルド内での魔法の行使は見逃せませんから」
全く、冒険者をやってると話題に事欠かなくて退屈せずに済むね!
背後から『またお前か…』という視線をかじるが無視だ無視。
というか今回はみんなでギルド来てるんだから、僕だけの責任ではないでしょうよ!
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