第8話 歓迎
「では、シャルティアさんの一時加入を祝しまして、かんぱーい!」
「「乾杯!」」
「か、乾杯…」
僕の号令に合わせて、エリーとディーが勢いよくジョッキを打ち鳴らす。
シャルティアさんはまだすこし照れと遠慮があるみたいだ。
迷宮を攻略する間に限った仲間関係とはいえ、少しでも打ち解けることができればいいな。
皆さんもうお察しと思うが、魔法士シャルティアさんは無事、僕らのパーティー【導きの星】にC級迷宮を攻略する間の臨時要員として、加入してくれることになった。めでたい。
これで、一時的にではあるが、僕らに不足していた魔法火力が補われることになり、無事にC級迷宮 密林迷宮へ挑戦する準備が整ったというわけである。
「改めて自己紹介させてもらうわね。私はシャルティア。職業は【魔法士】よ。炎の魔法は中級まで、水の魔法は初級まで使うことができるわ。よろしく」
「こちらこそよろしく頼む」
「シャルティアさんの魔法スキルは昨日見せてもらったし、頼りにさせてもらうよ」
実際、昨日のお試し迷宮攻略でも、彼女の魔法がいかに有効かは僕らが身をもって実感したし、
むしろ彼女に助っ人を断られてしまった場合、なんならもうさっさと王都に向かっていたまである。
「い、一応私も臨時とはいえ仲間になるのだし、シャルでいいわよ…」
「む、では私のことはエリーと」
「僕はリュウって呼んでくれ」
「私はディーでお願いします!」
まだ少しためらいが感じられるものの、彼女からも歩み寄りが感じられる。
さて、今日は彼女からの加入についての返事を聞く以外にもう一つやることがあるのだ。
僕らは現状、一歩的に彼女の技能のこととは、パーソナルな部分を知ってしまっている。これでは対等なパーティーとは言えないだろう。
というわけで、カミングアウトの時間だ。
「…職業を持ってない…あなたは攻撃系の技能を…?待ってちょっと混乱してるえ?どういうこと!?」
まぁそういう反応になるよね。冒険者になるうえで必須な技能や職業を持ちえない冒険者パーティーなんて異端も異端だし。
「もし、僕らの実力に不安があるのなら、パーティー加入は取りやめにしてもらっても…」
「…いえ。あなたたちの力に疑うべくもないのだけど…いやでもあなたたちあんな剣とか盾ぶん回してたじゃない!ってことはあれ技能じゃなくて素でやってたってこと!?」
「私の防御は技能によるものも多いがな。リュウの剣術は技能によるものではないぞ」
「あ、私は特に変な性能は持ち合わせていません!私がこのパーティーの常人枠ですね」
いやいやいや、あなたうちのパーティの心臓ですよ?あなたがいなかったら王都まで本当にたどり着けるか怪しいですからね?そこんところわかってますか?
「は、はぁ…」
というわけで、魔法の発動に少し時間がかかるぐらい、うちじゃ欠点になりようがないので安心してくれ。
「なんかどっと疲れたわ…昨日寝ずに考えてた私がばかじゃない…」
「加入するかどうかを?」
「いえ、どうやって仲間に入れてもらおうか…って何言わせるのよ!」
いいねいいね。だんだんと素が出てきていい感じだ。この勢いで思いっきり僕らのことを頼ってくれると嬉しいね。
「では、場も温まってきたところで、密林迷宮攻略の作戦会議といきましょう」
さて、本日の本題である、迷宮攻略に向けた打ち合わせの時間だ。
新しい難易度の迷宮に、新しいメンバーを加えて挑むわけである。普段以上に入念に計画を立てておかないと、足元をすくわれる可能性があるからね。油断大敵というやつである。
「今回我々が挑むのは、その名の通りうっそうとした森が広がる密林の迷宮です」
ジャングル…という名の通り、ムシムシとした不快感あふれる密林の迷宮だ。
現れる怪物は、熱帯雨林にふさわしい昆虫系のやつらが中心…だったはずなのだが…
「ギルドからの情報によると、これまで出現していた昆虫型の怪物はほとんど姿を見せなくなっているようです」
「では、どんな怪物がでるのだ?」
「ゴーレム、です」
ゴーレム。組成する成分によって種類や姿かたちは様々であるが、基本は鉱物でその体を構成する大型の怪物である。四足歩行をするものであったり、腕が巨大なものであったり、空中を浮かぶものもいるそうだ。
このゴーレムすべての最大の特徴が【対物理耐性】に特化している、ということだ。
そもそも、体が金属で構成されているだけでもシンプルに硬いうえに、大多数のゴーレムが防御系の魔法防御を得意としているため、二重で物理攻撃のダメージが通りにくいのである。
もちろん、全く効かないというわけではないが、【身体強化】の技能なしで素の才能のみで勝負するしかない僕らでは、1体倒すのにもどれだけの時間がかかるか、わかったものではない。
「そこで、私の出番というわけね」
だが、今ならゴーレムも脅威ではない。
シャルの魔法であれば、むしろゴーレムはカモにできるだろう。
ゴーレムは物理に強い半面、魔法系の攻撃にめっぽう弱いからね。
まぁもしシャルが何かしらの事情で魔法が撃てない状況になっても、奥の手はあるにはあるんだけど。
「迷宮では、私とリュウがタンクとしてヘイトを稼いで、そのすきにシャルの魔法で仕留める。これが基本の形になるな」
「迷宮の地図については私が用意しておきます。どうやら迷宮内で変化しているのは発生する怪物の種類のみらしいですから」
ふむ、一通りすり合わせておくことは共有できたかな。あ、そうだ。
「出現する怪物が変わっているってことは、ボスも変わってるのかな?」
「それについては不明です。ギルドの調査員もまだ最下層までたどり着けていないようですから」
「この様子だと、ボスもゴーレム系に置き換わっているとみて考えておいた方が得策だろうな」
「なるほど…シャルからはなにかある?」
「え、私?えーっと、ポーション類はどのくらい持って行っていいのかしら…?」
ポーションとは。
市販されている魔法薬で、飲むと体力や魔力を回復させるものや、軽い傷に振りかけて治すことができるものなどさまざまある。
基本的には試験管サイズのものを一人2~3本持ち歩くのが一般的である。
「そうだな…我々は基本体力を回復するものを2本と、けがを治療できるものを1本持ち歩いているのだが…」
「今回はシャルの魔法が頼りだから、魔力回復のポーションを多めに持っていこう。ドロップはその分無駄にしちゃうかもだけど…」
「そうしてもらえると助かるわ。魔力量には自信があるけど、道中どのくらい消耗するかは、潜ってみないとわからないところがあるから」
「よし、じゃあそのあたりも加味して、今日は買い出しにいこう!ついでに、リーザナの探検もしちゃおう!」
そして準備をおえれば、いよいよ迷宮攻略本番だ。
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