第7話 新たな
圧倒的、というほかなかった。
リーザナにあるD級迷宮のひとつ、森林迷宮。
【導きの星】の面々は、私を連れて迷宮へと足を運んだのである。
そこで私、シャルティアが見せられた光景は、自分の目を疑うものであった。
「エリー!」
「任された!」
わずか二人で迷宮を、しかも挑戦初日で攻略してしまうような人たち。
まるで何十年も一緒に戦ってきたかのような阿吽の呼吸で、お互いの名前を呼んだだけであっという間に連携をとってしまう。
D級の弱い怪物といっても、群れで襲われれば、中級の冒険者であっても苦戦するのが迷宮というものだ。
だから、どんなに低級の迷宮であっても、みんなパーティーを組んで迷宮に挑むし、最低でも3人組、できるなら5人組を組んで挑むのが常識である。
なのにこの二人は。
「これ、私必要なのかしら」
私には、魔法職として決定的にかけているものがある。
本来、魔法職をはじめとする後衛アタッカーは、前衛の仲間をサポートしながら、その動きに合わせて火力を出すことが一番の役割である、とされている。
でも、私にはそれができない。なぜなら、魔法系のアタッカーが早い段階で習得できる技能である、【詠唱破棄】や【詠唱短縮】といった汎用技能を一つも習得できていないからだ。
そのために私は、初級の魔法系技能を撃つには、かなり長い詠唱を必要になってしまう。
そうすると、当然その場の状況に応じて、魔法を撃つ、ということができない。
もちろん、パーティーに加入させてもらうときは、必ずその事情は説明しているわ。
でも、総じてどのパーティーも実戦を終えた後に決まったように
『使えない』『役立たず』『見た目だけの似非冒険者』
なんて、似通った罵詈雑言を投げかけて私をクビにするの。
そのあたりはもう慣れたものだし、別に気にしていないわ。
…ちょっとは気にしてるかも。
まぁそれは置いておいて。
彼らも、そんな有象無象のパーティーの一つだと思っていたわ。
今も別に信用したわけじゃない。でも彼らの実力は、これまで私を勧誘してきたどのパーティーよりも、
いえ、もしかしたらこの街にいるどんなパーティよりも高いものであるのは確か。
そんな彼らが私にどうして興味を持ってくれたのか。
少し、知りたいと思った。
シャルティアさんを連れて、僕たちは以前攻略した迷宮とは別の、D級迷宮を訪れている。
森林迷宮とよばれるここは、入り口を抜けると広大な森が広がっていて、現れる怪物は昆虫系の怪物が多い。
エリーもシャルティアさんも、さすが冒険者昆虫に関しては特に苦手意識もなく、エリーも問題なく戦えている。
この森林迷宮はD級に区分されるものの中では、比較的多い10階の層が存在している。が、難易度は先日攻略した洞窟迷宮よりも低いという、なんとも味はいまいちな大食い用の料理みたいな迷宮なのである。
ではなぜそのような迷宮に僕たちが訪れたかというと、
まず僕たちの実力を、シャルティアさんにアピールするため。
彼女は、自身の特性のために、迷宮内で魔法を満足に扱うことができていなかったようだ。
この話を聞いた時点で、エリーも僕も、そして僕らの事情を知るディーも、彼女に相当な親近感を抱いていたのは間違いない。
それはさておき、結果として、彼女はどんな簡単な魔法でも、使う際に長い詠唱を必要とするらしく、
そのせいでどのパーティとも長続きがしなかった、とのことである。
なのでまずは、彼女の力が十全に発揮できる環境を、僕らが作り出せるんだってところをみてもらう。
これが一つ目の目的。
二つ目は、実際にそれを実感してもらおう、ということだ。
「じゃあ、次の戦闘から、シャルティアさんにも加わってもらおうかな」
「…わかったわ。本当に私の言うとおりにやってくれるのね」
「そこは任せてほしい」
彼女のいう自分の欠点とは、魔法をつかうのに時間が必要であること。
これを解決する方法は二つ。
「じゃあ、行くわ」
エンカウントした怪物、蜻蛉型の【フライヤー】に対して、武器である杖の先を向ける。
『射撃 炎 一重 球体 【火炎弾】!!』
杖先に出現したこぶし大の大きさの炎の球が、発射されるとものすごい速さで怪物へと向かっていく。
着弾、突然火あぶりにされた【フライヤー】は、大きく悶えながら自身の身を焼こうとする火炎を消そうと躍起になっている。
解決策その1、敵に気づかれる前に詠唱を終わらせることだ。
こちらが先に一歩的に敵を発見できていれば、当然余裕をもって詠唱が可能なわけで。
もちろん、遭遇戦が多くなる迷宮において、毎回こういう使い方ができるとは限らないが、初動で有利をとることができるというのは、戦闘において大きなアドバンテージになるだろう。
自身にまとわりつく炎に気を取られている怪物を倒すのはとても容易である。
僕は隠れていた木陰から躍り出ると、【フライヤー】の頭部を切り落とす。
すると森の奥から、さらに2匹の【フライヤー】がこちらに向かって攻撃を仕掛けてきた。
だが、
「フンッ」
その攻撃はこちらには届かない。僕らには頼れるタンクがいるからね。
エリーは大盾で【フレイヤー】2匹の突進を受け止めると、なんとそのまま押し返してしまう。
蜻蛉型怪物【フライヤー】その大きさはほぼ人間の子供と同じぐらいの大きさがある。
見た目は割とキシャな女性が、大型の蜻蛉2匹を簡単に押し返している光景はかなりシュールである。
「シャルティアさん!」
『射撃 炎 二重 球体 【火炎弾連撃】!!』
エリーが作った隙を活かさない手はない。
今度は、シャルティアさんの杖先から二つの火炎弾がそれぞれの【フライヤー】に直撃する。
これが二つ目の解決策、優秀なタンクにお任せ作戦、である。
わがパーティが、ほかのパーティーと大きく異なる点、それは僕もエリーもタンク役ができる、ということである。
これは、僕らがわずか二人で迷宮を攻略できている一番の要因でもある。
エリーは言わずもがなであるが、僕も近接職としてそれなりの腕前であると自負している。
そのうえで、最刃流にはいくつか敵の攻撃を受け流す技や、相手の攻撃をかわすための歩法術もある。
そのため、僕も敵のそばで、相手の攻撃を受け流しながらヘイトを稼ぐような、いわゆる避けタンクの真似事ができるのである。
すべて師匠と一緒に考えた技なわけだが。
つまり、僕たち二人であれば、相当な時間敵からの注意を引くことができるはずなのだ。
となれば、当然シャルティアさんの詠唱の時間を稼ぐことなどわけない。
仮に迷宮の難易度が上がったとしても、攻撃にさくキャパシティーを減らせば、上級の迷宮でも問題なく対応できるだろう。
そして、時間さえ作ることができれば、シャルティアさんの強力な魔法を自由に使うことができる、というわけだ。
まるで先ほどのリプレイかのように、熱さにもだえ苦しむ【フライヤー】の頭部を両断すると、
その死体は魔力となって霧散し、ドロップアイテムのみが残された。
「…勝った…のよね?」
「うん、つつがなくね」
「素晴らしい魔法であったな。D級といえど、魔法職の支援一つでここまで戦闘が楽になるものなのか」
エリーも驚いているが、本当にそのとおりである。
これまでは、相手のヘイトを二人で分散しながら、隙を見せた敵を僕が倒す、というのが定番の流れであったが、
シャルティアさんの魔法が加わったことで、相手の隙を作ることが可能になった。
それに、
「シャルティアさんは、ほかにも使える魔法があるんだったよね?」
「えぇ。今使った炎の魔法なら中級まで、水の魔法も初級だけだけど使えるわ」
先ほどの戦闘では、初級の魔法である火炎弾しか使わなかったものの、
場合によってはさらに火力も出せるということ。
彼女が加入してくれれば、C級迷宮も問題なく攻略できそうなんだけど…
彼女はまだ浮かない表情をしている。
パーティーを解雇された直後だし、不信感が強いのもしょうがないか。
「我々としては、実力を見てもらうという目的は達したし、ドロップアイテムもかなり集まった。そろそろ帰還しようか」
「そうだね、シャルティアさんもそれでいい?」
「えぇ…問題ないわ」
無事ギルドに帰還した僕らは、ディーと合流したのちその場で解散となった。
「臨時要員については、少し考えさせてほしいの。明日、必ず返事をするわ」
「わかりました。良いお返事をお待ちしておりますね」
そういってシャルティアさんはギルドを去っていった。
「入ってくれるかな、うちに」
「私はかなり手ごたえを感じたぞ。おそらく問題ないと思うが」
「すごい自信だね」
「私もエリーと同じ考えです!彼女、たぶんこちらを信じていないというより、戸惑いのほうがおおきいように感じました」
「戸惑い?」
「はい。これまでの環境との違いといいますか…ギャップの大きさといいますか…」
…なるほど。
彼女はこれまで、自分の満足いく形で迷宮に挑むことができていなかったのだと思う。
事情を理解してくれる仲間はおらず、理不尽な言葉を投げかけられたことも、さっきのが初めてというわけでもないはずだ。
そのなかで初めて、思う存分魔法を使って迷宮を冒険できたのだ。
「彼女にとって、これが良い形になればいいな」
「そうだな」
「なんなのよもう…!」
宿屋の一室、彼女、シャルティア・ボアビスタは過去類を見ないほど動揺していた。
なんせ初めてだったのだ。こんなに迷宮攻略を楽しいと感じたのは。
これまで、彼女は自身の欠点…いや、その特殊性によって満足に冒険できたためしがなかった。
確かに、彼女の持つ特異性について話せば、理解を示してくれる者もいたかもしれない。
でも、そうでないものもたくさんいるのだ。
『あなたの力、それはとても扱いが難しいものなの』
彼女の両親は、彼女が幼いころに病死している。
その母が、何度も彼女に言い聞かせた言葉が、脳内に何度もよぎる。
『あなたが本当に信頼できると思った人に、その力は使ってあげなさい』
「なによあいつら…本当になんなの…!?」
これまで私を袖にしてきたパーティーのやつらとは違う。
私の意見もちゃんとと聞いてくれるし、尊重してくれている。
専属の女の子を合わせた三人の間に、確固たる絆があるのは、部外者の私からも見て取れる。
そして、私もあの輪の中に入れたら…なんて。
「どうしちゃったのよ私…!バカバカバカ…!」
結局、私はそのあとほとんど眠ることができなかった。
その時にはもう、気持ちは決まっていたのかもしれない。
冒険者ギルドに足を運ぶのにこんなに緊張するなんて、これまで一度もなかった。
だって初めてなんだもの。
自分から、仲間にしてくださいって、伝えにいくの。
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