第2話 師
頑張ってたくさん更新していきます。
教会には、神々との交信を通じて人の「才能」をつまびらかにすることができる設備がある。
一般の人々は、10歳になるタイミングで例外なく才能の開示を行うことになる。いわゆる成人の儀である。
つまりは僕も当然例にもれず成人の儀に挑み、その結果が
job: ---
職業欄が空欄であることはまずありえない。剣士や魔法使いといった戦闘系の職業から、はたまた木こりや医者のような職業まで幅広く存在する職種のどれにも当てはまらないなど、本来であればいかほどの可能性なのか。むしろ僕は希少なのでは…?
両親の前で情けなくも泣いてしまったわけだが、家に帰り、自室に戻ってから少し落ち着いて冷静に考えてみる。
職業には、大きく二つの役割がある。
一つは、技術の習得である。職業に沿って適切な訓練を施すことで、その職業で使用することができるスキルを獲得することができる。魔法使いなら魔法を覚えることができるし、剣士であれば様々な剣術を習得することができるようになるかもしれない。
もうひとつは、才能のアップ効果である。
才能は、職業によらず後天的に鍛えることができるが、加えてそれぞれの職業や技術を最大限生かすための才能の値がとりわけ上がりやすくなる、というわけである。
しかし、職業がないということはつまり
「素の力で勝負するしかないかぁ…」
筋トレや素振りでステータスは上がってる。確認したわけではないけど、たぶん同世代の友達よりは数値も高いと思う。けど、それは今だけだ。父さんと母さんの英才教育のおかげってやつだ。たぶん、みんなも職業が目覚めたら、才能の値でもすぐに追い抜かれてしまうだろう。
「素振りも増やして、筋トレももっとやらないと」
職業による恩恵を得られない分、努力で補う方針でいこう。というかそれしか道はないんだけど。
「母さん、今日の素振りいってくる!」
「気を付けてね!暗くなる前には帰ってくるのよ~」
ここ、僕の生まれ育った町であるナールビエは、大陸で1.2を争う大国カーマイン辺境の地である。周囲を森に囲まれており、その一角でいつも素振りをしているのである。
この素振りもかれこれ3年になるなぁ。
3歳のころから父さんのもとで剣を習い4年、剣に慣れてきてからはこうして自分で素振りをするようになった。まぁ、果たしてどの程度結果が伴っているのかはわからないけれど。
「よしっ、やるか!」
木刀を持ち、振り上げ、振り下ろす。一つ一つの動きを丁寧に、そのうえでかつ素早く。
いつもと変わらない動き。でも、
(なにか…引っかかるというか。なにかつかめそうなんだよな。)
ここ数か月素振りをするとき、何か違和感がある。具体的にどんな違和感なのかといわれると言語化が難しいけど。
いつもと変わらない動きをしているはずなのに、木刀を振るたびになにかはっきり壁に突き当たるような感覚がある。
そして、その壁を越えられれば、なにかを掴めるっていう根拠のない確信があった。
無心になって、振る。振る。振る。
目の前の壁を壊すために、超えるために。
「…ほぅ。なかなか良い剣筋であるの」
「おひゃうっ」
突然背後から耳元でささやかれた僕は変な声とともに飛び上がってしまった。
いやさすがに素振りに集中していたとはいえ、こんなすぐ後ろにいて人がいて気づかないなんて言うことがあるのか。
「だだだだだだれっ!?」
「ふぁっふぁっふぁっ。いやなに森を散歩していたらなにやら面白い少年がおったもんでな」
ご老人、だった。口周りには色の抜けた長いひげを蓄え、腰あたりまでの長さの杖を突いた、老人。
のはずなのに。
(なんか、なんというか、こういうのを隙がない…っていうのかな)
面白い少年、というのは僕のことだろうか。ただ素振りをしていただけなんだけど。
「なかなかよい剣筋であるな。しかし一方で伸び悩んでもおるじゃろ」
「え、いや、まぁ…」
「ふむ…よし、ではワシがすこし指南してやろう」
「あ、はい。よろしくおねがい…え?」
普段通り素振りをしていただけなのに、気づいたらおじいちゃんが師匠になりたそうにこちらを見ています。どういう状況なのだろうか。
「改めて自己紹介をさせてもらおうかの。ワシはジェリオール。気軽にジェル師匠と呼んでくれ」
「は、はぁ…」
森の奥のそのまた奥、ひっそりとたたずむ小屋がこのご老人、ジェリオールさんの自宅らしい。
自警団が定期的にパトロールしているとはいえ、ここまで森が深い場所だと怪物も発生しかねない危険な場所である。そんなところに住んでいるなんて、このおじいさんは何者なのだろうか。
「あ、あの、じぇりお」
「ジェル師匠」
「じぇりお」
「ジェル師匠」
「ジェ、ジェル師匠」
「なんじゃ?」
意外と頑固でもあるらしい。すでにぼくの師匠になった気分でもあるらしい。
「あ、あの、どうして僕の師匠に…?」
「なぁに、おぬしには才能があると思うての」
才能?それは僕とはもっとも縁遠いものである。職業もなければ技術もない。才能の並。そんな僕には才能なんてない。なのに。
「お主には才能がある。剣の才でもない。もちろん職業や技能の話をしているわけでないぞ?」
僕に職業がないってことがわかってから、僕の周りからは一気に人がいなくなった。
昔一緒に冒険者になろうといってくれていた友人たちは、すでに別の戦闘職の人に誘われて王都に旅立っていった。
毎日愛想よく挨拶をしてくれていた近隣に住んでいる人たちは、最近はめっきり話しかけてこなくなった。
今や僕が会話をする相手といえば、両親ぐらいなものである。
両親とも、僕のことを愛してくれている。僕に職業が存在しないってわかった後も、変わらず僕の夢を応援してくれている。
でも、そんな二人でも、時々感じるんだ。僕が卑屈になっているだけかもしれない。
いや、たぶんそうだ。間違いなく僕が考え過ぎているだけなんだ。
それでも、感じてしまうんだ。僕が素振りに向かうとき、父さんに訓練をせがむとき、父さんが、母さんが、
僕の未来を憂う視線を。
母が、父が、僕のことを信じてくれているのはわかってる。
でも、そうじゃない。そうじゃないんだ。僕はもっと、別の。
「お主、諦めたくないのであろ?眼が燃えておる。心の炎が見えるようじゃ。」
「戦いたいのであろ?お主の剣から聞こえてきよる。おのが未来をつかむための叫びが」
そうだ。ただ一言言ってほしかっただけなんだ。
たった一言でよかったんだ。
「ならば理由はそれで十分じゃ。お主の才はその心じゃ。」
そうだ、僕は。
「お主は英雄になれる器を持っておる。じゃから」
「冒険者になれ。リュウよ」
ただ、その一言が欲しかっただけなんだ。
書けば書くほど自分の文才のなさに飽き飽きしています。
内心描写とそうでない部分をうま~くかき分けるのが難しい…