第9話 会合
第1章も佳境に差し掛かってまいりました!
今日はおそらくこの1話のみ更新になると思います!
エリーが落ち着くまで待つこと数分
恥ずかしそうに頬を染めた彼女の表情は、多少ではあるがつきものが取れたような、そんな気配が見て取れた。
「…す、すまない。情けない姿を見せた」
「大丈夫。ボス戦を前に少しでも後顧の憂いを断てたとおもえば」
「そうだなっ!そういうことにしておこう…!」
この人、たぶんこちらのほうが素なのではないかな。
普段は自身の生い立ちというか、これまでの経緯もあって、必要以上に自分を律して過ごしていたんじゃないか。
これからは、こういうエリーをもっとみんなの前で出していければいいと思う。
「んんっ…!では改めて、ボスについて相談しようと思うが、いいか?」
「わかった」
それにこういう切り替えもすごい。さっきまであんなモジモジしてたのに、この一瞬でもう彼女の意識は迷宮攻略に向かっている。こういう意識は、文字通り一流冒険者の素質というものなのだろう。
「本来のこのダンジョンのボスは『ゴブリンキング』。通常のゴブリンを二回りほど大きくしたような怪物だな」
これは僕も事前に資料を読んだときに確認した。
大型のゴブリンではあるが、攻撃方法は、手に持っているこんぼうでの物理攻撃といういたってシンプルなボスのはずだ。まさしく初心者にうってつけというやつだな。
「だけど、ここまで迷宮内の様子が変化しているとすると、当然ボスにも変化が起こっていると見たほうがいいよね?」
「その通りだ。正直、何が出てくるか想像もつかん。通常階層にC級の怪物が現れているところを見るに、最低でもC級…下手すればB級以上のヤツが出てきてもおかしくはない」
「B級以上のボスモンスターって、たとえばどんな奴がいるんだろ?」
「ギルドで確認できているものであれば、大型の蛇型モンスター『キングコブラ』や、オークの上位種の『ジェネラルオーク』などだな。ほかにも何体かいるが、基本的に共通しているのは、その体躯の大きさだ」
迷宮に出現する怪物、特にボスモンスターは、体が大きければ大きいほど強力である、というのが迷宮攻略における一般知識らしい。
「つまり、今回は相当な大型種を相手にするつもりで挑むべき、ってことか」
「そういうことになるな。大型の怪物への対処の基本を共有しておいて、あとは出てきた怪物によってアドリブで対処…が現実的な策だろう」
「…それってほとんど行き当たりばったりってことでは?」
「…そうともいうかもしれんな」
本来であれば、迷宮の構造はもちろん、迷宮内に出現する怪物やボスモンスターの種類や生態までしっかり調査してから攻略に挑むのが当たり前で。
ボスがどんなやつかわからないまま挑むなんていうのはほぼ自殺行為に等しい。
けど、二人で生き残るためには、これを乗り越えなければならない。
そもそも、階層数が少ないとはいえ、この異常尽くしの迷宮をたった二人で最深部までやってこれただけでとんでもない偉業である。
だけど、もしここで僕らが倒れれば、ここまでの道のり、いや僕らの人生そのものがすべて無に帰すことになる。どんな理不尽だ、全く。
「どうやら君とパーティーを組むためには、相当な試練を乗り越えなければならんらしいな」
「そりゃあ、僕だってそんなに安くないですからね!」
「いや君が誘ったんだろう!?私を!?」
「そういう見方もできるか」
「…ふふっ」
「…ハハッ」
でも、なんだろう。この人となら、たぶん大丈夫だって。
エリーも感じてくれているかもしれない。
二人なら、この難局も乗り越えられるって、確信がある。
「…では、いこうか」
「そうだね。いつまでもここで話してると、名残惜しくなってしまう」
「同感だ。まぁ積もる話は帰ってからすればいい。ディルーナも一緒にな」
ディルーナさん、心配かけてしまったかな。
同僚のエリーさんの安否も気になっているだろう。
彼女を安心させてあげるためにも、生きて帰らなければならない。
「さぁ、初めての迷宮攻略だ。気合い入れていこう!」
「あぁ!守りは任せてくれ!」
______________迷宮最深部 ボス部屋
「なにも…いない…?」
ボス部屋に突入した僕らは、まずその異様な雰囲気に圧倒されることになった。
広大な空間を照らす松明の光、その淡い光の最奥には、鎮座する空の玉座。
「…あそこにゴブリンキングが座っているはず…だったのだがな」
どうやら事前に話していた通り、ボス部屋の内容も変わってしまっているようだ。
だがしかし、肝心のボスはどこだ?
ボスが存在しない迷宮は存在したことがない。
ボスを倒し、迷宮心臓を停止させることで迷宮を攻略させることができる。
もしそんなものがあり得るのだとしたら、それはつまり人類には攻略が不可能な迷宮であるということだ。
瞬間、悪寒。
背後から自身の死を予感させるような、強烈な殺気
_最刃流抜刀術 刹那_
ガキィッン!
「へぇ、これに反応するのか。やっぱり強いね、君」
男。浅黒い肌にとがった耳。
これほどに異常が重なった迷宮内に居座っている時点でおかしい。
そのうえでこちらを殺すつもりで攻撃を仕掛けてきた、ということは。
「リュウ!」
男と僕の間に割り込んできたのは、エリー。
男は大きく後ろに飛び、距離をとった。
「貴様…なにものだ…?」
「いやはや、君もいいね。あの一瞬の間に僕たちとそこそこあった距離を詰めて迷いなく自分をたてにするとは」
「何者だと聞いている!」
たぶん、こいつが今回の迷宮での異変の黒幕。
だが、手段も目的もわからない。何もかもが不明である不気味さ。
「まぁまぁ落ち着きなよ。僕は君たちと遊びたいだけなんだ」
「…ふざけているのか」
「僕はいたって真面目なんだけどなぁ。まぁいいか。今日は小手調べをするだけのつもりだったし」
離すや否や、彼の足もとに発生した黒いオーラ。
靄のように足もとに広がっていくそれに伴って、男から指数関数的に増していく圧。
「バカな…これは…!」
「エリー?知っているの?」
「…あの黒い靄のようなもの。あれはおそらく、魔力が実体化したものだ。私もギルドの資料でしか見たことがないが…」
「ハハハッ!どうやら君たちの間でも僕らは有名らしいな!」
「では、やはり…!」
「ちょっと待って。おいていかないでほしいんだけど」
なんかこの二人だけで完結しているらしいが、なにやらまずい相手のようである。
実際、目の前の男から感じる圧は尋常ではない。それだけでただ者ではないことはわかるが。
「遠い古の時代、迷宮の出現によって人類は滅亡の危機に瀕した。そんな時代において、人々の生活を最も脅かした存在として今なお語り継がれている存在がいる」
「…まさか」
「…そのもの達は、『黒衣をまといて、世界に闇をまき散らす』とある。…まさしく、目の前のやつのようにな」
「彼らはこう呼ばれた。『魔人』と」
最刃流抜刀術 刹那:抜刀の瞬間に、軸足を中心に回転し、遠心力を用いて神速の剣を繰り出す技。カウンターによく用いる




