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華やかな茶会


柔らかな陽光が大きな窓から差し込み、穏やかな午後の空気を静かに包み込んでいた。


王立貴族学院のサロンは白を基調とした優雅な装飾が施され、心地よい温もりをもたらす陽射しがレースのカーテンを透かして揺れている。


甘やかな紅茶の香りと、焼きたてのフィナンシェやマカロンの繊細な香ばしさが微かに混じり合い、どこまでも幸福感に満ちた空間を作り上げていた。


今日は珍しく、令息たちの姿はない。


純白のテーブルクロスが敷かれたティーテーブルの周りには、制服を纏った華やかな令嬢たちだけが集い、優雅な談笑に花を咲かせていた。


「こうしてルシア様とゆっくりお話しできるなんて、本当に嬉しいですわ」

「いつもエリオット様とヴィンセント様が傍にいらっしゃるでしょう?お二人ばかりずるいと思っていましたのよ」

「今日はもう、絶対に誰にも邪魔はさせませんわ」


くすくすと楽しげな笑い声が弾ける。


優雅なサロンは、まるで小鳥たちが羽を休める秘密の花園のような、甘く麗しい空間になっていた。

ルシアは、ふんわりと微笑みながら、透き通るような指先でそっとティーカップを持ち上げた。


「ふふ……今日は皆様に独占されてしまいますわね」


紅茶を口に運ぶ仕草さえも優雅で、気品に満ちている。

その言葉に、令嬢たちの顔が一層輝く。


「まあ、なんて素敵なお言葉。ルシア様を独占できるなんて、夢のようですわ」

「今日は女子だけでしかできないお話を、たくさんいたしましょうね」


華やかな会話が弾み、ティーテーブルを囲む輪がより一層親密なものとなる。


細やかな金の装飾が施されたポットから、温かな紅茶が美しく揺れるカップへと注がれる。

湯気が優雅に立ち昇る中、ルシアはそっとカップを持ち上げ、滑らかな唇を添えた。


「私も皆様とこうしてお話しできて、とても嬉しいですわ。お手柔らかにお願いいたしますね?」


ふわりと微笑む彼女の表情は、まるで白百合が朝露に濡れながらそっと咲き誇るように儚げでありながら、可憐で柔らかだった。


その仕草ひとつで、周囲の令嬢たちの視線が自然と吸い寄せられる。


「……ルシア様、やっぱり素敵ですわ」


そう、誰もが思っていた。

彼女が特別な気品を持つのは、ただ貴族の最高峰である公爵家の娘だからというだけではない。


決して高慢ではなく、決して他を見下すこともなく、すべてを包み込むような温かさがある。

それでいて、美しく、しとやかで、穏やかで。

そんな彼女の微笑みに触れるだけで、まるで心が洗われるような気持ちになる。


令嬢たちはうっとりと幸せそうに笑い合いながら、優雅な午後のひとときを楽しむのだった。



白磁のティーカップから立ち昇る湯気とともに、紅茶の甘い香りが漂い、華やかな談笑が絶え間なく響く。


一人の令嬢が、そっとカップを手に取り、楽しげに微笑んだ。


「ねえ、そろそろルシア様のお話が聞きたいわ」


弾むような声に、ルシアは優雅に頷く。


「ふふ、どうぞ?」


彼女の柔らかな微笑みに、令嬢たちはわくわくとした表情で顔を見合わせた。


「最近、あのお二人との関係に明らかな変化があったように思うのですが……どうなったのですか?」


「そうそう! ヴィンセント様は相変わらずルシア様のおそばにいらっしゃるけど、以前のように想いを伝え続けているというより、何か吹っ切れたような雰囲気に見えますの」


「前はエリオット様を意識されているように見えましたけれど、今はどこか落ち着いていらっしゃるような……?」


令嬢たちは興味津々に身を乗り出し、ルシアを見つめる。

その瞳には、好奇心と、少しばかりの期待が混ざっていた。


ルシアは、そんな彼女たちを見回しながら、静かにカップを置くと、そっと微笑んだ。


「その……先日、私とエリオット様の関係が、改善いたしましたの……」


その言葉に、令嬢たちは一瞬目を見開いた後、弾けるように微笑んだ。


「まあっ!」

「そうでしたのね!」

「よかったですわ……ずっと心配でしたもの」


嬉しそうな声が次々と上がり、サロンの空気はさらに華やかさが増す。

ルシアはそっと目を伏せ、微笑を深めながら、言葉を続ける。


「それで、ヴィンセント様も応援してくださる、ということになりましたわ」


「まあ……っ!」

「ずっとルシア様を想われていたのに、それでも応援を……」


「ええ。お二人も、これからは友人として仲良くされるみたいで」


ルシアが穏やかにそう告げると、令嬢たちは感嘆のため息を漏らした。


「それで今日はお二人で剣の稽古をされているのね」

「ええ、そういうことみたいですわ」


令嬢たちは顔を見合わせて微笑み、楽しげにクスクスと笑い合う。

ルシアはカップを持ち上げ、優雅に紅茶を一口含む。


「けれど、私たちの関係が大きく変わるわけではありませんのよ」


彼女は一度カップをソーサーに戻し、テーブルの上でそっと両手を重ねる。


「これからも変わらず、仲良くさせていただきますわ」


その穏やかな声に、令嬢たちは小さく頷く。


「ふふ……ヴィンセント様とは、なんだか家族のような気持ちで接することができますの。だからこそ、私も自然体でいられるのですわ」


ルシアがそう静かに言葉を紡ぐと、令嬢たちは顔を見合わせ、納得した様子で相槌を打つ。


「まあ! 家族のような……」

「素敵ですわね……!」


紅茶の香りが立ち上る中、柔らかな微笑みが交わされる。

その時、一人の令嬢が、ふと興味深そうに身を乗り出した。


「それでは……エリオット様とは、お話ししているとき、どのように感じられるのですか?」


その問いに、他の令嬢たちも興味を引かれたように、視線を集める。

そして、サロンの空気が、ほんの少しだけ期待に満ちたものへと変わった。


ルシアはカップを手に取り、ひと呼吸おく。

それから、そっと微笑みを浮かべた。


「エリオット様とは……やっぱり、まだドキドキしてしまいますわ」


「まあ……!」

「とても素敵なことだわ!お二人がさらに親しくなられたということでわなくて?」

「ええ、以前よりもずっと……お幸せそうに見えますもの」


令嬢たちの視線が、より一層輝きを増す。

ルシアは、そんな彼女たちを見つめながら、そっと唇に指を添え、ふんわりと微笑んだ。


「ふふ……皆様には、改めてお礼を申し上げませんとね」


「お礼?」


「ええ。以前、皆様が私とヴィンセント様のことを気にかけてくださったでしょう? そのおかげで……私は、自分の気持ちに気づくことができましたの」


「まあ!」

「そんな、お礼を言われるなんて……!」


令嬢たちは口々に驚きながらも、すぐに嬉しそうに微笑む。


「あの時はわからなかった、私の愛が見つかりましたの」


ルシアは、静かにそう告げると、カップをそっとテーブルに置き、両手を重ねる。


「こうして今、心から幸せだと感じていられるのは、皆様が親しくお話をしてくださったからですわ。皆様には、本当に感謝しております」


「まあ……っ!」


令嬢たちは、感動したように顔を見合わせる。


「そんなふうにおっしゃっていただけるなんて、私たちの方が嬉しくなってしまいますわ!」

「でも、本当に良かった……ルシア様の幸せそうなお顔を見られるなんて」

「エリオット様も、きっととてもお幸せなのでしょうね」


「……ふふ、ええ。そうだと嬉しいですわ」


ルシアは微笑みながら頷く。


「これからも、変わらずよろしくお願いいたします」


「ええ、もちろんですわ!」


令嬢たちは頷き合い、紅茶のカップを持ち上げる。

サロンの空気は、より一層和やかに、甘やかに満たされていく。



華やかな笑い声が響くなか、話題は次第にそれぞれの婚約者や恋の噂へと移り変わっていった。


「ねぇ、ルシア様。エリオット様は、きっととても甘やかしてくださるのでしょう?」


興味深げな声が上がると、周囲の令嬢たちも期待に満ちた眼差しを向ける。

紅茶を手にしていた令嬢の一人が、頬を紅潮させながら微笑んだ。


「ぜひ、お聞かせくださいませ。エリオット様は、どれほど優しくしてくださるのですか?」


途端にサロンの雰囲気がより一層華やぎ、興味津々とばかりに身を乗り出す令嬢たち。


「エリオット様がどのように愛を示してくださるのか、とても気になりますわ」

「詳しくお聞かせくださいませ!」


次々と声が上がり、サロンの空気がふんわりと甘いものに変わる。

ルシアは、一瞬驚いたように目を瞬かせ、そっとティーカップを置いた。

頬には、うっすらと淡い紅が差していた。


「……ええと……」


指先が、カップの縁をなぞる。


「エリオット様は……とても、私を大切にしてくださいますの」


微笑みながらそう答えた声は、どこか恥ずかしげで、それがかえって愛おしさをにじませていた。


「例えば、どんなふうに?」


令嬢たちは期待を込めて身を寄せる。


「そうですわね……例えば、私の好みをすべて覚えていてくださるのです。お茶の種類やお菓子、苦手なものまで……」


「まあ!さすがエリオット様ですわ……」

「そんなに細やかに覚えてくださるなんて、まるで物語の理想の恋人のようですわ!」


「ふふ、他には?まだまだございますでしょう?」


令嬢たちの目がさらに輝く。


「たとえば……何気ないことで、エリオット様がルシア様を想っていらっしゃるのだと感じる瞬間など、ございませんの?」


令嬢の問いに、ルシアは一瞬驚いたように目を瞬かせた。

しかし、すぐに柔らかく微笑む。


「……以前共に過ごしている時に『色が素敵』と呟いたことがありましたの。ほんの何気ない会話だったのですが……」


そう言いながら、カップの縁をそっと指でなぞる。

ふと遠い記憶を辿るように視線を落としながら、続けた。


「次の日、その色のリボンとアクセサリーが、そっと贈られてきましたの」


「まあ……!次の日ですの?」


驚きに目を輝かせる令嬢たち。小さな歓声が上がる中、一人がさらに問いかける。


「それは偶然ではなく、きっと急ぎエリオット様が選ばれたのですわよね?」


ルシアはゆるりと頷いた。けれど、その唇にはどこか懐かしむような微笑が浮かぶ。


「ええ……ですが『たまたま君の好きな色だったんだよ』と、何気なく渡してくださいましたわ」


「なんて、粋な……!」


令嬢たちは感嘆の溜息を漏らし、互いに微笑み合う。

その場がふんわりとした温かさに包まれるのを感じながら、ルシアはそっとカップを持ち上げた。


「他には?まだまだあるのでしょう?」


きらきらとした期待に満ちた表情で問いかけられ、ルシアは少し考え込み、カップの中に視線を落とす。


「そうですわね……」


そっと指先でカップの縁をなぞりながら、微笑を深めた。


「温室のお花を鑑賞していて好きな花をお答えしたことがありましたの」


「まあ、それで?」


「数日後、エリオット様のお屋敷の庭園が、その花達で埋め尽くされていましたわ」


「……!」


サロンの空気が静まり、令嬢たちは言葉を失う。


「それは……すごいことですわね……」

「ええ……そんなこと、いくら侯爵家と言えども、簡単にできることではありませんもの」

「エリオット様……ルシア様のためにそこまでなされるなんて……」


感嘆の声が広がる中、令嬢たちは顔を見合わせ、微笑ましげに頷き合う。


「本当に、エリオット様はルシア様を大切に思っていらっしゃるのですね」



「……そうだわ!」


すると、何かを思い出したように令嬢が身を乗り出し、どこかドキドキした様子で言葉を紡ぐ。


「ねぇ、ルシア様。エリオット様がルシア様に触れられているのを、学院でも度々お見かけしますけれど……お二人きりの時も、やはりそうなのですか?」


「まあ!」


その言葉に、別の令嬢が目を輝かせる。


「あら……私もそれ、気になっていましたの! こっそり教えてくださいませ!」


甘やかな空気の中に、興味と期待が混ざり合う。

その問いに、ルシアは一瞬はっとして、ティーカップを持つ手が微かに揺れる。


「そ、それは……」


頬がじんわりと熱を帯びるのを感じながら、そっと唇を噛む。


「……ええ……」


声は小さく、けれどどこか隠しきれない喜びが滲んでいた。


「……気がつくと、そっと触れてくださっていますわ」


「まあ……!」


「頬に触れたり、髪を撫でたり……手を取ってくださったり……」


令嬢たちは、さらに身を寄せ合い、ルシアは、そっと目を伏せる。


「最近は……」


彼女は、ほんのわずかに指先で唇をなぞる。


「口にも……触れてくることが増えてしまいましたの」


「……!」


令嬢たちは、思わず息をのんだ。


「そ、それは……」


ルシアの頬が、じんわりと熱を帯びる。


「内緒に、してくださいませね……?」


その小さな声が、サロンの空気をさらに甘やかに満たしていく。


「エリオット様の愛の深さが、伝わってまいりますわね」

「そうですわね……愛おしくて仕方がないのでしょう」

「ルシア様が幸せしそうで、本当になによりですわ」


サロンの空気がさらに甘やかに満ちる。


「でも、エリオット様は人目を気になさらない方なので……嬉しいですけれど、時折困ってしまうのです」


ルシアはそう言いながら、そっとカップを持ち直し、視線を落とす。

ふわりと膨らんだ頬が、控えめな不満を滲ませていた。


その愛らしい仕草に、令嬢たちは思わず息をのむ。


「まあ……ふふ、拗ねていらっしゃるの?」

「こんなに可愛らしい表情をされるなんて……」

「ルシア様は本当に、どの瞬間も愛らしくていらっしゃいますわ」


微笑みながらも、令嬢たちはどこか興奮気味に、そわそわと互いに視線を交わす。


彼女たちにとって、ルシアはただ憧れの対象ではなく、大切に想う存在だった。

だからこそ、そんな彼女の愛らしい仕草を目にすれば、胸が高鳴らずにはいられない。


頬に紅を宿したルシアの横顔を見つめながら、彼女たちはそっと紅茶を口に含んだ。

けれど、隠しきれない幸福感が、ふわりと空気を震わせる。


「これほど大切にされて、どうして無事でいられるのでしょう……?」

「今日が女子会でよかったですわね……私たちまで胸が高鳴ってしまいますもの」

「エリオット様……これは本当に、我慢が大変ですわね……」


囁くような声が、甘やかにサロンの中に溶けていく。

紅茶の湯気がふんわりと立ち昇り、華やかな空間は、幸福な余韻に包まれていた。



「ねえ、こんなにかわいらしいと、本当に我慢がきかないのでは……?」


ふと誰かが呟いた瞬間、サロンにいた令嬢たちは顔を見合わせ、微かな熱を帯びた笑みを浮かべた。


「結婚してから、大変そうですわね……」

「ええ、あれほどルシア様をお慕いになっているのですもの。ほんの少しでも離れたら、寂しがるのではなくて?」


優雅な口調ながらも、どこか興奮を隠しきれない声が次々と響く。

ルシアは、状況をよく理解できていないのか、静かに瞬きをしながら、次第に熱を帯びていく令嬢たちを見つめていた。


「ルシア様、大丈夫かしら? 数日は離していただけないのでは……?」


「……?」


問いかけられた言葉の意味をすぐには理解できず、ルシアは戸惑ったように顔を上げる。

けれど、令嬢たちはさらに身を寄せ、どこか真剣な眼差しを向けていた。


「ルシア様、よろしいですか」

「初めて夜を共に過ごすとき、決してそんなかわいらしいお顔をされてはなりませんわ」

「エリオット様が理性を保てなくなってしまいます!」


「っ……!」


やっと状況を理解したのか、ティーカップを持つ指が、微かに震えた。


陶磁器がわずかに触れ合い、かすかな音が静寂の中で響く。

長い睫毛が揺れ、伏せられた瞳が一瞬だけ影を落とす。


そして——


頬が、じわりと紅く染まる。

ゆっくりと、耳の先まで。

まるで熱を宿したかのように、静かに、けれど確かに広がっていく。


ルシアはあからさまに視線を逸らし、何かを誤魔化すようにそっとカップを持ち上げた。

けれど、その動作がかえって雄弁に語っているように思えた。



サロンに、ひそやかな沈黙が落ちる。

令嬢たちは、互いに目を見開き、そっと息を呑んだ。


そして——


「まさか……?」

「……すでに、お済み……?」


静かな問いが響いた瞬間、ルシアの肩がピクリと震えた。

そして、耐えきれなくなったように、両手でそっと頬を覆い、うつむく。

熱を帯びた紅潮が隠しきれず、長い睫毛が伏せられる。


その様子に、令嬢たちは思わず顔を見合わせる。


「まあ……!」

「まあまあまあ……!」


驚きと甘やかな期待が入り混じったような空気が、ふわりとサロンを満たした。


「……やはり、我慢できなかったのですね……」


ふと誰かが呟く。


「こんなに愛らしいルシア様を目の前にして、あのエリオット様が……」

「ええ……お察ししますわ」


静かに交わされた言葉に、サロンの甘やかな空気がさらに濃密になっていく。


紅茶の湯気がゆるやかに立ち昇り、ルシアは顔を覆ったまま、小さく肩を震わせた。

その仕草は、まるで朝露に濡れた花びらのように繊細で——


「ねえ、待ってください、ルシア様たちが数日お休みされたあの日、まさか……」


微かに震える声が、静かな部屋に落ちた。


「え、ちょっと待って……数日お休みされましたわよね? まさか本当に数日間離してくれなかったんですの!?」

「じょ、冗談のつもりでしたのに……」


驚きと、どこか熱を帯びた期待が入り混じる令嬢たちの視線が、ルシアに集中する。


けれど彼女は、何も言わなかった。

ただ、紅潮した頬を覆い、ふるふると小さく震えるばかり。


その沈黙が、何より雄弁に物語っているようだった。


「愛ですわね……さすが、エリオット様……」

「ルシア様相手ですもの……誰だってそうなりますわ……」


静かに、しかし確実に、甘い熱が満ちていく。


ルシアはそれ以上何も言えず、ただ顔を隠したまま、小さく身を縮めた。

頬に宿る熱が引くことはなく、心臓の鼓動までもが耳に響くようだった。


そんな彼女の様子に、令嬢たちはそっと囁き合う。


「も、申し訳ありませんわ……こんなに詮索してしまって……」


遠慮がちに口を開いた令嬢の声には、微かな笑みが滲む。

しかし、次の言葉は愛らしい困惑を含んでいた。


「でも、ルシア様が可愛らしすぎるのがいけませんのよ……!」

「そうですわ! エリオット様が我慢できなかったのも納得できますもの!」


湧き上がる感嘆と共に、軽やかな笑い声がこぼれる。

ルシアはますます縮こまり、指先が震えるほどに頬の熱を意識した。


「わたくしも早く素敵な殿方を見つけたいわ……」

「ルシア様のように愛されるには、どうしたらいいのでしょう……?」


その言葉に、場の視線が一斉にルシアへ向けられる。


「それこそ、ルシア様にお聞きしませんと!」


「わ、私もわかりませんわ……!」


必死に否定する声は、どこまでもか細く、紅潮した頬は隠しきれない。

令嬢たちは楽しげに笑い合いながら、その姿を愛おしそうに見つめていた。


甘く華やかな午後のサロン。

そこに満ちるのは、紅茶の香りと、蕩けるような温かな空気。


「ふふ、こうしてお話を聞いていると……本当に素敵ですわね」

「心から愛されるというのは、きっと幸せなことなのでしょうね……」


静かな囁きが落ちる。


ルシアはそっと顔を上げた。

その表情はまだほんのりと紅潮していたけれど——どこか、幸せそうに微笑んでいた。


「ええ……とても、幸せですわ」


その一言が、まるで魔法のように、サロンの空気を変える。

令嬢たちは息をのんだ。


「まあ……ルシア様……!」

「もう、羨ましすぎますわ!」

「私たちも、そんな恋がしたいですわね……!」


甘やかな笑い声が、サロンの中に響き渡る。




「ねえ、ルシア様」


優しく、けれどどこか真剣な声がサロンに響く。


「私たち、ヴィンセント様のこともクラスメイトとして大好きですから。だからこそ、大好きなお二人が結ばれたら素敵だわ、なんて、ずっと応援していましたの」


紅茶のカップをそっと置きながら、令嬢は微笑んだ。


「けれど……ルシア様の幸せが一番だとは思っていますの」

「もちろん、ヴィンセント様が不幸になってもいいわけではないのですが……」


ふと、室内に静かな温もりが広がる。


「ですから、お二人がちゃんとお話しできて、わだかまりなく、幸せな未来をつかめるよう、これからも応援していますわ」

「また何かありましたら、いつでも相談してくださいね」


「これまで遠慮してしまって、あまりお話しできなかったのですが……ご迷惑でないのでしたら、これからはもっとルシア様とのお時間をいただけると嬉しいですわ」


「またたくさん女子会をいたしましょう」


その言葉に、ルシアはゆっくりと瞬きをした。

そして、ふわりと微笑んだものの、すぐにまつげが震え、淡い涙の粒が滲む。


「……皆様……」


小さな声が、静かにこぼれる。


「ありがとうございます。私も皆様のこと、大好きですわ」


温かく微笑む令嬢たちの姿が、涙にかすかに揺らぐ。


「皆様と同じクラスで、本当によかった……」


言葉を紡ぐたびに、胸の奥がじんわりと満たされていくようだった。


「ルシア様……」


優しい沈黙の中で、互いの想いを確かめ合うように、誰もが静かに微笑んだ。


紅茶の湯気がふんわりと立ち上る。

優雅な午後のひととき。

それは、彼女たちにとってかけがえのない時間だった。



「まあ、全員涙ぐんでしまいましたわね……!」


ふと誰かが軽やかに笑いながら呟いた。


「こんなにしんみりしてしまって、まるで卒業前のようですわ」

「ふふ、それはいけませんわね。せっかくの女子会ですもの、もっと華やかにまいりましょう?」


「それでは、そろそろわたくしたちの番ですわね?」


明るい声が弾み、場の雰囲気が自然と和らぐ。


「ここまでルシア様の恋のお話ばかりでしたもの。わたくしたちも、もっと語らせていただきますわ!」

「ええ、流行りのドレスの話もまだですし、新作の香水も気になりますもの!」

「殿方の噂話もございますしね?」


「まあ……それは、とても楽しみですわね」


そう言って微笑むルシアの瞳には、涙の代わりに、柔らかく輝く光が宿っていた。


華やかで、きらきらとした時間が、サロンの中でゆるやかに流れていく。

午後の優雅な語らいは、まるで夢のように甘く、いつまでも続いていくようだった。


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