特別の答え
健全ですが、どことなく大人向けな雰囲気になりました。苦手な方はご注意ください。
話の展開的に飛ばしても問題のない回となっております。
祭りの喧騒の中、一角に設けられた「花の迷路」が、多くの人々の目を引いていた。
色とりどりの花々が絡み合うようにして作られた壁は、迷路全体を華やかに彩り、甘く優しい香りが風に乗って漂っている。
エリオットは、その迷路を見つめるルシアの様子を静かに観察していた。
彼女のまなざしは、迷路の入り口をじっと見つめ、ほんのわずかに期待を滲ませている。
「……少し入ってみたいですわ」
ふわりと零れた小さな声。
その言葉に、エリオットはゆっくりと口角を上げた。
「行ってみようか。君となら迷うのも悪くない」
軽く肩をすくめ、彼は微笑む。
——迷うことも、道を失うことも、どこへ向かうのかも、すべて僕が導く。
だから、君はただ僕についてくればいい。
エリオットはルシアの手を取り、花の迷路へと足を踏み入れた。
迷路の中は、外の賑やかさが嘘のように静かだった。
両脇にそびえる花の壁は背が高く、咲き誇る花々が視界を埋め尽くしている。
風が吹くたびに、花弁がふわりと揺れ、甘く濃密な香りが二人を包み込んだ。
「思ったよりも、本格的な迷路ですのね……」
ルシアの声が、どこか楽しげに響く。
「そうみたいだね。はぐれないように、しっかりつかまってて?」
エリオットは、繋いだままの手の力を少し強める。
それだけで、胸の奥がじわりと熱を持つのを感じた。
——このまま、ずっとこうしていたい。
彼女が困惑する隙もなく、ずっと隣にいて、ずっと手を繋いでいたい。
そんな考えがふと脳裏をよぎった時——。
「……っ」
突然、ルシアの足元がぐらりと揺れる。
花の根が迷路の道を覆っていたのか、彼女の細い足が軽く取られ、バランスを崩しかけた。
「危ない——」
反射的に腕を伸ばした瞬間、ルシアの華奢な体がエリオットの胸元に飛び込んできた。
柔らかな香りが鼻腔をくすぐり、思わず息を詰める。
腕の中に収まる彼女の身体は、まるで儚い硝子細工のように細く、軽い。
普段の舞踏会で、彼女の腰に手を添えることはあっても、ここまで直接的に感じたことはなかった。
ふわりと触れたその感触は、驚くほど温かく、そして——柔らかい。
——ああ、ダメだ。
じわりと、理性が軋む音がする。
細い肩が小さく震え、彼の腕の中で頼りなく身じろぐ。
普段は気品ある佇まいを崩さない彼女が、こんなにも無防備に寄り添っている。
今この瞬間、自分の腕の中に、誰にも触れさせたくない愛しい存在がいる——。
「……ルシア」
囁くように名前を呼ぶと、彼女は驚いたように小さく身を縮めた。
逃げるつもりなのか、それとも戸惑っているのか——。
けれど、どちらにせよ逃がすつもりなど最初からなかった。
彼女の腰に添えた手に、ほんの僅かに力を込める。
その瞬間、ルシアの肩がビクリと震えた。
「……っ」
小さな吐息が、微かに漏れる。
——なんて、愛らしい反応だろう。
まるで、触れるだけで壊れてしまいそうな儚さ。
けれど、指先に伝わる温もりは確かで、細くしなやかな腰が、掌の中で心地よく馴染む。
——このまま、もっと深く抱き寄せたら?
彼女の薄いワンピース越しに、彼女の体温をありありと感じてしまう。
指先を僅かに動かせば、布地の向こうの柔らかな感触が、彼の想像を無限に掻き立てる。
——例えば、このまま指を滑らせたら?
彼女はどんな風に反応するのだろうか。
ふわりと眉を寄せ、戸惑ったように瞳を揺らすのか。
それとも、彼の名を震える声で呼ぶのか——。
「……」
エリオットは、僅かに喉を鳴らした。
まるで狩人が獲物を追い詰めたときのような、熱を孕んだ視線で、ルシアの表情を伺う。
その頬は恥じらうように朱に染まり、長い睫毛が震えている。
可愛らしすぎて、どうにかなりそうだ。
「……ルシア」
低く掠れた声が、彼女の耳元を震わせる。
彼女の唇が、僅かに開く。
その仕草さえも、彼を誘惑しているように思えてしまうのは、彼の欲が抑えきれなくなっているからか——。
「……このまま、君の腰を撫でたら……君はどんな声で鳴くのかな?」
思わず、喉の奥で笑いそうになった。
彼女にそんな問いを投げかけるなんて、正気の沙汰ではない。
けれど、理性が揺らぐほど、彼女の存在は甘く、彼を狂わせる。
細くて華奢な肩。
僅かに震える唇。
彼の胸元にそっと寄り添うように伏せた瞳。
——逃がさない。
たとえ彼女がどれほど慌てても、もうこの腕の中から離れることは許さない。
彼の指が、ゆっくりと彼女の腰のラインをなぞる。
それだけで、ルシアの肩がピクリと震え、びくりと身を縮めた。
「……っ、エリオット様」
か細い声で名前を呼ばれた瞬間、彼の全身が熱を持つ。
理性の糸が、限界まで張り詰めているのを感じる。
「……君は、可愛すぎるんだよ」
囁きながら、彼はもう一度、ルシアの腰をゆっくりと撫でた。
その仕草に、彼女はまるで耐えるようにぎゅっと瞳を閉じる。
その表情すらも愛おしくてたまらない。
——こんなに愛しいなら、もういっそ、君を閉じ込めてしまいたい。
エリオットは、ゆっくりと彼女の耳元へと唇を寄せた。
「……嫌だったらちゃんと抵抗してね?」
耳元で囁いた瞬間、彼女の細い指がぎゅっと彼の服を掴む。
かすかに震えながらも、拒むことなく彼の胸元に寄り添うその仕草が、たまらなく甘美だった。
「……エリオット様……」
震える声で名を呼ばれる。
それだけで、彼の理性は容赦なく軋む。
彼女の頬は熱を帯び、長い睫毛が震えている。
まるで戸惑いながらも、この時間に酔いしれているかのように。
「ルシア」
彼の声は、まるで甘く絡みつく蜜のようだった。
触れた指先から伝わる熱が、彼女の白い肌を淡く染めていく。
——もう、足りない。
彼女の表情も、仕草も、甘くて愛おしい。
けれど、それだけでは満たされないほど、彼の中に芽生えた欲は深い。
「……もっと、僕にしがみついて?」
低く、甘く誘うように囁く。
彼の声に、ルシアは一瞬戸惑ったように瞳を揺らした。
けれど、彼女の指先は無意識に強く彼の服を握りしめる。
「……エリオット様」
「そう……いい子」
エリオットは満足げに微笑むと、そっと彼女の腰に添えた手を滑らせた。
薄いワンピース越しに伝わる、しなやかな曲線。
触れた瞬間、彼の呼吸は熱を孕み、喉の奥が乾くのを感じた。
——このまま、どこまで彼女を堕とせるだろう。
彼は、指先でゆっくりと彼女の背をなぞる。
「……っ」
ルシアの肩がびくりと震えた。
「ふふ、くすぐったかった?」
わざと耳元に唇を寄せ、低く甘やかに囁く。
「……い、いえ……っ」
小さな声で否定する彼女の唇が、かすかに震える。
けれど、逃げようとはしない。
むしろ、彼の腕の中で心細げに身を寄せ、寄りかかるように彼の体温を求めている。
そんな彼女が、たまらなく愛しい。
「ルシア」
彼は、ゆっくりと彼女の顎を持ち上げた。
「……僕だけを見て」
その言葉と同時に、彼の指が彼女の唇をそっとなぞる。
「……っ」
ルシアの瞳が、驚いたように揺れた。
「ふふ……こんなに顔が近かったこと、ないもんね?」
彼はわざと微笑みながら、彼女の頬に軽く指を滑らせる。
「……ねぇ、ルシア?」
甘く絡みつく声が、彼女の耳元に落ちる。
「このまま僕の好きにさせてたら、キスしちゃうよ?」
彼の指が、そっと彼女の唇をなぞる。
「……それは……っ」
ルシアは言葉を詰まらせた。
逃げることも、否定することもできず、ただ彼の瞳を見つめたまま、息を呑む。
「なーんて……」
彼は微笑みながら、彼女の耳元で囁く。
「さすがに勝手にそんなことはしないよ」
囁きながらも、彼の指は彼女の顎に添えられたまま。
——逃がすつもりなど、最初からなかった。
「でも、君が”して”って言ったら……」
エリオットは、そっと彼女の髪を指で梳いた。
「僕は、君の望む通りにするよ?」
彼女の瞳が揺れる。
頬にかかる彼の指先が、どこまでも優しく、けれど確実に彼女を誘っている。
冗談めかした軽やかな言葉に、ルシアがさらに顔を赤く染める。
「ふふ、可愛いね、君は」
そのまま、指先をそっと顎へと滑らせる。
「こんな表情、普段からもっと見せてくれてもいいのに」
さらに強く抱きしめたくなる衝動を抑えながら、彼は低く甘やかに囁く。
「……エリオット、様……」
掠れるような小さな声。
震える唇から零れるその声音が、耳に絡みつくように甘い。
彼の胸の奥に広がる熱が、さらに深く疼く。
「……ねえ、ルシア」
彼女の細い指を絡めるように撫でながら、ゆっくりとその手を握り直す。
「僕のことを、もっと考えてくれたら嬉しいな」
囁くように告げると、ルシアの指が微かに震えた。
彼女の視線が揺れる。
戸惑いと、恥じらいと、ほんの微かな期待——。
その全てを、エリオットは逃さず愉しむように目を細めた。
「……君が逃げたくなる前に、解放してあげるよ」
くすりと笑いながら、エリオットは腕を緩める。
しかし、その手はしっかりと彼女の指を絡めたまま——決して離そうとはしなかった。
「……でも、これだけは離さない」
絡めた指先を、そっと撫でる。
「エリオット様……?」
戸惑いが滲むルシアの瞳を、エリオットは余裕の笑みで見つめた。
「……それじゃあ、そろそろ迷路の出口を探そうか」
彼は、握った手を決して離さないまま、迷路の奥へと進んでいく。
まるで、その先に待つ運命を定めるように——。
広場の中央、風が吹き抜けるたびに、無数の花びらが空へと舞い上がる。
金色の陽光が柔らかく差し込み、色とりどりの花びらを透かして輝かせる。まるで祝福のように、優雅な旋律とともに世界が美しく染まっていた。
エリオットは、その幻想的な光景の中でルシアを見つめている。
彼女の純白のドレスに、ふわりと舞い落ちる花びら。
目を輝かせながら、それを見上げる彼女の横顔。
息を呑むほどに愛おしく、美しかった。
「……君にぴったりな演出だね」
声に微かな笑みを滲ませながら囁く。
彼女がふとこちらを振り向いた瞬間、エリオットは静かに手を差し出した。
「少しだけ踊らない?僕のお姫様?」
その言葉に、ルシアの瞳がふわりと輝きを帯びる。
「ふふ、喜んで」
柔らかな笑みを浮かべながら、彼女はそっと手を差し出した。
指先が触れた瞬間、エリオットの心が甘く揺れる。
「やっぱり、君は誰よりも美しいね」
囁くように告げると、ルシアの頬に淡い紅が差した。
「……そんなことは……でも、ありがとうございます」
恥ずかしげに視線を逸らしながらも、その口元はどこか嬉しそうに綻んでいる。
エリオットは、その仕草すら愛しく思う。
「本当だよ。僕はいつも、君に見惚れてばかりだ」
その言葉に、ルシアはさらに頬を染め、ふと視線を下げる。
ふんわりと微笑みながら、彼女はそっと彼の手を握り直す。
その小さな仕草が、エリオットの胸をまた熱くする。
——本当に、たまらないほど愛おしい。
優雅に流れる旋律の中、二人だけの世界がゆるやかに回り始める。
エリオットは甘やかに話しながら、その小さな手を指先で包み込む。そして、彼女の腰へそっと手を添えた。
「……っ」
ルシアの肩がわずかに跳ねる。 先ほど、迷路の中で支えたときと同じ反応。
けれど今は、ほんのりと熱を帯びた頬と、鼓動の速さが、先ほどよりも強く伝わってくる。
彼の手のひらに伝わる、柔らかな感触。 驚くほど細い腰。
さっきもこうして触れたはずなのに、踊る彼女の体はさらにぬくもりを宿し、しっとりと肌に馴染むようで——まるで、その身を預けられているようだった。
静かに足を踏み出し、彼女を回すようにリードする。
花びらが舞う中、二人は優雅に踊る。
——こんなにも近くにいるのに、まだ足りない。
「エリオット様……!」
かすかに震える声が、耳をくすぐる。
エリオットは笑みを深め、唇を彼女の耳元へと近づけた。
「ねえ、ルシア。僕と踊るの、嫌?」
低く、どこか掠れた声が落ちる。
彼女の指先がかすかに震えた。
「……そんなことは……」
囚われたように小さく首を振る彼女を、エリオットは逃さない。
「なら、もう少しだけこのままでいて?」
彼女の耳元で、静かに囁く。
腰のカーブを辿るように指が動く。
一瞬、ルシアが息を呑む気配を感じる。
——もっと知りたい。
もっと、君を惑わせたい。
そして、もう二度と僕から離れられないように。
エリオットは、踊るふりをしながら彼女をゆっくりと引き寄せた。
「……ルシア」
低く響いた声が、彼女の名を呼ぶ。
覗き込むと、驚きと戸惑いに揺れる瞳が映る。
その瞳が、わずかに潤んでいることに気づいた瞬間——、喉の奥が焼けつくような熱に包まれる。
——可愛い。
——たまらない。
——このまま、すべてを僕のものにしてしまいたい。
エリオットは、ゆっくりと顔を近づけた。
彼女の吐息がふわりと触れる距離。
「……君が逃げない限り、僕はいつまでもこうしているよ?」
声が彼女の耳を撫でるように落ちる。
その言葉に、ルシアの指先がぎゅっと彼の手を握りしめたのを感じた。
その小さな反応すら、愛おしい。
音楽が、最後の旋律を奏でる。
エリオットは、彼女をゆるやかに回しながら、静かにリードする。
そして、フィナーレに向けて、二人の動きをゆるやかに収束させていく。
彼の手のひらに残る温もり。
彼の腕の中で、わずかに紅潮した彼女の頬。
すべてが、彼の胸を焦がすようだった。
「……もう少し、僕のわがままを聞いてくれる?」
耳元で囁かれる言葉に、ルシアが小さく息を呑む。
「っ……はい」
その瞬間、エリオットは喉の奥で小さく笑う。
音楽の最後の音が響く。
そして、自然と二人の動きが止まる。
彼はルシアの手をそっと取り、ゆっくりと顔を近づける。
余韻を残すように、彼女の手の甲へ唇を落とした。
熱を帯びた視線を絡めたまま、意味ありげに微笑む。
「ふふ……帰りの馬車で、お願い聞いてね?」
くすぐるような声とともに、絡めた指をゆるりとほどく。
それでも、彼の視線はただひたすらに彼女だけを捉えていた。
花びらが二人の間を舞い落ちる。
——君は僕だけのもの。
それを、しっかりと刻み込ませてもらうよ。
祭りのクライマックスが近づく頃、エリオットはルシアの手を引き、静かに高台へと誘った。
そこは祭りの喧騒を見下ろせる特等席。
遠くでは、灯されたランタンが次々と宙へ舞い上がり、夜空に柔らかい光の花を咲かせる。
広場ではまだ人々の笑い声が響き、花飾りが揺れる祭りの光景が、二人の足元まで広がっていた。
ルシアが目を輝かせながらその景色を見つめるのを、エリオットは横目でそっと眺める。
——今日一日、僕の隣にいた君が、これからもずっと僕の隣にいてくれるなら。
「今日は楽しかった?」
静かに問いかけると、ルシアはふわりと微笑んだ。
「ええ……とても」
その笑顔に、エリオットの喉が一瞬だけ熱を帯びる。
「じゃあ——来年も、一緒に来てくれる?」
目を逸らさずに問いかけると、ルシアはふと表情を引き締め、考えるように瞳を瞬かせる。
けれど、次の瞬間、ほんの少しだけ頬を赤らめながら、ゆっくりと頷いた。
「……ええ、もちろん」
——それだけの言葉なのに、胸の奥が強く締めつけられる。
彼女の言葉を確かめるように、エリオットは満足げに微笑み、迷いなくルシアの肩を抱き寄せた。
驚いたように彼を見上げる彼女の瞳が、揺れる。
「嬉しいよ」
耳元で囁く。
「これからも、僕の隣で微笑んでくれるよね?」
「……エリオット様?」
「約束だよ、ルシア」
しっかりと、彼の腕の中に閉じ込めるように、優しく抱きしめた。
ルシアが小さく戸惑いながらも、そっと彼の背に手を添えたのがわかる。
——もっと、もっと甘く囚えてしまいたい。
君の記憶のすべてが、僕とのもので埋まればいいのに。
けれど、今はそれだけで満足することにした。
今日の仕上げは、馬車の中で——。
「……さあ、帰ろう?」
馬車の中は静かだった。
窓の外には、まだ祭りの灯りが瞬いている。
けれど、エリオットにとって、外の景色などどうでもよかった。
この空間にあるのは、ただ一つ。
腕の中にいる、誰にも渡したくないほど愛おしい人——ルシア・ウェストウッド。
エリオットは、彼女の手をそっと取る。
「君と過ごす時間は、どんな時よりも楽しいんだ」
「……エリオット様は、甘い言葉がお上手ですわね」
くすりと微笑む彼女の声が、甘く響く。
——そんな言葉では、足りない。
彼は、ルシアの手を引き寄せ、指先を絡めながらそっと撫でた。
「ねえ、ルシア」
低く、掠れた声が落ちる。
彼女が驚いたように顔を向けた、その瞬間。
エリオットは、迷いなく彼女の頬へと手を伸ばす。
指先が、ふわりと滑るように肌をなぞる。
驚いたように瞬く彼女の瞳が、揺れる。
「……約束、覚えてる?」
「……え?」
「帰りの馬車で、お願いを聞いてくれるって……君が頷いたんだよ?」
ふっと耳元で囁く。
熱を帯びた声が、ルシアの鼓膜をくすぐる。
彼女が戸惑いながら視線を揺らす。
その仕草が、たまらなく愛おしい。
「少しだけ……君を独占してもいい?」
問いかけながら、エリオットはそっと彼女を抱き寄せた。
背中に回した手に、柔らかな温もりが伝わる。
細い体がすっぽりと腕の中に収まり、しっとりとした甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「……エリオット様?」
震えるような声が、彼の胸の奥を焦がす。
「……甘えて?」
喉の奥から掠れた囁きが漏れる。
ルシアの肩がわずかに跳ねるのを感じる。
けれど、彼女は一瞬戸惑った後、そっと手を伸ばし、彼の胸元の生地を控えめにぎゅっと握りしめた。
小さな指先が、しがみつくように彼を求める。
「……っ」
その仕草に、エリオットの心臓が痛いほど跳ねる。
可愛い。
愛おしい。
……もう、どうすればいい?
これ以上、何を望めばいい?
本当に、もうこの腕から逃がしたくない。
学院なんてどうでもいい。
このまま二人きりで、誰もいない場所へ行ってしまいたい——。
「……っ」
喉の奥から、微かな吐息が漏れる。
——このまま、屋敷に閉じこもって生きていけたら。
誰にも君を見せず、誰にも触れさせず。
ただ、僕の腕の中だけで微笑んでくれたら——。
そんなことばかりが、頭を埋め尽くしていく。
「……ルシア」
声を落とし、彼女の細い肩を両手で包む。
じわりと、指先に力がこもる。
もっと、もっと近くに——。
「エリオット様……?」
震えるような声。
彼女の頬が、ほんのりと紅潮している。
その可憐な表情に、喉の奥が焼けつくような熱を持つ。
エリオットは、そっと彼女の髪を撫でた。
指先がふわりと金糸をすくい上げる。
「……もっと、触れてもいい?」
囚えるような囁き。
耳元で、微かに唇が触れそうな距離。
ルシアが、小さく頷いた。
その瞬間、エリオットの理性が、僅かに軋んだ。
——たまらない。
彼の指が、そっと彼女の耳元をなぞる。
「……君の耳、すごく熱い」
くすりと笑うと、そのまま耳たぶをそっと噛む。
「……っ」
ルシアの体が、ぴくりと震えた。
その反応が、余計に彼を煽る。
「ダメ?」
耳元に息を吹きかけながら問いかけると、彼女は困惑したように彼の服をぎゅっと握りしめた。
「……い、いえ……」
掠れた声が、甘く震えている。
その小さな抵抗のない反応が、エリオットの喉を焼き尽くす。
「……なら、もっと頂戴?」
囁くように言いながら、彼は舌をそっと耳の縁に這わせた。
「……っ、ぁ……」
びくりと跳ねるルシアの肩。
熱を持った耳を唇で軽く吸い、さらに深く舌を滑らせる。
「……ルシアって甘いんだね」
低く甘い声が、彼女の耳朶を包み込む。
囁きながら、ゆっくりと耳たぶを吸い上げるように口づけると、彼女の体がふるりと震えた。
「……っ……」
堪えきれずに零れた吐息が、エリオットの胸をさらに熱くする。
「こんなに震えて……」
唇を耳元から離し、囁くように言葉を落とす。
「……可愛い」
「エリオット様……っ」
名前を呼ぶ声すら、甘く掠れている。
「まだ、足りない」
ふっと唇を耳から滑らせ、首筋へと移動する。
熱を帯びた肌を、舌先でそっと撫でるように舐める。
「ん……っ……」
微かな甘い声が、彼の欲望をさらに掻き立てる。
「ルシア……」
喉の奥から、熱に滲んだ声が漏れる。
彼女の体を腕の中に閉じ込め、もう逃がさないとばかりに抱き寄せた。
「……こんな僕でも、逃げないで」
首筋に唇を押し当てながら囁く。
「お願いだから、僕から離れないで?」
ルシアの指が、震えながら彼の服をぎゅっと掴む。
——もう、これ以上、どうしたらいい?
彼の胸の奥には、抑えきれない熱が膨れ上がっていた。
「……っ、エリオット様」
彼女が微かに震える声を漏らす。
そんな仕草ですら、ひどく愛おしい。
「……君が、こんなに可愛いのが悪いんだよ」
掠れた声で、彼は耳元で囁く。
——本当に、どうしてこんなに愛おしいんだろう。
もう、彼女なしでは生きていけない。
このまま二人だけの世界に閉じこもってしまいたい——。
エリオットは、ルシアを強く抱き寄せたまま、甘く囚えるように微笑んだ。
「……ねえ、もっと僕に甘えて?」
彼の囁きに、ルシアが迷いながらも小さく顔を上げた。
潤んだ瞳が彼を見つめ、そのままそっと額を彼の肩に寄せる。
「……エリオット様」
名前を呼ばれるたび、胸の奥が痛いほど熱を持つ。
——君は、僕をどうしたいんだろう?
エリオットは、ゆっくりと彼女の指先に唇を落とした。
彼女の肌に触れるたび、甘い痺れが全身を駆け巡る。
「ルシア……」
彼女をもっと強く抱き寄せた。
もう、誰にも渡したくない。
もう、二度とこの腕の中から出したくない——。
「君が望むなら、どこへでも連れていくよ」
耳元で囁く声は、限りなく甘く、そして狂おしいほどに深い。
この夜が終わらないことを、ただひたすらに願いながら——。
「今日一日、君と二人きりで過ごせて、本当に幸せだったんだ」
囁く声に、ルシアがそっと視線を上げる。
「ルシアはどう?」
彼女の瞳の奥に揺れる感情を見つめながら、エリオットはゆるく微笑んだ。
「もう何年も婚約していたのに……今日が一番、君と近くにいられた気がする」
言葉を選ぶように、ゆっくりと続ける。
「前に聞いたよね?『君の一番を、僕にくれる?』って……」
彼女の指を優しく撫でながら、彼は続ける。
「そのとき、君は『考えさせてくれ』って言ってたけど……どう? 気持ちは決まった?」
静かな問いかけ。
けれど、その声音には、隠しきれないほどの熱が滲んでいた。
「……僕じゃ、ダメかな?」
低く、甘やかに囁く。
ルシアの指が、小さく震えたのを感じた。
彼女が視線をそらしたまま、そっと唇を噛む。
「……君の気持ちを聞かせて?」
静かに囁く。
指先がルシアの頬に触れたまま、彼女の瞳を覗き込む。
ルシアの唇が、微かに震えた。
何か言おうとしている。
けれど、すぐに言葉を紡ぐことができないのか、ふるりとまつげを揺らしながら、彼女はそっと視線を落とした。
「……まだ、答えは出せませんの」
ルシアの控えめな声が夜の静寂に溶ける。
エリオットは、彼女の手をそっと包み込みながら、優しく微笑んだ。
「ごめんね。これまでたくさん不安にさせちゃったもんね」
彼の声はどこまでも穏やかで、包み込むような温かさがあった。
「信じるのに時間がかかるのは、仕方ないよね」
ふんわりと彼女の髪を撫でながら、そう続ける。
「君がちゃんと納得できるまで、待つよ。だから……焦らなくていい」
彼の言葉に、ルシアのまつげが微かに揺れた。
「けれど……今日は本当に、とても楽しかったですわ」
囁くような言葉とともに、彼女が微笑む。
その仕草が、ひどく愛おしい。
「君が楽しんでくれたのなら、それでいいよ」
そう言いながらも、どこか物足りなさを感じるのは、きっと彼の欲が深いせいなのだろう。
「……でも、もう少しだけ欲張ってもいいかな」
エリオットは、ルシアの指をそっと絡めるように握った。
「次に君の気持ちを聞くときは……もう、迷わないでほしい」
彼の瞳が、静かに彼女を射抜く。
「そのときは、君の『一番』を、ちゃんと僕にくれる?」
ルシアは、困ったように目を伏せる。
けれど、拒まれたわけではない。
この胸のざわめきを押さえながら、エリオットは小さく息を吐いた。
「……まあ、今日はもう遅いし、この話はおしまいにしようか」
そう言って、彼はふっと笑う。
「それより、もう少しだけこのまま一緒にいて?」
繋いだ手の温もりを感じながら、エリオットは優しく囁いた。
今日という時間が、もう少しだけ続くようにと願いながら——。
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