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まわる夏

作者: lucent

夕日を見ていると、思うことがある。この地平線の向こうでは今、誰かが死んでいるのだろうか。そんなことだ。

僕は小学校に通っている。周りには森とか急な坂とか、そんなのが多い田舎の小学校だ。

今日も僕は、夕食の豚肉を食べながら思う。

この豚は、死ぬために生まれてきたんだな。

一口食べる。うん、油がのってて、美味しい。もう一口。

僕は、何のために生まれたんだろう。ふと思う。疑問に思うのが僕の癖だ。あるとき、お母さんにそんなことを聞いたことがあった。お母さんに、何かあった?と逆に聞かれてしまった。質問に質問で返すって、こういうことなんだね...。

最後の一口。少し冷めてはしまったが、それでも美味しい。


いつだか、教室で飼っていたメダカが死んだ。お墓を建てましょう。メダカは、墓を建てられるために生まれてきたんだろうか。

「僕も、いつかお墓が建つんだなぁ」

と言うと、

「私の墓の方が先に建つのよ。そんな悲しいこと言わないの」

と、お母さん。

その日の夕食は、焼き魚だった。

僕は魚が嫌いではなかった。その日も普通に食べる。うん、美味しい。


今日は友達と遊んだ。虫取りをした。色々な虫が取れた。

その帰り道、虫取りの疲れもあって、ぼんやりしていたのか、小さな虫を踏み潰してしまった。小さな体からは、小麦色をした半透明の液体が体から弾けたように溢れていた。

僕はその潰れた体をみていた。

こうみると、水分たっぷりの果物が潰れただけのようだ。

僕達が死ぬことと、植物が枯れて死ぬこと。一体何か違うのだろうか。

その日の夕食は唐揚げだった。僕は唐揚げが大好きだ。とっても嬉しかった。

夕食の後にぶどうを貰った。踏み潰した虫のことを思い出して、少し不思議な気分になりながら、ゆっくり食べた。口の中が、小麦色になる気がした。


今日は、学校の駐車場に猫がいた。

僕は猫が好きだ。猫は可愛い。

僕が近づくと、猫は警戒したのか、こっちをみてウー、と唸った。それでもゆっくりと僕が近づくと、猫は急に僕を爪で引っ掻いた。

僕は手の甲に引っかき傷が出来てしまった。

猫も生きるのに必死なんだな。

ある日から、僕は猫に構うようになった。

引っ掻かれても猫は可愛い。

そのうち、猫は僕が近くにいても何も反応しなくなった。信頼しているといっていいのだろう。


今日、隣のクラスの可愛いあの子が、僕を見ていた気がする。僕は、「これが僕が生まれた理由なんだよ」ってお母さんに力説したが、お母さんは「はいはい」とだけ言って、あまり耳を貸してはくれなかった。

僕は真剣なんだけどな...。


そういえば、もうすぐ夏休みが始まるらしい。


また、虫取りに行った。虫を踏まないよう、気をつけて歩いた。虫は踏まなかったが、目の前にある電柱に気づかなくて、ぶつかりそうになった。電柱はこんなところでぼーっとして、つまらなくないのかな。


夏休みは、お父さんと海にいった。

色々な人がいた。きれいなお姉さんもいて、僕はぼーっとそれをみていたが、お父さんは、「見ているだけでいいのか?」なんて僕をからかってきた。

「僕なんかがいったって、相手されるもんかい」

僕は砂場で遊んだ。

途中、打ち上げられた魚をみた。

お腹に、大きな空洞が空いていて、まるでそこにあった魂がまるまる抜けてしまったような暗闇に、僕は少し複雑な気持ちになった。これを何と言うのか、子供の僕には分からなかったが、かわいそうとは思わなかった。


猫は、夏休み明けから姿を現さなくなった。


10

お父さんに買ってもらった本の世界は綺麗だ。僕もそうなんだろうけど、思ったことややったことが整然と載っている。

小説の登場人物は、物語のために生まれてきたんだな、と思った。いつも僕は疑問ばかりなのに、その時だけは不思議とすぐに納得がいった。

僕が小説の登場人物だったら...。


11

小説を読み終わる頃、段々外は涼しくなってきて、夕日が沈むのも、早くなってきていた。

僕は、森に入って友達とかくれんぼをしていた。木々の間を走って隠れ場所を探す。走る時に頬を切る風が涼しい。森の木々は、この前まで緑一色だったというのに、今は一面の黄色だ。あんなに沢山居た虫たちも、どこに行ってしまったのだろう。

ふと疑問に思う。

思えば、過ぎた夏は、また来年にくる。虫たちも、また次の夏には顔を出すだろう。今年生きていた虫たちは、来年の虫たちのために生きていた。きっとそうなんだろう。でも、今の僕には無性にそれが怖かった。僕は、何なんだろう。電柱は、きっと電気を通すためにあそこで生きている。豚も、魚も、虫も、森も、何かのために生きている。僕は、一体何のために生きているんだろう。恐怖心から僕は、かくれんぼの途中だったが隠れるのをやめて、走り出していた。

「あ、みっけ!」

間抜けな声に、現実に引き戻される。

なんとなく、友達と一緒にいると、不安が和らいだ。


12

ある日、聞いてしまった。

僕が気になっている隣のクラスのあの子。僕の友達が好きらしい。

どうしたらいいんだろう。

森の黄色はとっくに朽ち果て、森の木々は寒々しい枝だけを虚しく空に伸ばしていた。

僕は、それが、異常に悲しく思えた。


13

バレンタインデー。僕は、告白されてしまった。隣のクラスの、あの子からだ。

友達の顔がよぎった。

しかし、僕は、生きる理由かもしれないということでOKをした。


14

もう僕は小学生六年生だ。

冬真っ盛りのこの時期のことを卒業シーズン、と言うらしい。初めて卒業するまで知らなかった。そんな単語。

僕は、ひっそり猫の墓を建てた。校舎と塀の間の僅かな隙間だ。

猫の墓を建てるとき、不思議と猫はまだ生きているような感覚だった。


15

中学で僕は彼女と別れた。

あの友達が慰めてくれたりなんかした。僕は、こいつはなんていいやつなんだ、と思った。「僕が女だったら君に惚れてるね」なんていうと肩をバシバシ叩かれた。加減を知らないところが彼の美徳でもある。


16

彼女が、病気をしていたことを知った。

もう先が長くないらしい。

僕は、なんとなく猫のことを思い出した。


17

僕はこの頃、音楽なんか聞き始めたりした。

陽気な曲が、僕は大好きだ。


18

夏休みになった。今年はお父さんは忙しいらしく、遠出はしなかった。その代わり、僕はよく病院に行った。


19

彼女は、夏休み明けから学校に来なかった。とは言っても、まだ病院で寝ているだけだ。目も腕も動かないだけで。


20

僕は、彼女に好きだと言った。彼女は、目も腕も動かさなかった。

僕は、彼女が笑った気がした。

僕は、深く悲しい気持ちになった。

森の木々は、緑と黄色が混じっていた。


21

それから彼女が笑うことは二度となかった。


22

僕は、まだ陽気な曲が好きだ。

もう、いくつ夏を、冬を数えたか分からない。数えようと思えば数えられるのだろうけど、僕はそれが感覚では分からない。

少なくとも、その数を数えるのが生きる理由ではないと思う。

メリーゴーランドみたいに、ぐるぐる、夏を冬を繰り返して、その中で喜んで、悲しんで、たまに疑問に思って...。ときどき、生きるって残酷なことだって思う。僕も電柱みたいになれたら...なんて何回か思ったこともある。でも、生きていくしかないんだ。メリーゴーランドにはミスマッチな、陽気な曲をきいて。

大学受験では、多くの人が受験科目で文系理系とわかれる。面談で先生に、将来はどうしたいんだ、この入試科目で大丈夫なのか、と聞かれた人は少なくはないだろう。

私はなんと珍しいことに、文学と数学で悩んだ人間なのである。結局、受験では理系科目の成績が良く、数学の道を選んだのだが。しかしどうだろうか。いざ大学受験を終えてみると、再び文学への熱が加熱されたのだ。この文章は、そんな時期に思い立って、ただ書きたいことを書いたものに少し修正を加えたものである。

文の知識に乏しい一学生が、ああでもないこうでもないと唸りながら言葉を捻り出して作ったものだと思ってくれれば良い。

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