ドーバーに舞うは・・・
ぎっくり腰などがあって、投稿遅くなりました。
架空戦記創作大会お題2での参加です。半分くらいタイトル詐欺ですが、よろしくお願いいたします。
ヨーロッパ大陸と、イギリス本土を隔てるドーバー海峡。最も幅が狭まる場所では50kmほどしかない狭い海峡だが、今やその海峡には目に見えない壁が存在している。
その壁のイギリス側を、今日も俺は部下3名と共に4機編隊で哨戒任務を行っていた。
現在俺たちが搭乗する1式戦闘爆撃機は、ドイツ製の機体だ。ドイツでの正式な呼称はFw190Aという。日本製の機体に比べると視界は悪いし、航続距離も短い。それでも、それを補ってあまりある速度と防御力を持っている。
日本製の機体が繊細な日本刀とすれば、こいつは蛮用にも耐えるナイフと言っていい。
『鷹の眼より、鳶1へ。鷹の眼より鳶1へ』
英語での通信。管制センターから俺宛だ。
『こちら鳶1』
『貴隊よりの方位350。距離20。速度450で接近する機影4確認。注意せよ!』
『了解!高度を5000にまで上げる。接敵次第、戦闘に入る!』
『コントロール了解。グッドラック!』
『全機高度を5000に上昇!方位350に注意!戦闘用意!』
3機の僚機を引き連れ、俺は上昇を開始した。空戦では頭を抑えた方が圧倒的に有利となる。
もっとも、それは敵だってよくわかっている筈だ。何せこっち側のレーダーが向こうの機影を捉えたってことは、向こうのレーダーもこっちを捉えたということだ。
照準器を点灯し、機銃に初弾を装填していつでも空戦に突入できるにようにしておく。後は、どちらが先に相手を見つけるか。そして、先手を取れるかだ。
「隊長、11時下方に敵機!」
部下の報告に視線を転じれば、こちらに向けて上昇してくる機影が6つ。
メザシのような特徴的な機影。
「P38です!」
アメリカ製のP38双発単座戦闘機だ。旋回性能はそれ程でもないし、速度も圧倒的というわけじゃない。だが機首に集中した武装は侮れない。それに強力な排気タービン装備ゆえの高空性能の良さもだ。
アメリカ軍がフランス軍か知らないが、戦い方を間違えんようにしないと。
「全機急降下!一撃離脱だ!」
こっちは中高度以上だとエンジン出力が下がる。ここは奴らを低空に引きずり込む。
上昇してくる敵機に向かい、反転した俺たちは機銃を放ちながら突進する。
超高速での反航戦。早々当たるものではないが、牽制にでもなればめっけものだ。
案の定、こちらの突進を予期してなかったのか、敵の陣形が乱れた。
「よし!」
先手を取った!
敵機の間をすり抜けて、一気に高度を落とすが、その力を利用して今度は急上昇。
体に襲い掛かって来るGがキツイが、勝つためには耐えるだけだ。
「全機しっかり付いて来い!」
上を見れば、当のP38も機を反転させようとしているところだった。だけど、そうは行かんぞ!
急降下で付けた速度を活かし、さらにエンジンを全開にまで押し込んで後方へと付ける。
こいつのエンジンの特性を活かして、低高度に引き釣り込むという目論見は当たったようだ。
「喰らえ!」
照準器の中にその機影が膨らんだ1機に、俺は全ての機銃をぶっ放した。20mmと7.92mmの機銃弾が敵機に降り注ぐ。
敵機から被弾の火花が飛び、破片が空に舞う。
命中だ。だが、敵機は防御力に定評のあるアメリカ製の機体。俺はさらに一撃を加える。
すると、敵機の右側の発動機からどす黒い煙が出たかと思えば、次の瞬間それが真っ赤な炎に変わった。
「よし!」
撃墜とまでは行かないまでも、あれでは戦闘の続行は不可能だ。
俺はすぐに別の獲物を探す。しかし、それは不要だった。部下たちは編隊を乱したP38に次々と取りつき、射弾を放っている。
どうやら、俺たちの編隊は敵編隊に勝利したらしい。
とは言え、油断は禁物。それを証明するように、管制センターから新たな通信が入る。
『鷹の眼より鳶1へ。新たな敵編隊を確認。貴隊よりの推定方位300。距離40。対地速度500にて接近中。現在獅子1ならびに竜1が増援として急行中!』
『了解!鳶編隊は撤収に掛かる!』
「鳶1より全機へ、トンズラだ!」
本当ならもう少し暴れても良いのだが、ドイツ製のこいつは航続力は低い。そして今の空戦でエンジンを全開にした分、燃料も消耗している。無理せず、撤退するのがベストだ。
後ろを振り向けば、部下全員がついてくる。どうやら全機無事に空戦を終えたようだ。戦果がどの程度上がったかはわからないが、とりあえず全機帰れるだけでも及第点だ。
英本土に機首を向けた直後、4機編隊が二つ俺たちの上空を逆進していく。「スピット」ファイアからなるイギリス軍の獅子編隊と、我が国の三式戦からなる陸軍航空隊の竜編隊だ。
三式戦は発動機をドイツのDBに、機銃もマウザーとラインメタルに交換するなどして「ドンガラ以外はドイツ製」などとも言われるくらいに、ドイツと縁の深い機体だ。
実際ドイツ空軍でもフォッケウルフ社が機体のライセンスを購入して、わざわざドイツで製造を始めたくらいだ。
下を見れば、ドーバーの白い崖が見えて来た。
俺たち日本人が、ドイツ製の機体でイギリス上空で戦う。不思議なもんだ。これもそれも、複雑な国際情勢のせいだ。
30年前の第一次大戦において、英国は戦争に勝利こそしたが、多額の戦費の支出と膨大な犠牲者により、国力を大きく損なってしまった。
そんな英国に代わって、経済的にも軍事的にも世界トップになったのが、米国だった。当然、英国にとっては面白くない。
そして、第一次大戦の結果として南洋諸島などを手に入れ、米国と太平洋で対峙する形となった日本は、これまで以上に米国を仮想敵として見ざるを得なかった。
その結果、第一次大戦後も日英同盟は存続するとともに、米国が提唱したワシントン軍縮条約も、危うく破綻寸前のところまで行った。
結局、英国の口添えで日本にとってそれなりに配慮した条件になったが、もちろん米国にとっては面白くなかったはずだ。
フランスとの関係も、この頃から悪化し始めた。ドイツと直接国境を接して、これまでにない大被害を受けたがために、ドイツを完膚なきまでに叩きのめしたいフランスに対して、ドイツを新たに勃興したソ連からの防波堤にしたいイギリスと、その進んだ技術を手に入れるために配慮の色を滲ませた日本では、土台ドイツに対する講和条件が違い過ぎた。
フランス側の申し出の多くがイギリスや日本の言によって妨害されたがゆえに、ヴェルサイユ講和条約におけるドイツに対する賠償は、フランスが認めがたい内容になってしまった。
特にラインラントの非武装化と、空軍の解散、Uボートの破棄が認められなかったのはフランスにとって屈辱だっただろう。
このあたり、外交については3枚舌外交すらしてひたすら自国の利益を追求する英国、そして欧州大陸に於ける陸戦には参加せず、ドイツから権益を掠め取っただけの日本には、理解できる筈がなかった。
日英が同盟国として関係を深化させると、困るのは米国だ。何故なら太平洋や大西洋で、米国は日英の権益と衝突する関係になったからだ。特にアジア地域では米国がフィリピンやグアムを橋頭堡に市場を拡大するのに対して、南洋諸島を手にした我が国と、シンガポールならびに香港を有する英国は、邪魔者以外の何者でもなかった。
それは単に経済に留まらず、軍事面でもだ。
大日本帝国海軍には強力な連合艦隊があり、南洋諸島を領有したことで、その活動範囲が大きく広がってしまった。
さらに、シンガポールと香港には英東洋艦隊があり、英連邦の豪州やニュージーランドを拠点として使うことができる。
地図で見るとわかるが、仮に日英が連携すれば米国の戦略ラインであるハワイからグアム、フィリピン間を包囲することが可能な布陣となる。
米国のアジア方面への進出を露骨に牽制するこの包囲網を、米国は切り崩しに掛かった。そこでアメリカが引き入れた国が、フランスだった。
英国が主導した第一次大戦後の対独賠償に不満を持ち、なおかつアジア・太平洋地域に広く植民地を持つフランスは、日英に対抗する仲間として迎えるのに、絶好の条件を備えていた。
第一次大戦後、米国は疲弊したフランスの復興支援の名の下に、同国に対して多額の援助を行った。
対抗するように、日英は敗戦国ドイツやポーランド、バルト三国などに重点的な支援を行った。それは新たに誕生した社会主義の巨大国家、ソ連に対する牽制の意味合いと、第一次大戦後も混沌とするヨーロッパ情勢の安定化などの思惑もあった。
しかしこうした施策は、ますます日英と米仏との関係を拗らせることになった。
世界恐慌が起きると、日英は支援した独や東ヨーロッパ諸国でのブロック経済圏を作り、対抗するように米仏はソ連や中米諸国で経済圏を作るという、1930年代初頭には二大勢力圏同士の衝突が既に始まっていた。
それでも、直接の軍事力の衝突にまでは発展しなかったが、その後軍縮条約の破棄や、日英がドイツに対する軍備制限の大幅な緩和を許したことが、まずフランスを刺激した。これに、アジア方面への進出を強く求めるアメリカと、同じくアジア方面への再進出を図るソ連が同調した。
そして戦争の火種は、アジアの地で燻り始める。仏印に展開するフランス艦隊と、フィリピンに展開する米艦隊が合同演習を行い、それを監視する目的でシンガポールの英艦隊が南シナ海に進出したのが発端となった。
どっちが先に手を出したのか?そんなことは、もうわからない。わかっているのは、米仏艦隊と英艦隊の間に小競り合いが発生し、双方に犠牲者が発生したこと。そしてこれが発端となり、米仏が英に宣戦を布告。時に1940年12月のことであった。
そして同盟を結んでいた日本や、フランスと国境を接するドイツなどが芋づる式に宣戦を布告し、最終的には米仏ソと日英独(プラス東ヨーロッパ諸国)による大戦争となった。
ただし、戦争発生から3カ月程は、ヨーロッパの陸上においては、ほとんど動きは起きなかった。各国ともに戦争準備が全く進んでいなかったからだ。特にフランスは第一次大戦後、マジノ要塞を中心にした防御戦略をとっていたので、英独双方に直ちに攻め込めなかったのだ。
最初に戦端が開いたのは、満州だった。ソ連軍が満州と、朝鮮半島方面、さらには南樺太へと雪崩れ込んだのである。
当初ソ連軍は、日本側の反撃能力を過小評価しており、場合によっては一気に北海道まで攻め込むことすら想定していた。
これに対して、日本側はドイツ製4号戦車をライセンス生産した98式中戦車を加えた満州防衛軍による機動防御に加えて、日本海に派遣した5隻の空母から発進する艦載機を使用し、空からソ連軍を叩く戦術を展開した。特に、ウラジオストク軍港空襲は世界の度肝を抜いた。
結果として、満州と朝鮮方面に陸路侵入したソ連軍の物量に、多少の苦戦を強いられはしたものの、海軍の働きによって樺太・千島方面の敵軍は早期に片付け、以後海軍がウラジオストク、ハバロフスク、カムチャッキーなどの拠点を艦載機、陸攻、艦砲射撃で次々と潰して周り側面から援護することで、何とか全線戦でソ連軍を押し返した。
この動きに米太平洋艦隊が介入するのでは?という心配もあったようだけど、結局杞憂で終わってる。何故ならその頃、米海軍は艦隊の総戦力を大西洋に向けないといけない事態に陥っていたから。
と言うのも、ヨーロッパでも陸戦はほとんど起きなかったけど、海上ではロイヤルネイビーが激しく動き回っていたからだ。
英海軍は大西洋、北海、地中海に戦力を展開して短期間のうちにフランス海軍を壊滅させてしまった。特にツーロン港への夜間襲撃では、主力戦艦3隻を撃沈破している。
そしてフランス海軍主力艦隊を撃滅し終えると、ロイヤル・ネイビーは大西洋と地中海で暴れ回る。目標はフランス本土への通商路破壊、特に米国からの援助物資輸送ルートだ。
米国と共に対英宣戦布告したフランスであったが、その実情はお寒い限りで、特に陸空軍の陳腐ぶりは敗戦国でありながら、日英の援助を受けた独よりもお粗末なものでしかなかった。
陸軍はマジノ線を中心とした防御一辺倒だったので、歩兵にしろ戦車にしろ機動力に乏しく、現実に開戦3か月後に準備万端の筈でルール工業地帯に攻め込んだ4個師団は、英独連合軍の前に蹴散らされてしまった。
また空軍も乱立したメーカーの国営化などの混乱のせいで、雑多な機種が入り混じっており、効率的な運用を阻んでいた。このため、英独相手の空中戦では撃墜比率が英独の10分の1という、第一次大戦で英独と肩を並べたとは思えない、惨憺たる状況に陥った。
この不甲斐ない同盟国を救うため、米国はフランスに不足している軍用車両や航空機の売却に踏み切ったのだが、それらの輸送は当然海路以外ありえず、その海路を英独(後に伊も加わる)海軍に狙われることとなった。
もちろん、米大西洋艦隊がこの護衛に出撃したが、フランス海軍を壊滅させた英本国艦隊に加えて、第一次大戦後も細々と技術を繋ぎ、少数とは言え高い完成度にあった独潜水艦隊がこれに立ち塞がり、米大西洋艦隊は半壊し、輸送船団も壊滅的な打撃を受けた。
これにより、米太平洋艦隊から多数の艦艇が大西洋艦隊に引き抜かれ、太平洋の戦いは小康状態となった。
太平洋方面が安定したとなれば、主戦場は変わって来る。それはソ連と国境を接する満州や中東、東欧、そして米仏と対峙する北アフリカや大西洋だ。
前大戦では積極的な海外派兵をしなかった日本も、今回ばかりは国の存亡が掛かっているだけに、各方面へ戦力を派出した。ソ連に備えた中東派遣軍、フランスと対峙する北亜派遣軍、フランス領マダガスカル攻略軍、大西洋で米海軍と対峙する援英派遣艦隊。そして、独英などに進出して米仏ソ軍と対峙する欧州派遣軍だ。
欧州派遣軍の内、英国に派遣された部隊は基本的に航空隊と艦隊だ。米仏間の航路は、英独による度重なる妨害を受けつつも、米側が大西洋艦隊を増強することで何とか保たれ、その結果米国からの援助物資が次々とフランスに流れ込んでいた。とりわけ、航空機はパイロットも含めて新型機が続々と送り込まれていた。
対して欧州派遣軍の航空隊は、派遣当初こそ日本製の機体を使用していたが、偵察・水上機関係を除いては損傷分の補充を英独から受け取っていた。
結果ドイツ空軍の最新鋭戦闘機であるFw190Aを1式戦闘爆撃機として、またイギリス空軍の「スピットファイア」戦闘機を零式局地戦闘機として採用し、現地部隊で使用していた。
「隊長、前方より機影!「スピットファイア」です!」
「ああ、見えてる」
部下からの報告と、俺自身が機影を視認したのはほぼ同時だった。前方から向かってくる4機の機影、とっくの昔に見慣れてしまった英国の「スピットファイア」だ
「こちら竜1!これより交代する!陸軍さん、お疲れさん!」
「おう!後は頼むぜ、海軍さん!」
俺は新たに戦場へ向かう竜編隊、海軍さんの部隊に敬礼した。
(がんばれよ!)
と、心の中で声援を送って。
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