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ある日家族が・・・・

作者: 妖言 幻燈翁

怪談収集時に田中さんという方から聞いた話

※許可の元聞いた話から個人が特定出来ないように一部変更している部分があります。


私が女子高校生の時はインターネットも携帯電話も普及していないバブル期でした。

私は田舎出身で地元には高校がなかったので都会の私立高校へと通わせてもらう事になりました。

当時、バブル期と言う事もあってお金をかけてでも良い教育を受けさせてあげたい親が多かったので学校に地方出身者が多くいました。自ずとそういう子供達は集まりグループを作ります。それはただの馴れ合いと言う訳ではなく初めての都会生活で苦労の連続なのでお互いに助けあう関係だったんです。今のようにどんな情報でもインターネットでとれる時代ではないのでこういう繋がりが生命線だったんです。

夏休みが近づくとグループの中で帰省の話題が増えていきます。1年生でしたから初帰省にワクワクしている子は多かったです。でも、そんな話題になるとふっと輪から外れる女子が一人いました。

彼女の名前は亜子ちゃんと言いました。あ、一応言っておきますけど仮名と言うか本当の名前では無いです。

彼女はグループの中ではみんなの話を良く聞くタイプで聞き役に回る事が多かったです。でも、彼女自身は地元時代の話になると「話すようなたいした所じゃない」とか「部活と勉強ばかりで青春の思い出なんてない」と話したがりませんでした。


夏休み直前、私はそんな亜子ちゃんと委員会の都合で二人きりになる事がありました。ひとしきり私が話した後何気なく「亜子ちゃんは帰省しないの?」と聞きました。すると亜子ちゃんは「私は部活の合宿があるし帰れないよ」と苦笑いしていました。

彼女はバレー部で未来のエース候補として入学以来期待されていました。勉強も出来てスポーツ万能な亜子ちゃんは将来地元に帰って専業主婦になる未来しか描けない私とは大違いでした。

その時、私は亜子ちゃんは『帰りたいけど帰れない寂しさから帰省の話題から遠ざかっていた』のだと考えました。

そこから私はお節介な事に色々と実家に帰る案を考えて亜子ちゃんに提案しました。しかし、それをしばらく黙って聞いていた後に気まずそうな表情で「実は私は帰れないんじゃなくて帰りたくないんだ」と言ってきました。そこでやっと自分の愚かな勘違いに気がつきました。

「ご、ごめん」と謝る私に亜子ちゃんは「気にしてないよ」と言いながらばつの悪そうな顔をしていました。

しばらくの沈黙の後「ねえ、私がなんで実家に帰りたくないか聞いてくれる?」と言ってきました。その後、じっと私の目を見て「変な話だから突っ込んだり質問はしないで。それと絶対に口外しないでね。私はあなたを信じてるから話すんだよ」と言いました。

勘違いの罪滅ぼしと言う訳では無いですが興味があったので私は頷きました。

深いため息をついた後亜子ちゃんは語り出しました。

ーーーーーーー


あれは忘れもしない小学4年生のある日のこと。あんな事がなければ記憶にも残らないただ普通の一日だったはず。


「ただいま」

私が学校から帰宅して玄関をあけるとそこには見ず知らずの女性が立っていたの。いや、知らないわけがない。それはお母さんだったんだもん。

「おかえりなさい」

返事してくれたその声はお母さんそのものだった。声だけではなく姿も仕草も全てそのまま。でも、違う。なんて表現したら良いんだろうって今でも悩むけど中身が違う。偽物だってわかったの。

固まる私にお母さんモドキは優しく声をかけてくる。そこで「お前は偽物だ」と言ってやりたかったけど漫画雑誌のホラー漫画みたいにいきなり本性を表して襲い掛かってきたらどうしようと思うと恐怖で何も出来なかったわ。

お母さんモドキは「お父さんとお兄ちゃんは今買い物行ってるから帰ったら夕飯にしましょう」と言って台所に行った。すぐに私は2階の子供部屋に駆け上がった。

とにかく味方が欲しかった。お父さんとお兄ちゃんならきっと私と同じようにお母さんが偽物って気がついてくれるはず。「3人で偽物に立ち向かうんだ!」と決心してカッターナイフをポケットに入れました。


そして、「たっだいまー!」と玄関からお兄ちゃんの元気な声が聞こえたので私は跳ねるように階段を下りました。

そこにいたのはお兄ちゃんとお父さんの偽物でした。この日から私以外の家族全員が得体の知れない偽物と入れ代わってしまったんです。


そんな状況でも小学生だった私は家族モドキと生活をするしかありませんでした。偽物には昔の記憶もあった。姿も性格も変わらない。だから、近所の人も親友も先生も誰も騙されて気付かない。でも私だけがあいつらが偽物だと100%確信している。でも、誰にも相談できなかった・・・。

この苦しい状態を抜け出す為に色々と考えたわ。そして、ある夢を持ったの。


夢を持って以降私は色々とワガママを言った。「学習塾に通わせて欲しい」「部活に入りたい」「習い事をしたい」全ては家にいる時間を少しでも少なくする為の口実だった。偽物の両親は困った顔をしながらも将来への投資として許可してくれた。


そして、6年生になるとあの日からいだいていた夢「都会の全寮制私立中学に行きたい」を両親に打ち明けた。偽物との生活が始まった時にはグレた事にして家出する事も考えたわ。でも、連れ戻されたりするリスクを考えると地元じゃない学校に進学して地元をでる事が一番良い方法だと思ったの。そして、それに向けて勉強を頑張った。

でも、今までワガママを将来の為と聞いてくれた両親が「まだ早い」「地元に居てほしい」と断ってきた。粘ってみたが学費を出してくれるのは両親だからさすがに押し通す事はできず夢は敗れた。仕方なく私は地元の中学に進学する事にしたの。


新たにできた都会の高校進学という夢と家に居たくない一心で中学の3年間はとにかく勉強と部活に明け暮れたわ。そのおかげで部活ではキャプテンになり勉強では学年1 位を取れるぐらいになった。その間も将来の話になると「都会の学校に行きたい」と言いつづけた。そのたびに両親は渋い顔をするけど諦めるつもりはなかった。

そして、三者面談で進路について両親は先生に「親としては地元で就職か結婚してほしい」と伝えた。それに対して先生は「この成績で中卒は勿体ないです。今は女性もバリバリ働く時代ですから。お嬢さんならもっと上を目指せます!こんな田舎に閉じ込めておくのは勿体ないですよ!」と力説して都会の学校への進学を勧めてくれた。なんと進学校やバレーの強豪校のパンフレットまで揃えて両親に渡してくれた。

後から聞いた話だけど先生は私が都会の高校に進学したい事を知っていて両親に提案してくれたみたいなの。私もここぞとばかりに攻勢をかけた。両親はかなり迷ったようだけど都会の高校への進学を許してくれた。担任の先生は私の一生の恩人になったわ。

ーーーーーー


ひとしきり話すと亜子ちゃんは缶ジュースで喉を潤してから

「こうやって地元を出てしまえばこっちのもの。後は都会で大学に入って都会で結婚して一生地元には帰らない。結婚すれば籍も抜けるしね。結婚関係で偽物の家族に会う事になるし偽物の父親の祝辞を聞くなんて吐き気がするけどそれぐらい耐えてみせる」と決意の眼差しで缶ジュースをじっと見ていた。


それに対して私は何にも言えなかった。でも、亜子ちゃんの表情や雰囲気からきっと嘘を言っていないと言う事だけはわかった。


それ以来亜子ちゃんから家族の話を聞く事はなかった。話題が話題なだけにこちらからも聞く事も出来なかった。

そして、卒業式。式後の懇談会で卒業式に出席するためにおめかしした父兄が子供と楽しそうに話していた。その中で亜子ちゃんは普通の優しそうな男女と話していた。

亜子ちゃんは教室を出る直前私に近づき耳元でこそっと「やっぱり、両親は偽物のままだった」と残念そうにつぶやいた。


亜子ちゃんは都会の大学に進学して私は地元に帰ったのでそれ以来会えていません。

ただ、二人の繋がりが切れたわけではなかった。大学の寮の電話番号を聞いていたしこちらの実家の電話番号も教えていたので、電話で何度かやり取りをした事はありました。その時の会話は大体が高校時代の思い出話か現状の報告みたいな感じでした。

そんなやり取りの中で今でも覚えてるのは亜子ちゃんが「そういえば前に家族の話は誰にも言わないでってお願いしたけど名前変えたりして私って特定できないようにしたら話をして良いよ」と言ってきた事でした。理由を聞くと「もしかして世界のどこかで私と同じようにある日突然大切な人が得体の知れない何かに入れ替わっている人がいるかもしれない。そんな人に他にも同じ思いをしている人がいるって伝わってほしいから」と言っていました。このやり取りが卒業後唯一の彼女の家族についての会話でした。

その後、お互いに忙しくなりしばらく連絡が取れないでいる期間がありました。久しぶりに電話して電話にでた寮母さんに取り次ぎをお願いすると「彼女は中退した」と聞かされ驚いて理由を聞きました。寮母さんいわく「彼女は成績も問題なく楽しそうにキャンパスライフを満喫していた」との事。しかし、ある日突然寮に帰ってこなくなった。大学に問い合わせると「中退した」と言われたそうです。ずいぶん急だったので理由を聞いたそうですが「本人の希望でとしか言いようがない」と困惑した様子で答えられたそうです。

今のようにSNSも無いし携帯も普及する前ですから他に繋がっていなかった私たちは完全に連絡を取れなくなってしまったんです。

私の実家の連絡先は知っているので過去に何度か亜子ちゃんから電話がかかってきた事もありましたが中退後は一度も電話はありません。


その後も何とか連絡が取れないかと数年おきにネット検索してみるのですが彼女の名前は珍しくない一般的な名前と言う事もあり特定できませんでした。聞いていた彼女の田舎について調べても平和な田舎と言う感じでほとんど情報が手に入りませんでした。


令和の時代、亜子ちゃんも私と同じ歳ですからもう中年になっているはず。

今、彼女は何をしているのか?生きているのか?今でもふっと気になってしまいます。


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