第1話 勇者 ジェームス・R・ウィリアム(ソテラ) 1
先ずは、故郷コーシャンへの一人旅をどうぞ。1話を数回に分けて投稿します。2,3話ほどでコーシャンに着く予定です。
因みに、サブタイトルの()はソレイユ王国の地名です。水戸黄門リスペクトとして。
ソレイユ王国に帰って来たジェームスは、故郷コーシャンを目指し旅をしていた。
「ソテラに着いたか」
スカーレル子爵家が統治するソテラ地区、農業が盛んな場所である。
ジェームスの故郷コーシャンも農業が盛んな場所だが、ソテラはじゃがいも、コーシャンは麦といったように、農業が盛んでも主に育てる作物が地区によって変わる。
「日も傾いてきている、宿を探さないとな」
宿を探しながら、街を探索するジェームス。愛馬である『ミル』を引きながら。
その途中、
「いや! やめてください!!」
突然の悲鳴を聞いたジェームスはミルに乗って走り出した。ミルは長い距離を走れるタフさが売りの名馬だ。
路地裏の辺りか、ジェームスは悲鳴の発生地を目指した。
「やめてください!! 来ないで!!」
「ぐへへ、お前には恨みは無いがボスの命令でな」
「大人しく来てもらおうか!」
ジェームスが駆け付けると、1人の若い女性を2人組の男が追い詰めていた。
「おいっ、何をしている!」
「!? なんだお前は!」
男の1人がジェームスに問いかける。
「お前たちこそ、1人の女性を追い詰めているのは何事だ」
「お前には関係の無いことだ。引っ込んでろ!」
「そうはいかんな。 生憎、お前たちみたいな男は嫌いなもんでな」
そう言うとジェームスは、ミルに乗ったまま男達へ突っ込んできた。
「う、うわああああ!!」
男達は怯み、その隙にミルから降りて女性の元へジェームスは守るように2人に立ちはだかった。
「おのれ!!」
1人の男が剣でジェームスに斬りかかる。
しかし、
「はっ!!」
「ぐほぉ!!」
男が斬りかかった剣をかわして、鳩尾に肘打ちをお見舞いしたジェームス。男は悶絶した。
「大丈夫か!?
くそっ、覚えてろよ!!」
もう1人の男が倒れた男を支えるようにして逃げ去っていった。
「ふぅ、やれやれ」
男2人が立ち去るのを見届けたあと、女性の様子を確かめる。
「大丈夫ですか?」
「はい、お陰で助かりました。ありがとうございます!」
「いえいえ、悲鳴が上がったので駆け込んだらあの様な状況だったものなので。 あの、良かったら家まで送りましょうか?」
「いいんですか?」
「はい、特に急ぎの旅でも無いですから。それに、さっきの奴らがまた襲ってくる可能性もありますからね」
「では、お言葉に甘えて」
ジェームスは女性の護衛を急遽やることになった。
「お名前の方は?」
「エリンと言います」
「そうですか、私はグーニエンの海運業の隠居ジェーンと言います。今は夢であった勇者として旅をしています」
ジェーンとは、ジェームスが正体を隠してお忍びの旅をする際に名乗る偽名だ。隠居を名乗っても、年齢の割に少し老け顔なのであまり違和感がない。
「そうなんですか。 しかし、とてもお強いですね。」
「いえいえ、さっきは上手く行っただけですよ」
謙遜する特級勇者のジェームス、いや、今は海運業の隠居の駆け出し勇者ジェーン。
エリン曰く、買い物の帰り道で2人の男に遭遇して襲われてしまったらしい。幸い、ジェームスが来たお陰で無事に家路に着いた。
「ここです、私と母、祖父がすむ家です」
エリンの案内とジェームスの護衛のお陰で、エリンは無事に帰宅することが出来た。
「おーい、エリン、遅かったな!」
「心配したのよ、なかなか帰ってこなかったもの。 あら? こちらの方は?」
エリンの帰りを待っていたらしき、老人と女性が駆け寄ってきた。
「ごめんなさい、遅くなっちゃって。 この方はジェーンさん、怪しい人に襲われていたんだけど助けてくれたの」
「そうでしたか、孫を助けていただきありがとうございます。 私は農場主のジャックです。 此方は娘のリリアです」
「娘を助けていただき、本当にありがとうございます。 何かお礼する事が出来れば何でも」
「いやいや、そこまでしなくても。 強いて言うなら、オススメの宿を教えてくれれば幸いです」
「だったら私の泊めてあげようよお母さん」
「でも、あまり美味しいものはご馳走できませんが」
「いえ、泊めていただくだけでもありがたいですよ。宿も空いてるかわかりませんし」
「どうしましょうお父さん?」
「まあ、せっかくだから、エリンの命の恩人が希望しているなら、快く泊めてあげよう」
「ありがとうございます、助かりました」
こうして、エリン達家族の家へ泊めてもらうことになったジェームス。
それが、ソテラに潜む悪を暴くきっかけになることを誰も知らない。
グーニエンの海運業の隠居ジェーン、水戸黄門でいう『越後の縮緬問屋の隠居光右衛門』というようなものだと思っていただければ。
因みに、グーニエンは後にジェームスが行くかもしれませんが、海沿いの場所にあり、港街として栄えています。