5 魔物と言うより…。
コンビニを出てやって来たのは、コンビニの斜め前に建つデパートである。
近くて便利~。
しかし、俺はデパートの出入り口の前で入るか悩んでいた。
「ん~……これはおかしいだろ」
はいそうです、此処も綺麗なマンション等と同じように電気が点いているのだ。
ただ、人の気配は全くない。
ゾンビの気配すらない。
入り口から見える中は商品が綺麗に並んだ状態で、人が居ないだけの状態だ。
明らかにおかしい……。
この辺りの人なら真っ先に此処へ食料を取りに来るはず。
なのに全く荒らされていないのが不自然過ぎる!
ふと気になって周りをキョロキョロ見渡すが、デパートの周りにも人やゾンビが全く居ない。
「聖域?」
魔物やゾンビが近づけないような?
まあ、入るしかないんだけどね。
意を決して自動ドアを開けて中に入る!
「何じゃこりゃ?」
入って第一声がそれだ。
中に足を一歩踏み入れた瞬間、中の風景が一変した。
綺麗だった店内は正面に続く道だけになっている。
壁、床、天井は店内と同じ素材でできているっぽいが……。
「夢の中?」
そんな映画が頭に浮かんだ。
通路の幅は5メートル程あり結構広い。
天井にはちゃんとライトが点いているので奥まで見える。
途中で左右に行ける道があるのもちゃんと見えているがこれは……。
「ダンジョン?」
不意に出た言葉。
しかしその言葉がしっくり来た。
綺麗なマンションやビル、そしてこのデパート。
外から見て綺麗な状態なら『中に入ろう』と思うのが当たり前だ。
そしていくつかのラノベでは『ダンジョンは生きている』という設定もあった。
「おびき寄せるための偽装か」
なら此処はダンジョンだと思って警戒しながら進むしかないよな。
どんな魔物が居るのか分からないけど、その分お宝もあるはず!
って、死ぬ奴の考えだな。
ま、俺は主人公って柄じゃないし良いか。
モブらしく勝手に潜って勝手にくたばるのが俺らしくて良いね。
「スキルオーブとかあるかも」
そうなのだ!
ダンジョンと言えばお宝!
お宝と言えばスキルオーブ!
スキルオーブで新たなスキルを覚えて生活が楽に!
妄想が段々膨らんで行く中、警戒しながら進むと最初の分かれ道にたどり着いた。
右の壁際に隠れてサッと頭を出して左右を確認して直ぐに頭を引っ込める。
「ん?」
今右側の通路に何か居たな。
次はそっと顔を半分だけ出して通路を確認する。
「っ!?」
顔を引っ込めて考える。
あれはいったいなんだ?
見るだけで不快にさせる容姿。
成人男性程の大きさで、猫背状態で手を力なく垂らし、裸足でペタペタと通路を徘徊している。
頭は頭蓋骨のような硬そうに見えるが、目が無く大きな口が付いているだけ。
全身人体模型のように筋肉? ぽい物で覆われているのだ。
バイオのリッ〇ーみたいだ。
えっ? あれが最初に出てくる魔物ってどうなの?
普通はゴブリンとかネズミとかスライムじゃねぇのかよ!!
チラっと覗いて確認する。
動きは速いのだろうか?
どうしてもリ〇カーのように動きが速いと想像してしまう。
落ち着けオレ……あれは別の魔物だ。
しかし、初心者の俺が正面から戦っても無理そうだしな。
おびき寄せて奇襲をかけるしかないか。
通路には隠れる場所なんて無いので、交差点までおびき寄せるしかない。
俺は頭の中にアイテムバッグのリストを表示させると、シャンプーを取り出して向かい側に放り投げた。
ドッと中身の入ったシャンプーボトルがピカピカの床に落ちると、ヒタヒタと足音が近づいてきた。
どれくらい強いのか分からない魔物と戦うのが、こんなに怖いとはな。
だが、頭は常に冷静だ。
最適化のお陰だな。
刀の柄を両手で思いっきり握り締め、シャンプーの方へ向かった魔物がこちらに気が付く前に、飛び出して力いっぱい刀を振り下ろした。
すると咄嗟に魔物はこちらに向いて左腕を上げて刀を防ぐ。
手首の少し下に刃が入るが途中で止まる。
硬ってぇー! と思っていると、いつの間にか俺は壁に叩きつけられていた。
「ぐほっ!」
何だ? 何があった?
今何されたんだ?
全身に走った衝撃に耐えていると、腹のあたりに痛みが込み上げてきた。
まさか……蹴られたのか?
刀はちゃんと持ったままだ。
蹴られた拍子に抜けたんだろう。
「グゥシャァアア……」
これがこいつの声か……気持ち悪。
魔物は猫背の状態を更に腰を落とし、何時でも飛びかかってきそうな体勢で構えている。
警戒してるのか?
こいつの身体は何だ? 刀で腕を斬れなかったんだが?
硬すぎるだろ!
……いや、俺が素人過ぎるのか。
すると魔物が突然迫ってきて右腕を外側へと振り抜き俺を殴る、俺は刀で何とか防いだがそのまま吹っ飛ばされた。
床に転がり直ぐに膝を突いて体勢を止め、刀を構え追撃に備えるが魔物は動いていなかった。
冷静な頭がこの状況に対して、徐々に怒りが込み上げてくる。
あの地震で目が覚めてから今までの理不尽な状況と、今の状況が誰の仕業なのか分からないが、その何かに対しての怒りが爆発した。
「ふざけんなよ……このボケが」
普段滅多に怒らない俺だが、キレた時に声が自分でも驚く程に低くなるのは知っている。
そして関西弁になるのだ。
母親が大阪出身だったので俺も偶に関西弁になる事があった。
普段は標準語なのだが、感情が高ぶると出てしまう。
立ち上がり刀を握る手にギュッと力が入る。
「殺したるわ」
明確な意思表示をして自分を動かす。
目が据わり、目の前の『敵』を殺す事だけが頭を支配する。
少し魔物と睨み合うと、同時に動き出す。
「ギュガァアアアア!!!」
「うぅぉおおらぁあああああ!!!!」
振り上げた刀を両手で持ち、全身全霊で振り下ろした。
斬っ! と縦一閃に振り下ろされた刀。
魔物は綺麗に真っ二つになって死んだ。
「ボケがちょうしに乗んな……ふぅ~」
いかんいかん、温厚で優しいと評判の(自称)俺が感情的になってしまうとは、まだまだだな。
「ん? おお? ……スゲー」
魔物が死んだと思ったら、身体の中から力が湧いてくるような感覚に襲われた。
もしや……。
「マジか」
名前:進藤洋介
年齢:36歳
種族:人間
状態:普通
職業:なし
レベル:10
魔力:480
ユニークスキル:【想像生産】【最適化】
スキル:【暗視】【刀術】【魔力感知】【魔力制御】
コンビニの時点でレベルは4だったのに、今の奴で6も上がったのか。
それに、やっぱりレベルが上がれば身体能力も上がるみたいだな。
……力とかの表示も欲しい。




