27 学院改革へ
初投稿です。誤字・脱字等ご指摘いただけると幸いです。
とりあえず、最後まで書き終えました。煮詰めつつ投稿する予定です。
【学院改革へ】転移5年10月
『一番の原因は、閉塞した空気だと思いますよ』
オレは学院長と対談して、オレの考えを述べた。
孤児院が凄いんじゃない。この世界では人間の能力に蓋がされている。
それは、時代の空気だと思う、と。
だから、学院が、教会が、王国が、とかじゃない。
閉塞した空気を打破しなくちゃいけない。
この世界は前世欧州の中世っぽい。
しかし、ガチガチの中世じゃない。
前世でいうルネッサンスが始まるあたりじゃないか。
つまり、新しい文化の息吹があってもいい。
ところが、ルネッサンスが始まる雰囲気があまりない。
前世で中世というのは欧州では暗黒だったかもしれない。
しかし、他の地域、中近東とか東アジアはそうでもなかった。
むしろ輝いていた。
“知恵の館”っていうのがバグダードにあった。
前世地球の当時のあらゆる書籍が翻訳されているとされている、
知の集積であり、当時の知の最先端だった。
13世紀、モンゴル軍によりバグダードの全市民ともども灰燼に帰されたが。
“知恵の館”の知識がイスラムの欧州進出とともに欧州に紹介され、
その結果の一つが、ルネッサンスだ、という見方がある。
つまり、ギリシャ・ローマの知識⇒知恵の館⇒欧州という流れだ。
欧州の文化のミッシング・リンクがイスラムにあったのだ。
そうだとすると、ではこの世界で“知恵の館”はどこにあるのか。
ひょっとしてオレ?
いやいや、ちょっと待て。オレは古典を継承していないぞ。
むしろ未来の文化を伝えてしまっている。
それでも、閉塞時代の突破口としての役割はあるか。
『どうすれば、いいのでしょう』
『具体的に、この学院からできるものとして、“座禅”をおすすめします』
それ以上考えないことにして、オレはとりあえず“座禅”を提案してみた。
“座禅”は丹田コントロールのために新たにオレが考えたやり方だ。
今現在、オレたちが孤児院で導入している方法である。
前世で座禅、ヨガ、瞑想、自律訓練法、いろんな呼吸法など、
似た効果を生むものが多い。
それで、その中で“気の流れ”に注目してみた。
チャクラとか東洋医学にありそうな話だ。
オレのは単純で、“背筋を伸ばして呼吸しろ”というものだった。
人は背筋を伸ばすと美しく見える。
日本の文化で美は生活に潜んでいる。
衣食住を美しくありたい、というのが日本の美であるとオレは考えている。
その美しさが“正しい”姿勢にあるとしても不思議ではない。
茶道や食事の作法でも背筋に注意を払う。
美を追求するスポーツ、例えばダンスとか体操とかもそうだ。
背筋は人間の活動の基本を担っているのだ。
オレの考えたやり方というか、昔からある方法である座禅を組む。
背筋を伸ばして、丹田に注意しながら、背筋を流れる気をイメージする。
すると、自律訓練法よりも容易に魔素の流れをコントロールすることができる。
それは、孤児たちで実証済みだ。
できれば、そのためには環境を工夫できるといい。
山奥のお寺や神社で感じるようなスピリチュアルな環境があるといい。
清々しい空気と厳かな雰囲気の山林。
そこを通る参道を抜けると見えてくる神々しい神社。
日本の神社にはよくあるイメージだが、そういうのを学院で建立できないか。
学院は裏山に坐禅堂を作ってみた。イメージは前世日本の戸隠神社。
総監督はリョータが行った。この国では、日本の神社はリョータしか知らない。
その座禅が結果~魔力に対しての肯定的な効果~を出し始めると、王国中で座禅ブームが起こった。
朝のラジオ体操のかわりに座禅を行ってから、世界樹へ礼拝、掃除、という流れが定着した。
肯定的な効果は、孤児と同じだ。
魔力がなければ魔力が発現し、魔力があればさらに魔力が伸びた。
後日ラグド街が運営するラジオ放送も、朝の放送はスピリチュアルな音楽を流すようになった。
オレはブライアン・イーノのアンビエント・ミュージックを推薦した。
後述するが、オレたちはけっこうな音楽スタジオを所有し、
しかもオレたちはプロレベルの腕を持つに至っていた。
イーノの音楽はスタンダードとして定着した。
そして、環境音楽の一大ブームを生むことになる。
魔法学院の裏山に設置した座禅のための施設はその後神格化され、
座禅の本山の一つとして、数多くの人を受け入れるようになった。
当然、神社は世界樹の方向を意識して設置させた。
ここで座禅を組むと、自然と世界樹に気を送ることになる。
座禅の達人になると、世界樹とリンクする感覚を会得できるという。
確かに、オレも世界樹と繋がっているイメージを視覚的に持つことができた。
オレと世界樹の間に気の流れが繋がっているのが視覚的にイメージできるのだ。
この施設を設けたことで、そのお膝元にある魔法学院の名声が高まった。
魔法学院は、子供の育成機関であるとともに、大人の修業機関として講座を開催、ランスター王国のみならず、近隣国の魔法士にも認知されるようになる。
リョータはさらに簡単な科学の学習を提案した。
前世地球の中学生レベルの科学である。
しかし、それはこの世界にとっては最先端の“発見”であった。
例えば、現代的な意味での“分子”説は19世紀に唱えられる。
ブラウン運動がアインシュタインによる論文で解明されたのは
20世紀に入ってからのことになる。
リョータの教えた内容はほんの触りであるが、核心をついていた。
この世界の科学と魔法が前倒しで進歩することになる。
それ以外にも、リョータは学院に音楽を導入した。
ただリョータの趣味だけで提案したのだが、
リョータは前世の音楽をこの世界にどんどん導入していったため、
後に音楽教育機関として独立、この世界の権威となる。
さらに、リョータは食堂を少しずつ改善していった。
レシピを学院に開陳していったのである。
ユグド街の料理を学べる場としても有名になり、
学院の食堂は料理人のあこがれの場となった。
さらには、料理人のための講座をひらくことになり、
講師は“鉄人”と呼ばれるようになるが、その由来は不明である。
ただし、夜な夜な鉄人同士が料理対決をしているという伝承が生まれた。
後年それを題材にしたラジオ番組が始まり、音声のみの番組にも関わらず、
ナレーターたちの迫真的かつ描写的な解説により大変な人気番組となった。
一連の流れは“エールヌーボー(AirNouveau)運動”と名付けられた。
なぜかフランス語っぽい。
かように名誉を回復どころか、新たな付加価値をつけていった魔法学院であるが、やはり、魔法の総本山の地位はユグド魔法学院にもっていかれてしまった。
ここでの学習は、魔法にとどまらず、数学や科学、音楽ともにランスター魔法学院よりも数歩つっこんだ内容を教えていた。
それを知った王国中の英才たちが集結しつつあった。
まさしく“知恵の館”となりつつあったのである。
この勢いに苦虫を噛み潰していたのが、教会に代表される保守勢力である。
王国は卒業後のエレンたちを王国魔導士、王国近衛兵団にとりこもうとして断わられ、教会にしても、大商会にしても、なんとかコネクションを見つけ、取り込み、或いは妨害工作を行おうとするのだが、裏工作はすべてシャドーに阻止された。
しばらくすると、リョータたち世界樹勢力が教会や王国で確立した存在になる事件が起こる。
それは後述する。
なお、ユグド街の孤児は毎年10名前後が迎えられる。
それを狙った親たちがわざわざ自分の子供を孤児にする事件が多発。
むろん、そうした親たちにはやはりシャドーによる指導が行われたのであった。
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