勇者様はジャンル違い!
とある王国が、魔王軍の侵攻に対して最後の手に打って出た。
異世界より、勇者を呼び出し、救いを願うのだ。
結果召喚の儀式は成功した。
しかし、呼び出された勇者たちの様子が何かおかしい。
呼び出された男性は語る。
「私ですか? 白山 勉と申します。六菱商事査察部に所属しておりまして…はぁ? 勇者? 私はそういった武道にはとんと疎く…」
呼び出された青年は語る。
「俺? 赤沢 高盛っていうんだ、よろしくな! って、あのお姉さんすっげぇ美人じゃね!? 俺、ちょっと声かけてくる!」
呼び出された少年は語る。
「僕は、碧海 大樹っていいます。勇者……う~ん、僕はちょっと違うと思います」
頼みの綱の勇者は、誰も彼も王国に謡わる勇者の剣を抜くことはできず、誰も戦うすべを持たなかったのだ。
彼らに最後の願いを託していた女王は、国民は絶望した。
最早救いは無いのだと。
だが、勇者の召喚は確かに果たされていたのだ。
「この書類からすると、この商会とこの商会、あとはこの貴族が魔王と通じていますね。あと、この大臣は戦費の着服が見られます。はぁ、何故分かったか、ですか? このような手口、見慣れておりますので」
とある企業グループの重役一族が成していた巨額不正。そこに一人敢然と立ち向かった査察部の男性は、確かに『勇者』だったのだ。
彼は王国内の不正と魔王軍との癒着を暴き出し、王国反撃の契機を作り上げ、また後方の補給線と兵站を正常化して見せた。
「いや~、惚れた弱みだから、仕方ないだろ? それに女王様が元気になるんだったら何だってするさ、俺はな!」
難攻不落と言われた学園のアイドルに何度もくじけずアタックし続け、結局付き合えずに終わったものの彼女に笑顔を取り戻した青年は、確かに『勇者』だった。
意気消沈して自暴自棄になっていた若き女王を慰め、元気づけ、遂には騎士の誓いさえ結び、身を粉にして働き続けた青年は、女王を復調させ王国の旗印として立たせることに成功した。
そして…
それでもなお迫る魔王の軍勢の前に、少年は一人立つ。
「僕には、何もできない。それでも、みんなを守りたい……力を貸して、僕の中の勇気!」
『うん、もう一人の僕! 今こそ融合だ!』
少年の腕に巻かれたブレスレットから光が放たれ、巨大な獣が顕現する。
狼のような姿の、金属光沢をきらめかせる巨大な姿。
突然現れた異形の魔獣に魔王軍が怯むすきに、少年は獣から放たれた光に包まれ、その内へと取り込まれていく。
すると魔獣は各部分を変じ、巨大な人の姿になっていた。
『巨狼の勇者、フェンブレイズ、参上!』
かつて邪神界からの侵攻に、人知れず立ち向かった少年とその内に眠る『勇者』が、ここに復活した。
どこからともなく現れる更なる巨大な金属の魔獣と空飛ぶ船と合体することで更なる力を振るう巨大な勇者は、遂には巨大化した伝説の勇者の剣を振るい、魔王さえも打ち倒したのだった。
「今後も各組織の監査及び動向は注視してくださいね? それでは」
「もう、女王様は一人でも歩けるさ。元気でな」
「みんなを守れてよかったです! さようなら!」
かくして、魔王から王国を救った勇者達は、役目を終えて元の世界に帰っていったのだった。
人々は後に語る。勇者とは、様々な形があるものだと。
彼らは確かに勇者だったのだと。
ふと思いついた書き殴りです。
ジャンル違いとは言え勇者は勇者と言うお話。