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部活動勧誘!

とうとう、主人公たち編入生(転校生)を対象とする部活動勧誘が始まります。

 2168年4月18日(月)。本日は昼休みに逍遙ら編入生を対象とする部活動勧誘が行われる日だ。

 1時間目の授業は政治経済。先週こそ学期初めのLHRで潰れたが、普段の月曜日1時間目は政治経済である。どうしても専門科目に比べると「広く浅く」だが、逍遙たちにとっては十分新鮮である。相変わらず大河は興味を持てていないようで、眠りそうになっていたが……。逍遙はそんな大河の姿を見て「ノンポリかよ」と小声で毒づいた。残り時間が20分を切っても大河を含む何人かの生徒が眠そうにしていたので、教諭が「君たちの中にはもう18歳になった有権者もいます。まだ17歳の生徒も今年度中に18歳となり、有権者になるんですよ!受験の為だけじゃない。もっと真剣に授業を受けるべきです」と叱った。逍遙はこの教諭の教育熱心な姿勢に敬意を表したが、大河たちノンポリのせいで貴重な授業時間が説教に使われることに憤りを感じている。結局、残りの授業時間はノンポリへの説教で終わってしまった。

 2時間目は現代文。現代文という名称だが近代以降の文章を扱う科目であることは平成期・令和期と変わらない。2168年になっても明治の名作は健在である。前回(先週水曜日の2時間目)に引き続き、「舞姫」の授業だった。思えば「舞姫」も里穂と礼佳の逍遙への性欲が先週水曜日に爆発した一因なのかもしれない。

 3時間目は専門科目「法学」。東大出身の若い博士である舞鶴愛智教授のお出ましだ。逍遙も大河も、舞鶴教授をかっこいいと思っている。憲法―法律―命令・規則等の序列、「自然法」思想などの導入は先週で終わっているので、本日からいよいよ六法の概説に入る。今回は憲法についての授業。逍遙は、やはり部活動に入るなら弁論部か社会科学部だと確信した。

 4時間目は専門科目「美術学」。日大出身の若い博士である井上華菜教授のお出ましだ。舞鶴教授と同じく大学教員を目指している。この時代、高等学校教授を経て大学助教(※昭和期の助教授ではない。昭和期でいう研究助手である。詳しくはググって欲しい←)となり、大学専任講師、大学准教授(※昭和期の助教授相当)、大学教授と栄転していくのが一般的なのだ。今回は美術史についての授業。逍遙も、欧米の写実性の伝統には圧倒されるしかない。無論、だからこそ科学と芸術を停滞させたキリスト教を憎まずにはいられないのだが。しかし、逍遙は浅はかではない。もし欧米の科学と芸術がキリスト教により停滞させられていなかったならば、国風文化が芽生える以前の時代に黒船による侵略を受け、日本と言う概念すら希薄なまま奴隷化・植民地化されていたかもしれない。逍遙はそれを分かっているので、キリスト教やローマ帝国を滅ぼしたゲルマン民族に対しては複雑な気持ちだ。

 4時間目が終わるや否や、一人の男子が「斑鳩(いかるが)君」と逍遙に話しかけた。逍遙が振り返るとその男子は「青海(あおみ)健一と言います。政治経済の授業の時にノンポリがどうこうと言っていたので……」と続けた。近くに大河がいたので逍遙は「廊下で話しましょう」と言って健一と共に廊下へ出た。逍遙が「どういった話ですか。部活動勧誘に出るんですが……」と切り出すと、「その件です!」と健一。「ぜひ我らが社会科学部に入ってもらいたいんです」と続いた。少しの沈黙を置いて「それが、弁論部もいいんじゃないかと思うんです。勧誘を見てからじゃないと」と逍遙。逍遙は健一と別れて文化館に向かい大講堂の一角で10分ほど弁論部の勧誘を受けたが、体育会系の匂いがして嫌だと思った。声が大きい者、気の強い者が評価される気風は間違いなくあるからだ。もっとも、ここ公津の杜(こうづのもり)高校の弁論部は暴力や野次が乱れ飛ぶほどイカれた体育会系ではないけれども、合わないものは合わない。逍遙は「社会科学部にするか」と思って弁論部のブースを離れ、同じ大講堂の中だが20mほど離れて設営された社会科学部のブースに来た。健一が出迎えてくれる。少し気まずいが「あっちは随分体育会系なようですから」と逍遙が言うと、健一は笑って社会科学部の説明を始めてくれた。逍遙の期待通り、パフォーマンス込みの弁論・雄弁ではなく、日々地道に、データを元にして、落ち着いて議論や発表を行う部活動であった。「高校の弁論部では野次禁止となっていますが、あと3年もすれば大学に進学しますよね。大学の弁論部では結局野次有りの弁論大会が花形ですから、やはり我々社会科学部の方が良いですよ」と健一が追撃する。「大学にも社会科学部があるんですね」と逍遙が驚くと、「ええ、大抵の文系学部にはありますよ」と健一が教えてくれた。逍遙は健一に入部する旨を伝え、入部申請書に記入した。「健一で良いですよ」との言葉に恐縮しつつ逍遥は「私も、逍遙で良いですよ。よろしく」と言って大講堂を後にした。大講堂のある文化館だけは土足で入る建物なので、普通教室棟昇降口へ行き、朝と同じく革靴を脱いで上履きを履く。

 逍遙が3年文科2組の教室に戻って腕時計を見ると、13時40分、つまり5時間目の始まりが迫っていることに気づいた。既に教室にいる数学教諭が落ち着き払って「部活動勧誘をしている人が遅れるのはいつものことなので大丈夫です」と、主に編入生――逍遙と礼佳――に対して言った。13時50分頃には健一を含む勧誘する側の生徒も教室に戻ってきた。

 10分遅れで始まった数学の授業。本日からは三角関数に入る。三角関数は平成期・令和期の3年間の高校で言えば「数学Ⅱ」の範囲だが、逍遥たちは3年生の4月から学ぶ。無論、逍遙たち2168年の高校生は知らないことだが、高校が5年間に伸びた分、文系の生徒も平成期・令和期で言う「数学Ⅱ」、「数学B」を長い時間をかけて学習しそこそこ理解できるようになっているのだ。

 勧誘する側にせよ勧誘される側にせよ部活動勧誘に関わった生徒は昼ご飯を食べていないので空腹だ。5時間目が終わると、多くの生徒が食事を始めた。礼佳はお手製のお弁当を、健一は買ってきたパンを食べている。逍遙は食べ物を持参していなかったので、礼佳のお弁当を分けてもらった。礼佳が大喜びで「良いよ!もっと食べなよ」と応じたのは言うまでもない。すかさず里穂がやってきて、「これも食べなよ」と興奮を隠して努めて冷静に、パンとお菓子を逍遥へ手渡した。事情を知らない生徒からすれば里穂の表情は不自然に冷めているように見えたかもしれないが、実際には愛情の裏返しである。大河が「さすが転校生」とからかうと逍遙の頬が紅潮した。

 6時間目は英語。逍遥たち3年文科2組の担任である上田教諭の出番だ。とは言え、本日も特筆すべきことはない。良く言えば安定感のある授業である。6時間目が終わるとそのまま帰りのHRに突入。上田教諭が「明日の授業は先週火曜日と違うぞ。時間割を良く見るように。年間行事予定表に、火曜日については「甲」や「乙」と書いてあるだろう。先週は「甲」だったが明日は「乙」の時間割。明日の1時間目は論述!」と注意喚起があり、解散。

社会科学部の活動日は原則として火曜日及び木曜日です。

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